290.隠れやすみます
話が移り変わるにつれ、再び、司が暗い雰囲気を纏い始めた。
よどよどした空気があたりに広がり始める。
「さて、ねぃ。今そんなこと考えてもどうにもなんねぇよ。今は生き延びることを考えるべきでぇ。」
なぐさめてやる余裕などない。魁斗は他のことを考えろと司に言った。
「わかっているでござるよ。迷惑をおかけし申し訳ない。」
なぐさめが期待できない事など百も承知だ。
なんなら、すぐに思考を切り替えれない自身に嫌気がさしている。
「………お互い様でぇ。いつまでも気にしてんな。」
魁斗がついつい気を遣ってしまうくらいには司は落ち込んでいた。
が。
魁斗が気を遣ったのに対しては目を丸くして魁斗を見たかと思うとうれしげに笑った。
「喜藤氏って意外と優しいのでござるなぁ。志貴氏以外は興味ないとばかり思っていたでござるよ。」
嬉しそうに言われるには複雑な気持ちになるような事を魁斗は司に言われる。
気を遣って損したと言わんばかりに魁斗は苦虫を噛み潰したような顔をしてしまう。
「るせぇ。ある程度仲良くしてねーと、桜花ちゃんに怒られるんでぇ。」
言い訳するように魁斗は言った。
しかし、言い訳にもなっていない。
「……理由が不純だわ。」
じとーっと半眼になった結弦は獣を見るかのような視線を魁斗によこす。
司からは生暖かい視線。結弦からは責めるような視線。
魁斗はますます、ムスッとむくれてしまう。
「いや、喜藤氏らしいでござる。」
くすくすくす。
笑い声を上げれば魁斗は嫌がるだろう。しかし、司は笑いを堪えることはできない。
「てか、そういうことなら、普段からもうちょっと態度を良くしなさいよ。阿部くんとかもうちょっと仲良くできるんじゃないのかしら。」
「馬鹿とは無理でぇ。」
魁斗は即座に拒否を示し、その様子には取り付く島もない。
これ以上、会話を広げる気は皆無なように見えた。
「即答wwwwww」
司はついつい吹き出してしまう。状況が状況であり、笑う余裕などないかと思っていたが案外笑えるもんだと、司は大袈裟に笑った。
笑った方が気が楽だというのもある。
「阿部ってぇなら、お前さんの方がびくびくしすぎなんじゃあないのかぃ?」
爆笑したのが癇に障ったのか、魁斗は矛先を自身から司にシフトチェンジする。
確かに秋明とうまく付き合うと言うならば、魁斗よりもうまく話せていないのが司だ。魁斗の指摘はもっともである。
「はは。まだ慣れきれなくて。しかし、谷上氏が仲良くなさっているが故、ちょっとずつ慣れてきてるでござるよ。」
矛先を向けられ、司は困ったように笑う他ない。
「あの2人の組み合わせは意外だったわね。上手くいっているようだし。」
結弦が矛先を司から逸らしてくれたことにはついつい司はホッとしてしまう。
「よく反発しあっているようではござるが、意外に良い組み合わせでござる。息もぴったりでござるし。」
仲間の顔を思い出し、司はほっこりする。
反発し合いながらもなんだかんだで上手くいっている2人。司と動くよりも、悠真や秋明で動いた方が息がぴったりだから面白い。
共に真面目なため、最近ではよく一緒にいるのを目撃していた。
愚痴を聞くこともあるが、なんだかんだでうまくいっているのが実に微笑ましい限りだ。
思い出したら会いたくなってしまった司である。早く、今の現状を笑い話として悠真にしたい限りだ。
「あの2人に言ったら嫌な顔をしそうだがねぃ。」
「はは。確かに。」
場の空気が和んだからか、司の緊張感はだいぶマシになっていた。
先ほどまで自身の不甲斐なさに泣きたくて泣きたくてたまらなかったが、気持ちが少し軽くなっている。
話し相手になってくれている魁斗や結弦のおかげであろう。
「佐々木、俺の荷物出してくんな。」
「えぇ。………はい。」
司が元気になってきたからなのか、魁斗や結弦は術式にしまっていた荷物から必要なものを手持ちの荷物へと整理し始める。
つられて司も必要なものはないかと頭を巡らせた。
「ありがとよ。……術式も覚えなきゃだな。」
荷物を探りながら魁斗はつぶやく。
「そうでござるなぁ。」
独り言であるようにも感じられたが、司は何か話していたくて相槌をとった。
「課題だらけでござるよ。術式もでござるが、此度は反省点だらけでござる。」
無事に帰れたならば、改善策を考え対策していかなければ。司は頭が痛くなる思いである。
それは司だけではなく、結弦や魁斗にも言えることであった。それぞれ、思うところがあるのだ。
「収納については誰かが使えれば良いとは志貴さん達は言ってたけど。もしもを考えると自分で使いたいわよね。あとはもう少し早く術式を使えるように……あ、貴方の荷物も出す?」
「いや、今は大丈夫でござるよ。」
今一度自身の手持ちを確認すると、司は答える。
「さんきゅ。しまっといてくれ。」
司や結弦が自己の課題について考える中、黙々と必要なものを取り出し、荷物の整理をしていた魁斗。
作業を早急に終え、結弦の前に、不必要な荷物は、どんとおく。
「えぇ。……カバンに喜藤くんもキーホルダーなんてつけるのね。」
術式を展開させ、魁斗の荷物はしまいつつ荷物につけられたキーホルダーを見やる。
シンプルな機能性重視のデザインである魁斗のカバンにつけられたキーホルダー。かわいいデフォルメチックに描かれた何かのキャラクターのキーホルダー。
桜花に勧められて漫画を読んでいる姿を見たことがあるとはいえ、漫画やアニメのキャラクター物をつけるイメージがない魁斗がカバンにつけているのは結弦には違和感を感じてしまう。
「確かに意外でござるなぁ。必要最低限のもの以外は邪魔だとか言ってつけないイメージでござる。」
結弦の感じた違和感は深さも感じたようで、同意の声を上げた。
2人から言われ、魁斗も思うところがあるのか、顔をプイッとそむけてしまった。
「……それも必要最低限なんでぇ。」
いたずらが見つかった子供のように、ちょっとだけ気まずさを含ませた魁斗は、自分は悪くないと主張するかのようだった。
いや、誰も魁斗を責める気はないのだが、魁斗の態度を見て、何もせずに流す気がなくなった。
「へぇ?」
結弦の相槌は少しだけ意地悪な音をさせていた。
「確かさっきのキャラは志貴氏の推しキャラでござらんか。」
気まずげにする魁斗に意地悪げに目を細め魁斗を見やる結弦。2人に挟まれ、司は困ったように笑いながら口を開いた。
が。
余計な事を言うなと魁斗に視線を送られ、すぐに口を閉じる。
「へぇ?」
結弦の口にした言葉は、意味を持つ単語ではないが、いろんなものを暗に含ませていた。
結弦の相槌に含む意味を察することができないほど鈍くはない魁斗は、しかし表情に出せば言及が強まることもわかっているため、無表情を貫く。
この場に他の級友たちがいなかった事はある意味救いかもしれない。いたならば、からかってきたことだろうと魁斗は感じる。
「なぁにぃ?無駄話するなんて、余裕なのねぇ?」
ほわほわと緩んだ空気であった魁斗らだったが、その空気が一瞬で凍りついた。
ガラリと一変したのだ。
「さ、桜氏?!」
裏返った声で司は桜の名を呼ぶ。
桜が追って来る事は予想はしていたが、決して望んでいたことではなく、かつ、やっとなごやかなムードになったところだったのだ。
できるならば来て欲しくなかったタイミングで桜が現れ、思った以上に司は動揺してしまったのだった。




