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282.

桜花の察知能力の高さは周知のものだったが、その能力の高さがどの程度かは知らなかったユキと佳那子。


その実態の一片を知り、2人は驚く。


おそらくはチビの能力に関するものだろうと、怖さもあるが、やはりチビを詳しく見せてほしいとユキはチビをじっと見つめる。


が、無視されてる現実からして、みさせてもらうのは難しいだろう。


チビをチェックする機会を活かせなかった事実がユキには悔しくてならない。


「どやぁー!液体が出来るだけ飛散するように細工してんだけど、周りにいる鳥とか虫とかにも匂いがうつってくれれば広範囲で広められる。」


悔しがるユキを気にする事なく、桜花は胸を張って、ドヤ顔をしてみせていた。


桜花は術式を展開し、球体の実物をユキ達に見せる。


「いや、だからといってどんな鼻をしているんだ、君たちは。」


「はは。さすがに確実ではないけどね。」


そんな香りがする気がする。その程度のもの。


しかし、嫌な予感がするが故に、教員には動くように依頼した。これも勘でしかない故に口にはしないが。


「丞さんのキーホルダーのようなものは何なのでしょう?」


佳那子は丞がげんや桜花に見せていたものを見た。佳那子の視線に、丞は佳那子にキーホルダーを渡して見せる。


「あれはいくつかあるものの一つに魔力を流すと連動して全てのものが色が変わる石をはめ込んだものだな。連絡手段として用いられている。」


佳那子の手元のキーホルダーにはめ込まれた石を指さしつつ、ユキが説明した。


「へぇ。」


「大抵はSOSのサインだね。」


「え!?じゃあ…ッ!」


桜花の言葉にはじかれたように顔を上げた佳那子。忘れかけていた不安が再び襲いくる。


今にも泣き出しそうな顔で佳那子は桜花の腕を掴んだ。


「近くにいれば救援に向かう。でなければ、情報を仲間達に流す。ま、その場にいる子らがなんとかするよぉ。」


思いの外、大きなリアクションがあった佳那子に桜花はへらりと笑って大丈夫だと言う。


しかし、未だ不安そうに佳那子は桜花を見つめる。何か出来ることはないかと瞳が問いかけていた。


「注意喚起に使うこともある。だから、んな顔すんな。」


げんは不安そうな佳那子の頭をガシガシと強めに撫でる。


頭を揺らされ、困ったような反応をする佳那子。やはり、心配そうだが、少し顔色がよくなったか。


「そうっすよ。多分、皆さん無事に帰ってくるっす。俺たちは今できる事をしましょ?作業に戻るっす。」


こうして話しているより、作業している方が気も紛れるだろうと、丞は佳那子やユキを誘導する。


「はい。」


「……はい。」


不安げにしながらも、佳那子やユキは丞に促され、自身らの持ち場に戻り出す。


「ほら、桜花さんも。まだ作業は終わってないっすよね?」


歩き出した2人に続きつつ、振り返り丞は言った。


桜花が作業をやめたままでいるが故に。


「ぶーー。」


「にゅーー。」


桜花が不満げに声を出せば、連動してチビも鳴く。


桜花とチビは連動して、その場で駄々っ子のようにジタバタしてみせた。


「うるせぇ。駄々こねずにさっさとやれ。」


2人がかりでの不満の申し出はげんにはっきりと却下される。


眉間に皺を寄せて、桜花を見下ろす姿には付け入る隙はなさそうだ。


「んなこと言ってると毒亀の甲羅、バキバキに砕くぞー。」


「にゅー。」


げんの様子に、桜花が不満げに言い、チビが合いの手的に鳴いた。


「材料を無駄にすんな。」


げんはますます顔を歪めた。


「毒、とかありだよなぁ。次はお兄さんには神経毒とか持たせるかなぁ。」


桜花の思考は作業ではなく、他に飛んでいく。


今後、魁斗らが帰って来たら、どんな仕込みを伝授するかについて、だ。


「おい、過保護もほどほどしろ。つか、んなもん扱えなきゃ危ねぇだろうが、アホが。」


しかし、げんは桜花の企みに待ったをかける。本気でやるかは曖昧だが、待ったをかけねばやりかねない。


まったくコイツはとげんは呆れたような視線を桜花に投げかけていた。


「…………お兄さんなら教えたら覚えるでしょ〜。対人用だったら催涙とか…苦しませる系…その場で調達できるものも仕込むか。」


桜花はチビに抱きつきながら、思考を巡らす。げんからの呆れた視線など、気にする様子もない。


チビは会話から興味を失ったようで、桜花に頬擦りしてゴロゴロと喉を鳴らしていた。


「魁斗をどうする気だ、お前ぇ。まぁ良いけどよ。今回は武器師見習いがいんだろ。ソイツに知識あんじゃねぇか?」


「ゆずるんかぁ。ゆずるん、ねぇ。ドジっ子だからなぁ。対人戦も魔物戦も苦手そ〜。」


「心配してもはじまらねぇだろ。いい加減動け。」


ああ言えばこう言う。何を言っても埒があかないと、げんは言い捨てると、踵を返した。


去っていくげんを見て、桜花はやはり不満げにしていたが、起き上がると作業道具を術式より取り出した。


「ちぇー。チービー、解体するよーん。」


そばに待機するチビに声をかけると桜花は解体途中の魔物や、他の解体予定のものを次々取り出していく。


「にゅぅー。」


「ついでにさっき言ってた亀は甲羅を焼いといてくれ。」


思い出したように振り返り、げんは叫ぶ。


「……それは武器師の範疇でしょうにぃー。ユキにやらせれば良いじゃーん。」


あまり機嫌が良くないが故に、すぐに了承しない。


「他にやることあんだよ。頼むぞ。」


「しょうがないなぁー。」


「にゅー。」


魁斗らを案じつつも、桜花らは自身らの作業に戻っていくのだった。











◇◇◇side魁斗ら◇◇◇



「止まれ。」


先方を歩いていた魁斗は立ち止まると、後ろを歩いていた結弦や司に声をかけた。


「どうしたのよ?」


魁斗が睨むように見ている地面を覗き込むように見て、何かあるのかと結弦は問いかける。


魁斗が積もっていた落ち葉を払うように足を動かせば、露出したのは武器だ。それは故意で隠された武器。


結弦や司は露わになった武器を見て、顔をこわばらせた。


「こりゃあ、俺らが死んでも構わねぇって奴がいるかもしんねぇなぁ。」


その場にしゃがみ、露わになった武器を繁々と眺めて、魁斗は忌々しいと言いたげにつぶやく。


「……罠?いや、でも……魔物用の可能性も。」


これまでもいくつか罠は見ていた。魔物用に張り巡らされた物だと判断していたし、此度のも魔物用である可能性は捨てきれない。


しかし、脳内をよぎるのは男たちの会話。


結弦も司も、自身の中に不安が増していくのを感じていた。


「踏んだらガスが噴射、ねぃ。対魔物用ガスだったら良いって思うのかぃ?」


仕掛けの全貌を確認し、鼻で笑う魁斗が冷静であるように見える。それが何とも結弦には憎らしく感じられた。


なぜ、この状況に笑っていられるのか。その神経が理解できない。


「確実に人も死ぬ、わよね。さっきの人たちが言ってた罠ってこれ、かしら。」


文句を言っても仕方ない。ともかく、情報整理して、現状把握して。


なんとか辞退を乗り切らねば。


魁斗が確認していた罠に結弦は視線を向けた。


落ち葉で隠された地面に張り巡らされた罠。踏めば、近くの木に付けられた装置より何かが噴射される仕組みらしい。


どんなガスが噴射されるかは不明だが、たとえ痺れ薬だとしても、周りに魔物がいる地では危険だ。


ガスが収納された装置は雑に取り付けられたのか、噴射口から漏れ出た薬剤が噴射口付近の木を溶かしていた。


「…………やばいやつでござろうな。して、いかが致す?」


人体に害を及ぼすであろう薬剤であるのは確実。その事実に司は顔を強張らせていた。



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