26.入学式をやるそうですよ④
ウサに静かに圧をかけられつつ、説教を受ける秋明。
気に入らないと言う顔をしつつも、言い返せず黙りこくっている。グギギギギときつく歯を噛みしめ、両手をギュッと握りしめている。叱られているとは思えない面でウサを見ていた。とはいえ、何も言わない。
そんな秋明から視線を外し、ウサはツバサに視線を向けた。
「坂崎様、貴方様も出来ないと卑下する暇があるならお考えください。自身に何ができるかを。どのような状況でもやれることはあるものですよ。それを愚直にやれる者が生き残れる。ーーー出来ぬならば戦闘員をやめることです。貴方様だけではない。貴方様を守らんとして動く者達まで傷つける事になるんですよ?」
翼に視線を移したウサは翼にも厳しい言葉を投げかける。
いつものふざけた雰囲気はなく、淡々と言葉を紡いでいく。
「いかなる状況でも出来ることはある。自分が何を出来るかを考え、それをやりなさい。状況や自分の無力を嘆いてばかりいても状況は変わりません。貴女様は今、何が出来ますか?嘆く暇があるならば考えなさい。」
ビシッと言われてしまった翼はうつむいてしまった。
うつむいてしまった翼は何を考えているかは読み取れない。元々、表情に乏しいが、今はその表情すら見えない。
そんな翼にウサははぁーと深く息を吐き出した。
「良いのでございますか?ただ待ち続け、傷つき戻る仲間達をただ何もできないまま眺め続けるおつもりで?一歩を踏み出さねば何も始まりませんが、よろしいのでしょうか?」
ウサは優しい言葉はかけず、追い討ちをかける。
ここで折れるならばそこまで。
そんな態度であった。
それに対してツバサは肩を大きく揺らした。だが、言葉はでない。言い返すことも返事することすらできない。
そんな翼を一瞥すると、今度は何も言うことなくウサは窓辺まで移動した。
そして外を眺める。
言うべきことは言った。後は2人に考えさせよう。
「ウサくんはまるで教師のような事を言うんだな?」
ウサの横までぴょんひょんと移動した裕貴がウサを覗き込み言う。
今のウサからは普段のふざけた態度がなりを潜めている。偽物なんじゃないかとすら思える。
「なんと。私、ワクワク学園で貴方方の担当でございます。皆様方を教え、導く存在にございます。僭越ながら皆様方に授業もしていますでしょう?」
コテンと頭を傾げ、裕貴に言う。その様子は普段のウサそのものだ。
それをみて、裕貴の後ろに立っていた結弦は顔をしかめる。盛大にしかめる。
「気に入らないわ。あなたみたいな得体の知れないやつに教わるなんて。」
自身より上の立場であろうとウサは嫌い。そんな態度を全面に押し出している。
「ふふ、佐々木様はつれないお人でございますね。そこもまた、素敵にございます。ウサは今、ゾクゾクしておりますともっ!」
結弦の容赦のない態度、言葉にウサは外に視線を送りつつも、嬉しそうな声色を出し、結弦に応えた。
「………そういうとこがダメなんだにゃー。」
裕貴は呆れたようにつぶやいた。
そして、ウサのように外を見る。
「みんなは大丈夫なのか?」
「皆様ならば造作もなく倒せましょう。本体を倒すのを引き受けているのはチビ様であるならば、皆様方は時間稼ぎをすれば良い。難しいことではございませんよ。」
心配そうに問い掛ければウサが迷うことなく返答した。
それがどれほど信用できるかは分からないが。
少しは安心できた。
とはいえ。心配なものは心配だ。
どういう状況かは分からないが、外では彼らが戦っているはずだ。見えはしないがついつい、外に視点を向けてしまうのだった。
◇◇◇
あーぁ。
ヤバイよねぇ〜、やっぱり、集団生活は苦手なんだよね。基本、決まった人達としかいないし。
1週間、何とかなったからいけるかと思ったんだけど。
戦闘も自分1人で行くか、師匠達としか行ったことがない。まぁ師匠達と行くことはあるから連携もサポートもできるけど。
私、友達って少ないんだよねぇ。
あのメンバーとこれからも、うまくやってかないかんのに。難しいなぁ。面倒だなぁ、嫌だなぁ。
対して、花々を蹴散らすのは対して大変じゃあない。こっちのが簡単でいい。
みんながいなければ多少怪我しても平気だし。みんながいると、怪我したりすれば心配するから多少の無茶ができなかったりする。
「無茶な戦い方をすんなぁ。」
思うがままに暴れてたらお兄さんに声をかけられた。
先に出てって好きに暴れてたの知っているよ?お兄さんだって人のこと言えないはず。
「何が気に入らねぇんでぇ?」
私の近くに寄りつつ、お兄さんは聞いてくる。
「………別に。」
「別にって顔じゃあ、ねぇだろうに。」
そっぽを向けば、お兄さんはさらに近づいてきた。わざわざ顔をのぞみ込みつつ言ってくるお兄さん。
むぅ〜…そんなにむくれた顔してるかね。
ま、してるんだろうね。
「自分は何の行動もしようとせずに全然だからって卑下すんのも、のくせ、戦闘員として戦いたんだ的に夢だけ語るのも好きくない。お前は無理だって人の限界決めて行動妨げる奴も嫌い。」
夢ばっかり見て動かないってぇのはふざけんなって思う。行動なければ何も始まりもしない。戦闘員になったんだったら可能なことを可能な限りやれっての。
無理だ無理だってぬかす奴もふざけんなって思う。無理だなんて、やらずしてどうやって決めんだか。
「どっちも人に上下をつける。上も下もないっつーのに。勝手に上位層を殿上人的な異世界人にして、横に立とうとしない。同じ人間だって事を否定してくる。」
圧倒的に上の人達を特別な人と捉える。
それは違う。同じ人間なんだ。隣に立つなんて、やろうと思えば出来る。
それを行動もしないで無理って思うのも、無理って他者に言う奴も気にくわない。
んな暇あるなら行動し続けろってんだ。
「………つまりは桜花ちゃんはそばにいて欲しいってェことか。意外に寂しがり屋みてぇだな?可愛い。俺ぁ、桜花ちゃんのそばにいてやっから、そんな拗ねなさんな。」
感情のままに吐き出せば、ふっと笑ってお兄さんは私に言ってきた。
そんな話、してなくない?
つか、拗ねてない。拗ねてるわけじゃないから。違うから。
お兄さん?頭をガシガシ撫でないでよ。
「桜花ちゃんは人間でぇ。否定する輩がいたら、俺が叩きのめしてやらぁ。」
クスクス笑いながらお兄さんはそういうと、魔物に向かっていった。
つか、そこをピックアップするの?
叩きのめしちゃうんだ?
お兄さんは変な人だねぇ。脱力しちゃうよ。
ただね?お兄さん。
好き勝手動きすぎじゃあないかな?いつの間にやら私がサポートする形になってる。これは初日のようになっている。
お兄さんが暴れて私はその補助。
私だって暴れたかったのになぁ…まぁ、少しはスッキリしたから良いけども。お兄さんの言動に怒りもぶっ飛んで脱力しちゃう。
マリや桜井たちの姿も見え始めてたから、もう好き勝手もできない状況だしね。良いけども。
「無謀な馬鹿は足手まといって阿部に言ってたけど、おーか、アンタだって無謀よ?!」
いやいや。
マリさんや、私は無謀な馬鹿なんて阿部に言ってないからね?マリのがひどい言い草だからね?
たしかに私も足手まといとは言ったけども。
「全く。貴殿らは考えなしがすぎますぞ?これから、どうするつもりでござるか。」
呆れたというように言う桜井。その手には刀が握られており、近寄ってくる花やらツルやらをさっきから斬り払っていた。
やっぱり谷上と桜井の2人も来たのか。声がしてたし、来ると思った。
「とりあえず、2体はチビが倒した。あとは2体だからなぁ。チビが倒すまで花を引きつけて動きやすくしてやるかなぁ。」
「え…早。何なの、あの武器。前の時もそうだったけど強すぎ。」
あ、まずいか。
教室でも考えなしに発砲して倒せるだけ倒しちゃったし。同じ戦闘員だって言っても戦闘力に差があれば恐怖が生まれる。
強すぎればバケモンだって恐れられるのよね。魔物みたいに襲ったりしないってぇのに面倒なこった。
あー…
これから一緒に過ごすって言うのに面倒だな。だから、実力見せないようにしてたのに、ちょいと失敗したか。
「ーーー凄いね。やっぱり強いんだ。志貴さんはチートキャラなんだ。美人でチートでいて優しいのに、戦闘狂で短気で喧嘩っ早いとかキャラ盛りすぎだけど。チートキャラって強いからなのかな?戦闘狂とか多いよね。」
いや、知らないけど。私、戦闘狂ではないけど?褒めてんのか貶してんのかどっちなの、谷上は。
ハァとため息を吐きつつ呆れたような視線を送ってくる谷上。あ、これは褒められてないね。なんか、ムカつく。
盛りすぎって何だよ、盛りすぎって。私はマンガやアニメのキャラクターか何かかよ。
ヤンキー君には好意的にはならないのにそれを挑発しちゃう系な私にはフレンドリーに話せるって谷上の線引きも分からないね。
「この状況では、ありがたいでござる。じゃあ、拙者らはひたすらあの花々の相手を致そう。」
桜井が言う。
いや、まぁ。それで良いんだけど。
「桜花、アンタが強いっていうのも、アンタの武器が強いのも分かるけど!無茶はしちゃダメだからっ!怪我したらどうすんのよっ!」
マリもマリで本気で心配してくれてるみたい。とはいえ、怒り方がアレだあれ。
「………ツンデレってやつか。アンタのために来たんじゃないんだからねって言い出すやつだ。」
ついついつぶやくよね。あ、お兄さんが肩を震わして笑いを堪えている。
「何か言った?!」
「いやいや。ささ。花々を引きつけますかね。」
キャラ濃い目で変わった子達ではあるけれど。
嫌いじゃないな。
むしろ、心地よいかも。
みんなと戦う時間は先程、教室で感じた苛立ちはなかった。
少し動いても凄いと褒められたりはするけど、おびえられることもなく過ぎていく。多分、演技なしにだれもびびってはいない。
まぁそうこうしているうちに、戦いの時間は終わるのだった。
「どうやら、倒せたようだねぇ」
目の前で蠢いていた花々が全て、動きを止めた。ピタッと動きを止め、ゆっくりと崩れ落ちていった。本体か皆、倒されたようだ。




