256.お怒りに動じません
怒る変態野郎がピリつかせた教室内が、ゆずるんの問いかけで、さらに緊張感あるものに変化する。
いやあ、空気がピリピリしてるし、重たいね。嫌な限りだね。
ブチギレゆずるんにみんなが驚き、ゆずるんを見た。あ、ユキだけはゆずるん同様に変態野郎を睨みつけているか。
「私達は武器師よ。戦闘員として貴方に比べれば何もかも足りないかもしれないけど、武器について、貴方に劣る気はないわ。」
フンッと鼻を鳴らすゆずるん。変態野郎を睥睨する瞳は絶対零度。美人のギロリ顔は迫力があるねぇ。
一部の変態さんじゃなきゃ、ぶるぶる震えてしまうね。変態さんなら喜ぶのだろうけど。
「危険だ危険だとロクに知ろうともせず、排除しようとする君がそばにいて良いならば、ボクらとてそばにいて問題はあるまい。何より、万が一があったとしても、君よりもまともに対処できる。」
ユキは腕を組み、無表情で変態野郎を見ていた。温度のない瞳は怒りが滲み出ているのがわかる。
にしても、ユキもゆずるんも、中々に自信満々だね。まぁ、自分達の専門分野で、興味本位で関わるなって言われたらムカつくよなぁ。
気が立っているとはいえ、変態野郎が悪い。
「言われたねぇ〜。ま、妥当な意見だと私は思うけど。ヘタレよりはユキ達のが安全だ。わんこはどう思う?」
ビビリとはいえ、さすがに2人に睨まれても変態野郎はひるまない。2人の不満に噛みつこうとした変態野郎の言葉を、ケタケタ笑い声をあげて遮っておく。
で、ちょうどやって来たわんこに声をかける。
来たのはわんことこりす先生。にゃんこがいないのは戦闘要員を優先したからかな??何かがあって対応できるのはこりす先生だろうし。
今は、頭に血が上り気味な変態野郎にはまともな判断が難しそうな状態。こりす先生は自分の意見を言うタイプじゃない。
それなら、わんこの意見が聞きたい。というか、わんこしかいない。
変態野郎を邪魔だとはっきり言って欲しい。
「ん?ん?僕に聞くのかな?僕はお越しいただいた武器師が良いとおっしゃるならば、見学してもらってもいいと思うかな?」
いつもの軽薄な声、口調で、やはり決定権を自分が持たない選択肢をわんこは提示する。
とはいえ、見学を良しとする意見ではあるからヨシ!だ。
ゆずるんやユキの雰囲気が少しだけ和らぐ。
「わんこ先生?!」
反対意見に変態野郎は驚いたように噛み付く。
暴れ犬じゃないんだから、大人的に話し合えよと思うんだけども。
冷静さを欠いてるねぇ。
「危険から遠ざける事は僕らの仕事じゃないからね?僕らはこの子らに生きる術を教え込むためにいるんだよ?魔忌具は必須知識なんだから、危ないからって遠ざけるのは正しくないかな?ん?んん?僕ったら良いこと言ったね?かっこよくなかったかな、志貴さん?」
最終的には空気をぶち壊して私に意見を投げかけてくるけど。
けど、まともな話をしているからマシだよね。まだマシ。
「ん〜…10点中5点かな〜。」
だから、5点上げよう。わんこにしては良くやった。
変態野郎を黙らせたから上々。
「お?志貴さん採点しては良い点数じゃないかな?それで?丞さんは彼らの見学はありだと思うのかな?ご意見、お聞かせいただけますか?」
ヨシ。
わんこは自分の発言で決定するより、誰かに決めてもらう方がいいもんね。
丞君に決めてもらうのが1番平和的だ。だって、師匠達が指名した武器師が決めた事ならば、たとえダメだとしても、ユキもゆずるんも文句は言えないもんね。
いや、丞くんじゃなくとも、正式な武器師がダメと言ったなら、見習い武器師な2人に文句が言えるはずがないし。
「俺っすか?えーと、俺としては下手に魔忌具に近づかないで良い子に見学しててくれるなら良いっすよ?指示に従って動いてくれっす。良いっすね?」
話の流れを見物人として眺めていた丞君はいきなり話を振られてアタフタしつつ、返事をした。
まぁ、丞君はダメって言わないよね。分かってた。
勝手なことはされたくないだろうけど、見学くらいならありあり。指導するのだって丞君は嫌いじゃないだろうし。
丞君に言うこと聞けと言われ、ユキとゆずるんは嬉しげに頷いていた。
「丞様。よろしいので?」
嬉しげな生徒達の前で往生際が悪い変態野郎。もう諦めるしかないだろうに。
「魔忌具は基本、触らなければ大丈夫っすから。何より、桜花さんが大丈夫だって判断して、チビさん達が桜花さんが持つ事を許したんす。よほど、大丈夫っすよ。」
にこっと優しげな笑みを浮かべる丞君。何かあれば武器師である自分が責任を持つとまで言う。人間出来てるぅー!
「……志貴様は武器に対して甘い認識をお持ちです。」
思ったような返答を得られなかったのもあるのか、変態野郎はシロト君の意見に素直にうなずかない。反対だって暗に言っている。
丞君が良いって言ってんだから、良いだろうに。武器師の判断にとやかく言える立場かっての。
「それは確かにそうっす。俺も気をつけるようには言ってるんすよねぇー。何度言っても武器を拾ってくるんだから困りもんす。できたら、1人の時に知らない武器に触らないで欲しいんすけど。俺が見たことある武器以外使わないで欲しいっす。」
おや?
矛先がわたしに来たぞ?おやおや?
「独占欲はモテないんだよぉ〜?」
にやぁ〜と笑いながら、私は丞君を見る。
丞君はこまったような視線を私に送って来たけど、それはにまにま笑いながら受け流す。
根負けしたのは丞君だ。
「……まったく。」
丞君はため息をつく。
ま、丞君の作った武器だけってのは無理あるけど、今保持しているものや、拾ってくる子達以外はほとんど丞君達のものなんだよね。
拾ってくるなと言いたいわけだろうけど、それは無理だから。あ、いや…拾ったなら報告しろ、かな?
いやはや、忘れていたのは私のミスだし、反省してる。
「主人が所持するって決めている上に、アイツ、おこがましくも、主人を主人に選んでるから、取り上げるのは難しいよ。今、臨時の入れ物に入れてるから、それを確認して欲しい。僕らがいるから万が一なんてないけど、念のためにね。」
珍しく自ら丞君に近づきつつ、チビが話し出す。自分の望みを丞君にぶつける。
素直な武器だからね。刺々しい態度を隠さない。とはいえ、もうちょい丸い言い方をして欲しいけど。そこは仕方ないか。
「…桜花さんを選んでるってどういうことっすか?」
目をまん丸にする丞くん。想定外らしい。
まぁ説明してなかったから当たり前だけど。そういえば説明忘れてたや。
「主人を自分の主人だって認識しやがったんだよ。出来損ないの癖に。」
私が話し出すより先にチビが返事をする。いつになくおしゃべりなチビ。新しい武器が気に入らないみたいだねぇ。
魔忌具をチビが気にいるはずなんてないんだけどね。
「チビ。」
「にゅぅーっ」
注意すれば、そっぽを向かれる。気に入らない。自分は悪くないとチビは主張してやがる。
「まったく。出来損ないではないよ。綺麗な銃だもの。丁寧に丁寧に作り上げられた立派な武器だよ?」
私のお気に入りだ。いや、まぁ、所有する武器は全て気に入っているわけだけど。
「ケッ。」
チビさんは大変ご立腹。凶悪な顔で毒づいている。
まぁ、魔忌具は使い手を危険に晒す武器だからね。力のコントロールが効きにくいのは確か。
持ち手を危険にさらす武器なんざ、チビには気に入らないよなぁ。




