261.寝に行きます
桜花の言葉は予測していなかったらしく、珍しく大きく目を見開き、そしてわんこ先生は動きを止めた。
「…………そうだね?だから、僕は意外とウサ先生が気に入ってるよ?突っかかるだなんて人聞きが悪いね?」
桜花の言葉に返答するまでに、少しだけ時間がかかってしまった。
しかし、返事を返す頃にはいつものわんこ先生に戻っていた。
「いじめてんじゃん。」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるわんこ先生に、桜花は眉を顰めた。
「愛の鞭かな?」
わんこ先生は悪びれた様子もなく笑った。
「はぁ。まったく。わんこは悪意を持って行動してない。不快なのは分かるけど、本気になって攻撃するのは大人気ない。というか、相手にするだけ無駄だよ。」
話にならないと言うかのように桜花はわんこ先生との会話を切り上げ、ウサを見た。
ウサは話についていけず、眉をひそめ、桜花を見ていた。理解できていないのは明白であったが、桜花には説明をしようとする気配がない。
「不快だなんて酷いんじゃないかな?」
ウサに話しかけたと言うのに、ウサが返事をするより先にわんこ先生が口を開く。ウサが質問をする隙がない。
ひどいと非難しつつ、わんこ先生は状況を楽しんでいるようだった。
「わんこが戦闘員やめたのって妹さんが理由?」
桜花はわんこ先生の反応に対し、うるさいなぁとつぶやきつつ、わんこ先生を見ると問うた。
「そうだよ?あの子を守るって約束したから?だから戦闘員をしてたんだよね?あの子がいない中、恐ろしい魔物たちとは戦えないっていうか?」
今度は動きを止める事なく、いつも通りの様子でわんこは返事を返した。
が。
「ふーん。はじめちゃんをいじめないでね?」
桜花はわんこ先生の返事に対して気のない返事を返すだけで、話を変えた。
面倒だからと小さくつぶやいた桜花にウサは眉を顰める。迷惑などかけてないだろう、と。
「いじめてないよ?」
コテンと頭を傾げて見せるわんこ先生。自分のどこに非があるか、一切分からないと言うかのようだ。
「……やっぱり妹さんのこと、根に持ってる?」
一瞬、桜花は鋭くわんこ先生を射抜くように見た。何かするならば許さない、とでも言うかのように。
桜花の探るような視線に、わんこ先生は表情を崩さず笑っているままだ。
「いや?あの子らしい選択をしただけだし?むしろ傷つけたのはあの子の方だから?」
「だったらはじめちゃんが本気で攻撃しようとするくらい怒らせないで。」
「はっはっは?」
「はじめちゃんに対して、貴方はあたりが強いでしょ?」
「そうかな?あ、あれかな?好きな子には意地悪しちゃうみたいな?」
「ほざけ。」
「俺はわんこ先生の妹さんに何かしたのか?」
話に割り込むようにしてウサは声を上げた。そうでもしないと聞きたいことも聞けないからだ。
わんこ先生がウサに対して当たりが強いのは知っていた。その原因は分からなかったが、ウサ自身に原因があるというのか。
聞かなければ桜花もわんこ先生も話さない。確信があるからこそ、ウサは声を上げる。
「心当たりが〜?あ、意外にも女関連は爛れているのか。」
桜花は半眼になってウサを見て、面倒そうに問いかけた。
桜花の表情を見てウサは察した。桜花はこれ以上、情報は与えてくれないだろう、と。
「…ない、から聞いている。」
「そ。じゃあ調べればぁー?私は調べてたから知ってたわけだし。」
やはり、というような返答を桜花はした。が、桜花の返答にウサは頭を傾げる。
"調べたから"というのはどう言うことか。
「仲間想いだね?」
調べられたであろう対象である"わんこ先生"は調べられた事に対し、何ら反応することはなかった。
「わんこも調べたでしょ?だから私の事を"人並み"に知ってたんだよね?」
「さぁ?」
「うざぁー。はじめちゃん、知りたいならわんこに聞くのが一番だよ。」
桜花とわんこ先生はやはり、ウサには理解し切れない話をする。
互いに互いを調べていた。それは分かるが、それはなぜなのか。まったくウサにはわからない。
これは情報不足で理解できないのだとウサには分かっていた。
「教えてくれないだろう。」
わんこ先生も桜花も教えてくれないが故に理解できない。
「だろね?だからと言って私が話すのもーー」
「マナー違反だね?」
桜花が視線を向ければすかさず、わんこ先生は言う。疑問系とは言え、話すなと言う意思がある。
「だってさ?少し話したのは仕返しだから。わんこにやられたからね。」
「根に持つね?志貴さん?」
「当然。」
ウサは桜花とわんこ先生を交互に見るが、どちらも話は終わりというかのような態度だった。
スッキリしない。
眉を顰め2人を見つめても、状況は何ら変わりなかった。
「はっはっは?喜藤君が眠そうだし?お話はこれくらいにして?寝てきたら?」
ウサからの視線に気づいているだろうに、わんこ先生は気にすることもなく、桜花に話す。
桜花の後ろではウサ同様に話の内容が見えていないだろう魁斗が興味なさげにあくびをしていた。
「言われなくともそうする。」
桜花はむすっとした様子でそう答えると、魁斗の手を掴んで歩き出した。その後ろをチビが続く。
「おやすみなさい?良い夢を?」
「ん。はじめちゃんもわんこなんか相手にしてないで、おやすみ。」
「…………おやすみ。しっかり休めよ。」
「はいはーい。」
桜花は手を振りつつ、適当な返事をすると、今度こそ部屋へと帰っていった。
「それじゃあ?僕らもお開きとしようかな?おやすみなさい?」
桜花達が校舎へ入っていくのを確認すると、わんこ先生はウサを見た。
そして、返事を聞くより先に校舎へ向かって歩き出す。
「ちょ!わんこ先生!」
ウサは慌てて声を上げた。
手を前へ突き出し、わんこ先生の腕を掴もうとするが、わんこ先生はウサの動きを予見していたのか、スルッと避けるとそのまま歩いていってしまう。
「ははは?僕は君に話すことはないから?じゃあね?」
わんこ先生は楽しげにウサを流し見た。
一切、何も話す気はない様子にウサは呆然としてしまう。
「…………妹って誰だよ。てか、何で知ってんだよ、桜花ちゃんは。」
はぁーっとため息混じりにウサはつぶやく。
しかし。
ひとりぼっちの中庭で、返事をしてくれる者はいない。中途半端に情報を与えられモヤモヤする気持ちは誰も解消してはくれない。
わんこ先生も桜花も何を考えているのか。
ウサには理解ができなかった。
「あの子が調べた、か。あの子の周りに関する事に関わった?いや、……わかるかっつの!はぁー……分からん。寝るか。」
考えてみてもどうにもならないと、1人残っていたウサもまた、自室に戻っていった。
スッキリとしないまま、ウサは床に付いたのだった。




