257.夜風に当たります
魔物に飲み込まれた魁斗。その後を追っていった桜花。2人を待っていた級友たちは2人一緒に帰ってくると思っていた。
無事は教員たちから先に知らされていたが、それでも魁斗と桜花の姿を直接見たくて皆で待っていた。
が。
先に桜花が帰ってきて、目立った怪我はないものの、疲れたと部屋に戻ってしまった。
桜花がそうしてしまうくらいに疲労する様子は皆、見たことがなかったが故に、場はざわめいていた。
「ウサくんは?心当たりはないか?」
教員ならば。特に桜花を知っていそうなウサならば、知っているのではとユキはウサを見た。
「……お疲れなのでございましょう。今はそっとしてあげてくださいまし。」
少しの間を開けた後、答えになっていない事をウサは言う。
ウサの言葉に皆、なんとも言えない表情で目を合わせる。どうするかと、目で問いかけあっていた。
「喜藤様?貴方様が無茶をなされ、何かを引き起こした場合、被害は志貴様に行きます。志貴様は簡単に肩代わりするでしょう。ご自身が傷つかれても構わないお方ですから。」
戸惑いを隠せずにいる生徒達からの視線を無視して、ウサは話し出す。
ウサはまともな返事はせず、話をガラリと変えた。
「今後、今まで以上にご注意いただきたく存じます。しかし、此度は我々のミスです。申し訳ありませんでした。二度とこのようなことが無いよう、教師一同、気をつけてまいります。」
ウサは深く頭を下げる。おふざけのかけらも無い真面目な謝罪。
予想だにないことが起きるのははじめてではない。
しかし、ここまでハッキリと謝罪されるのは初。
「貴方達のせいっていうのは?」
どういうことかと結弦が代表して問う。
「魔物は我々の手で運び込んでいます。その際に危険な魔物の侵入を許したのは事実。弁明の余地はありません。」
ウサは頭を下げたままで問いに答える。許しをこう態度に、一同困ったように視線を合わせた。
「…………謝るなら桜花ちゃんにしてくれ。一番被害を被ったのは桜花ちゃんでぇ。」
魁斗はため息混じりに言った。
皆も起きてしまったことに怒りをぶつけるつもりはないらしく、魁斗の返答に異を唱える者はいない。
「承知いたしました。寛大なるお心に感謝いたします。……皆様。今日はお疲れのことと思います。ごゆるりとお休みくださいませ。では、ウサはこれにて失礼いたします。」
「今日は休むか。ボクも疲れた。」
「そうね。」
待つ方も、はぐれた魁斗も。この場にいる皆が疲れていた。
満場一致で、各々休むこととなるのは自然の流れであった。
◇◇◇桜花side◇◇◇
人の気配のない、夜遅くの中庭は月明かりしかなく、なんだか妖しい雰囲気を醸し出していた。
夜中に目が覚めると中々寝れないよね。
早く寝過ぎた私がいけないんだけども、寝れないのは困っちゃう。
部屋にいても、寝れそうな雰囲気はないから、中庭で風にあたってる。
いやぁ、涼しくなってきたこの頃だからね。風が頬を撫でてくれるのが、気持ちいい。木の葉同士が風に揺らされ擦れ合う音って癒しになるよね。
そうそう。
私は癒しが欲しくて中庭に来たんだよ。誰かと話したかったとかはない。
ないというのに。
「桜花ちゃん。」
……気配はしてたけど、私服のラフな格好にマスクをつけただけのはじめちゃんが来るってのはちょっぴり予想外。
"ウサ"の格好をしたはじめちゃんが来ると思ってたよ。
ま、無視するからどちらが来ても変わらないけど。
木の下のスペースでチビにもたれかかって横になった私。はじめちゃんの声は聞こえてないから、反応する事なく、空を眺めてる。
そう。
私は誰の声も聞いていない。
「桜花ちゃん、夜中に部屋から出るのは感心しないぞ。」
「……。」
返事がないのを気にせず、私のすぐ横に座るはじめちゃん。
なして、1人で話しているのか。しかも内容は説教系。聞きたくないんだけども。
「昼間はすまなかった。空様達が学園中を調べ直すことになったから、しばらくは校舎から出ることを禁じられた。」
あ、珍しく説教が短い。しかし、返事してないのに話し続けるのはなぜなのか。分からんねぇ。
昼間のは仕方ない。はじめちゃん達が悪くないのは分かる。誰がコケを連れてきちゃったかなんて分からんし。あんなん、気づけんし。
校舎内に監禁だって安全のためだって分かる。しゃあなしだよね。しばらく、イベントやら何やらはなしになるのも仕方ない。
またコケに飲み込まれるよりはよほどマシだ。
「……みんなに伝えたら、文句を言われてしまった。仕方ないが。実戦を積みたいんだろうな。」
文句を言うみんなは想像が容易い。うんうん、ギラリと睨んで、何ならはじめちゃんを殴りに行きかねないね。血気盛んな子が多いから。
今はまだ、はじめちゃんが御しきれるけど、みんなは成長期だから。驚くべくスピードで成長している。
時期にはじめちゃんでは、御せなくなってくるだろうね。その時が大変だねぇ。
「桜花ちゃんが疲れた様子を見せたからか。いや、取り乱す様子もあの子達は見ていたな。桜花ちゃんの様子にみんな、ビビっていたぞ。」
話がころりと変わったな。
てか、一番私の怒声にビビってた奴が何を言いやがる。みんなを気遣う余裕がなかったのは本当だけども。
「いつもより、みんながしおらしかった。今回のことを説明して、追加で今後のことを話しても、意外にすんなり受け入れていたよ。」
言葉が通じないわけじゃないんだから、説明すれば理解できるし、意味もなく暴れたりはしない。
はじめちゃんに八つ当たりする様子はあるけど、それははじめちゃんが悪い。
八つ当たりが少なかった原因が私にあるだなんて、一概には言えんでしょ。失礼だなぁ。
たしかに昼間の態度は余裕なかったけど。仕方ない仕方ない。
「もう大丈夫なのか?」
私の顔を覗き込み、顔色を確認したり、額に手を当てたり。
気にせずにやってるけど、おじさんが女子高生にやるとか。場合によってはセクハラでアウトだろうに。
「熱はないな。顔色も昼よりは良い。」
昼よりって。一旦、眠ったからもう回復したも同然だっての。
心配しすぎだ。
「志貴さんは口がないのかな?」
「うるさい。」
「ははは?話せるね?」
ニヤニヤした顔がこちらを見てる。
ずっと静かに見てたのに、わんこは茶化すように口を開きやがった。
はじめちゃんに付き合ってわざわざ来るなんて、わんこも意外に心配性だよね。
終始、ニヤニヤしてるし、口を開けば殴りたくなるようなことばかり言ってるけど。
素直になれない大人とかお呼びじゃない。
「2人は暇なの?今回の事、処理大変でしょうに。」
どっか行け。
そう暗に告げてみる。
が。
「報告は終わってる。心配することはない。」
はじめちゃんは時折、天然で嫌味キラーになる。やだやだ。
こんなときに天然発揮するとかやめてほしい。
「何より優先すべきは生徒だから?僕らは未来の希望に力を入れていると言うか?いやぁ?良いこと言ったね、僕?」
胡散臭いことを言いやがる。嫌味が理解できてる方は胡散臭いとかなんなんだよ。
変態野郎時のはじめちゃんより、よほど意地悪くみんなを焚き付けるコイツが生徒優先といっても信用できるわけないじゃんか。
まぁ?生徒のためにいろいろ動いてくれてはいるけど、普段の言動に問題があるんだよね、わんこの場合。
「にゅぅ。」
チビだって胡散臭いと感じているようだよ?
半眼になってわんこを睨みつけてる。
「コケの内部は大変だったか?桜花ちゃんがクタクタになるのは珍しい。喜藤くんのほうがあまり、疲労していないように見えたが。」
覗き込んできた顔は本気で心配しているようだった。心配性なはじめちゃんが心配してないわけがないんだよね。
とはいえ。
心配かけないように頑張る気力もなかったから仕方ない。
「喜藤くんはいじっぱりだから?表面に出してなくとも、疲れたようだよ?他の子達も何時間も心配しつつの待機で疲れたようだね?みんな、あの後、珍しく訓練するでもなくぐっすりだしね?」
よくもまぁみんなの動きを把握していらっしゃる。
騒動の後だから仕方ないのだろうけどね。
「本日ばかりはゆっくり休むと、皆で決めたようです。何もせずに身体を休めようと。」
「へぇ?良い子達だね?」
はじめちゃんの言葉にわんこはくすくす笑う。
当たり前でしょ。皆、良い子なんだよ。




