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232.夏休みがはじまってますよ?

がらがらがら。


容赦も遠慮もなく乱雑な動作で職員室の扉が開かれた。


不機嫌なわけでもなく、気遣って良い子を演じているわけでもない素の動作。いや、中にいる人物らに気づかせるようにわざとやっている節はあるか。


「はじめちゃあーん、任務行こまい。んーとねぇ。リュウ狩が流行ってるらしい。」


挨拶も何もなく、扉から中に入ることもなく、桜花はその場から用件を告げた。


陽気な声で、顔には朗らかな笑みが浮かべられていた。Tシャツにパンツのシンプルな格好をしており、制服は着ていない。


その周りには狼サイズのチビが寄り添うように立ち、横を囲うように二人の少年と、二人の青年が立っていた。


「却下にございます。」


自身の席に座り、作業をしたままでウサは告げた。


はじめちゃんと呼ばれたものの、燕尾服にウサギをもした仮面を付け、ウサの格好をしている。教員と桜花しかいないとはいえ、まじめにウサのキャラで返事をしていた。


しかし、呼び名を注意することはせず、桜花の方を見る様子もない。


「チッ。……筋肉ダルマ達が明後日から5日ほど、任務に出るらしい。行ってくる。師匠に許可取ったから。ほら。」


桜花は自身を見る気配すらないウサに近づくと、自身のスマホ画面をウサに見せた。


そこでやっとウサの視線が自身の机におかれた書類達から移動した。


ウサは桜花のスマホに示された、桜花とその師匠とのやりとりを眺め、数秒、桜花に無言で視線を向ける。


ニコニコと笑う桜花と、仮面で顔が隠れ表情が見えぬ、しかし、桜花の行動が気に入らないと抗議の視線を送るウサ。


無言の攻防は数秒続き、そして、ウサが破れた。


「………………任務の概要をお渡しください。お供いたしますから。」


諦めたようにウサは言う。ギロリと画面の向こうから睨んでみるが、桜花には有効ではないだろう。


桜花は涼しげな表情でウサを見ている。


「えー?来なくて良いよ?」


そして、案の定、可愛げのないことを言ってのける。しれっと。


反省の色は当然、ない。


「そうはいかないよね?ウサ先生、心配性だし?」


コテンと頭を傾げ、桜花が言ったことに対して、ウサが何かを言うより先に、ウサの正面に座っていたわんこ先生が口を開いた。


わんこ先生はいつも通りのスーツ姿だが、上着は椅子にかけられ、幾分かラフな格好をしていた。


仮面を付けているウサに対し、わんこ先生は仮面をつけていなかった。犬をイメージして作られたそれはテーブルの飾りかのように置かれている。


「……先生達は夏休みないわけ?」


話に入ってきたわんこ先生を見て、その後に職員室の全体を眺め、ちらほら残っている先生達を見た後に、桜花は疑問を口にする。


今は夏休み。


級友達はそれぞれの家へと帰っていき、長期休暇を満喫しているはずの今。桜花だけは帰る先がないからと学園に残っていた。


「交代で夏休みには入ってるよ?僕らってば、ほら、奉仕の精神の塊だからね?夏休みとは言え、生徒たち優先だから?申請があれば任務に行かなきゃだしね?」


にこにこにこと、胡散臭い笑みを浮かべながらわんこ先生は話す。


「わんこが言うと胡散臭さしかない。」


自分のせいで残しちゃってるわけじゃないなら良いかと桜花は未だに学園にいる教員への興味をなくし、わんこ先生にじとーっとした視線を投げかけた。


「はっはっは?……志貴さんみたいに師匠様達の方が、言いくるめやすいからって?そこから任務をゴリ押しする子は?他にはいないよね?普通にウサ先生に話せばダメって言われるってわかっているとはいえ?少し卑怯だよね?」


にやにやにやにや。笑顔を浮かべたままにわんこ先生は話す。笑顔は笑顔のままだが、いやらしさが増しているのは気のせいではないだろう。


自分にも容赦ない言動をする生徒への苦言。容赦なく突き刺していく。


「うっさい。自分の出来ることをしただけだし。師匠達からははじめちゃん達を連れて行かなくても良いって許可もらった!」


桜花は師匠とのやりとりをわんこ先生にも見せた上で胸を張る。


師匠が良しと言ったならば良いはずだと。


「俺も行くから、詳細を渡しなさい。」


ぴしゃり。


取り付く島もなく、ウサは言った。仮面を付けたままであるゆえ、変声機で機械音に変えられた声だが、演じられたウサのキャラは剥がれ落ちていた。


「………みんながいないからって素が出てるし。」


「桜花ちゃんだって敬語が剥がれてる。……まったく。任務も気が抜けてるとかはやめてくれよ。」


嫌そうな顔をして話す桜花に、ウサは素で話を続けた。しかし、仮面を外さないため、声は変声機を通したような安っぽい響きのままだ。


「だいじょーぶ。」


くどくどと注意を続けそうな雰囲気があったため、桜花はへらっと笑うと話をぶった斬った。


「夏休みは任務漬けになっちゃうね?けど、意外かな?喜藤くんとか、他の子達も、志貴さんにピッタリくっつくと思ったけど?」


「んー?ツバサは帰ってきてってばぁちゃんに泣かれてたかなぁ。他も親から帰ってくるように言われたみたい。何人か、一緒に残るとか言ってたけどねぇ。せっかくの機会だから家族優先でしょ。」


残ったのは桜花だけ。桜花が残るならば残ると言った面々もいたが、結局は家に帰っていった。


周りに級友達のいない状況に桜花は肩をすくめるだけ。寂しそう様子はなく、家族を優先するのが当然だと言い切る。


「なるほど?のわりに、喜藤君は限界まで任務するみたいだけどね?」


「そっかぁ。お兄さん、何も言ってなかったけど、お兄さんらしいねぇ。」


「まったく。あの子も無理をするから危なっかしい。……あぁ、そうだ。23日から海の方に行く任務の申請があった。桜花ちゃんにも行ってもらうからな。」


「んん?どんな?………へぇ。この時期は綺麗な風景見れそうだねぇ。桜井が行くんだ。あ、これのちょい前にツバサとも任務、行ってくる。」


「…………それにはコリス先生が付き添う。」


「りょーかぃー。」


話が終わったら、もう用はないとばかりに、返事をしながら桜花は体の向きを変えると歩き出した。


「こら!任務の詳細は??」


遠ざかる背にウサは叱りの声をかけた。


「あとでメールで送る〜。」


まだ話は終わってないとウサが桜花に声をかけても、ひらひらと手を振りながら、さっさと職員室内から出て行ってしまった。


「…………まったく。」


「1人だけワクワク学園に残るって言って残ったけど?思ったよりは任務に明け暮れたりはしてないね?」


わんこ先生の言葉通り、桜花は休日を挟みながら任務希望を出しており、ウサやわんこ先生が心配したほどは任務の希望を出さず、ワクワク学園でのんびり過ごしていた。


とはいえ。


皆の目がないが故か、自身の武器達を好き勝手動けるようにし、そばにいさせていたりはしているが。チビだけでなく、他の武器達も常に桜花のそばにひかえている状態だ。


今も、何も喋りはしなかったものの、武器が桜花の周りにはまとわりつくようにしてそばにいた。


桜花が一日中やるとすれば、武器と身体を動かすこと。演習室にいるのがほとんどであった。が、無茶はしていない。


「それは…そうですが……しかし、悪知恵がききますから……まったく。空様も桜花ちゃんには甘すぎる。」


「あはは?ウサ先生は?過保護が過ぎるよね?あ、稲盛さんからも申請あったから?にゃんこ先生に振ったよ?」


話の流れから思い出したと言うように、わんこ先生はウサに書類を渡す。


佳那子からわんこ先生へと提出され、すでに受理されにゃんこ先生へと振られた仕事の詳細。


「稲盛さんが?……なるほど。にゃんこ先生はなんと?」


書類に目を通すと、やや棘を含んだ口調でウサは問う。


「了解って言ってたかな?にゃんこ先生が良いって言ったんだから、大丈夫なんじゃないかな?」


ウサからの棘など気にした様子もなく、わんこ先生は笑みを浮かべたまま穏やかに話す。


ウサが不服だと感じることは百も承知だった。


ウサに言えば危ないからとかなんだとかで却下と言われると分かっていたからこそ、佳那子もわんこ先生に提出したのだ。


「………承知いたしました。」


「生徒達も?ウサ先生の過保護ぶりは知ってるからね?志貴さんだけじゃなくて、任務に行くための抜け道は考えるよね?」


気に入らないとあからさまに態度に出していたウサを見て、わんこ先生は愉しげに笑う。


「まったく…正攻法できてほしいものです。」


嫌そうにしつつも、状況を楽しんでいそうなわんこ先生自体には文句は言わない。言えば百の言葉で帰ってきて面倒だと分かっているが故に。


「まぁ?せっかくの休みなんだし?みんな、休みを満喫すれば良いとは思うけどね?そんな休みは今のうちしかないからね?真面目が過ぎるというか?」


「……勤勉である事は後々の自分達を救いますから。悪くはないんですけどね。」


「とはいえ?青春だからね?もったいないというか?」


「本人らの好きにするのが1番ですから。」


「ふーーん?まぁ?そうなんだろうね?」


話が途切れれば、無理に話を続けたりはせず、互いに仕事に集中した。


職員室内はすぐに桜花が来る前の静かな雰囲気へと戻っていくのだった。


ワクワク学園内は学生達がいない以外は変わりなく、夏休みが始まっていた。

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