231.反抗期のように反抗を示します
「ふーむ。」
頑なな魁斗の様子に何を思ったか、桜花は立ち上がるとシュミレーターを作動させた。
魁斗が先ほどまで、何度も倒そうと奮闘した魔物が姿をあらわす。
咆哮を上げ、こちらを睨みつけてくる様は、単なるシュミレーターにより作り出されたものとは思えないくらいに迫力がある。
「コイツはねぇ。肌が硬くて、打撃に強い。だからいたずらに殴ったって、どうにもならない。ーーほらね?」
桜花は話しながらも、魔物を殴ったり蹴ったりしてみせた。その衝撃により、魔物は容易く吹き飛ばされた。
武器を使わず話しながら動く桜花は、本気で動いているわけではなく、見せるためにわざわざゆっくりめに動いているはず。たいして力を込めているようには見えない。
それでも、魁斗には目で追うのがやっとであった。いや、追い切れているかも自信がない。
吹き飛ばされた魔物は壁に激突し、地に落ちるも、すぐに起き上がると桜花に向かって構え威嚇していた。本気ではないだろうに、吹き飛ばされた。魁斗にはそれすら、難しいのに。
威嚇する魔物は桜花の言うように、確かにたいしたダメージを負っているようには見えなかった。魁斗には、魔物を倒すビジョンが湧いてこない。
こうも余裕たっぷりな桜花と自身との差に絶望感に満たされていく。
「この子は心臓部を潰さなきゃ、くたばらない。手足を失おうとも、死ぬ寸前まではなんてこともないような顔をして襲いくる。心臓の場所はここね。」
ひょひょいと動いて、魔物の背に乗ると背後から桜花は刃を突き立てる。
簡単にやってのけた。見ている側が、簡単にできるのではないかと錯覚してしまいそうになるが、実際容易くはないと魁斗はその身で経験していた。
「どう動く癖があるか。阿部みたいな単細胞なのか。あるいは谷上みたく、考え込んで動くのか。魔物ごとにそこは違ってくる。さっきのは大抵、3匹とかでまとまって襲ってくる。匂いに敏感で、激袋が有効。逃げるならば、あちこちに刺激臭のするものをばら撒きながら逃げると良い。」
未だにチビにのし掛かられ動けずにいる魁斗のそばまで戻ってきながら桜花は話す。
そういえば、逃げる時にげんがあちこちに何かをばら撒きながら走っていた。あれはーー…
何も知らなかったのだと、魁斗は感情の処理がしきれず、呆然と桜花を見ていた。
「闇雲に倒し続けるのも無駄だとは言わない。けど、身体の動かし方を学んで、いかにして倒すかをかんがえなきゃ。正面から戦わなきゃいけない理由はない。それしか出来ないなら、死ぬよ?」
桜花はすぅーっと目を細め、温度のない視線を魁斗によこす。
これは警告だ。そのままの戦い方をすれば魁斗は死ぬと言う忠告。脅しではなく、現実を勧告しているだけ。ゆえに迫力は盛大。
「………んな事、分かってらぁ。」
なんとか、返事をする。強がりを言う以外、できなかった。
桜花の温度のない冷えた目はそれくらい、怖かった。
「ふむ。何を焦ってるの?」
顔をそらすも覗き込まれてしまって、魁斗はバツの悪そうな顔をする。
桜花には聴かれたくない。桜花相手だからこそ、話す気にはならない。
「………男にははらなきゃいけない意地というものがございます。喜藤様は特に意地っ張りにございましょう。」
魁斗が答えずにいれば、ウサが口を開く。
お前何かが何を知っていると言うんだ。なんて怒鳴りつけたくなるようなセリフだが、魁斗は何も言わず、誰とも視線を合わせない。
「…………ん〜。意地っ張りは死ぬ。優先順位があるでしょう。」
ウサの言葉に桜花は不満そうだ。
何より優先されるべくは生きること。生き延びること。ゆえに、ウサの言う意地は優先されないと桜花は主張した。
「志貴様のおっしゃる事もまた、正論にございます。しかし、意地のない者もまた、死にますよ。」
桜花の言い分は認めるが。だが、しかし。意地もまた大切だとウサは言う。
魁斗には分からぬ世界になってきた。
ウサは自身を庇っているのか。いやしかし、今の状況からして、ウサは止めにかかるはず。仲間では無いはずだ。それだけは魁斗にも分かる。
ならば、何が言いたいのか。
「自分の芯がない奴ってか。………チビどかして、倒れるまでやらすの?」
心底嫌そうに桜花は言う。
心配そうに魁斗を見るが、魁斗はそっぽを向き、誰とも視線を合わせようとしないままだ。さっさとチビを退けてほしいってのが本音。その通りになるならばありがたい。
「いや、そのまま押さえつけてろ。オレが寝かす。」
にゃんこ先生は手を鳴らしつつ、桜花に言った。
"寝かす"とは何か。
単にベッドまで運び寝かしつけるだけではないだろう。
「力技だねぇ。」
桜花は笑いながら返すが、笑い事ではないと魁斗は内心ヒヤヒヤだ。
目の前で魁斗をほったらかしにして話が進んでいく。
3人の意見は噛み合っているとは言い難いが、3人が3人とも、魁斗を止める気満々らしい。やはり、それだけは確かだ。
魁斗には気に入らない現実でしかなかったが、抵抗する術はなかった。
早く強くなりたいのに。桜花のようになりたいのに、歯痒くてたまらない。
桜花の戦う姿を初めて見た時、見事に射抜かれた。憧れるのは当然であった。
芸術的で美しく。しなやかに動く身体の動きは見惚れるほどにかっこよく。身を張って他者を守る姿勢に救われた。
救われたと言うのに傷つけてしまった自分が情けなく。何も出来ず、見ているしかなかった自分が恥ずかしく。
隣に立ち、支えれるようにと武器を取った。
魔物についてだって貪欲に学び、自身を磨き上げていった。
全ては憧れの人に近づくために。今度は自分が守るために。
だというのに。
鍛えたが故に、憧れの人と自分との実力差がより分かってしまった。
全然、近づけていない。まだまだ横に立つには不足している。どころか、また何も出来ずにただ見ていることしかできなかった。
ただただ何も出来ずに呆けているところを、初めて会った時のように助けられてしまった。
何も変わっていない。何も成長できていない。
慌てもする。焦りもする。悔しくて、悔しくてたまらない。
一刻も早く強くなりたい。今度こそ、守られずとも、自ら戦えるようにしたい。
だからこそ。
休んでいる暇はなく、鍛えなければならない。ならない、というのに。
桜花、ウサ、にゃんこ先生は魁斗を止める気満々だ。そして、それに対して自分は抵抗すら出来ない。手も足も出ない。
それもまた、悔しくてたまらない。
「慌てても一朝一夕には強くならね。急がば回れ。今は休むっぺ。分かったな、魁斗?」
「………。」
無表情だが、明らかに気に入らないと態度で示している。
それに桜花は苦笑し、にゃんこ先生早くため息をつく。反応は違えど、呆れているのは明らか。居心地が悪いとしか言えない。
「今は素直に従うのが賢い選択にございます。3対1では部が悪いのはお分かりでしょう。では、喜藤様?おやすみなさいませ。」
最後に魁斗が耳にしたのはウサの声だった。
結局。
魁斗はにゃんこ先生に強制的に眠りにつかされ、ベッドに戻されたのであった。
その後、魁斗は何度か脱走する。そう警戒されていたが、そういうこともなく、しっかりと療養した。少なくとも、叱られない程度の行動を取っていた。
はじめは魁斗の行動ににゃんこや佳那子達が目を光らせていたが、しばらくして、その警戒も和らぐ。
そうこうしているうちに、一時、騒然とし、非日常な時が流れた学園の空気も、日常のものへと戻っていった。




