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20.ゲームが終わった後


「ん〜…。今日は微妙に疲れたなぁ。」


ついつい、疲れ果てたような声が出てしまった。仕事終わりのおっさんのような声。枯れ果てて、もう栄えることはない、踏んだら良い音出す落ち葉のような。


枯れ果てるには早いっていうのに!私、まだうらわかき乙女よ?


身体を動かしてみたら、やはり、意外と身体が疲れているみたい。ま、緊張状態にはあったからね。


昨日も雑魚寝であまり寝れてないからなぁ。


若干、眠い。


ただ、布団に入っても眠れないのだろうなぁ。もうちょい、身体を動かすか。


「にゅっ!」


と。


扉のとこにいたチビがひと吠えした。


チビは護獣な訳なんだけど、中々に役に立つんだよね。


自己の能力のほかに獣ならではの能力がある。まぁ要するに耳やら鼻やらが獣なみに優れているわけで。


この島の中くらいなら、誰がどこにいるか把握することが出来るくらいに気配にも敏感なわけだ。チビは。


それだけでも能力なんじゃないかってくらいにチビは優秀だったりする。


私の武器、みんな優秀なのよね。


能力って武器によりけりだけど、チビの探知機能はやはり優秀な部類に入るのね。人の魔力も把握できて、一度見たら忘れないで、姿を変えようと察知しちゃう。


うん、実は気配読んだりの力はチートですよ、チート。いえい。


とはいえ、そういうものだっていうだけの話。チビの探知機能は特別な能力ではなく、チビにとってはただの通常能力。目が見える耳が聞こえると言ったこととなんら変わりはない。


チビの特殊能力は他にある。うん、なかなかのチートぶりです。さすがは私の可愛いチビさんです。自慢の武器の1つにございます。


身体の大きさが変えられるのだって特殊能力ではない。戦闘能力だって高いけどそれも当たり前。ライオンに狩りの力があるのは特殊ではないのだよ。


全部が全部、当たり前なのね。


そんなチートなチビさんは部屋の外に人が来たのを察知した模様。


今の時刻は夜の10時。中々に良い時間なわけだけど、外にはマリやお兄さんがいるそうな。


「………桜花、こんなとこにいたのね。」


ガラッとノックもなく扉を開けましたマリさんはこちらに呆れた視線を向けます。


ここ、術式の練習もできる部屋だから、無防備に開けると怪我するだろうに。呆れるのは私のほうじゃないかしら?


「何か用ー?」


まぁ来るの気付いてたから良いのだけれども。下手したら怪我するってわかってるのかしら?


「そろそろ寝ないかってみんな集まってきてるわよ。」


聞けばマリは当たり前のように言う。遅いわよってノリで言うけれど。みんなで寝るなんて約束はしてないはずだけどね?


昼間のゲームが終了したあと、晩ご飯を食べるなり風呂に入るなりするために、解散したんだよね。


私はとりあえず、お兄さんとかとご飯を食べて、その後はここでひたすら身体を動かし続けていたわけだけど。


また、みんなで集まるって話はしてないはずだ。


「……今日も一緒に寝るの?」


「当たり前じゃない。いつ、魔物が来るかも分からないのに、1人は嫌よ。」


問い掛ければ当たり前のようにマリが言った。なんだったら私の問いを食い入るかのような勢いで返答がきた。


ここまでハッキリと言われるとこちらが間違っているかのようにさえ思えるね。


なるほど。


昼間のゲームや昨日の起きたら魔物が出る森でしたって状況がこたえているらしい。


また、いつ魔物があらわれるかも分からない、と。


とはいえ。


変態野郎はここが学園であり、私達は戦闘能力を高めるために入学することとなったと説明していた。


そして、今日はこれまで的な事も言っていた。十中八九、大丈夫っていうのは無条件に変態野郎を信じる楽観的な考え方かもしれないけども。


私は大丈夫な気がするなぁ。カンでしかないし、チビを出しっぱなしにして警戒しておいて何を言っているんだと言われればそれまでだけど。


チビは大抵そばにいるし、特別警戒しているわけじゃないんだよね。しまう方が面倒な武器だし。


「ん〜?変態野郎が今日はこれまで的なこと言ってたから何もなくない?」


「あんな奴の言う事なんか信用できないでしょ!不意打ちとかあったら怖いわ!」


マリは当然のように言った。迷いはそこにはない。


ま、やはり信用しきれないか。


私にはチビがいるし、最悪、私が寝ていてもチビが戦える。だから、無防備でいられるんだよね。みんなにレベルを合わせているならばチビが勝てない相手は出てこないだろうし。


今日だって、みんなには敵わない相手が選択されてはいたけど、私やチビなら倒せる相手だったんだよなぁ。連携とか出来るなら、倒せなくはなかったんだろうけど。


ま、今のとこ難しいだろうし、マリ達にはチビはいないから、不安かな。


「そうかー。マリは怖いのか。仕方ないなぁ。一緒に寝てあげよう。とりあえず、シャワー浴びてくるわ。」


この調子だと、もう数日は皆での生活になるんだろうな。大変だなぁ。


マリに言いつつ、寝不足な日々を想像してやや疲れた気分になってしまう。


「お風呂?!」


疲れた気分を吹き飛ばす勢いでマリに食いつかれた。物凄い勢いに肩をびくつかせそうになってしまう。


マリさんや、何でそんなに食いつくんだぃ?


君、真っ先に風呂に入りに部屋に戻ってなかったかな?


「…………なに?」


「1人は怖いでしょ?一緒に入ってあげるわ!」


聞けば、マリは胸を張る。入ってあげるわって大きな胸を張って言うわけです。マンガならば弾んだ胸に効果音入れつつ、ドーンとか書かれているシーンだね、これは。プルルンッとか効果音が添えられちゃうんだよ。


にしても、マリはまるで私が望んでいるかのように言うんだね?


私にはチビもいるし、別に怖くはないんだけど。一切全く恐怖心はないんだよね。


そう。マリは怖いのか。


「………入ったんじゃないの?」


「だって!魔物がきたらって思ったら怖くて猛スピードでシャワー浴びただけで!」


聞いてみれば、マリの虚勢はすぐに剥がれ落ちる。


涙目になりながら必死な様子で詰め寄ってきた。やや暴走気味なその様から、よほど怖かったんだと言うことがヒシヒシと伝わってくる。


そう。


じゃあゆっくり湯船につかりたいね。仕方ないなぁ。1人でゆっくりする時間好きなんだけど。


ここまで切羽詰まった子をほっとくことは出来ないよね。


「…………チビ、マリに付き添ってあげて。着替えとか取りに行くでしょ。私、持ってきてるから、ここ片付けたらそのまま大浴場行くよー。マリ、チビと一緒においで。」


「にゅぅ〜」


「分かった!!チビ、離れないでよ?」


マリに声をかければチビは不満げな声を上げた。けど、チビの言葉は私にしか分からず。


マリはチビの抗議に一切、気付くことなく必死な形相でチビに詰め寄っている。


「……にゅぅ〜…。」


余裕がなさすぎるマリにチビは呆れた様子で横を歩いて、マリの部屋を目指し始めた。


マリはそんなチビにぴったりくっついている。


「元気だねぇ〜。」


「桜花ちゃんこそ、だろ?怪我は大丈夫なのかぃ?」


マリの様子に笑えば、お兄さんは私の顔を覗き込み、私の腕を掴んできた。


ずっと黙って私とマリのやりとりを見ていたと思ったら、私の身体を案じていたらしい。男前は違うねぇ。


「ん〜?けがぁー?今日、怪我はしてないって。お兄さんも根に持つねぇ。」


心配そうに私の腕を撫でるお兄さん。


私は今日、おとりになった以外は何もしてないんだよね。


まぁ、確かに一回だけ、噛まれそうになったお兄さんの腕を引っ張ったけど。そん時だって、チビが魔物をなぎ倒してたから、私は怪我をしてないはず。


お兄さんは意外と、桜井や谷上より私を置いていったことを気にしているようだねぇ。紳士なんだね、紳士!女性を置いていくなんて的な!


「昨日の腕の怪我でぇ。だいぶ、深い傷のはずだが、そんなに動いていいのかぃ?昼間だって動き通しだっただろ?」


あ、そっちか。


昼間も気にしていたようだけど。私としては、もうとっくに術式で回復してたから忘れてたよ。大した毒ではないから大丈夫だし。かすり傷だし。


回復力は高いんだよ、私。


「…あぁ、あれなら、へーき。たいしたことはないから。」


「そうかぃ。………昨日も今日も助けられたな。ありがとさん。」


お兄さんはなおも微妙な顔で私の腕を見ている。


やはり、意外にも根に持つタイプなのかしら。やっかいなことでぇ。


「ん〜?助けた?昨日も今日もたいしたことしてなくない?昨日はむしろ、お兄さんが私らを守ってくれてたし。」


「そうでもねぇよ。昨日は怪我もさせちまったしな。」


「お兄さん、意外と引きずるタイプだねぇ。」


ため息まじりに言えば、お兄さんは苦々しい表情のまま押し黙った。


気に入らない。そんな感情が全面に出ている。


「…………何でぇ。かわいい女の子がいて、かっこつけようとしたら、逆に助けられて怪我負わせちまったんでぇ。かっこわりぃだろ。」


あ、やっと腕を離してくれた。


と思ったら、お兄さんは部屋の片付けを始めた。




こ、これは…




私が散らかしたのに、私が手を出したらまずい奴だ。うん、空気を読む女ですからね、黙って甘えますとも。


今、手を出せばますますお兄さんは拗ねちゃうだろうし。私は気にしてないし、カッコ悪くもないと思うけど。


私が言ったとこで変わらないよね。ここは黙っとこ。


「……….桜花ちゃんは変態野郎が信用できると思うかぃ?」


片付けをちゃっちゃと終わらせつつ、お兄さんは問いかけてくる。


早々に片付けを終え、私の荷物を持っている。


着替えなんかも入った荷物を当たり前のように持つお兄さん。これは私には拒否権のないやつだね?


自然に持つ姿はマジでイケメンではあるんだけどっ!そこまでひどい怪我なんてしてないのになぁ。過保護だなぁ。


「さぁ?空の遣いである可能性は高い。偽物である可能性は低い。あの人自身が信用できるか否かで言うならば…分からないとしか言えないかな。」


とりあえず、お兄さんの問いかけに答えつつ、歩き出したお兄さんの横を歩く。


あんまり遅くなればマリが発狂してチビがストレスフルになっちゃう。


「ここが空が準備した場所だとは思うってぇことか。」


顎に手を当て考えるお兄さん。様になってるねぇ。


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