19.学園生活の初めにゲームを⑨
樹里やマリを先に行かせつつ、俺は後ろから後に続く。魔物が来ていないか、警戒しつつ走った。
最後の最後で出会いたくはねぇからな。
「あ、あれッ!?」
走り出してすぐに。樹里が声を上げた。
樹里が指差す方を見ればーーー魔物がいた。
大きく口を開けたかと思えば、こちら目掛けて飛んできた。
「うらぁああああッ!!!」
俺は魔物を鉄パイプで殴った。とにかく、殴り続ける。
手が痛くてたまらないが、殴る手を止めない。止めてしまえば、俺だって危ない。俺だけじゃない、樹里やマリだって。
ひたすら殴り続けるしかねぇ。
「いッまッのうちにッ!走れッ!」
魔物を殴りつつ、2人に叫べば、こちらを見ていたマリと樹里はすぐに走り出した。
3人がかりでもどうにもならねぇ。俺もマリも接近戦しか出来ない。攻撃を止ませた瞬間、やられるって事だ。
樹里も樹里で体力なさすぎて、あまり武器を使えねぇって言ってやがった。今、武器を使っても逃げる体力がなくなっちまう。
俺らとこの魔物は相性が悪すぎんだよ。
「ーーーッ!?!ヴガッッ!!」
痛い痛い痛いいたいイタイイタイーー…っ!!クソがっ!いてぇじゃねぇか!!
ここはッ!!
俺がなんとかしてやらねぇと。俺が何とかしねぇといけない。
なのに。
なんで足が火であぶったように熱くて刺すような痛みがあんだよ。
俺は攻撃の手を止めてない。絶えず攻撃を続けていたはずだ。
なのに。
なんで、魔物がそこに噛み付いてやがるんだ。
怪我しながらも激痛の中、避けれるかフツー?そのまま噛み付いてくるか?回復するってことを理解しているのか?いや、そんな知能のある魔物じゃねぇだろ。つまりは回復するとかしないとか関係なく、瀕死でもなんでも死ぬ間際まで喰らい付いてくるってことかよ。
何としてでも俺ら人を殺すってか?
マジでありえねぇ。理解できねぇよ。魔物なんざ理解したいとも思わねぇけどよッ!!
「秋明くん?!」
「ーーー振り返んな!!走りやがれッ」
ちくしょうッ
アイツらが来てもどうにもならねぇ。
こんな足じゃあ、立てるかどうか。走るのは無理だろう。
痛みで頭がうまく働かねぇ。あぁ、くそ。どうしたら良い?どうしたら。
クソッ。
ーーーせめて。
せめて、時間をかせがねぇと。
アイツらが逃げ切れる時間だけでも。10分、耐えれば17時。魔物も何とかなるはずだ。
動けねぇが、何とかしねぇと。そうしねぇとアイツらが。何とかしてみせねぇと。ウサとかいうアイツの言葉を信じるようで気にいらねぇけどッ!
今はーーーッ!!!
《パンパンパン》
魔物を何とかしようと自分の足に噛み付いているソイツを見た時だった。
銃声が聞こえてきた。
樹里のものではない連続した銃声。
それは魔物を吹き飛ばし、魔物にいくつもの風穴を開けた。
「チビ、阿部をこちらに。」
聞き覚えのある声が聞こえたかと思えば、見覚えのある獣が近づいてきて、俺を自分の背中に乗せ、動き出した。
《パンパンパンパンパン》
獣が主人のもとに俺を乗せて動いている最中も連続して銃声が鳴り響く。
銃声を出している奴は冷静な様子で魔物を睨みつけるように見ながら銃を両手に構えていた。ーーー連続での両手撃ち。すげぇ。よく分からねぇけど、銃の腕が高いのは分かる。やっぱり、志貴は強ぇんだな。
志貴は間髪入れずに魔物を銃で撃ち続けていた。
ソイツの横には谷上だったか…髪の毛のなげぇインキャが立っていた。
術式を唱えているみてぇだが、こんな戦えそうにないインキャがいちゃあ危ないだろ!何考えてやがんだッ!
「"術式18 氷壁"」
ーーーぁん?
俺が通った後ろに氷の壁が現れた。
それと同時に銃声が鳴り止む。
すげぇ。
ただのインキャかと思ってたが、すげぇ術の使い手だ。道を塞ぐように氷を出しやがった。
「談話室まで、走るよ。」
氷の壁に阻まれ、こちらに近づけずにいる魔物を一瞥すると、緊張感もなく、のんびりと志貴は言った。
こんな状況下でもコイツは慌てるでもなく、冷静でいることにこっちの頭まで冷えてくる。
慌てすぎてて、頭が熱くなっていた。冷静さを忘れていた。それを痛いくらいに思い知らされる。
あんなインキャ野郎でも冷静に動けていたと言うのに、俺は。
志貴に従い、周りにいた奴らは走り出した。俺は志貴の武器の上で他の奴らの様子を見ているしかできなかった。一緒に走ることすら出来ない。
あぁ、なんともーーー…
談話室に飛び込めば、再び稲盛が走り寄ってきた。
坂崎も坂崎で心配そうに涙を目に浮かべてやがる。
ちくしょう。
さっさと終わらせてやるつもりだったのに。出来なかった。
実践で鍛えれば良い。そうは言ったが、魔物に対処できてねぇ。
これで実践に出たら………死ぬかもしれない。クソがッ。その事実が気に入らねぇ。強くなりたいっつーのに。守りたいもんがあるっつーのに。
◇◇◇桜花side◇◇◇
前半はすぐに見つかったバッチも後半に向けて中々見つからず。
中々に苦戦した。
時々襲いかかってくる魔物は中々に手こずらせてくれるようで。
村くんチームは怪我を負う自体となっていた。血を流しながらも何とかカナちゃん達の元まで逃げ帰ってきたときにツバサを置いていったんだとか。
お通夜かと思うほどに暗いツバサが座っているのを見た。空気が重すぎて、何があったか詳しく聞くに聞けず、早々にバッチ探しに戻ったんだよね。
私らも私らで魔物を見たら瞬時にチビの背に谷上を乗せての逃亡となった。
谷上は2回目以降は慌てる事なく、チビの上から私達に術式をかけてサポートしてくれるから、私達も魔物に攻撃しつつ、退路につけた。
魔物があらわれたら、とりあえず近くにいたものが攻撃をし、その隙に谷上はチビに乗って距離を取りつつ、私達3人に術式をかける。
そんでもって、3人でかわりばんこに攻撃をし続け時間を稼ぎ、谷上に強めの結界を通路に張ってもらう。
これ、破られるまでに時間がかかるから逃げるのに最適なのな。
そんなふうにして魔物から逃げつつ、バッチを見つけては談話室に持っていってを繰り返した。
そんなこんなをしているうちに、あっという間に5時になったんだな、これが。
5時手前で談話室を目指していたらヤンキーくん達がいたから共に談話室に戻ったわけだが。
何とも空気が悪いんだよね。今まさにお通夜が始まりまーすっていうような。いきなり爆破が起きて、みんなで建物の中に閉じ込められたかのような悲壮感があったりなかったりする。
うん、空気が悪い。
《ふぇーーーーー!!!ぴんぽんぱんぽーーーーーん!マイク確認、マイク確認にございます。今しばらく、ウサの美声に聞き惚れておいてくださいましっ!キャ、ウサに惚れちゃダメでございますよ!!ウサはすでに皆様方に心底惚れておりますが、皆様方がウサに惚れ込み、ウサを取り合い争うーーー至福にはございますが、皆様方には仲良くしていただきたい所存でございましてっ!えぇ、はい!!素敵な学園生活のためには皆様方は仲良く致しますこと、必須にございます!皆様が漏れなくウサの魅力に惚れ惚れするのも必須にございますが、ウサは皆様のウサでございますゆえ、ご了承くださいまし!》
談話室に戻って数分後。あの野郎の声が流れてきた。5時になったか。
みんなの悪い空気を吹き飛ばすかのような大音量。テンションは無駄に高い。
結局、集まったバッチは合計28個。ラスト2個は見つからず。
《皆様方、お疲れ様にございます!!ただ今17時を迎えました。皆様方の獲得しましたウサバッチは合計28個にございます。いやぁ〜、実に皆様、ご健闘いたしました!このウサ、感激にございます!!》
キーンとする。
マジうるさい。
《皆様方の頑張る姿にウサは感動したしましたが…残念ながら、30個を集められませんてましたので、ご褒美はなしにございます。しかしながら!!ガッカリしないでくださいませ!!此度、皆様が集められた28個のウサバッチを進呈する形とさせていただきまーーーす!》
うるさい。
放送で叫ぶなよ。
チビなんか、耳をペタンとさせてるじゃないか。それもそれで可愛いけども。
「いらねぇよ、こんな悪趣味なもんッ!!!」
ま、そうなるわな。
ヤンキーくん、血塗れながらも叫ぶ。
一応、カナちゃんが治療してくれているから、血は止まっているんだなけど。服はズタボロの血塗れだ。腕も足も噛まれちまったようで、痛そうなもんだ。
部屋に入った瞬間、顔を真っ青にさせてカナちゃんが駆け寄っていた。
他の3人に目立った怪我がないのを見ると、ヤンキーくんは進んで戦って3人を守っていたのかも。いやはや、優しいんだねぇ、ヤンキーくんは。
《やや。そちらは今後、貴女様方の役に立つと思いますよ?どうぞ、お受け取りください。ーーー本日はこれにて終了にございます。では、明日8時に再び教室にてお会いしましょう。》
プツン。
放送が切れる音がした。
言いたいことだけ言って切やがった。
結局。
ウサバッチは全て、私が回収した。
そのままにしてたら、ヤンキーくんやお兄さんが破壊しそうだったし。とりあえず、棚の奥に突っ込んでおこう。
ここに連れてこられて2日目。
収穫はここはワクワク学園というふざけた名前の高校であり、ここには空の指示で連れてこられているため、ここからは逃げるわけにはいかないっていう情報と、ウサバッチっていう、悪趣味なものだった。
そういうことで2日目終了。




