196.お出かけしてます④
まだまだ採取していくと告げれば、わんこは頭を傾げてこちらを見てきた。
「今まで採取した草やら魔物やらはあの子達の土産だよね?大量だよ?」
「採れる限り全て持って帰るぜー。」
「売れば中々の額になるのに?何か欲しいものとかないの?」
わんこはさらに聞いてくる。
せっかくだから自分のために使えと言いたいらしい。私を思ってのことなんだろうけどね。
どう使うかなんて決めるのは私であって、放っておいてもらっていいのに。
「生活に必要なものはあるし。武器はこれ以上無闇に増やすとチビが怒るしなぁ。使い道がない。」
私は使い所がないから、良いや。
それよりも、必要としてる子達に与えたい。私は生きるために必要な分は、過保護な師匠達から与えられるのだし。
「年頃なんだから、服とか買うなりすれば良いだろう。…桜花ちゃん、あまり崖に近づくな。危ないだろ。」
ギリギリまで近づいて覗き込んでたら叱ってくるはじめちゃん。やはり、口うるさい小姑キャラだ。
話をしながら何気なく崖に近づいたというのに、気付くのが早いのはめざといと言える。お目付役に選ばれるわけだ。
「はぁーい。とッ!?あ?」
マジか。
足元が崩れ落ちた。私の足元が見事に崩れ落ちれば、崖上にいるんだから、私は落ちるよね。普通に考えてそうなるよね。
なんというテンプレだよ。私は主人公か!
「桜花ちゃん!!」
「…え?あ、オファセの石??」
咄嗟にはじめちゃんやわんこが術式を発動させようとしたけどかなわず。私もうまく使えない。
いやぁー、オファセの石って厄介だね。そこが面白く、ユキたちのお土産にしたいんだけど。
「くそっ!!手を伸ばせ!!」
はじめちゃんは落ちゆく私に手を伸ばすけど。ダメだ、届かない。全然、届かない。
私は崖下に落ちていく。重力には逆らえない。
「桜花ちゃん!!!」
はじめちゃんの声があたりにこだまする。腹から声が出ているね。耳がキーンとなっちゃう。
こんな状況でもはじめちゃんの大声に対して、慌てふためく事なく、嫌そうに耳をペタンって折り畳むチビさん可愛い。癒されちゃう。
そうそう。私にはチビがいるから落ちても、よほどの事がなければ怪我せずに着地できるんだけどなぁ。知っているだろうに、はじめちゃんは心配性なんだから。
「チビ。」
空中で体制を直しながら、チビを呼べば、チビは私が乗れるくらいのサイズになり、背に乗せてくれた。フカフカの毛。意外と私がチビに乗るのはあまりないんだよね。いつも、肩に乗られているから。
それはそれとして、オファセの石は近くに多量にあるのかも。術式がやはり、うまく作動しない。何とか発動できる範囲で風を扱うけど、これじゃあ対処はできないなぁ。
「にゅー。」
チビが崖に爪を突き立て落ちる勢いを消す。私はとりあえず、チビにしがみつく。
ぴょん。
崖を蹴ったチビさん。そこから地面にひとっ飛び。術式をうまく使えないと中々の衝撃だけど仕方ない。術式がしっかり使えればなんてことない高さなんだけどなぁ。
無傷なだけ良しとするしかないよね。結構な高さから落ちたわけだし。
いやー…見上げてみるけど、木々もあるのもあって、崖上が見えないや。
「洞窟があるねー。………はじめちゃん達、多分、こっちに向かってくるし、洞窟に行こっか。」
まだ術式を使いにくいし、オファセの石がありそうな予感。
何より、この洞窟、気になる。ちょいと入りたい。中に何かがいる。それを見たい。
「にゅにゅ?」
当然、チビはいい顔をしないけど。でも、止まらない。気になるもの。
ダメと言われない限りは進むぜ!ワクワクは私の背を押すのだ!
「大丈夫。ちょっとだけ。」
「にゅぅ。」
チビから降りると、洞窟の中を覗いた。チビは私にぴったりくっついている。動きにくいけど、退く気はなさそう。チビの最大の譲歩といったところか。我慢する他ないね。
覗いてみたら、洞窟といっても中は意外と小さかった。2畳くらいのスペースしかないや。魔物の巣になっていそうな感じもない。
たんなる壁にあいた穴。とはいえ、やはり、オファセの石があちこちに埋まっているね。少しだけ姿を見せているやつがいくつかある。
まぁ、それよりも気になるものが洞窟の真ん中に落ちているけど。いやぁ、何となく気になったのはこれの気配か。
オファセの石に囲まれていたからか、気配が読みにくかったけど、直接見たら、さすがに禍々しい気配も感じ取れるね。
あったのは一つの"銃"。
ボロボロなそれはしばらく、誰の手にも渡っていなかったんじゃないかな。手入れがされている様子ないからね。にもかかわらず、すぐに使用可能な状態。何なら触ったらヤバい。
触ったら強制的に銃を使い続ける状態となるやつだ。私か武器が壊れるまで、武器の操り人形になってしまう。
それは分かるんだけど、何か気になる。魔忌具って変な魅力があるのよね。
「にゅ、にゅぅっ!?」
チビから"主人、ストップ"と言う声が上がったが、私は銃に触れていた。
止められる前に行動。これ、大切。止められてからじゃ遅いのよさ。
〈ご主人様、何でいつも辛そうなの。〉
触れた刹那。
頭に直接響くようにして声が響いた。幼い男の子の声。不満そうな。不安そうな。今にも泣き出しそうな弱々しい声。
ふと、頭の中に映像が浮かんでくる。自分を見下ろし、辛そうにしている人。イマイチよく顔が見えないんだけど、辛そうなのは分かる。
いつだって辛そうに、怒りを噛み締めたような顔をして、鋭い目つきで"僕"を見つめている"ご主人様"。
その人を見ていたら、再び、どこからか声が響く。
この声は、おそらくーー…
〈ご主人様を悲しませる物は全部、全部壊すから。だから泣かないで。辛そうにしないで。笑って。〉
"ご主人様"には届かないけど。わかっているけど、声をかけ続けてしまう。だって、"ご主人様"には笑ってほしいから。"僕"が"ご主人様"が望む全てを壊すよ!全部壊せるんだよ?
だからーー…
届かなくとも必死に声をかける。笑ってほしい。笑顔を見たいと"僕"は強く強く願い続ける。
〈僕が壊すから。身体よ。丈夫な身体よ。来い。僕のもとに来い。ご主人様を悲しませる全てを壊すために。全部,壊すために。身体よ、来い。〉
誓いをのせて"僕"は力を声に乗せつつ、つぶやくーーいや、これは私の声じゃない。
これはーーー頭に響く声。私の精神を乗っ取ろうとする声。
頭に直接響いてくる声は必死だ。全てを壊そうと、私を身体として求めている。私を操り暴れたがっている。
「ゔゔぅーっっ」
声に耳を傾け、銃を触っていたら、チビが牙を剥き、威嚇音を上げ始めた。怒声をあげている。
この子に操られるほど、私も容易くはないんだけど。確かに若干精神を持ってかれそうにはなったけど。とはいえ、過保護な武器がたくさんいるし。
よくわからないけど。体質的に操りやすい子とかがいるんだとか。私は逆に操りにくい体質。操るのは至難の技だと言う。
同調はして。声に耳傾けたけど、それだけ。私は私だ。乗っ取られたりはしていない。
目を開ければ、私に何かすれば許さないと、怒気を銃に向けているチビが見えた。
チビは過保護なんだから、威嚇するだけに留まらず、他の武器達を喚んでいた。うちの子達勢揃いだ。
チビに喚ばれ姿を表した私の武器達は、私を囲うように立っていて、私の手の中にある銃に対して構え威嚇していた。
その上で私に幾度となく、銃を捨てるように声をかけていた。
早く捨てなさい、ないないしなさいって。




