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193.お出かけしてます

久しぶりな桜花ちゃんはじまります

今、私は鍋を前にして座っている。ま、いきなりの話ではあるんだけどねー。


空を見上げれば分厚い雲。太陽の光は一切見えず、今、太陽がどのあたりにあるかは分からない。


廃墟と化した町の中に私はいる。かつては人に使われていた場所だけど、魔物の発生とともに人が住む場所ではなくなった場所。


そのままの状態で手放しているがゆえに、過去の生活感を感じられたりもするわけだけど、ここは魔物がいる土地。


人の手が加えられていないがゆえに、建物は荒れ放題で、緑が好き勝手に育ちまくっている。人の気配は周りにはない。


戦闘員でない限りは立ち入らない場所だから当然だよね。


そんな場所で、そんな微妙な天気の元、私は野外でご飯作りをしている。といっても、鍋の中身は大体、作ってきていたから今やるべきは温めるだけだけど。


白だしをベースにちょい醤油、塩胡椒を入れて味を整え、人参、玉ねぎを柔らかくなるまでコトコト煮こむ。その地味に時間のかかる工程は昨日のうちにやっておいた。


今は作っておいたスープを火にかけている。ただただ温めるだけじゃ芸がないから、沸騰したところで水溶き片栗粉を入れてトロミをつけて、火を止める。一方向にかき回し鍋の中に水流を作りつつ、逆回転で溶き卵を入れた。


トロミを付けることで冷めにくくなり、卵が固まりやすくなる。ふわふわ卵スープの出来上がりだ。あとは余熱でしっかり卵に火が通るまで待つのみ。もうちょっとしたら皿に盛ろうっと。


「出来た。」


「んん?スープかな?美味しそうだね?」


呟けば、魔物除けのマジックアイテムを設置し、作動確認を終えたわんこが手元を覗き込んできた。


わんこはいつもは犬の仮面をつけ、スーツを着ているけど、今は違う。


ベージュのズボンに黒のシャツ。その上から防具を身につけ、外套を羽織っている。あれは防御に秀でていそうな外套だねぇ。慎重派なわんこらしい。腰にはシンプルな革腰袋をつけている。


彼は今、仮面をつけていない。カッコ良くもなく、かといってブサイクでもないパッとしない中性的な顔立ち。可もなく不可もない。印象がない。そんな顔が今まさにさらされていた。


いや、うん。仮面がないってだけなんだけど。


わんこって、一般人に比べれば筋肉質だけど、戦闘員とするにはひょろっとしたなりをしてるんだよね。なんて言うか、がっしりしているようには見えない。脱げば意外と筋肉質かも?知らんけど。


普通の格好をしていると、やはり、優男って印象なんだよね。


今、わんこは普段の教師としての格好ではなく、私服でここにいる。あ、いや、私服とするにはおかしいかな。戦闘時の格好か。今いるのも魔物達がゴロゴロいる地だし。


「美味しそうじゃなく、美味しいの。まずくとも美味しそうに食べるのが、作ってもらった人の礼儀。」


私はわんこに言う。


彼らと共にここに来ることになったのは不満がないわけじゃないけど、私の願いで、彼らに付いてきてもらっているのは事実。食事くらいは準備しないとね。


とはいえ、不味いとか言ったら殴る。作ってもらっておいて不味いとかぬかすのはクズのやることだ。教育し直す必要があるよね。


「まぁ?間違っているとは言えないね?」


案外、否定せずに、肯定してくるわんこ。


わんこは意外と料理が出来るんだねとかムカつく言い方はしそうだけど、不味いとかそういう言い方はしないか。


「不味いとか言ったりそぶり見せたら魔物の餌にしちゃう。」


「うん?中々に強烈だね?」


「まぁ殺したらまずいし、1発顔面殴って木にくくるか。」


さすがに餌は不味いか。


手頃な木を見つつ、ロープは持っていることを確認しておく。よし、丈夫なロープもあるな。


じゃあ、可能だ。


「にゅにゅにゅぅー?」


甘くないかなー?って、チビさん?


あんまりやり過ぎるわけにはいかないでしょう。


1発殴るだけで十分。


「そんなもんでいいでしょ。死ぬ寸前で助ければおっけー。」


「にゅぅ。にゅぃ。」


「危険な発想だね?」


私とチビの会話にニコニコと笑顔を崩さず、わんこはいつもの様子で口を開く。


動揺一つない。


仮面を取った姿を見て知ったけど、わんこは常に胡散臭い笑顔を浮かべている。感情が滅多に動かない。いや、感情を見せないのかな。感情を読み取れないように常に笑顔が浮かんでいた。


目が細いのもあるけど、笑みを浮かべ、さらに目が細められているんだよね。だから、瞳があまり見えない。


だからこそ、何を考えているのか分からない。表情からは読み取れないんだ。マリやら阿部くらいにわかりやすいと助かるんだけど。


「あ、変態野郎〜。私はスープよそうから、そっちのほう、切り分けて。」


スープは出来たし。もう一品ももう完成だ。


私は黙々と机やら椅子やらを準備していた変態野郎に声をかける。


変態野郎は嫌そうな顔をしつつ、私を見た。


ん?働かざるもの食うべからずだよ?切り分けくらい何度もやってきてるじゃん?やれよ。


「…………はじめちゃんかウサ先生と呼んでくれ。」


あ、そっちか。


重々しくはじめちゃんは言った。


今、はじめちゃんもまた、わんこ先生のように仮面を外していた。格好も燕尾服ではない。見慣れたはじめちゃんだ。


喋り方も変態野郎ではなく、はじめちゃんの素に戻っている。普段からそうしてれば良いのに、何を考えているのやら。


とはいえ、ごっついマスクを付けているから、顔は半分見えないのだけど。


「ん〜?先生にタメ口とかないから。失礼でしょう?タメ口で話すなら先生とはよばなぁい!」


てか、普段は変態野郎って呼んでも気にしないじゃないか。


なんでそんなに嫌そうな顔してるのかなぁ?


いい加減、慣れてるだろうに。


「はじめちゃんと呼べばいいだろう。桜花ちゃん、たまにわんこ先生やにゃんこ先生にだって、タメ口じゃないか。」


あ、はじめちゃんが説教モードに入った。面倒臭いモードでしかないやつ。


普段のわんこ先生やにゃんこ先生に対する態度が、気に入らない様子。変態野郎の時に文句ひとつ言わないのに。


変態野郎を演じているはじめちゃんも鬱陶しいけど、素の説教モードも面倒だなぁ。


「犬と猫はねえ。仕方ないよねぇ。敬える大人なら態度を改めようってなるよねぇ。2人じゃあねぇ。」


「桜花ちゃん。」


諌めるようにはじめちゃんは私の名を呼ぶ。


口外に私の言動を非難しているようだ。


顔もムッとしたような表情で、叱る時のはじめちゃんの顔だ。


「はっはっは?言うね?」


本人は笑っているけど。楽しげに笑っているんだけど。


本人が良いならいいじゃない。はじめちゃんが怒るところじゃない。


「みんなの前では猫被るけど。猫被る必要ある人、そばにいないんじゃあなぁ。」


言動を改める必要性がないじゃない。面倒だから嫌だね。


敬う相手はいないいない。


「全く…。俺達2人が同伴なのがそんなに気に入らないのか?」


ため息をつきつつ、はじめちゃんはまな板と包丁を取り出し準備を整えていた。


変態野郎はふざけたキャラだけど、やっぱり素は真面目だよねぇ。


「気にいるはずがない。変態が来るだけでも口うるさいのに性格悪い男を連れてくるとか。」


自然とため息が出ちゃうぜ。


「空様からの命令だ。」


ぷくーっとほっぺを膨らましてにらめば、はじめちゃんは肩をすくめていった。そこに交渉の余地はない。


わかっているけど、やはり気に入らない。

師匠から言われたんじゃ仕方ない。うちら討伐隊の最高責任者ではあるし。あれでも。


「むぅ。」


不要不急の外出はダメだけど、研鑽のためやら、必要な素材を取りに行くための、任務の受理は良いらしい。


私が身体が鈍るから外に出て任務を受けたいと申請を出したら、師匠は条件付きで許可を出した。


その条件がはじめちゃんとわんこ先生の2人が付き添う事だったわけだよ。


みんなが任務を受けたいと外出をするとしても、先生が付き添うらしいけど、普通ならば1人つくくらいらしい。


私はその引率役が2人もつけられた。繰り返すけど、2人もつけられた。


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