189.プッツンしました
もっと慎重に動けていたならば。
たらればは意味がないと分かりつつ、頭からその思考が離れない。司が。秋明が。誰かが傷を負うたびに、自身の攻撃がうまく入らない憤りと共に、たらればが悠真を支配していく。
いつもより比べものにならないくらいに術式がうまく使えなかった。
「桜井氏!」
戦闘が何とか終わった時、想像よりはるかに情けない声が出た。
楽勝とはいえない。大きな被害なく、魔物の殲滅が出来たのは、運が良かったというのが正解だろう。
司も秋明も致命傷はないが、多少傷を負った。とはいえ、無事だ。
悠真は泣きそうになりながらも司に駆け寄った。
「谷上氏に阿部氏!助かったでござるよぉー!かたじけない!」
自身に駆け寄ってきた悠真の手を掴み、助かったぁと声を上げる。
死ぬかと思った。絶体絶命だった。そこへの再会は感情が吹きあふれてくる。
「3人が無事で良かった。」
うるっとしながら、悠真は司やユキ、結弦に笑いかけた。
秋明が勝手にいってしまい、どうなる事かと思った。
一次はどうなるかとヒヤヒヤしたが、みんなが無事で、本当に良かった。
「怪我はねぇか?」
秋明も司達を見渡しつつ、無事を確認するために近寄った。
「ボクらは大丈夫だ。」
「魔物の相手は主に桜井くんがしてくれてたから。」
聞かれてユキや結弦が応じる。
その言通り、大した傷はなさそうである。ユキも結弦も疲れはあるが、血は流しておらず。司も怪我はあるものの、ぴんぴんとしている。
「なるほどな。」
「2人が来てくれて本当に助かった。どうしようかと冷や汗吹き出ていた!」
絶体絶命からの救出だったからこそ、ユキはいつになく悠真や秋明に感謝を示していた。
2人が来なければ危なかっただろう。
「ボクやゆずるんは弱いからな!後方から子供騙し程度しかできんから焦ったぞ!」
怖かった!と焦ったのを素直にユキは表に表出していく。
無事に生還できて良かったと笑顔を咲かせていた。
「お前ぇらだって術式で器用に攻撃してたじゃねーかよ。谷上の野郎は攻撃、結構外してやがって邪魔だったけど、お前ぇらは邪魔とかもしてねぇしな。」
素直な喜びに対し、秋明は悪意を込めた発言をする。あからさまに、棘がある。
「いや、あべべ。」
「あれは君が無駄な動きをするからでしょ。」
あからさまに悪意たっぷりの秋明の言葉にユキが異議申し立てをしようと口を開いたが、それは悠真の言葉にかき消された。
毒の強い冷たい声が悠真から発せられ、無事に助かった喜びで明るくなっていた周囲の空気が一気に凍りつく。
司はギョッとして悠真を見、ユキや結弦は顔を見合わせ、アイコンタクトを取り合う。
「あ?俺のどこが無駄だっての。コイツら身捨てようとしたテメーに言われたかねーよ。」
秋明は吐き捨てるように言う。
悠真を見る目はゴミを見る目であり、完全に見下しているのがわかった。
《ブチ》
空耳。それは誰もが分かっていたが、司もユキも結弦も、確かに聞いたような気がした。
何かがブチギレる音を。
「いつ見捨てるって言ったの?闇雲に行かないでって言ったんだよ。馬鹿みたいに音立ててちゃ奇襲にならなかったじゃん。不意打ちで倒せてたら、桜井氏だって、傷を負わずにすんだかもしれないってこと、足りない頭じゃ考えることもできない?誰のせいで桜井氏が怪我を負ったと思ってんの?」
悠真が感情的に言葉を発し、秋明を睨みつける姿など、見た事がある者はいないだろう。
怒る彼には意外にも迫力があった。
「君が考えなしに動くから術式で魔物を散らしてたんだよ。桜井氏の近くに入りすぎれば桜井氏が攻撃に移れないから君が近づきすぎないようにしてたんだよ。君、自分が仲間の邪魔になってたってわかってる?で、人にはその言い草とか、何様なわけ?もう少しはない頭動かして欲しいんだけど。その頭はかざりなの?無駄にでっかい飾りだよね?てか、他の人の動き、ちっとも見てないよね?喜藤君とかみたいにみんながみんな、君なんかの動きを把握してあげれるわけじゃないんだけど。何なの?周りが君に合わせろとか思ってる?何様なわけ?赤ん坊か何かなわけ?好き勝手暴れれば良いとか思ってるなら、それこそ赤ん坊からやり直したら「ちょちょ、谷上氏??ちょっと落ち着くでござるよ?」
悠真の沸点はとうに超えていた。今の今まで我慢を重ねてきたが、もう限界だ。
ずっと我慢していたものが、仲間を危険に晒す選択肢を取られた事により爆発したわけである。
珍しく感情的に悠真は言葉を放ち続け、止まらない。いつもに比べ高い声はよく響く。感情的になっているのがありありと伝わってきた。
早口言葉のように悠真の口から怒りの言葉が飛び出してくる。それは途中で口を挟む暇もない。
この場に諌めるものがいなければ止まらなかったであろう怒り。
司は慌てた様子で悠真をなだめにかかる。
「阿部氏の動きに拙者が合わせ切れなかったのが悪いのでござるよ。阿部氏を斬りそうになったのを止めていただけたのは感謝しておりますし、拙者、精進致す!」
悪いのは自分だから、怒りを収めて。
そう声をかけられ、悠真は気に入らないと言う顔をしつつも、口を閉じた。
「阿部くん。谷上君の言う通り、奇襲をかけることはできたとは思う。阿部君は助けようと、真っ先に飛び出してくれたんでしょうけど、作戦を谷上君と錬ることは出来たはずよ?見捨てるって谷上君は言ってた?彼はそんな事を言うはずがないと思うわ。緊急時で、谷上君の言葉に耳を傾けずに行動したんじゃないかしら?」
「感情的に動くのは君の悪い癖だぞ、あべべ。しかし、だ。ガミガミも感情的になりすぎだ。言葉が過ぎる。」
司の待ったの言葉に続き、結弦やユキも続いて口を開く。
とにかく、2人を落ち着かせねば。
聞く耳持たない2人ではないから、とにかく言葉を尽くす。
「チッ。」
「………ご、めん。」
司に止められ、ユキに諌められ、悠真は多少落ち着く。ふぅーと息を吐き出し、怒りを鎮めようと試みる。
その肩を慰めるかのようにぽんと司が優しく叩いた。
「2人の間に誤解があったとはいえ、なぜ互いに話し合わなかった。それもまた、君たちの悪いところだ。君たちの間には会話が少な過ぎる。」
ユキは悠真にも秋明にも苦言を呈す。
どちらにも言える話だ。どちらも互いに耳を傾けず、互いに言葉を尽くさない。ゆえにトラブルとなる。
直すべきとこだ。
ユキは厳しい顔を作り、2人に話す。
悠真や秋明は思うところもあったが、何も言わずに聞いていた。互いに、自分が悪いと思うところもなくはない。
「とりあえず、休もう。休むついでに情報をすり合わせたい。」
拗ねているようにも見える悠真や秋明にユキは呆れたようにため息をこぼすと、首を回し軽くストレッチを入れつつ、言った。
話すべきことは多い。
しかし、身体が疲れている。ともかく、身体を休ませなければ。
「でござるな。流石に疲れましたぞ。」
座ったユキの横に司も腰を下ろす。それに結弦や秋明、悠真も続く。
皆が皆、疲れていた。
しばらく、無言が続く。とにかく、身体を休めたかったのだ。話す気力もなく、いや、どこから話したらいいか分からずにいた。




