188.妙に距離は狭まりました?
「足音しねぇと思ったら…それ、浮いてんのか?」
先ほどまでは無言で進んでいた。それはそれで空気が重く、互いに鬱憤が溜まっていた。
しかし。
だからといって、話しかけて欲しかったわけではない。進みながら、たびたび質問をされても困ってしまう。
「ぇ…あ、うん。少しだけ。数ミリくらいだなくど。」
悠真は何とか答えはするが、戸惑いは隠せない。
話しかけないで静かに進めよとか思うが、それは言えない。
悠真のペースで進むようになったのは良いが、話しかけられ続けるのはいかがなものか。
「………普通に歩いた方が楽じゃね?」
「魔力放出し続ける方が、僕は楽だから。」
たびたび、こんな風に意見が割れる。
秋明と悠真は感覚までもが合わないのだと悠真は思わざるを得ない。
なら一々聞いてくんなよが悠真の本音だが、なぜだか、秋明は度々声をかけてくるようになった。悠真にとっては気が重い。
「ふーん?」
「あ、阿部…くん。」
「秋明で良い。」
いきなり名前で呼べるか!そもそも、そんなに仲良くないし。だなんては言えない。
言って殴られる事は、おそらくはないだろう。しかし、口が裂けても言えない。怖いし。
「え、いや、でも。」
言葉に困り、吃るのが精々だ。うまく答えれないが自分が悪い訳ではないと悠真は思う。
「じゃあ、くんなしだ。こしょばゆいんだよ。」
「えと……あ、じゃあ、阿部。」
「おう。」
戸惑いつつも、名を呼べば、秋明はそっけなく応じる。解せない。
「あ、待って。」
「あん?」
唐突に悠真はその場にしゃがみ込み、壁やら何やらをくまなく観察する。
秋明は何をしているのか分からないものの、何かがあるのだろうと静かに待つ。
「………これ。向こうに行こう。」
待ったのちに悠真が出した答えは、先ほど自分たちが行き、何もなかった道へ再度行くという選択だった。
いった先には部屋がいくつかあったが、そこには罠が仕掛けられているのみで、階段も外に通じる出口もない。
再びそこにいく理由が秋明には理解できない。
「あ?さっき行っただろうが。同じとこ何度も通ってどうすんだよ?」
素直になぜそうするかを問いかける。が、口調はあらく、眉間に皺がより、ガンをつけているようにしか見えない。
「………。」
多少は打ち解けたと思ったのは気のせいだった。
悠真はそう思い、口をつぐむ。
もし、秋明が無視して進んでいってしまうならば、1人でも行くしかないかとも考え始める。
「何で向こうに行こうと思うんだよ?」
返事をしない悠真に秋明は再び問いかける。
悠真が秋明を見れば、秋明がじぃーと悠真を見て返事を待っていた。
何で聞こうとしているかは分からないが、問われているならば答えるほかない。悠真は渋々口を開く。
「………これ、僕が使ってる木の実と同じやつ。僕はつけてないから、他の誰かがつけたんじゃないかな。矢印は向こうに進むって意味だと思う。会えるかも。」
「…………なるほどな。んじゃ、行くぞ。」
悠真が指さしたものをマジマジと見た秋明は、立ち上がると悠真が示していた方へと進もうと動き出した。
「え?あ、いや…嫌だったら僕だけで行くけど?先に進んでて、もらったら…。」
驚いたのは悠真だ。
自分の意見が採用されるとは夢にも思わず、戸惑いを大いに含んで秋明に声をかけた。
「1人になるのは、互いに危ねぇだろうが。おら、行くんだろ?」
「…う、うん。」
秋明にまともな返答をされ、悠真はたじろぐ。
やはり、まだまだ悠真は秋明に慣れそうにはなかった。
◇◇◇
「止まって。」
「あそこにいんの、魔物だけじゃねぇぞ。」
「分かってる。桜井氏に……佐々木さん、蚊ヶ瀬さん。魔物に囲まれてる。」
秋明や悠真の視線の先には司、結弦、ユキの3人がいた。
結弦とユキが壁際で身を硬くする手前で、司が自身の武器である刀を構え、自身らを囲う魔物達に応戦していた。
司はいつになく、真剣な表情で、素早く動いていた。全ての動きは秋明にでさえ、何とか目で追えるかどうかと言うところ。
あれほど早く動けるとは知らなかった。強い。決して弱くはない。
しかし、それでもどうにもならない状況下にあった。
数が多すぎる。ゴブリンやら何やらと、今まで見た魔物達が集結しているのではないだろうか。一体や二体ずつではなく、複数ずついれば、総数は厄介だ。
斬っても斬っても減っていかないように感じられる。いや、魔物達の血の香りに釣られてやってきた魔物が増えていっている分、数は一向に減らず増える一方なのではないか。
結弦やユキもまた、術式を駆使し、何とかサポートしているが、魔物への決定打には至っていない。
秋明と悠真は咄嗟に隠れた為、まだ魔物には見つかっていないが、司達は違う。戦闘中であるが故に隠れることは叶わず、集まり来る魔物の標的となっている。
「待って。」
前に出て行こうとした秋明の裾を掴み、悠真は止める。
状況が状況だ、悠真の顔は真っ青になっており、手は震えていた。
「あん?状況が見えねぇのかよ?」
早く助けに入りたい。その焦りからか、いつになく、秋明の言葉も視線も鋭く荒々しい。野生の肉食獣を目の前にしているかのような気分だ。
いつもならば、口をつぐむ。
しかし、今の悠真はそうするわけにはいかなかった。
「闇雲に出れば、阿部だって危ない。あの量は流石に相手に出来ないでしょ。」
悠真の言葉に、秋明の口元がヒクッと動いた。あの量は無理。そうかもしれないが、認めるのは悔しくてたまらない。やってみなければ分からないというのに、ハナから無理だという態度も気に食わない。
秋明は鋭い眼光にさらに力を込め、悠真を睨みつけた。
「あ?だったら、見捨てるってぇのか?」
「ちがっ!んな、話してない!」
ついつい、声を荒げてしまう。どこをどう取れば、そんな理解になるのか。やはり、秋明の事は理解できないと苛立ってしまう。
「テメェが今、言ったんだろうが。仲間見捨てるなんざ、男じゃねぇ。とんだ意気地なしだな。少しは見直した俺が馬鹿だった。クズ野郎はそこで座ってろ。俺は助ける。」
頭に血が上った秋明に悠真の声は届かない。だから、悠真は止めようと声をかけるも秋明は止まる様子はない。
闇雲に出ていくな。
繰り返し言っていた。はじめは確かに聞き入れが悪かったが、時間を共にして、少しは耳を傾けてくるようになった。そう思っていたのに。
見直した俺が馬鹿だったというのはこちらのセリフだ。悠真は強く思う。
しかし、怒っている暇はない。
慌てて術式を発動させるために呪文を紡ぐ。
司の動き。秋明の動き。そして、数々の魔物達の動きを眺め、ユキや結弦の使っている術式も内容や力の向きなどまで含め、戦況を把握する。
考えろ。
考えろ。
何が必要だ。何をしたら戦況は好転するのか。考えると同時に動け!
狙うならば不意打ちだった。秋明と連携し、不意打ちで魔物の多くを討ちたかった。
しかし。
秋明とは決裂してしまった。奇襲作戦は使えない。
ギリっと奥歯を噛み締めながら、悠真は頭を働かせ、必要な術式を展開させていった。
早く早く!精度は損なわずに展開しろ!焦れば上手くいかない。落ち着け!悠真は自分に言い聞かす。
何より秋明に言い聞かせたかった言葉を悠真は自分に言い聞かせていた。
ーーいいえ。距離は縮まりません。
仲良くなるのは中々、難しい事案なのでした。




