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187.少しだけ距離が縮まります

大丈夫だとロクに周りを確認もせずに突き進んだ。その先に魔物がいて、予告なしに攻撃を仕掛けてきた。


突然の出来事。不意をつかれ、秋明は対応しきれず、やられると目をぎゅっと瞑った。


そこに身体を突き飛ばされる衝撃があり、目を開ければ、自分に覆い被さるように悠真がいた。ここまで間近で悠真の顔を見た事はないはず。


初めてマジマジと見た悠真の顔は青ざめ、眉間に皺が寄っていた。二重の大きな目は苦し気に歪んでいる。


悠真は腕から血を流していた。かっこいいとは言えない姿だ。しかし、秋明をかばったせいでそうなったのは火を見るよりも明らかで。


秋明の中で感情がうずく。


それが無性に気分が悪く。そのイラつきの全ては迫り来る魔物に全てぶつけた。


治療をしなければ。それも大切だが、まずは安全の確保。すなわち、魔物の除去が必要なんだ。


今、悠真の顔を正面から見るのは、どうにも気持ちがムズムズしてしまい、出来そうにないからではない。ネクラに対し、そんなかっこの悪いことがあるわけがない。


違うったら違うんだと、誰かに言い訳しつつ、秋明は魔物を殲滅して行った。感情を魔物にぶつけていく。単なる八つ当たりと言われても言い返せない状況だ。


魔物の全てを倒して、秋明はいつになく凶暴な顔で悠真の前に立つ。


魔物を全て倒したが、スッキリしない。


自分がもう少し、悠真の話に耳を貸していたら、違う結果があったかもしれない。あるいはもう少し、注意していたらーー…


言っても仕方がない後悔に、自分を悠真が守ったと言う事実への羞恥心やら感謝やら何やら分からぬいろんな感情から、秋明は素直に悠真が見れない。


結果、見るに耐えない凶暴な顔が出来上がる。


この場に樹里がいたならば、多少はマシだったかもしれない。しかし、樹里はいない。悠真が秋明の心を読めるはずがなく。


「何その顔…怖いんですけど……別に感謝しろとは言わないけど、睨まなくても良くない?」


気に入らないと言うように、悠真はキッと秋明を睨んだ。目が潤んでいるのは、秋明の巨悪な顔に、ヤンキー的な見た目に、喧嘩慣れした粗暴な雰囲気に怖いと感じているからかもしれない。


いつもならば、悠真は秋明を相手にせず、黙ってやり過ごす。


しかし、遠足の最中。イベント中に罠にかかって訳もわからぬ場所に飛ばされた。しかも、仲間の安否はわからない。そんなストレスの過剰投与に、限界を突破した様子。


秋明から与えられる理不尽が悠真には気に入らない。


「なに?置いてってもらって別にいいんだけど。」


自分をじっと見つめて動かない秋明に悠真は言い放つ。


秋明からしたら、いつもと違い反抗的な態度を取った悠真に驚き、自身のせいで傷を負った腕に胸が痛み、何と声をかければ良いかわからなかっただけ。


しかし、悠真からしたら、感謝されたいとやったことではないとはいえ、かばったというのに睨まれるのは理不尽以外の何者でもない。


「…っ?!置いてけるわけねーだろ、クソッ」


窮鼠猫を噛む。悠真からしてみれば、秋明がただ照れ隠しで見ただけでも猫がネズミを睨んだくらいの感覚だった。


怪我した邪魔な奴とか、いらない事しやがってとか考えているんでしょ、そうなんでしょ。僕といるなんて嫌なんだろうけど、僕とて嫌だよ、チクショー。そんな思いは口にはできない。


しかし、必死に睨んで、置いて行けと噛みついた。悠真にしては頑張った。


とはいえ、秋明としては見ただけ。悠真が思っているような事は一切考えていない。


悠真を邪魔とも何とも思っていないのだ。


「おらっ!腕出せ。応急処置くれぇ、俺だって出来る。」


見捨てるなんて選択肢はあるはずもない。一緒にいる事は少ない。気も合わない。


しかし、悠真は闘魔隊の仲間なのだから。


「まっ!ま、て!」


秋明が傷ついた悠真の腕を掴み、応急処置をしようと使えるものを取り出そうとしたのを見て、目を見開く悠真。


取り出そうとする秋明の手を掴み、それをとめた。


「あ゛?!応急処置すんだけだろうが?!」


まさか、応急処置すら拒否するのかと、秋明はガンをつける。


"そういうとこですよ、秋明くん。言い方って、大切です。"


樹里がいたならば諌めるシーンだろう。秋明の気持ちを曲解して、またふざけた通訳を入れてくるかもしれない。


"こらこら、阿部。無駄に睨まないの。谷上が追い詰められたハムスターみたいになってるじゃん。やめたりぃな。"


桜花ならばやんわり止めに入り、茶々を入れてくる。プルプルと震える悠真を小動物に例えからかいつつ、秋明に待ったをかけるはず。


しかし、この場には止めるものがいないから止まらない。


秋明がしまった、ビビらせたかと思うも、すでに遅い。恐る恐る悠真の反応を待つ他ない。


「ま、ま…待って。こ、ここじゃ、魔物に挟まれたら困る。」


オドオドしながらも、悠真は言う。秋明にビビっている。それは事実だろう。先ほど見せた怒りもまだなくなってはいないはず。


しかし、返事はあった。


自分を拒否しての待ったじゃなかった事にホッとしつつ、秋明は悠真ごと立ち上がる。


「あん??!!………チッ!どうしたらいい?」


「……え。あ、えと…とりあえず、どこかに身を隠そう。」


腕を掴まれ、乱雑に立たされた悠真。痛そうに顔を顰め、困ったように視線を彷徨わすが、自身を助けるものはいない。


何をすべきか、顔色を窺いつつも、提示した。


秋明はそれに黙って従う。


想像に反して、素直に従う秋明にどう対応したら良いか分からず、チラチラ視線を送りつつ、悠真は進んでいく。


途中、木の実をすりつぶししたものを床や壁に擦り付けつつ、先へと進み、身の隠せそうな場所を探した。


結局、悠真と秋明は少し進んだ先の部屋に身を隠す。


「さっきの木の実はなんなんだ?」


秋明は落ち着いたところで、悠真の傷を洗い流すと傷口に布を押し当てた。しっかりと傷を押さえつけ、止血にあたる。


作業をしつつも秋明は気になったことを聞く。そういえば、先ほどだけではなく、度々何かを壁につけていなかったかと。


質問されるなんて予想もしていなかった悠真は肩を震わせると、不審者を見るような視線をおどおどしくも秋明に向ける。


秋明はそれに怒ることなく、悠真からの返事を待っていた。


その真剣な視線に悠真は居心地が悪そうにたじろいだ。たじろぎつつも、仕方なさそうに返答する。


「はぐれた場合、どうやって連絡を取ったら良いか、志貴さんと話してたんだけど…通った場所に印をつけていって気付いてもらえたら良いよねって。その時に拾った実。桜井氏と拾ったから…気づいてもらえると良いけど。」


そばにいない仲間。無事かどうかもわからない。おそらくは無事であろう。心配で心配でならない。


離れ離れになった仲間との再会を願い、居場所に気づいてもらえるように悠真は動いていた。


「ふーん。………これからどうする?」


なるほどなと思いつつ、悠真の持つ木の実を見ていたのは数秒。すぐに気持ちを切り替え、秋明は悠真の目を真っ直ぐに捉え、問いかける。


「へ?………ちょ、と…休憩したら、先に進む、けど?」


少しは自分の声に耳を傾けろ。


散々そんな事を思っていたが、いざ、聞かれると目を丸くし、答えに吃り、上手く答えられない悠真だった。

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