185.飛ばされた先で2人でした
遠足を思い出す。良い思い出とは言い難い場面。遠足の濃い様々な思い出の中でも特に苦い記憶。
飛ばされる時に変な風に身体を捻ったのか、妙に身体が痛んだ。本来ならば、動きたくないと思うような痛みはしばらく忘れらることはないだろう。
憂鬱だと二度寝でもしてしまいたいが、そういうわけにもいかなかった。
「ッ!うッ!……どこ、ここ。」
泣きそうになるのを耐えつつ、悠真は身体を起こし、当たりを見渡そうとした。
が。
出来なかった。
「シッ。静かにしろ。」
埃舞う中、近くにいた者に地面に身体を押さえ付けられた。
ぐえ。
潰されたカエルみたいな声が悠真から漏れる。それにもイラついたようなうるさいとの言葉が降りてきた。
誰のせいで出た声だと悠真はイラつきを隠せず、自身を押さえつけている相手を睨みつけた。
「(ちかっ。何なの。何で僕、押さえつけられてるわけ。訳わからない。近いんですけど。きも。)」
状況が理解できない。ひたすら不快感しかない。
そんな悠真の耳にガサッという不快音が届く。何かが動いた時に発した音。何がかは分からないが、何かが不快。そんな音。
「(魔物…?て、え?……ここ、僕らしかいない?何で?え?僕、生きて帰れるの?コイツと2人とか…。)」
チラリとコイツこと秋明に絶望の目を向けつつ、悠真の思考はどん底に落ち込んでいく。投身自殺するかのような速度で思考は悪い方へと落下していく。
魔物が周りに、すぐそばにいるかもしれない。それだけで充分つらい。
そんな状況で秋明と2人きり。気配を頑張って読むが、他に人はいなさそう。辛い。
それでいて、そばにいる秋明には意味不明に床に押さえつけられている。少し動くだけで埃まう部屋で床に寝転ぶだなんて、最悪だ。
力加減もせずにグイグイ押さえつけてくるから辛い。痛い。
「………行ったか。」
壁越しに廊下を見ながら秋明はつぶやく。悠真が痛いと涙をうっすら浮かべる様子など気づくこともなく、関心の全てを廊下に向けていた。
魔物か何かが蠢き、遠ざかっていく気配を感じる。どうやら秋明は、これへ警戒の全てを集中させているらしい。
もうとっくに気配は遠ざかっているのだから、さっさと離れろよ。そう言いたいというのに腹臥位の形で床に寝そべり、背に秋明が乗り押さえつけられている現状では、肺への圧迫が強すぎて、声がうまく出ない。
秋明がどくのを待つしかない。
「………あ、わりぃ。忘れてた。」
「(わすれてた?!あり得なくない??何なの、コイツ。理解不能なんですけど。)」
どいた秋明の言葉にご立腹な悠真。しかし、それは口に出さず、ムスッとしたまま起き上がり身体についたホコリを払う。
何も言わないものの、ムスッとした様子から、自分への不満があることは秋明には伝わる。秋明は舌打ちした。
「文句あんなら口で言えっての。うぜぇな。」
感情のコントロールは得意じゃない。思ったことはすぐに口に出してしまう。小さな声とはいえ、静かな部屋の中だと声はしっかり悠真まで届いた。
「(言える訳ないじゃん。言ったら言ったで生意気だって殴るんでしょ?言うだけ無駄じゃん。)」
言われた悠真はますます不満を募らせる。だが、何も言わずに床を睨むだけ。
話し合いなどできるわけもない間柄。拒否の空気感しかなかった。
「あー、クソ。どこだよ、ここ。周りにコイツしかいねぇしよ、最悪。」
苛立ち隠せず、頭を乱雑にかきながら、小さな声で呟く。小さな小さな人に聞かせるためではない独り言。
「(聞こえてるんですけど。最悪はこっちのセリフだ。)」
怒りに身を震わせ、身体をかたくする悠真。俯く顔に、薄暗い室内が理由して、秋明からは悠真の顔が見えない。
「チッ。」
この状況に怖がっているのだと判断した秋明は舌打ちする。
状況に苛立ちは秋明もある。仲間が無事かも心配だ。いつ魔物に襲撃されるかも分からない。
そんな状況で戦力にならないビビリを連れていかねばならない。秋明には気に入らない境遇としか言いようがない。
クソがと毒づきたいが、毒づいても始まらない。自分が先陣を切る他ない。ビビリも後から付いてくるくらいはできるはず。
「さっさと行くぞ。」
おざなりに声をかけて、秋明は立ち上がると、部屋から出た。
え?ちょ、ま!
後ろから悠真の驚く気配と呼び止めようとして出されたであろう声がした。ビビっているだけだと秋明は聞く耳を持たずにずんずんと進んでいく。
進むしかないのだから黙ってついてこい。そう背中で語っていた。
それはもう、悠真にとってドロップキックを食らわしてやりたくなるほどに、憎々しい背中にしか見えなかった。
いやぁ、本当。蹴っ飛ばして流してやりたい。できないのだけど。
「ちょ、阿部、くん。そんな、進んだらッ!」
できるのは精々、周りに気をつけながら進み、小さな声で声をかけるくらいのものだ。それも、足音などの音で消え入るくらいに弱々しい声。
果たして、秋明が聞き取れているかは定かではない。秋明は一切リアクションせずにどんどん進んでいくため、聞こえていない可能性が高い。
あまり大きな声を出すわけにもいかない。かといって繰り返し言って通じるとも限らない。あるいはウザいと殴られるかも。
考え出すとキリがなく、中々声がかけられなくなる。慌てて周りにびくつきながらついて行くことしかできない。
「ちょ、そっちはっ!!」
悠真は秋明のいく先を見て、目を見開き、秋明の腕を掴んだ。秋明からすれば弱々しい力だが、悠真からすれば最大限の力で秋明を自身に引き寄せる。
悠真の方へとふらつきはしないものの、秋明の動きはそこで止まる。
「てめぇ、何をーー《ガッ》
いきなり腕を掴まれ、イラついた秋明は振り向き様に悠真に怒鳴りかけたが、言葉は途中で止まる。
振り向き、悠真に向いた顔。後頭部あたりで何かが風を切る気配がした。その直後、何かが壁に当たり、えぐる音を響かせた。
何だと恐る恐る振り返ると、壁には矢が突き刺さっていた。悠真が止めずにいたら、ちょうど秋明の頭を貫通したのではないかという位置。
「コイツは…。」
背筋を嫌な汗がつたるのを感じた。ゾッとする。
「罠だよ。足元で糸が切れたの、感じなかった?」
小さな声で悠真は驚く秋明に言う。
秋明は床に散らばる紙やら箱やらをぞんざいに踏んだりしながら、廊下を突き進んでいた。隠された罠など気づくことは難しいだろう。罠を作動させた事すら気づけなかった。
「チッ、あの、仮面野郎がッ!」
人為的な罠だと分かればすぐに秋明は凶悪な表情を取る。
「ウサ先生だと良いけど。」
「あ゛?」
「だ、だって、ウサ先生達なら僕らを監視してるはず、だから。怪我を負っても、ヤバければ助けが入るでしょ。さ、最悪なのは……先生達にとっても不測の事態である事…。」
言葉に出すことで悠真はさらに不安が強まった。
おそらく。
おそらくは先生たちの仕業のはず。しかし、あぁも手荒な手段で自分達を飛ばしにかかるだろうか。
桜花を他から引き剥がすためなら仕方ないかもしれないが、手の込んだ罠に、殺気すら感じた襲撃。あれは先生たちの仕業なのか?
悠真には判断がつかなかった。
「あん?何言ってんだよ、てめぇ。イベント中に起きてんだ、アイツらの仕業に決まってんだろ。わざわざ罠なんざ用意して、今だって俺ら見て笑ってんだろ。」
胸糞悪りぃと秋明は唾を吐く。
「(だと良いけど。もしもだって、ある。その場合、本気で僕らはヤバイ。死ぬかも、しれない。一緒に飛ばされたから、近くにいるかも。みんな……何とか合流したいけど。)」
言っても無駄かと最悪の事態の想定については口をつぐむ。そして、これからについて思考を巡らせる。
誰かに連絡を取りたいが、どうするか。連絡機器はない。
室内であるため、煙玉など使用してもどうにもならないだろう。
光と音を使う方法は火災現場などで救助隊に事故の場所を伝える方法としてあるが、それが伝わる範囲内にいるかも分からなければ、魔物もつれる。魔物は出来たらお呼びではない。
周りには罠もあるため、無闇矢鱈に動くも危険。
はてはて、どうしたものかと悠真は考えを巡らし、ふと秋明に視線を向けてギョッとする。
考えている間に秋明が再び歩き出していたからだ。先ほどと変わらず、罠を警戒している様子もない足取りでずんずん前へ進んで行っている。
あ、作者、今日が誕生日です
はい、どうでも良いですね失礼しました
読んでくださり、ありがとうございます^ ^




