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184.特訓中です

視線が阿部、谷上の2人に写ります

◇◇◇side阿部、谷上◇◇◇


見渡す限り砂。猫が見たならば目を輝かせて『わぁ!でっかいトイレだぁ!』と無邪気に喜びそうな大きな大きな砂場。


いや、猫がそんなことを言うはずもなく、また、猫がトイレに大はしゃぎもないのだけれども。


ジリジリと皮膚を焼くような強い日差しを受けつつ、秋明は立っていた。


強烈な太陽光も、それを照り返す砂達からの熱も、秋明にとっては辛いものだが、そこに意識は向けず、秋明は周りに集中していた。


感覚を研ぎ澄まし、あたりの気配を読む。耳の感度も最大限にまで引き上げ、風が発する音すら逃さず、生を受けるものが出す音を拾いとろうとしていた。


目が。耳が。肌が。五感の全てが周囲から得られる情報に集中され、周りに存在するだろう奴らを探すことだけに躍起になっていた。


《カサ》


微かな音だった。普段ならば、歩く音や会話音で消されてしまうほどに些細な音。しかし、全集中の状態にあった秋明の耳はそれを聞き逃さず。


秋明は音のする方へと視線を巡らす。身体は動かさず、目線だけ。呼吸も深くゆっくりとし、最低限以外の音を発さぬように注意を払う。


秋明の視線の先には砂に身体を埋もれさせ、ゆっくりゆっくり前進するゴブリンがいた。


秋明に気付いて身を隠しているわけではなく、単に身を隠す障害物がない場で警戒して身を隠しながら進んでいるようだ。


秋明の方には視線すら向ける様子はない。


「(1…2、3、4……5、か?いや、6いるか。他は…いねぇ、な。距離…10メートルくらい、か。)」


秋明は微動だにせずに視線だけでゴブリンを捉え、得られる情報を整理し思考を巡らせていく。


慌てて動かない。逸る気持ちを抑え、ジッと機会を待つ。ゴブリン達とはまだ距離がある。数もいる。


出来うる限り、先制攻撃で多くを倒したい。ならば、機会を待たねばならない。


秋明は視線で気づかれぬようにゴブリン達からやや離れた場所へ視点を固定し、ゴブリン達が自身に近寄ってくるのを待つ。


「……??」


1匹のゴブリンが何か違和感を感じたようにあたりを見渡し、警戒を強めた。


"何かおかしい。"


そう感じた程度だろう。


「(今かっ!)」


近くにいる秋明に勘付き始めた。気付かれてからでは待った意味がない。秋明は機会を逃さず動き出す。


動かざること山の如しの時間は終わり。疾きこと風の如く動き、侵掠すること火の如く激しく行かねば。1匹も打ち損じるつもりはない。


獰猛な瞳がゴブリン達を捉える。


ゴブリン達は突然の秋明の奇襲に驚き、起き上がるも、構える前に秋明の近くにいた3体は薙ぎ倒される。


秋明の手にもたれた金属バットで一緒くたに殴られた3体は身体が殴れた勢いのままに吹っ飛び、地面に叩きつけられ、ピクッと身体を跳ねらせ、動かなくなった。


そんな仲間たちに目もくれず、残った3体は秋明を睨むように見ると構ーーようとしたが、それより先に、秋明が距離を詰め、もう一体殴り飛ばす。


他の二体は何とか後ろに飛びのき、秋明の猛攻を回避したーーが。


構え、今度は自分のターンだと秋明に向かおうとして、不自然に動きを止めたかと思えば、ゆらりと身体をゆらしゆっくりと地に伏せていった。


「…………ナイス、谷上。」


ゴブリンの全てが事切れている事を確認すると、秋明は背後を振り返り、ボソッ言う。


秋明の言葉と同時くらいか。秋明の周りの風景が歪んだ。テレビが切れ、画面が消えるかのように、風景が消えていく。事切れていたゴブリン達も同様。


全てが消え去ると、秋明は部屋の中にいた。何もない、壁だけの部屋。秋明の後ろ、視線の先には悠真が立っていた。


「う、うん。阿部も、お疲れ様。」


どこか遠慮した態度は抜け切らない。しかし、初めて会った日に比べれば、だいぶ態度が打ち解けてきている。


秋明は自身に自ら歩み寄る悠真を見て、肩あたりに拳を繰り出す。


ビクンと反射的に肩を揺らす悠真の反応にはリアクションせず、秋明はジッと拳を上げたままの状態で待っていた。


悠真はそれを見て、戸惑いを見せつつも、秋明の真意を察し、自身の拳を重ねる。


《コツン》


軽く触れるだけ。


触れた瞬間に秋明はニカッと笑った。いつもの巨悪な表情や、悪どい笑みからは想像もつかない笑顔だ。


向日葵を連想させられ、悠真は目を2、3度パチパチさせて秋明の顔を見てしまっていた。


「あ?何見てんだよ?」


「み、見てないし。……姿、気配を気取られないように近寄れて5メートルくらいだった、ね。こちらが動くと、気取られやすいのも課題。」


ガンを飛ばされ、慌てて視線を逸らしつつ、悠真は話し出す。


言えない。


言えるはずがない。


秋明を見て花を連想したなど恥ずかしい。言えばおそらくきっと多分、殴られる。それは嫌だ。


悠真は意識を別へと向けることで誤魔化した。


先ほどの動きを振り返り、何が問題だったかを考えていく。


「動けないんじゃ、実践向きじゃないし。阿部、気配を探るのに集中しすぎ。あれ、襲われたら、危ないよね。感知系も一緒に発動したいけど………今、使っている術式に合わせて発動するのは……。いや、精度をもっと上げるのが先か。」


「どっちも大切だね?阿部君も?気配を探るのに100%の力を使ってたらダメだよね?」


呟き続ける悠真の言葉を、ぶった斬りながら入ってくるのはニコニコ笑顔を崩さないわんこ先生。


仮面は携帯さえしていれば良いのか、頭にかけられているため、顔がよく見える。


遠足終了後、術式を見てほしいと悠真はわんこ先生に頼んだ。術式だけのつもりだったが、術式ついでに、秋明ごと面倒を見てやると、返答がきた。


ゆえに、放課後に3人で集まり、あれこれする事がここ最近の日課のようになっている。


「ゔ…分かってる。」


「じゃあ?やろうか?」


出来たらやっている!そう言いたいが、言っても仕方ないため、秋明は言葉を飲み込む。グッと耐え、わんこ先生を睨み上げる。


悠真もまた、何も言わないが、困ったように2人のやりとりを見ていた。


わんこ先生の言っていることが間違っているわけではない。それが容易いことでないことまで辛いまでにわかっていた。


「数をこなすしかないわけだし?さ?やろうか?それとも今日は終わりにする?」


意地の悪い笑みを浮かべて、わんこ先生は秋明と悠真に問いかけた。


挑発。それも分かりやすいタイプのもの。


見え見えではあるが、秋明達には有効であった。


「まだまだ!」


「ぼ、僕も、まだ出来ます!」


顔を見合わせ、さぁ、やるぞと気合いを入れる。


「次、感知系も使ってみるから。」


「おぅ。……いや、待て。お前が感知できても俺がわからねぇと困る。声出せねぇだろ?」


「……声出せるように対策しとく。とりあえず、合図を決める?」


「だな。どうする?」


2人で顔を突き合わせて話すこともなかった。出来るならば関わらないようにしていた節すらある。


しかし、今はこうしてわざわざ、自分の時間にお互いに予定をすり合わせ、時間を共有している。


何があるか分からないものだ。


今でも互いに苦手なままだが、初めよりは幾分かマシになっている。


「(………遠足で、か。一気に話すようになったの。こ、わい…けど。悪いやつでは、ない。)」


話し合いをしつつ、悠真は思う。


はじめは共に過ごすメンバーにヤンキーがいるなんて最悪だと、出来うる限り関わらないようにしようと思っていたのにな。


そんな事を考えていたら小突かれた。


「集中しろや。」


言葉は乱雑。動作も乱暴。しかし、どこまでも真っ直ぐで、それでいて仲間思いな面もあり、優しいとこもある。


「(それを知ったのも遠足のときだったな。………失敗だらけだった。足手まといにしかなれなかった。強くなるんだ。)」


秋明に小突かれ、遠足での光景がフラッシュバックした。良い思い出がなかったわけではないが、悔しい思いも多々あった。


ゆえに、今の時間がある。


パチンと両の頬を叩くと、悠真は気合いを入れ直した。

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