17.学園生活の初めにゲームを⑦
阿部くんsideが続きます
目の前に大きく開かれた口の中に鋭利な歯が見えていた。それが素早く、俺に近づいてくる。今、まさに俺を喰おうとしている。
ーーーあぁ、喰われるんだ。
そうどこか他人事かのように考えていた。そんな中、声が響いた。
「危ないっ!!」
俺は魔物を避けきれず、腕を前にクロスさせていた。その腕を魔物に噛まれそうになっていたが、御崎が横から魔物を殴り飛ばしてくれたおかげで間一髪、俺は噛まれるのを逃れることができた。
御崎の手にはメリケンサックがはめられていた。奇抜なデザインの物だが、あれで殴られたら痛いだろう。魔物は思いっきり吹き飛んでいる。
クソッ。魔物の本体はあんなちっさいくせに口が無駄にでけぇ。牙が鋭い。ヤギみたいな面してんのに、サメみたいな歯してやがる。
あんなんに噛まれたら、腕持ってかれるんじゃねーか?
「"術式2 水"」
坂崎が唱えると水の玉が出現する。
俺だって使える基礎中の基礎。そんな簡単な術式を坂崎は発動させた。
だっていうのに関わらず、初めてみる術式かと錯覚しそうになるようなものが出現していた。
目の前に現れた術式に俺は目を見開く。俺だけじゃなく、村山や御崎も坂崎の発動させた術式に驚愕していた。
「あぶねぇっ!!」
とにかく量がヤバイ。あんなに一度に発動できるもんなんかよ。せいぜい、手のひらサイズの水が飛ぶくらいだろ。
坂崎が発動させたものはバスケットボールサイズの水。それが1つにあらず。目を見張るほどの多量な水玉が現れ、魔物を襲う。
だが。
威力ありすぎだろ。もう少しで俺までやられるとこだった。慌てて避けたが、危なかった。
「ご、ごめん……。」
や、やべっ。ただビックリして叫んで見ただけだったんだが…
坂崎が顔を真っ青にして泣きそうな面して、こちらを見ていた。
あー、クソ。これだから女はめんどくせぇ。少し話しただけでびびりやがる。俺が何したっていうんだ。こんなんだったら挑発で返してくる志貴の方がマシだ。アイツは真っ直ぐこっちを見て話してくる。一切ビビったりしねぇからな。
坂崎はあんだけ、すげぇ術式使えんだから堂々としてりゃあいいのに、面倒くせぇ。睨んだりしたわけじゃねぇってのに、ビビってんじゃねぇよ。
「今のうちに逃げるわよッ!」
ナイスだ、御崎!御崎は叫ぶと坂崎の手を引き、走り出していた。その後を村山と俺は追う。
全員走り出したから、空気が変わってくれた。
とにかく、魔物から逃れるべく、ひたすら走った。
「ピギーーーーーッ!!!」
あん?嘘だろっ。
全員で走り出して数分しかたってねぇのに…
水に悶え苦しんでいたはずの魔物がもう追いついてきやがった。
早すぎんだろッ!つか、ダメージは?!攻撃してもしてもすぐ回復するとか反則だろうがッ!
「ヘッ!?あ、えと…あ…」
あのバカッ!転んだ上にすぐに走り出せずに涙目で魔物を見てやがる。口をパクパクさせがら、魔物を見ていた。ガタガタ震えているのが見える。
さっきみてぇに術式使えば良いだろうにそれもできねぇみてぇだ。
ーーーあぁ、クソッ!!!
頭で考えるより先に身体が動いていた。
魔物が坂崎に到達するより先に魔物と坂崎との間に身体を挟み込む。
坂崎に覆いかぶさるように動けばすぐに衝撃が身体を襲った。
「うがっっ!ッ!」
あぁ、いてぇ!!!
一瞬で視界が真っ白になった。
あぁッ!クソッ!!
魔物に噛まれてるとこが嘘みてぇにクソ熱い。視界はいまだにチカチカしやがる。
「ーーーッ!」
俺を見て坂崎はさらに顔を蒼くし、表情を歪めてやがる。真っ青な顔でこっちをみるばかりで動き出す気配もない。
ボーッとしてねぇで、さっさと逃げろっつうの。
何でうごがねぇんだよ。何のために2本の足があるっていうんだよ。
「阿部ッ!!!」
御崎の叫ぶ声がする。こっちに走り寄る姿がチラッと見えた。そんときだった。
《パーン》
でかい音がその場で響いた。
廊下に聞きなれないでっけぇ音がしたと思ったら、腕に噛み付いていた魔物が吹き飛んでいた。
村山が少し離れたとこから銃を使って撃ったのだと吹き飛ぶ魔物と銃を構える村山を見て、遅れながらに理解する。
「ぁ…阿、部くん…ぇ…と……!」
魔物が離れたが、当然だが、傷は治らない。魔物が噛みつき続けたことで栓となっていたが、それが離れれば、そこから血が吹き出す。
吹き出す血を見て、坂崎は泣き出しやがった。立ち上がらず、逃げようともしない。この状況では最悪だ。
「今は走るわよっ!!」
御崎が泣き出す坂崎を無理くり立たせ、その肩を抱き、走り出す。
《パーン》
村山はもう1度、魔物を撃った。
魔物は弾に当たった反動か、遠くに飛んでいく。
魔物が飛ばされたスキに俺たちは談話室を目指して必死に走った。
《チリーーーン チリーーーン チリーーーン》
走っている間に何度か聞いた忌々しい音が聞こえてきた。
それによりもうわずか後ろまで迫っていた魔物が嘘のように動きをとめ、俺たちを追うのをやめた。
ーーー凶暴化、終了か。
クソッふざけやがって。
凶暴化が終了したことが今の俺たちには凄くありがたい。その事実が気に入らねぇ。今は談話室を目指して逃げるしかねぇってぇのも…クソッ!
もう少し。
もう少し凶暴化終了が遅かったならば。俺達は全員で無事に逃げきれたかどうか、わからねぇ。
「大丈夫ですかっ!?」
談話室では悲鳴のような叫び声で出迎えられた。
稲盛も坂崎に負けねぇくらい顔を蒼くしてやがる。
こんなんで、傷治せんのかよ?震え出したりしないよな?
「手当てしますッ!!!!」
真っ直ぐ俺を見つめ、稲盛は宣言すると、テキパキ治療をはじめた。
ーーーそういやー、コイツが1番ランクが上だったよな。そんだけ、能力が高いってことか。
すげぇな。
傷があっという間に塞がっていく。
傷の治りの早さに感心していたら、俺の横で坂崎が座り込んだ。
「…ごめん、なさい……術式…当てそうに……怪我も…ごめんなさい……!」
俺の横に座りこんだ坂崎が顔をくしゃくしゃにして涙を流し続ける。聞き取りにくいが、坂崎はひたすら謝罪をしているようだった。
めんどくせー…これを俺にどうしろってんだ。
苦々しく思いつつ坂崎を見ていれば、蚊ヶ瀬がため息を1つ吐き出し、近づいてきた。
「落ち着け、ざっきー。みんなも顔色が悪い。休んだ方がいいだろう。」
蚊ヶ瀬は坂崎の肩を抱き、立たせると、奥の椅子に座らせてくれる。
そして、蚊ヶ瀬は御崎や村山にも座るように促す。
蚊ヶ瀬の言う通り、魔物から必死に逃げてきた後なだけあってみんな顔色が悪かった。
だからこそ、蚊ヶ瀬がみんなに休むように促してくれるのは助かった。
助かったんだが。
この葬式みたいな雰囲気はどうにかならねぇもんなのか。
しばらく、休憩してみたが、空気が悪りぃ。いっこうに空気はよくならねぇ。良くなるはずもねぇんだか、息が詰まる。
みんな無言だ。
クソッ何でこんな目に合わなきゃいけねぇんだ。
これも全て、あのウサギヤローのせいだ。空の指示だって言ってたが、やっぱり嘘なんじゃねーのか。
こんなんして、何になるってんだ。こんな目に遭わされる謂れはねぇ。
《チリーーーン チリーーーン チリーーーン》
休憩していると再び音が鳴り響く。魔物の凶暴化の時間になっちまった。
それにより悪かった空気がますます悪くなった。緊張感がみんなを支配する。
坂崎は青ざめ、震えてやがる。ま、他の連中も似たようなもんだが。
「………これが訓練で私達を鍛えるためってのは嘘じゃないのかも…。ここには魔物達が近づかないわ。」
扉の方を伺うように見ながら御崎は言う。
だいぶマシになってきたが、御崎の顔色はまだ悪かった。扉の近くから外を伺っているが、怖いんだろうな。
「ここを我々の拠点にしてるって分かっているんだろう。ここを安全地帯としているわけか。」
「本来ならここも襲われてもおかしくないのに、魔物は確かに来ないわね。ゲームであり、訓練だから安全も確保されているってわけね。」
御崎の言葉に反応し、蚊ヶ瀬や佐々木が同じく扉の付近に集まり、外を窺いつつ話す。
「ハンッ!!バカバカしい!あんな野郎の言うことを信じんのかよっ?!」
「空のバッチは本物にしか見えなかったわよ。空は育成場を持っていて、戦闘員を育てている。そんな話だって聞いたことがあるわ。」
「おそらく、嘘ではないだろうな。」
「じゃあ…やっぱり、従った方が良いわよね。…た、宝探しを続けなきゃ、よね?」
おそるおそると言った感じに御崎は言う。俺たちを見渡すように見て、視線をさまよわせている。
嫌だ。
嫌だ嫌だと態度ににじみ出ている。おびえているようにだって見える。
そりゃあ、そうだ。あんな魔物のとこに自ら行きたがる奴なんざ、いねぇだろ。ダメージを負わすことの出来ねぇ化け物にどう対処しろっつーんだ。
「ッ!!!」
御崎の言葉に坂崎が大きく反応を示した。
阿部って見た目はヤンキーくん。
けど、仲間を大切にする系の子です。
人のために動けちゃう優しい子なんですねぇ。
桜花達と異なる感じとなりました。
桜花やチビは戦闘狂。噛みつかれようが、嬉々として戦えます。はい、変態な主人公なんですね。




