174.ハチについて情報整理です
魔物については不明な事だらけだ。ハチもまた、わかっている事もあるが、わからない事もある。ハチが何のために出す毒かは一切分かってはいない。
ハチの毒は敵味方関係なく、あたりにいるもの全てを殺す。そんなものを何故出すかは憶測だけが行き交っており、事実はわからないまま。
そして、何より厄介なのは味方の毒で死んだハチもまた、毒を出す。それを繰り返すと、全てのハチが死んだ時にはその場にはものすごい量の毒が蔓延する。
それによる死者の数は……ボクらもその仲間入りをしないように気をつける必要がある。
「毒ガスが蔓延している間は葉っぱが揺れているんだよな。毒ガスが蔓延している方を示すように。」
ハチが毒を出しつつ死んだかは、それを知らせる葉の動きを見ればいいと聞いた事がある。毒が蔓延しているときのみ、それを指し示すように独特に揺れるんだとか。
毒にもなり、ハチの毒がある事も知らせてくれる。ボクらにとっては重要な葉だ。
「あの葉っぱってハチの生息地あたりにしか生えないものよね。大量に生えているから見つけるのは容易いと聞くけど。ハチを殺すためだけに用意されたような感じが気持ち悪いわ。」
嫌そうな顔をしてゆずるんは言う。
ハチの対策がハナから準備されているような状況。誰かの手の上で転がされているようで気持ち悪い。気持ちは分からなくもない。
「ご飯を食べたら、ちょうど良い時間になります。ささっと通りましょう。その際に今説明した事を聞きますから覚えておいてください。罰ゲーム、どうしましょう?」
「は?!罰ゲーム?!」
青天の霹靂。そう顔にありありと示し、素っ頓狂な声を上げたのは、まりりんだった。
ただでさえ、ぱっちりな大きな目をさらに大きく見開き、もりりんを見つめていた。
「知らない事は知っている人が説明します。知らなかった人はそれを覚えなきゃなんです。覚えるためには罰ゲームです!」
目をまん丸くして聞き返したまりりんに、どーん!と、もりりんは言う。幼児がお姉さん振るかのような様子は可愛らしく、ほっこりしてしまう。
いや、そんな事よりも。今まではそういうことをしていなかったが、どういう心境なのだろうか。
「新人教育でそんなことしてる奴がいたなぁ〜。罰ゲームかぁ…これ終わったら、中庭で花見じゃん?そこで一芸。」
しっきーもまた、もりりんの話に乗っかった。んーっと考えるような素振りを見せた後に、彼女はニッコリと笑って提案する。
花開くような綺麗な笑み。見る人を魅了するだけの力があるものだが、見惚れている暇はない。
知らなかった面々に覚えさせるためには、罰ゲームがあったほうが良い。それは分かる。今後も遭遇するかもしれんしな。罰ゲームをするのは嫌だが、嫌だからこそ効果があるように思える。
しかし、遠足を続けながら、今後も分からない事があれば、テスト形式で確認され、間違えれば罰ゲーム。それは中々に辛いぞ。
「おっけーです!楽しみですね。対象は喜藤さん、阿部さん、マリさん……ツバサさんや樹里さんは知ってましたか?」
しっきーの提案に笑顔で頷いたもりりんは、1人1人の顔を見渡しつつ、知っていたかどうかを問いかける。
これは嫌だとは言えない空気だな。嫌だなんて言えるわけもないが。……頑張るしかないか。
「……知らなかった。」
「僕もです!」
素直に話すあたりが2人ともいい子だ。いや、ずるをしても自分のためにはならないんだがな。
「じゃあ、5人が対象だねぇ。お兄さんの一発芸、見てみたいね?女装とかなら私、メイクしてあげる。」
にまぁーと笑うしっきーはとても、楽しそうだ。すでにどんなふうにやろうか模索している様子だ。
普段、メイクなどしないだろうに、メイク道具は持っているのだろうか。……しっきーならば何をもっていてもおかしくないか。
「しねぇから。」
顔をひきつらせ、カイさんは困ったように言うが、しっきーの笑顔は消えない。諦めてない様子だ。
「お兄さんの顔、好みなんだよね。いじりたい。」
「……………勘弁してくんな?」
他の誰かの願いならば鼻で笑っておしまいにするに違いない。しっきーからのおねだりだからこそ、間があったのだろう。しかし、やはり嫌な様子。まぁ当然だろう。女装を好むカイさんではない。
ましてはしっきーにそんな姿など、カイさんは絶対に見せたくはないだろう。珍しいしっきーからのおねだりだとしても、聞き入れることは出来ぬ願いだ。
「にゅ?」
どこまでもチビくんはしっきー贔屓らしいな。チビ君がしっきーの肩の上から、カイさんに対してやらないのかと鋭い眼光を向け圧をかけている様は、カイさんが哀れでならない。
「秋明くん、こうなったら2人で女装コントですよ!」
ムラムラは逆に罰ゲームにやる気満々だ。諦めが早すぎる。
胸の前で拳を握り、なぜか気合いを入れている。気合いを入れるポイントがあきらかにズレている。
「覚える気なしなの?!」
すかさず、まりりんからツッコミが入った。さすがはツッコミ担当。ツッコミの速さには目を見張るものがある。
日に日にそのスペックに磨きをかけていっている。
「俺だけでも覚えてやるッ!」
「そんな…見捨てないでください!」
あべべも、ムラムラも狙ってはいないのだろうが、新喜劇を見ているかのような光景を2人で演じ始める。
笑ってはいけない。本人らは本気なのだから。しかし、笑いそうになる。
コントにしか見えない。
「覚えるのが目的なんだから、覚えなさいよ。」
「ゔ〜…頑張ります。」
みんな、なんだかんだで前に進もうとしている。みんなで成長しようとしている。
ボクは、また、失敗してしまったが、ボクも前を向かねば。彼らの力となれるようにボクに出来ることをしよう。
とりあえず、昼食後にはハチたちの巣を越え、コグマを目指すのだ。気を引き締めていかねばな。
まだまだ、遠足の最中なのだから。
◇◇◇
ハチの巣の上を通るのは大丈夫だと分かっていても怖いものがある。
まりりんのように素直に感情を露わにして、しっきーの腕に絡みつくことができたならば、まだまだマシだっただろう。
しかし、そんな事は出来ない。迷惑をかけるわけにもいかないしな。
「本当、に…動かない、のね。」
「全滅してまっせー。」
ハチ達の死骸があちこちに転がる様はグロい。見慣れているのか、しっきーは平気そうだ。
まりりんは顔を真っ青にして、ヒィ〜と変な声を出しつつ、歩いている。あんなに強くしがみついては歩きにくいだろうに。
「さ、ここ抜けた先にコグマ達いるから、もうちょい頑張りますぜぇー。」
しっきーは明るい声を出し、ボクらに声をかける。
その横を歩くもりりんは意外と、ハチ達は平気そうだった。彼女は軟膏を自分で調合したりもするからな。漢方なんかの知識にも明るい。意外と虫系は苦手ではないらしい。
ハチ達の巣を越えた後、もりりんは先の宣言通り、ハチ達を知らなかった面々に先ほどの内容を確認した。そして。ムラムラやあべべは罰ゲーム決定。
どんまいだな。
とはいえ、罰ゲームは良いかもしれない。必死になって覚えれる。どのみち覚えねばならないならば、こうして印象つけて覚えた方が自身の身のためになろう。
「あらー。お兄さん、残念。」
「残念じゃねぇから。いくら、桜花ちゃんの頼みでも、それはダメでぇ。」
「はははー。ダメかぁ〜。」
残念と言いつつも、楽しげに笑うしっきー。そこまで本気ではなかったか。
「にゅ。」
ふと、しっきーのそばを離れ、ボクの横までやって来たチビ君が鳴き声を出す。そして、チラッと近くにあった植物を見た。
食人植物。人が触れる範囲までくるとパクッといくやつだ。人1人なら簡単にパクッと言ってしまう。
「いや、いくらボクでもあれには触れない。」
「にゅぅ?」
ボクが答えれば、チビ君は疑わしげにボクに視線を向けた後に、しっきーの元へ戻っていく。何と言ったかどうかは分からない。だが、本当かと問うているようにしか聞こえなかった。
前科があるからか。チビ君に行動を見張られているらしい。
「あの子、あぁして時々、みんなに注意喚起してるわ。志貴さんから注意されない限りはそのままでしょうね。」
チビ君の姿を目で追っていると、ゆずるんが口を開く。ボクだけと思ったが、違うのか。




