172.合流します②
ゆずるんと視線を合わせ、うなずきあった。
次は同じ失態などおかさない。まともな武器を皆に渡す。
「うんうん、それで十分だよー。んじゃま、ゴブリンも片付いた事だし。遠足に行くか。…ん?ありがとう。ユキ達、これいる?こっちは風系だったけど、これは火かぁー。加工する〜?」
ウサくんが倒したゴブリンの武器をしっきーはチビ君から受け取りつつ、ボクらに聞いてきた。落としたままだったものを、チビ君が回収してきたらしい。
しっきーは受け取ったそれに火を纏わせ、軽く振っている。………近くで見ると、なお、美しい。火を纏わす事で刀の美しさが引き立つ。刀身が怪しく光り、人を惑わす、妖しげな雰囲気を漂わすが、いつまでも見ていたい気分になる。
これは芸術だ。金にはできない価値がある。
「しかし、それを倒したのはウサくんだ。」
欲しい。欲しくてたまらない。しかしだ。
しっきーはボクらにくれようとするが、ウサ君の倒した魔物の武器を横取りするわけにはいかない。
ウサ君の功績なのだからウサ君が授与すべきだ。
「拾わずに放置してた奴でしょ。そういうのは拾ってもらっちゃって良いんだよ?」
人の悪い笑みを浮かべて、さらりと横取りを認めるような事をしっきーは言う。いくらなんでも、ウサ君が相手とはいえ、それはどうかと迷ってしまう。
受け取って良いのだろうか。いやいや、良いわけがない。
「構いませんよ。私には必要ない代物にございますゆえ。」
ウサくんを見れば、ウサ君もウサ君で、肩をすくめつつ、さらりと言ってのけた。売れば金になると言うのに、なんとももったいない。
いや、ボクらは売ったりはしないが。しないけども。必要ないと言えるとは。欲がないのだろうか。
あんなに美しい刀が手に入るんだぞ?
「いただいとこ。素材はあって困らんでしょ〜。」
にぃと笑いながら、手に入れた刀を軽く振って見せるしっきー。やはり、綺麗な武器だ。
じっくりと見れるだけでも嬉しい。それが手に入るとは。言葉には表せないくらいに嬉しい。まだ処理しきれない感情がボクの中に渦巻く。
「それじゃあ…。」
「ありがたく、いただくわ。」
これは借り。
いつかはしっきーやウサ君に借りを返さねばならない。必ず、恩は返す。倍返しにして返す!必ず。
「はいなぁー。とりあえず、重たいし邪魔だから私が持っとくねぇ。私のやった方のもあげるよ、後で。」
ポイっと放り投げたしっきー。目を見開いた、その刹那。武器は消えた。
皆、呆然としている。よかった。しっきーの行動に驚いたのはボクだけじゃないらしい。
「……息するように術式使うよね。」
「そうせねば死にますゆえ。志貴様は特別優れておられるように見えるかもしれませんが、皆様にも同じレベルが要求致します。精進なさいませ。」
呆れ半分といった様子でガミガミが言えば、しっきーではなく、ウサ君が答えた。
今日のウサくんは、小言というか、トゲがやけに強くないか。
「はいはい。お小言は後にして。遠足、はじめるんでしょう?」
「………想定外の事もありましたが、皆様、遠足を始めて参りましょうか。お気をつけて、いってらっしゃいませ。」
ウサくんは恭しく頭を下げ、ボクらに声をかけた。ウサ君の言葉と共に、とうとう遠足が始まった。そう、これが遠足の始まりだった。はじまって早速、失態をおかしてしまったんだ。
武器師として目も当てられない失敗。武器師として役立てないならばボクらの存在価値はないというのに。次はない。同じことはくり返さない。皆の足を引っ張らないように気をつけていかねばならん。
ボクらの遠足は、武器師としては最悪な始まりとなってしまったが、これ以上、失態は重ねてなるものか。そう意気込んで、ボクらは先に進んだ。
◇◇◇
遠足のはじまりを思い返してみると、改めてボクは武器師として最低だと感じざるを得ないな。この遠足が始まってから、まったく役立てていない。
遠足の始まりからボクは失態をおかし、皆に迷惑をかけてしまっている。だが、それを皆は責める事もしなかった。
当たり前のようにボクを守ってくれる。何なら、しっきーには与えられてばかりだ。素材はボクらにくれる気みたいだし。
ボクだって皆の為に頑張らないと。
今やれることはーー湯を沸かし、しっきーの準備してくれていた昼飯を準備していく事。武器師として役立てないのが悔しいが。
今はできる事をとにかくやる。力をつける。それしかない。慌てたって落ち込んだって現実は変わらないんだ。
出来る事を積み重ねるしかない。自分のダメなとこを直していくしかない。
「言い聞かせるのは得意なんだがな。」
自分に何度も言い聞かせるが、失敗を繰り返している現状、気になってしまう。直していくしかない。分かっているが、気分が沈んでいってしまう。
まだイベント中だというのに、ダメだな。
「何?なんか言った?」
ぽつりと呟けば、ゆずるんが反応した。幸い、聞き取れなかったらしい。
良かった。皆の気分を下げる他ないような事だからな。聞かせる話ではない。
「いや、何でもない。もう準備が終わるな。しっきー達はもう着くか?盛りつけて良いか?」
あらかた、食事の準備は終わった。しっきーたちがつくならば、盛り付けまでしたいとこだ。
しっきー達の場所を把握していそうなチビ君を見れば、チビ君は耳だけをこちらに向け、視線はボクらではなく、森の方を向いたままだった。
おそらくはチビ君が向いている方向にしっきーたちがいるのだろう。
「………盛りつけたくらいに着くんじゃない。主人だけじゃないから、トラブルがまた起きるかもしんないけど。」
ふぅー…と深くため息をつきながら、おざなりな態度でチビ君は言った。
"トラブル" "また"
聞き捨てならない言葉があるんだが。向こうに何かがあったのだろうか。チビ君が落ち着いている様子から見て、しっきーは大丈夫なのだろうが。
「もう近くにいるんですね!盛りつけましょうか!」
チビくんの返答を聞いたムラムラが、笑顔で盛り付けていった。
それに続いて、皆も昼食の準備を続きを進めていく。不安を吐露しても、イタズラに不安を煽ぐだけ。信じて待つしかない、か。
そして。
盛り付けが終わるくらいに、しっきーたちは姿をあらわした。
いつも通りのしっきー。顔を青くし、息を切らしているまりりんや、あべべ。他の面々は顔色こそ悪くないが、多少走った後のようだ。息が切れている。
何があったんだ。何かトラブルがあったのは確か。
しかし、皆、大した怪我もなく、無事な様子だ。胸の中に渦巻いていた不安がやっと、ボクを解放してくれる。
「あ、いたいた〜。お昼の準備しててくれたの?ありがとう。」
ボクらを見渡した後、しっきーは微笑む。その見慣れた笑顔にホッとした。
しっきーの肩には早速チビくんが乗っていた。早いな。そして、しっきーのそばだと可愛らしい小動物みたいな顔をしている。変わり身も早い。
チビくんは嬉しそうに撫でられていた。
「ねぇ?!桜花?」
まりりんはボクらを見て、安心したように息を吐いたが、すぐにしっきーに詰め寄った。
両手でガシッとしっきーの腕を掴んでいる。あれは痛い。しっきーはなぜ、平気そうなのか分からないが、あれは痛い。
「ん〜?」
「これからどうするの?」
「ご飯、食べよ?」
問いかけに対し、ボクらの準備した食事を指さすしっきー。とりあえずは食事をする。それは分かるが、まりりんが聞きたいのはそうじゃないだろう。わかっていてやっているのだろうか。
「いやいやいやいや!食べるけどっ!」
「またあの道を今度は全員で通るのかよ?」
まりりんとあべべは顔を歪め、しっきーを信じられないものを見るかのような様子で見ていた。本当に何があったのだろうか。
あの2人が拒否する道ならば、ボクは容易に死ぬぞ?死ぬ自信がある。自慢にならないが、簡単にくたばるぞ。
「今やるのは自殺行為だねぇ。他の道もまたエグいんだけど…また、マリが蜂の巣踏んじゃうからなぁ…みんなで全速力逃げる、だと…ん〜…ムラくん、谷上の犠牲は無駄にはしない…ッ!」
無駄に芝居がかった様子でしっきーは言う。
話の内容は決して、笑えるものではなかった。




