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169.不機嫌なのにヒヤヒヤです

あのゴブリンには一体何があるのかと、ゴブリンとウサくんを観察しながらも、耳はわんこくんに向け、話の続きを待った。


「身体が大きくなって身体能力が上がって、武器が綺麗になったゴブリンが突然変異体って言われるんだけどね?武器からああやって火を出したりもできるようになるんだよ?」


「ひぃっ!!」


「あぶなっ!」


わんこくんがいうや否や、突然、ゴブリンの持つ刀から火が出始めた。それはまるで生きているかのように動き、ウサくんを襲う。


皆の声にならない悲鳴が響く。ボクも息を呑んで手を握りしめてしまう。


それをウサくんはスレスレで避けていた。見ているこっちがヒヤヒヤしてしまうくらいにギリギリで避ける。


リアルに仲間が目の前で戦うのを見るのは怖い。いや、あんなにギリギリで避けるからヒヤヒヤするんだ。怪我をしたりしないだろうか。大丈夫だろうか。


「炎、水、風、治癒のいずれかの能力が出現するからタチが悪くなるんだよ?今、あそこにいるのは火だね?」


皆が顔を青くしウサくんを心配したりする中、わんこ先生は説明を続ける。心配いらないとわんこくんは確信しているのだろう。手出しする気は一切ないのは立ち姿から分かる。


ボクらが近づこうとすればすぐに止めにかかるだろうが、そうでない限りは彼は動かないだろう。


今、ウサくんが対面しているゴブリンは明らかに強者だ。それをウサくんだけに戦わせるのは嫌だと言い出す子達がいるんじゃないか。そんな心配が実際に戦いを見るまではあった。


ウサ君が油断しているようにも見えたしな。ゴブリンが火を出し始めた時なんか、肩を揺らして、ウサくんを心配げに見つめていた。


しかし。


誰一人として戦うウサくんには近寄ろうとはしなかった。息を飲んだり、声を漏らしたりはあっても、会話することすらせず、ウサくんを見つめている。


話しているのはわんこくんだけ。


ボクはウサくんが実力者だと知っていた。分かっていたはずだが、それでも、そのキャラからだろうか。どう言い繕っても言い訳にしかならないが、ボクは彼を侮っていたんだと思う。


所詮は非戦闘員だと思っていたのかもしれない。


ゴブリンと戦う姿を見て圧倒された。ボクは特に戦闘能力がない。そんなボクが見てもボクらとウサくんとの実力には天地の差があった。


普段、全員がかりでウサくんに向かっているが、手のひらで転がされていただけ。ボクらはウサくんの本気なんて微塵も引き出せていなかった。


それを見せつけられた。


ゴブリン相手に戦うウサくんに手を出したくても、手出しする隙はない。ボクらは足手まといにしかなり得ない。


誰もがウサくんを見ていることしかできずにいる。


カイさんですら、静かにウサくんの戦う姿を見ていた。今にも舌打ちをしそうな顔をしているが、何を思っているのだろう。


ウサくんとゴブリンとのやり合いは思った以上にすぐにカタがついた。


何度も何度も攻防を繰り返していたため、力が拮抗しているように見えたが、ボクらに見せるためにわざとそうしていたのかもしれない。


ゴブリンの攻撃を弾くと、ゴブリンを一刺しで倒したのだ。それもごくごく簡単にやってのけたように見える。


息も切らさず、ウサくんは倒れゆくゴブリンを見ていた。


「………さっき、アイツのこと火が避けてなかった?」


ウサくんとゴブリンとの攻防が終わり、少しの間沈黙していた。最初に口を開いたのはまりりんだった。


ギリギリで火を避けていたが、避けきれないものは確かに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ウサ先生を火が避けてましたね!」


「どんな仕組みよ。アイツを魔物すら避けるなんてやっぱり変態ね!」


変態の一言で済ませる問題か。違うだろう。あれは何かしらの方法でウサくんがゴブリンの炎から自分を防御したんだ。


ボクらでは見ただけではウサくんが何をしているか分からない。知識の差か。わかっていて真似できないではなく、その方法すらボクらは知らない。


「わんこくん、ウサくんのアレはどうやっていたんだ?ウサくんの武器の力だろうか?」


「んん?あ、火の話?違うよ?そんな誰でもできることが武器の力とかショボいことはないよ?いくらウサ先生でももっとまともな力だよ?」


誰でもできる?それはボクにも出来るという話か?


ショボいというが、ショボいと言い切れるようなものではないだろう。少なくとも、ボクにはできぬ芸当だ。


「あれは単にウサ先生がゴブリンの火のコントロール権を奪っているだけかな?まぁ?奪った火で反撃するには至ってなかったけどね?ウサ先生、そういうのは苦手みたいだね?」


わんこくんは至極当たり前のように言う。


奪う、か。誰にでもできると言う事は術式だろうか。術式を発動させるために唱えている様子はなかったが、いつ発動させたのだろうか。


そして、ボクからしたらウサくんはすでにすごいんだが、わんこくんの言い方だとまだまだコントロール不足だという状態なのか。


つまりはわんこ君の方が優れたコントロールができるということか。


「で?俺らに何かしてんのはお前さんかぃ?」


カイさんはわんこ先生を睨みつけるように見て、挑発的に言った。喧嘩っ早いとこがあるが、ウサくんやわんこくんが挑発してくるからなのか、カイさんは2人に対しては特に態度が悪い。


ウサくんやわんこくんの言動にも、要因がないわけではないから何とも言えないが。カイさんの態度の悪さを2人も気にしてないようだしな。


「んん?何が言いたいのかな?」


カイさんの問いかけにわんこ君は頭を傾げて惚けたように返す。


「俺ら、だいぶ手前まで話しながら来ただろ。なんで俺らの存在にアイツらは気づかなかったんでぇ?」


睨めつけるようにしてわんこくんを見るカイさんは、わんこくんの仕業だと確信しているようだった。


カイさんに言われるまで、なんで気づかなかったのだろう。明らかにおかしかったのに。


「…………確かにおかしいな。ボクらを見たときのゴブリン達もウサくんが近づき始めて初めて存在に気づいたという反応をしていたか。」


「目、合ってた。けど、無反応だった。」


対して表情は動かしていないが、見慣れたボクらにはわかる。ざっきーは今、不服だとかんじているはずた。ムスッとした空気を身にまとい、わんこ君を見上げていた。


先ほど、ボクらがゴブリンを目視できていたんだ。ゴブリン達だって目視出来てておかしくない。なのに、ボクらに気づいていなかった。


しかも、ボクらは話していた。音を出していたのに、魔物はボクらを認識していなかった。


なぜ、おかしいと気づけなかったのだろうか。気を張っているつもりだったが、皆が周りにいて、気抜けていたのか。


わんこくんがボクらに何かをしていたからこそ、何もなく済んでいたのか。


「ウサ先生達が僕らのために何かしてくださったってことですか?ありがとうございます。」


「おい、樹里。礼を言うとこかよ。」


「害のある物じゃないんですから、良いじゃないですか。」


のほほーんとムラムラは言う。


ムラムラの言うことは誤りではない。ボクらのためにやってくれたのであって害はないのだから。


しかし、何も言わずに気づかないうちに何かをされると言うのは複雑だ。


「気づかねぇところで何かされてるってぇのが気に入らねぇ。」


特にカイさんは好まないだろうな。黙って何かをされることはカイさんは嫌がる。だからこそ、今も不機嫌なのだろう。


「志貴さんなら?君たちみたいに気付かないなんて事はありえないからね?自分は気づけないお間抜けさんだなんて嫌だよね?」


不機嫌なカイさんをわざと、煽るなど、わんこくんの性格は悪い。


性格に難ありなのは前々からだが、イベント中だからか、際立つように感じられる。


「………あぁん?」


問題なのは挑発され、煽られれば、カイさんが簡単にそれに乗っかり暴れようとすることだ。しっきーがいない今、中々止まらないから困る。


「ちょっと、落ち着きなさいよ。」


「軽い挑発に乗るな。」


強めに、そして、早めにボクやゆずるんで止めにかかる。暴れ出してからでは、間に合わない。暴れるカイさんを止める事はボクらではできないのだから。


「チッ。」


「ははは?喜藤くんの考え通り、君たちがゴブリン達に存在を気づかれなかったのは僕がやった事だよ?どうやったかは企業秘密、ね?」


わんこくんは犬の仮面の口当たりに人差し指を当て、こてんと頭を下さげて見せた。話す気はないらしい。


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