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168.敵の武器に見惚れます

「皆様方、そろそろ気配が分かりますでしょうか。」


ふと、歩みを止めたウサ君がボクらを振り返り問いかけてきた。


ボクはあたりを見渡し、ボクらが進もうとする先を見たーーが。分からない。


ボクらの目の前にはただの森のようなものが広がっている。後ろを振り返ってもやはり、似たような風景がある。ここに一人で置いていかれたならば恐怖で泣くかもしれない。


魔物がいようがいまいが、夜の森には不気味な雰囲気があった。耳を澄ましても大した音は拾えない。木々が風に揺られ、擦れ合い発生させている音くらいか。なんて表現したらいいか分からんが怖い。


それくらいの感想しか、周りを見て持てるものはない。


魔物がそばにいる気配というものがこの中にあるというのか。


「………これ、何が来るかはどのようにしたらわかりますか?」


「その特徴を知る事です。」


真剣に前を見つめながら、ガミガミがウサくんに問いかければ、ウサ君は端的に答えた。


彼には気配が読めているのだろうか?


「特徴?」


ウサ君の返答だけではいまいちパッとこなかったガミガミが、頭を傾げ、ウサ君を見上げる。


「たとえば志貴様ならば、音や匂いを覚えておられます。見たことがある魔物ならば、全て記憶されておられ、判別が可能でございます。」


ウサ君は具体例としてしっきーをあげた。どれだけしっきーは凄いんだ。全て記憶していると言う能力の高さに驚かされる。


だからこそ、何がいるのかを判断出来たのか。


「え?桜花自身が?」


「チビじゃねぇの。」


「……俺、それ無理でしょ。」


「拙者もちょっと…。」


そう。


しっきーには出来てもボクらにはそれが可能ではない。チビ君がいるいないは大きい。


ウサくんの説明に皆が難色を示した。ボクらに可能な方法はないのか。


「えぇ。ですので、自らの方法にて把握してくださいませ。さぁ、もう姿が見えるでしょう。その場から動かず、良い子に見学していてくださいね。」


ふと、話している途中でウサくんは歩みを止め、ボクらを振り返った。唇あたりに指をそえ、静かにしているように伝えてくる。


「グガガッ」


ウサくんが言い終わったくらいだろうか。声がした。そして、歩く音。何かを引きずる音。嫌な、気配。


これはボクにもわかる。そばに魔物がいる。校舎から出て初めて遭遇する魔物がすぐそばまで迫ってきている。


目を凝らして見つめると、姿が見えた。木々の間からその姿が見える。


100センチくらいの小柄な身体。ゴツゴツした黒っぽい薄汚れた皮膚。地獄絵の餓鬼のような姿だ。腰蓑のみを身につけ、他は何も身につけていない。


人のように二足歩行をし、手にはそれぞれ質素でボロボロな刀を持っていた。武器を引きずるようにして歩く個体もいた。


信じられない。武器を大切にしないだなんて。なんて罰当たりな奴らだ。


そんなのが見える範囲で4〜5体いるだろうかーーいや。一体、おかしなのがいる。


他に比べ、身体が大きい。150センチくらいか。人にするなら小柄だが、ゴブリンにしては大柄だ。そしてやや、赤みがかった身体をしていた。


なによりも。


刀が違う。ゴブリン達が持つ刀はみな、刃こぼれしたボロボロすぎる刀だ。一撃受けただけで容易に折れてしまいそうであり、あれでは切ると言う事は難しいんじゃないか。刃物ではなく、刺さる鈍器にしかならないだろう。


それに対し、大きなゴブリンの持つ刀は美しい。刀身に刃こぼれなどない。やや刀身が太めのデザインの赤い刀。あれは何の素材で出来ているのだろうか。


裸身で持ち歩いているようだが、鞘はないのだろうか。あぁ、もっと近くで見つめたい。


ゆずるんをチラリと見れば、ゆずるんもまた、ゴブリンの持つ刀に目が釘付けとなっていた。


「きれー…。」


ゆずるんはすっかり、あの刀に見惚れているな。口を開けっ放しにし、ついついつぶやいたという様子で刀をたたえていた。


分からなくもない。あれは見惚れたくなるくらいに美しい。


「ゴブリンの刀は突然変異体のものならば、10万程で買取が行われます。が、貴女様方には危険なので、討伐しようとなさらないように。」


「10万?!」


刀に見惚れていたボクらに対して、ウサくんは説明してくれる。


討伐などとてもじゃないが、出来るとは思えない。しかし、あの刀は欲しい。買取が10万ならば、ボクらが手に入れるためにはもっと金を積まねばならないのか。


「あれは炎の個体だね?炎への耐久性がすごいものだよ?志貴さんならそれで作られたナイフとか何かしら持っているんじゃないかな?」


炎の個体。つまり、他の個体もあるのか?他の種類もあるのか?


それはぜひぜひ、見てみたい。触ってみたいものだ。


「………全種類あるかは分かりませんが、刀自体を術式の中にお持ちにございましょう。」


しっきーはやはり規格外だな。


見せてくれと言えばしっきーならば見せてくれるはずだ。遠足が終わったら頼まねばならないな。


「おそらく、志貴様ならば欲しいと言えば、見返りなくくださるかと。それはそれとして、ウサの美技に皆様、集中してくださいまし。ゆっくり動きますゆえ、皆様でも目で追えますでしょう。」


そう言うや否や、ウサくんはゴブリンの方へ進み出した。早い。歩いているように見えるが早い。






ウサくんとゴブリンとの戦闘はゆっくり動くと言ったウサくんの言葉を疑いたくなるくらいにあっという間に終わった。






気がついたら、突然変異体の周りにいたノーマルゴブリン達が肉片となっていた。何がどうなったかボクには分からない。


ノーマルゴブリン達が突然変異体の咆哮に反応し、ウサくんを攻撃しようと近づいたのだ。連携された動きのように見えた。が、突如動きを止めた。一瞬、動きが止まったかと思えば、いきなり、切れ目が入り、勝手に崩れていったように見える。


ボクにはウサくんがやったのであろうことしか分からない。どのように何をしたかは一切分からない。


ウサくんは崩れ落ちていくゴブリンには一切の興味を向けず、そのまま突然変異体に向かっていった。突然変異体は崩れ落ちていったゴブリン達を見て、ウサくんに叫び声を上げた。威嚇するような声。


あんなものを間近で浴びせられ、鬼のような形相で睨まれると中々の迫力がある。ボクには絶えられるか分からんな。なぜ、ウサくんは平気なのか。ボクにはわからない。経験の差か、実力の差か。


ウサくんは突然変異体に対し、動揺したりするでなく、立っていた。突然変異体とウサくんの距離、5メートルほど。あれは怖くないか。


どう他のゴブリン達を倒したかは分からない。しかし、今のウサくんは武器を持たない丸腰ーーーいや、何かを手に持っているか。


いつの間にウサくんは武器を取り出していたのだろうか。気づかない間にウサくんの手には槍が持たれていた。ウサくんの身長を余裕で超えている細身の槍。


ただ槍を持っているだけで、構える事なく突然変異体を見つめるウサくん。対して最大限の威嚇をし、武器を構えて今にも襲いかかってきそうなゴブリンの突然変異体。


先に動いたのは突然変異体のほうであった。




《キンキンキンキン》




突然変異体の仕掛けた攻撃をウサくんが弾き、ウサくんがすかさず突然変異体を突き刺そうとしたのを今度は突然変異体が弾く。何度も攻め合い激しい攻防を繰り広げる。


繰り返すようだが、ボクらが目で追えるようにゆっくりと動いてやるとウサくんは言ってなかっただろうか。あれのどこがゆっくりだというのか。


ボクには何が何だか分からない。とりあえず、ゴブリンとウサくんが目にも止まらない速さで攻防をし続けていると言うことだけだ。


ゴブリンは決して強い魔物ではない。一体だけならばボクも何とかできるだろう。だが、今目の前にいるゴブリンは違う。


ゴブリンにしては大柄なソイツはスピードもパワーもまるで敵う気がしない。突然変異体と言われるゴブリン達はここまで強いのか。


「突然変異体って、よく分からないけど、普通のゴブリン達がある日突然変異するんだよね?見た通り、ゴブリンの身体能力も飛躍的に向上するというか?それだけでもたまったもんじゃないのに、それだけじゃないんだよね?」


ボクらがウサくんを見ていると、ボクらより少し前に立ちウサくんを見ていたわんこくんが話し出した。


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