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167.心配になります


「君たちはこりす先生を侮すぎじゃないかな?実力差を測れなきゃ、危ないよ?」


ボクらの不満に対し、わんこ君は馬鹿にしたような声を出す。同僚を馬鹿にされ怒ったというよりは、明らかにおちょくってきている声だ。


仮面があるからよく見えないが、仮面の下から投げかけられる視線はボクらを値踏みするようなものであるように感じられる。


「あ?!あんなんで戦えるってぇのかよ?あんな頼りねぇ奴、桜花の後追わせやがって。桜花、大丈夫なのかよ?」


あべべが即座に異を唱えた。


文句を言い、しっきーが向かった先を心配そうに見るあべべ。ソワソワと落ち着きのない様子ではあるが、追いかけようとかする様子はなかった。


「今。他を心配する余裕が貴方様方にございますでしょうか?」


丁寧な口調でウサくんは問いかけてきた。


しかし、これはダメだ。


頭の中で警告音が鳴り響いている。確実にウサくんは説教モードに入っている。


ボクらのためとはいえ、本気で殺気がボクらに向けられ、高圧的に言葉を吐き出されるあの時間。ボクらに悔しいと思わせたいのか、辛辣な言葉が並べられる。


気分の良くない説教じみた話が始まるだろう。


「んだ「ゴブリンの突然変異種が近くにいるということがどういう事であるか、お分かりでしょうか?私どもがおります故、今は問題ありませんが、今後、ゴブリンの突然変異種に出会してしまった際には、ご自身しかいない場合もございます。今、貴方方がすべきは人の心配でございますか?いいえ。大変、恐縮ながら申し上げさせていただきます。生き延びるために貴方様方が今、すべきは自分達での対処法を学んで身につけるべきにございます。」


有無を言わせぬ威圧感。正解はこれ以外ないと師が弟子に教えるかのような絶対的な関係性があるくらいに、ボクらへは発言権が与えられていなかった。


いつになく一方的。いつになく強い口調で、ウサ君は言う。


「んなことは分かってる!!そうじゃねぇよ!あのヤローは桜花の足手まといになるんじゃねぇかって話を「だから無用な心配だと申し上げております。」


やはり、ウサ君はあべべの言葉を最後まで聞く事なく、あべべの言葉を遮ってぴしゃりと言うのだった。


有無を言わさぬ圧がある。いつものふざけた様子のウサ君は今、ここにはいない。


それでもなお、発言できるあべべは凄い。目があっただけでも身がすくんでしまいそうになる圧に負けずに話せるんだ、すごくないはずがない。しかし、今発言するのは良策ではない。


意見は通らないだろう。


「こりす先生は貴方様より実力もあります。経験もあります。問題ないとウサは判断致します。ウサと貴方様の判断ならば、ウサの判断に従う事が、今は間違いなく正解であると言えましょう。」


あべべは気に入らないと言う顔をしているが、ウサ君に気圧され、口を閉じていた。


チラッと視線を向けた先にいたカイさんが文句を言わず、おとなしくしていたのもまた、あべべを黙らすことにつながったか。


あべべ同様に暴れるだろう事が予測されたカイさんだが、おとなしい。汚物を見るかのような視線をウサくんに向けているが、しかし、それだけだ。黙って指示に従っている。


「皆様方、決して我々から離れてはいけませんよ?いい子にしていてくださいまし。先生方、皆様方をよろしくお願い申し上げます。」


そういうや否や、ウサ君は歩き出した。


それに続いてボクらも歩を進める。今は従う他ない。突然変異種が出たならばボクらは対抗できない。


対抗できるであろう、ウサ君やしっきーの判断に従う他ないんだ。どんな状況かすら、把握しきれていないのだから。


「カイさんが文句1つ言わないなんて意外だな。」


カイさんの横に並び、カイさんに話しかける。


しっきーを追いかけず。ウサ君にも異論を言わず。おとなしく従うなど、カイさんのキャラじゃないだろう。


「……桜花ちゃんが猫は足手まといって言ったのを覚えているかぃ?」


カイさんは表情を動かさず、無表情のまま、つぶやくように言った。


「ん?カイさんに言っていたな。」


確かにそのような事をチラッと言っていたはず。教員達を足手まといだとハッキリと言い切っていた。


そんな物言いができるのは、しっきーだけだ。見習いたいとは思わないが、さすがしっきー。良いことではないが。


「おぅ。他2人に対しては役立つか分からないって言いはしたが、足手まといとは言わなかっただろ?2人は足手まといにはならないって桜花ちゃんが判断したってことでぇ。」


……そうか。


にゃんこ君には足手まといとは言っていたが、他の教員達は足手まといとは言わなかった。役に立つかわからない。つまり足手まといではない、と。


しっきーがそう判断していたからこそ、カイさんは黙っていたのか。


「そか。じゃあ、桜花は大丈夫。」


「桜花の判断、か。」


カイさんの言葉を聞き、ざっきーやあべべが多少安心した様子だ。


ウサ君だけならば不安が残るが、しっきーも大丈夫と言うならば、少しだけ安心感がある。


「君たちは志貴さんを無条件に信じるんだね?とはいえ、ウサ先生達を侮すぎじゃないかな?」


クスクスと笑いながらわんこ君は言う。ウサ君もウサ君で考えていることが読みづらいが、わんこ君もまた、考えが読みづらい。感情が見えてこない。


いつだって楽しげに話す。それが、今の状況では嫌に不気味に感じられる。


この状況でも余裕綽々であり、笑っていられるのは少なからず、おかしいだろう。


「構いませんよ。目の前の魔物に集中してくださればウサはどのような扱いをされようとご褒美として受け入れましょう!」


説教モードから通常モードへ切り替えたウサ君は高らかに言う。


「きも。」


「アンタねぇ、油断し過ぎてやられたりしたら承知しないわよ?」


ゆずるんは優しい。


みんながこれから突然変異種を相手取ると言うウサ君をあまり心配していない中、何だったら、ざっきーが気持ち悪いと一刀両断しているこの状況で、ゆずるんはああ言いつつも、ウサくんの身を案じている。


「ふふ。心配してくださるんですか?大丈夫でございます。私、決して油断はしておりませんので。」


ふふふと笑う姿はいつものふざけたウサ君だ。なごやかではあるが、油断しているように感じられてさらに不安になる。


ゆずるんの心配が現実にならないと良いんだが。


「なぁ、カイさん。」


「あん?」


「ゴブリンの悪性とはどういうものだ?すまん、勉強不足で知らんくてな。」


皆が怪我をせずに済むためには、まずは敵を知らねば。油断するウサくんでは何かが起こりうる可能性があるからな。


ゴブリンには時々突然変異と呼ばれる他より強い個体が発生する事がある。それは普通のゴブリンが突然変異する事で発生する。予測は不可能と言われている。それくらいしか知らない。


ウサ君が出張る必要があるってだけでも、怖い状況だと分かるが、悪性とは具体的なところがわからない。


「突然変異体は悪性と良性に分けることができるんでぇ。悪性のがタチが悪く、周りのゴブリンたちが凶暴化かつ、強化される。周りに影響を及ぼす個体が悪性でぇ。」


つまり、周りのゴブリンに影響を及ぼすか否かということか。良性であれば単体のみが脅威だが、悪性ならば周りのゴブリンも影響を受け、凶暴かつ強化されると。


「そうだね?かつ?悪性の周りの方が新たな突然変異体が生まれやすいとされているね?」


さらりと言ってのけたが、驚きの事実だ。


しっきーが任された方は周りのゴブリン達に影響する上、突然変異体が生まれやすいと言うことだ。


「はぁ?!桜花は!」


まりりん、言ったところで仕方ないだろうに、ぶり返したな。心配そうにソワソワしている。


しかし、さすがにボクも心配になる。しっきーは大丈夫だろうか。


「今は自分の事に集中したら?良性でもランクDで下手したら死ぬからね?」


わんこくんは容赦がない。そう、危険なのはしっきーだけではなく、ボクらもなんだ。すぐ近くに突然変異体のゴブリンがいる状態。教員がそばにいるとはいえ、ボクら全員が足手まといなんだ。


しっきーより危険なのはボクらだと言われても、まさにその通りとしか言えない。


「こりす先生も一緒に行ってるんだ。桜花は心配いらねぇ。お前達も気ぃ抜くんじゃねぇ。オレらがそばにいるからって、万が一だってあるんだっぺ。」


軽々しく言ったわんこくんに対して、にゃんこくんはまりりんが落ち着くように気遣ってくれていた。


まりりんは心配そうにしたが、大丈夫だと断言され、安心はしきれないが、多少は落ち着いたようだ。

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