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164.遠足開始はドキドキです

ゆずるんに悔しい思いをさせてしまった。元を正せばボクのせいだ。これはボクが悪い。


「いいや。ボクもみんなが居るからと気を抜きすぎていた。知っていたと言うのにトラップ花の事を瞬時に思い出せないとは。」


トラップ花が分かっていたならば。感知系のスキルがあったならば。もっと慎重に動けていたならば。


ボクらは今、やれる事があったかもしれない。


何も出来ないのはボクらの実力不足が原因だ。不甲斐ないとしか言えない。


「悔やんでもどうにもならないし…次から気をつければ良い、と思う。」


「うむ!その通りでござる!拙者らも近くにいて気付けぬ失態!みんな、同じでござるよ。」


あぁ…ガミガミ達の優しい言葉にボクはうるっときてしまいそうだ。


こんな状況下でボクらなんかに気を使わせてしまうとは。ダメだな。しっかりせねば!せめて、気遣いだけでもかけないようにして、心労を減らす。それくらいしか出来ないんだから。


「そうですよ。いつまでも悔やんでいても何にもなりません。とりあえず、お昼の準備をしましょう。桜花さんが昼ごはん分も準備してました!温めるだけにしてくれてますよ!」


「よし!じゃあ温めて待つか!」


笑顔で提案してくれたムラムラの提案に乗っかる形で、ボクらは作業を始めるために動き出した。


下手にじっとしているより、動いた方が嫌なことを考えずに済むはずだ。


「はい!」


ボクらが作業を始めれば、チビ君はしっきーがいるであろう方向を向き、ゴロンと横になった。ボクらには完全に背を向けている。


守ってはくれても馴れ合う気は一切ないんだろう。とはいえ、チビ君をよこしてくれたしっきーには感謝しかない。


この中の誰よりも戦闘力があるのはチビ君だろうから。


チビ君の持ち主であるしっきーが最も経験も実力も知識も優れている。


そんな彼女はガミガミに煙が出る球を渡していた。ボクらの受け取った荷物にはなかったが、念のためにと作っていたらしい。


通信機器はボクらが作っていると言っていたが、原始的な方法でも連絡が取り合えるようにしていたんだ。


事実、今、連絡機器は使えない。


ボクらのミスで、だ。そうなる可能性もまた、予測していたのか。数多なる経験から念には念を入れたのだろうか。


今も、チビ君を先行して行かせ、自分達もまた、ボクらのもとに向かってきてくれている。


遠足が始まってから、助けられてばかりだな。遠足が始まる前から失態を犯していたボクやゆずるんのことを嫌な顔一つせず助けてくれている。


ボクは先々を予見して行動する事が一切できず、何度も失敗を繰り返している。情けない。ボクらは感謝しなければならない。ありがたい仲間達の役に立てるように努力しなければならない。


失敗ばかり犯して、役立たずでしかあれていないのに、見捨てないでくれるのはみんなが優しいから。当然の事だと皆の優しさにあぐらをかくわけにはいかない。


遠足開始時のような失態は繰り返すわけにはいかない。あの時を繰り返すのは武器師としてのプライドが傷つく。











◇◇◇


夜0時。


本来ならば、寝るはずの時間。


準備整えて、さぁ遠足に行こうってするような時間ではない。普通ならばありえない。


とはいえ、この時間に集まれって言われれば集まるしかない。集まらざるを得ないわけだ。拒否権などボクらにあるわけがない。


そんな時間に遠足は始まったんだ。


しっきーはいつも通りのように見えるが、他の面々は緊張感に溢れ、ソワソワと落ち着きなくあたりを窺っていた。


当然、ボクもだ。


戦闘能力はボクにはない。だが、皆の足を引っ張る存在になるわけにもいかないんだ。失敗は許されない。自ずと緊張で身体に力が入る。


「ふふふふふっ!この時間に皆様と集まりますと肝試しがしたくなりますね!ドキドキワクワクなイベントッ!高校生な定番ですよね!!」


なぜだか、ウサくんもまた、ソワソワと落ち着きのない様子だった。いや、ソワソワというよりはワクワクしているか。


普段のイベント時も賑やかしいが、いつも以上にテンションが高く、音量も大きい。


「うるさい。」


「夜に騒ぐんじゃないわよ。」


ウサ君がいつもより賑やかであると感じるのは、ボクだけじゃないらしい。


視線だけで人を射抜けるならば、すでにウサ君は穴だらけのレンコンのようになっていたことだろう。皆から睨みつけられている。


「辛辣!!!ウサは嬉しゅうございます!!遠足前にてピリついていますでしょうか?ふふっ!楽しんで参りましょう!ではでは皆さま方、いってらっしゃいませ!ウサとのラブラブどきどきな肝試しはまたの機会にいたしましょうね!!」


針山の上に立つような感覚になる空気の中でも、ウサ君は一切動じない。つまりはうるさい。


みんなが嫌がるであろうイベントを提示するのは、皆の空気が悪くなるからやめてほしいんだが。肝試しなど、誰も参加などしないだろう。


「しねぇよ!」


「僕、お化け役が良いです!」


「何でやる気満々なのよ…?」


即座に反応を示す彼らの漫才ちっくな会話がなければ、空気は凍り付いていただろうな。


テンポよく話す姿にほのぼのする。


「はいはーい。馬鹿の相手してないで行くよー。騒ぐと危険だから、お口にチャック!ね?」


しっきーはウサ君に対し、いつも通りーーーいや、いつもより辛辣か?ウサ君への態度や視線が冷え冷えとしているように感じられる。


イベントが始まろうとしている今、彼女もピリついているのだろうか?……いや、あのしっきーが?イベントがあったってソワソワしたりせずに、冷静でいる彼女が遠足に緊張しているのか?


この中で誰よりも経験豊富な彼女が?


「馬鹿とは何事でございますか、志貴様?私は貴女様方のへんたーーーいやいやいや!皆様のウサに何を言わすおつもりですか?」


辛辣な事を言われても、気にも止めていないウサ君。いつものノリでオーバーリアクションを返す。


しっきーのいつも以上に辛辣な様子がウサ君は気にならないーーいや、理由がわかっている、ということか?


意外とウサ君はみんなを見ているからな。


もしかして、本当にしっきーも緊張していて、それをウサ君が察して気をほぐすためにふざけているのかもしれなーー


「"黙れ"なぁんにも言わすつもりはないよー?わざと騒いで何を呼び寄せてるのぉ?仲間を危険に晒すクズはーー私はくたばれって思っちゃう♡」


しっきーはわざとらしいくらいに綺麗な笑みを浮かべてウサ君に言う。ぱっと見は可愛らしい笑み。だが、その実は違う。


口調も穏やかなんだが、目が笑っていない。綺麗な笑みなだけに迫力があるな。ウサくんに躊躇なく術式を使う様はいっそ、清々しい。


いや、それよりも。




ーーー"何"を呼び寄せている?




そうしっきーはウサ君に聞いたか?


ウサ君がわざと騒いでいるということだ。そして、それをする事で何かを呼び寄せているらしい。


ウサ君が故意に呼び寄せているもの。その答えは十中八九、"魔物"だろう。


綺麗な笑みを浮かべてウサ君を見るしっきーの目が、まったくもって笑っていないのは、ウサ君が呼び寄せている物が理由だったか。


「"解術"遠足はすでにはじまっております。ウサはとうに、始まりを告げましたでしょう?たとえ我々の声につられて何かが来たとしましても、気を抜いていた貴女方の落ち度かと。」


コテン。


軽く頭を傾げ、ゾッとするくらいに冷たい声を出すウサ君。首筋に刃を突きつけられたかのように、ボクの背に嫌な汗が流れる。


彼は時々、こうしてボクらを脅しにかかる。


"鍛えるため。"


そういう名目上で行われているからか、一切の容赦がない。それぞれ、表情を凍らせ、顔を引きつらせ、身を固くしている。


しっきーもウサ君も、普通に会話中に術式を使うのだな。挨拶がわりに使うようなものではないぞ?どちらも使っているのはレベルの高いものだしな。


「仲間を危険に晒すような馬鹿はくたばれって思っちゃう♡仲間を大切にできないなんてゴミ屑よなぁ〜?」


「にゅー?」


それぞれが緊張する中、しっきーは緊張感のない声色で、自身の武器と話し出す。


チビ君もチビ君で、くわぁーっとあくびをしながら、しっきーの肩でくつろいでいた。緊張感のかけらもない。そんな様子で主人であるしっきーに相槌を打っている。


ウサ君がどんなに殺気だったところでチビ君は見向きもしない。魔物を見れば襲いかかると聞くが、その違いは敵か否か、だろうか。


どんなに脅しにかかられたところでウサ君が本気でボクらに危害を加えることはない。ゆえにしっきーからの指示がない限り、敵にはならない。


だからなのか、ボクらが身構える状況でも気にせず無視ができると見える。


そこまでにチビ君はウサ君が敵ではないと信用しているようだな。


いや、あるいはしっきーやチビ君には本気で襲われても対処ができるだけの力があるからこそ、警戒するに足らないだけかもしれない。


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