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162.ピンチでしょうか?

◇◇◇ユキside◇◇◇


がんばって見せると思った矢先だったんだがな。失敗してしまった。……うん、仕方ないな。こういう時だってあるさ。


戦闘員として登録はしているものの、武器師であるボクは現場に出ることは少ない。現場経験が全然ないんだ。武器師としての技術を磨くべく術式の技を磨いてきた。師匠のもとで学んできた。だが、魔物相手に戦闘員として戦った経験はほとんどない。


武器師は戦闘の場には出ず、安全圏から戦闘員達を支えることもできる職種だ。


だが、しかし。


現場にいて、その場で武器の整備ができたほうが、より戦闘員の助けになれるだろう?多くの命を救いとれるだろう?


ただ、それは実力があってこそだがな。


ボクは戦闘員として何とか登録はできたものの、戦闘員としてのランクだって低い。だから、今回だってーーーいや、それらは理由にはならないな。


気を抜きすぎて、かつ、はしゃぎすぎてしまった。次からは気をつけなければならない。ボクは足手まといの問題呼びになるために来たわけじゃないんだから。


まぁそれはともかくとして。


何があったか、端的に示してみれば、単純で。つまりはしっきー達とはぐれてしまったわけだ。


「………トラップ花、か。」


起きた事を振り返りつつ、原因を呟く。今更ながら思い出した。そばにいたゆずるんが反応し、ボクの方を見た。


「触れることで対になって生息する花の場所まで飛ばす花ね。一回限定の転移装置が作れるわってそうじゃなくて!ユキ、アンタねぇっ!もう少し用心深く動きなさいよっ!」


ゆずるんもボクも武器師見習いとして様々な武器を作ってきている。ゆえに武器の材料となるものに対する知識はつけている。


が。


2人揃って、トラップ花について、知ってはいるがこれは何だったかと、ど忘れをしてしまい、ついつい触れてしまった。


何となく触れてしまったんだ。不用意に触れたらダメだと分かってはいたはずなのに、なんとなく触れたくなったんだよな。魅惑の香りでも出しているのだろうか。


そして、今がある。


みんなでトラップ花の力により転移をしてしまった。はてさて、ここはどこなのだろうな?


「トラップ花で転移するなんて中々出来ない体験が出来たな!」


中々出来ない経験だ。実際ならば死ぬリスクがあるから、こんな呑気にしている場合ではない。


が。


ここはおそらくはワクワク学園の敷地内。ウサくん達の管理下にあるはずだ。絶望的な状況には至らないだろう。魔物の姿もない。


もしも何かが起ころうとも、どこからともなくウサくん達が現れるはずだ。


でなければ、ボクらは最悪死ぬ。


「ユキッ!!」


ゆずるんはカリカリしすぎだな。ボクを鬼の形相で睨むが、迫力大だ。


確かにボクが100%悪い。叱られるのも仕方ない。言い返す言葉はない。


「まぁまぁ、落ち着いてください。起きちゃった事は仕方ないですよ。」


赤鬼の仮面を付けているかのように顔に怒りを浮かべるゆずるんをムラムラが止めにかかってくれた。宥めてくれるのは助かる。


「おー!さすがはムラムラだ!そうだ、過去は変えられんのだから仕方ない。さて、今後どうするか、だな。」


「アンタねっ!少しは反省しなさいっ!」


話を進めようとすれば、ゆずるんに一喝された。カリカリは中々治りそうにない。


だが、話を進めねば。


「ここはどこなんでしょう?」


「知らない場所に来たって可能性も、ある…よね?」


「どこまで遠くに飛ばせるんだったでござるか…」


「それは分かっていないはずだ。確か、残っている記録によれば他の大陸まで飛ばされた例もあるんじゃなかったか?」


ざっきーやさっくんも、話を進める方向で話し出してくれたため、ボクは2人の話に乗っかる。


ゆずるんは良い足りないという顔をしていたが、言葉を飲み込む。空気を読む、その姿勢は大好きだ!


トラップ花といえば、飛ばされた例は奇跡的にその地の人に出会い、運良く保護してもらえ、本国に帰宅できたが。


本当に運が良いとしか言えない。


腹を空かせた魔物の巣に転移してしまい食べられてしまうことだってあるのだからな。


「………さっきまで思い出せなかったのに、飛ばされた後に思い出したくない情報ね。」


あからさまにゆずるんが顔を顰めた。


ま、だよな。


トラップ花に触る前に思い出したかった。後悔先に立たず。こういうときの言葉だな。


「ここがどこか把握する必要がある。が、どう把握するか。」


キョロキョロ周りを見渡すが、やはり、ここが何処かは分からない。どこであるかを示すものはない。しかし、どこであるかを知るために、闇雲に動くわけにもいかない。


ガミガミはゴソゴソ荷物を漁っていたと思ったら、何かをカバンから取り出した。


「ん?それは?」


丸い物質。3センチくらいのカラフルな玉だ。様々な激袋などをしっきーたちからもらったが、あれもその一つだろう。しかし、あんなもの、あったか?


「志貴さんと作ったやつ。見える範囲にいてくれれば、こっちの場所が分かるはずだから。」


「魔物避け成分も練り込んでいます故、我々の安全確保にもなるはずでござるよ。チビ氏も、匂いに気づくと志貴氏はおっしゃっておられた。」


言うや否や、球を投げた。


球は地面にぶつかり破裂すると、もくもくと煙を上げる。青い煙幕からは独特な薬品の匂いがする。


「たしかに不思議な香りがしますね!………あ、見てください!あっち側から同じようなのが上がってますよ!!」


ムラムラが指し示す方を見れば、確かに同じような煙が上がっているのが見えた。


向こうも向こうで、こちらに場所を知らせるために投げてくれたのだろう。助かる。


「良かった…島からは離れてないんだね。」


煙を見て、ホッとした様子だ。そこまで近い位置ではないとは言え、視覚的に目視できる程度の距離にいると言うのは安心だろう。


なにせ、ボクやゆずるんはまともに戦闘は出来ないし、ムラムラもまた、スナイパーとして優れていても他はボクらと良い勝負だからな。


何かがあり、戦わねばならないとしたら2人が戦う他ないと言うことだ。その緊張は計り知れない。


「ッ?!何か聞こえるでござる!!」


安心を露わにしたのも束の間。


さっくんは目を見開き、顔を青ざめあたりを見渡した。


「え?こ、これ…魔物の声ッ!?」


さっくんの声にガミガミもまた、すぐに不安そうに顔をしかめ、あたりを見渡している。


ゆずるんも身体を固くし、緊張した様子で2人の様子を伺っている。


ムラムラだけが通常のごとく、ポヤーンとした様子でみんなを見ていた。


耳をすませば、確かに何かが近づく音がした。


「近づいて来ますぞッ!」


やや上擦った声でさっくんは叫ぶようにボクらに言った。


「え?!ど、どうしよッ…さ、さんッ!3人とも、かッ、隠れッ!?」


明らかに動揺した様子のガミガミ。不安そうにしながらも、ボクやゆずるん、ムラムラへ視線を向けていた。


隠れるように言いたいようだが、隠れる場所もなければ時間もない。


音はもうすでにそこまで来ているようであり、何かの姿が近づいているのが見えた。目視できた。


ボクよりもいち早くそれに気づいたガミガミは顔を青ざめ震えながらもボクらの前に立つ。


さっくんもガミガミの横に並んだ。


「に、逃げて…。」


か細い消え入りそうな声でそれだけ言う。


さっくんもガミガミも2人とも足がガタガタだ。


だというのに、ボクらに逃げろという。


ボクが不用意に触れたがために飛ばされたというのに。


ボクらは武器師としての役割すらまともに遂行できず、キミらにより一層危険を与えたというのに。


それでもキミらはボクらを生かすために動いてくれる。




ーーーあぁ、なんてキミらは。




逃げるわけにはいかない。


何かないか。考えろ。考えろ。


ボクにできる事を。絶望の中にも何かあるはずだ。ボクにできる何かが。諦めるのは簡単。だが、あきらめずに頑張る者が救われるんだ。


考えろ。


何か出来ることがあるはずだ。

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