157.秋明と桜花の喧嘩のお話です
私は黙って武器を構えた。無心武器である銃だけど。静観していたチビも私の近くまでやってきて待機する。低く身構え、牙を剥き出し、いつでも変態野郎に飛び掛かれる体勢を取っている。
ヤンキーくん相手にだったら出す気もなかった武器を変態野郎に向ける。ま、単なる脅しでしかないけれど。
本気で変態野郎ごと攻撃するなら、すでにしているし。間を置く必要はない。
「戦闘員の私的な喧嘩に非戦闘員である貴方が口出すつもりなんですか?こういう馬鹿は徹底的にトラウマを植え付ける必要がある。とりあえず、潰すとこからしないとな。」
「どこをでございますかっ!?……志貴様、やりすぎにございます。ここはウサに免じて引いてくださいまし。」
どこをってどこを潰して欲しいんだよ、マジ変態滅びろって思っちまうでしょうが。
なんでテンション上げているのかとか絶対聞きたくない。理解したらいけない世界には足を突っ込まないんだから。
ここは自分に免じて引けって言うなら変なテンションで寄ってきたらまずいだろうって考えれば分かるだろうに。
変態野郎は分かっててやっているんだろうけど腹立たしい。
「やだ。どいてください。」
「承服致しかねます、志貴様。阿部様はすでに動けない状況。貴女様方の安全の確保もまた、私の仕事にございます。ゆえに、貴女様から阿部様をお守りすることも、このウサの仕事にございますよ?」
珍しく真剣なトーンで言う。
先程のふざけたノリは引っ込められた。
はじめからこのノリで来いとか思わなくもない。まぁ、そうしたとしても、聞き入れたくはないけど。
「殺しはしない。戦えんようにもしない。もうちょい痛め付けて、トラウマを植え付けるだけ。たいした怪我はさせずに痛みを叩き込む。多少なら治せるから平気。治して傷つけてを繰り返せる。なんならポーションだってあるし。ほら、2、3本使っても問題ないから惜しみなく使ってあげちゃう。ねぇ、チビ?」
「にゅぃっ!」
チビは元気よく返事をする。
身体を動かしたいとチビはうずうずしている様子だ。
「なりません。志貴様、チビ様、お止まりくださいまし。」
「やだ「桜花ちゃん。」
変態野郎と言い合っていたら、お兄さんに呼ばれ、腕を引かれた。
近づいてきていると思ったけど、腕を掴まれるとは。
「それくらいにしといたらどうでぇ。良い子だからこっちに来な。」
呆れた様子でお兄さんは言う。まさか、お兄さんが止めに掛かるとは。静観に徹すると思ってた。
「良い子じゃないし。」
お兄さんに腕を掴まれたんじゃあ動けないか。
いや、まぁ…
それ以前に変態野郎が来る直前に来た2人が動き出したのが見えたから止まるしかないんだけど。
「ちょっと!!やりすぎよ、桜花!!」
「ゴホッゴホッ」
「あ、阿部さん?!治療します!!」
部屋には入ってきていたけど、何が起きているかは分からず、呆然と様子を見ていたマリとカナちゃん。
2人が変態野郎やお兄さんが動き出したことで、我にかえり、動き出しちゃった。
「意識飛ばないように手加減したし。しっかり最大限痛み感じるように痛いとこ狙ったけど、意識飛んでないし、さして怪我もさせてない。」
「全く。おてんばが過ぎるんじゃぁないのかぃ。」
私が頬を膨らませて言えば、呆れた様子でお兄さんは頭をポンポン撫でてきた。
ちゃんと手加減までしたっていうのに。おてんばって言われた。解せぬ。
「おてんばって言葉ですますの?!さしてっていうけど、いろんなとこにいろんな場所ぶつけてたわよ、アイツ!?破片だって刺さっているじゃない!!!やりすぎよ!!」
マリがお兄さんの言葉に目をカッと見開き、ヤンキーくんを指差し、物すごい勢いで言ってきた。
「戦闘員だし、あれくらい平気だもん。刺さったって言ったって、そんなの知らないもん。私だって鉄パイプで殴られそうになったもーん。私は阿部の凶暴顔が怖くて必死にやり返しただけだもん。怖くてたまんなくて必死に抵抗しただけだもん。正当防衛ぇ。私、悪くない。」
喧嘩売ってきたのはヤンキーくんだし。手加減したし。私、悪くないもーん。
「もんって…アンタねぇ…」
「あーあー…拗ねなさんな。」
「むー…アイツから殴ってきたんだし。私だって殴られたし。3発しか入れてないし。鉄パイプだって直撃しないように注意してたし。アイツだって攻撃、2発入れたじゃん。私、1発多くやっただけだし。レディース割きかせて一発多くやったっていいじゃんかぁ。」
呆れる2人に言えば、ますます呆れられた。むぅ…少し手を上げただけだってぇのに気に入らない。
「桜花ちゃんが強くて素敵な子だってぇ事はよぉく分かったから、落ち着きな?」
「落ち着いてるし。お兄さん、私が阿部と喧嘩しよって時、静観してたし、知ってたんじゃないの?」
「勝ち目なく喧嘩は売らねえだろうなぁって、思っただけでぇ。前も阿部を挑発して暴れようとしてただろ。前に魔物との戦闘した時の動きは只者ではない気ぃしてたんでぇ。」
「ただの戦闘員だけどー?」
「そうかぃ。」
んん。
お兄さん、困ったように笑いつつ、私の頭を撫でているけども。
私のただの戦闘員って言葉、受け入れてないね?私は君らからすると多少強いだけでただの戦闘員でしかないから。君らが経験なさすぎるだけだから。
まぁ言っても仕方ないか。
「………とりあえず、阿部?お前の負けなんだしおとなしくしとけよ。2発も受けてやったのにもかかわらず負けた負け犬は吠えずに静かにしろよ。」
「んだと?!ーっ!?」
カナちゃんから応急処置を受けていたヤンキーくん。横になっていたのを勢いよく起き上がったわけだけど、痛みに悶絶している。
大袈裟だなぁ。
何だったら治療すらいらないくらいの軽症しかしてないし。大怪我はさせないように術式かけてるっての。
「そんくらいで大げさだなぁ。カナちゃんに感謝しろよー?その程度に治療してくれるなんて、マジ天使だよねぇ?みんなにも感謝しとけ。お前、三人に守られて、カナちゃんに怪我直してもらってやっと動ける状況だって分かってる?自分から喧嘩売りに来といてダサすぎるよね?だっさいだっさい。んなザコが偉そうにイキってんな。目障りだ。」
捲し立てるように吐き出せば、ヤンキーくんは顔を真っ赤にさせた。タコのように真っ赤な顔で鬼のような表情をしている。
というのに、迫力がなく一切恐怖心が湧いてこない。雑魚感しか読み取れないって残念な子。
「稲盛様はたしかに天使のように尊くございますっ!!しかしながら、志貴様?治療はすべきにございましょう。志貴様は大丈夫なので?」
今にも襲いかかってきそうな様子のヤンキーくんと私との間に立ち、私の方を見る変態野郎。
「怪我してるように見えます〜?」
無傷なのを知っているだろうに何が言いたいのやら。
「いえいえ。では、喜藤様。志貴様をお連れください。ゆっくり休ませてあげてくださいまし。」
変態野郎は私の肩に手を置くと、お兄さんに声をかけた。
んん?
これは再度喧嘩になりそうなうちらを止めにかかるために動いたな?
「………お兄さんは私の飼い主かなんかか。」
「ま、違いねェや。ほら、行こうぜ?」
お兄さんはすごく自然な動きで私の肩から変態野郎の手を叩き落とすと、私の手を引き歩き出した。
「むぅ〜。疲れた。寝る。お兄さんの部屋、占領してやる。」
「桜花ちゃんが望むなら添い寝くらいしてやらぁ。」
にぃと笑いつつお兄さんは言う。
「………これは発情ものだねぇ、桜花さんハァハァなっちゃう。」
「にゅぅ?」
変態野郎じみた事を言っておちゃらけてみせたら、チビが瞬時に半眼になって睨んできた。
チビさん、お固く、ガードが強いのよね。
「え〜?だってイケメンだよ?良いじゃん。興奮だってするじゃん?寝顔見放題よ?」
「にゅぅ〜…にゅぅ。」
「いやいや。チビさんは待機よ?さすがにねぇ?イケメン兄さんよ?」
「にゅっ!」
「ダメかぁ〜…。」
冗談にも真面目にダメだと答えるチビさん。チビさんは私の魂から生まれた私の一部なわけで。
私の真面目な貞操概念あたりは全てチビに持っていかれたんじゃないかしら。不真面目なとこを全て残されちゃったんじゃないかしら。
多少、不真面目なとこを持っていけば良いのにとか思っちゃうね?
「桜花ちゃんの守りはかたいねぇ。」
「だねぇ…お兄さんには破れんねぇ。」
「いつかは破ってやらぁ。」
「にゅあん?」
「ハン、負けねぇよ。」
「とりあえず、今日はお兄さんが一緒に寝てくれるんだよね。」
「……にゅ〜?」
「はいはい、チビも一緒ね。」
「………3人一緒なら良いのかぃ?」
お兄さんやらチビやらとワイワイ話していたら、物すごい勢いでなにかが腕に絡みついてきた。
「ふしだらよ!!」
絡みついてきたものはやはりカッと目を見開き叫ぶ。さっきのヤンキーくんより迫力がある。妖怪かなと思うくらいに怒気を孕んでいて恐ろしい。
まぁ絡みついてきた何かはマリなわけで、怒っているけど怖くはない。
つか、力ばかりあってちぃとばかり痛い。クラス1番の馬鹿力だね。
「え〜?マリ、おかた〜い。」
「おかたいじゃない!!」
この出来事で気持ちはスッキリはしなかったけれども。
多少、ヤンキーくんが大人しくなったんよな。
やったね。
今年もお世話になりました(´∀`=)
いつも読んでくださっている皆様には感謝感激にございます
来年もどうぞ、よろしくお願いします(。・ω・。)




