149.悪のりです
秋明の付け足した言葉は小さかったが、しっかり悠真まで届いていた。
悠真は秋明の言葉にどう反応したら良いか分からず戸惑いを隠せない様子で秋明を見ている。
何とも言えない空気が2人の間にあった。
「心配したぜ、このやろう。元気そうで安心した。迷惑かけちまってすまねぇな。次はもっと頑張るからよろしくな⭐︎と、秋明君は言っています!ツンデレさんなんです!」
目を丸くした悠真に、はいはーいと手を上げつつ朗らかに発言したのは樹里。楽しそうにニコニコ笑っている。
歯痒い空気を見事にぶち壊して見せた。
そこに悪意はない。1ミリもないのだ。というよりも、ないからより一層、たちが悪いとも言えた。悪意があれば殴り飛ばせるが、善意となると殴りにくい。
「誰が言った?!」
照れ隠しも含めてトンチンカンな事を言う樹里に秋明は絡む。
それを見抜いているのかいないのか。樹里は変わらぬ笑顔を秋明に向けていた。
「秋明君がですよ?照れなくても良いじゃないですか。あと、言い方は大切ですよ?可愛らしく言いましょ?」
般若のような顔に対し、えへへぇと笑える樹里は感覚がおかしいはず。心臓に確実に毛が生えている。なぜニコニコ笑えるのか。
「照れてねぇし、俺はんなこと、言ってねぇよ?」
秋明はにへらぁと笑っている樹里に物凄い眼光を向けた。が、当の樹里はへらへら笑ったままであった。
「まぁまぁ?とりあえず、食事を摂りながら、話すとしようか?」
不穏な空気を撒き散らす秋明にわんこ先生は声をかける。
間を取り持つ姿は教師らしくーーーなんてことはないだろう。単に彼はお腹が空いているだけだ。早く食べたいと、わんこ先生は料理を見ていた。
「だな。ボクはしっきーに聞きたいことがある。」
料理の方に近寄りつつ、ユキがわんこ先生の言葉を肯定すれば、他も食事をしようと集まってきた。
腹は減っている。まだまだ体も疲れており、休息をもとめている。食事を摂り、ゆっくり過ごす事が必要なはずだ。
「私も。」
自身も聞きたいことがあるのとツバサも便乗し、ススッと桜花に擦り寄った。
桜花はコテンと頭を傾げ、ユキやツバサを見たが、今は食事の準備だと動きはじめていた。
「食事は準備できておりますよ!ウサが、このウサが心を込めて盛り付けております故、お楽しみくださいまし!」
皆が食事を摂ろうと動き出したとこにウサは言った。それは皆にとっては爆弾を投下されたような気分になるようなものだった。
ピシッと皆が分かりやすく固まった。動きを止めた。そして、食べて大丈夫かと料理を嫌そうに見つめる。
「作ったのは私だし、ちゃんと変態は見てたから安心してお食べ。」
桜花がそう言わなければ手を伸ばさなかったかもしれない。
桜花の言葉で、皆が再度動き出した。
「皆様の愛が厳しい…ッ!」
皆のリアクションにウサは芝居がかった動作で何かを訴えかけるが、それに反応する者はいなかった。
生徒達はみんな、ウサなど無視である。
「変態達もさっさか食べなよー。」
桜花はウサのシクシク泣く動作に何かを言うでなく、座るように促した。
桜花は先生たちの分まで食事を準備したようだ。
「…………わんこ先生、にゃんこ先生、皆様方のそばで先にお召し上がりください。私、ちょっと席を外します故。」
教師分もあるよぉといった桜花にチラリと視線を送ったのち、間をたっぷりあけて、ウサはにゃんこ先生やわんこ先生を見た。
「了解だっぺ。」
「意気地なし用に弁当準備したから持っておゆき。」
ウサの言葉にわんこ先生はこてんと頭を傾げたが、にゃんこ先生や桜花は了承する。
ウサがそう言うと分かっていたのか、弁当を桜花は差し出していた。
「…………志貴様はお優しい。」
素直に騒がず大人しく弁当を受け取るウサはつぶやくように言った。
珍しく、しおしおしい。
「惚れ直しちゃいましたぁー?」
「ウサは惚れ直しなどできぬほどに志貴様に惚れておりますよ⭐︎いつでも愛しております♡」
いや。
弱々しくみえたのは一瞬。桜花が茶化せばすぐに普段通りのウサとなっていた。
「戻ってきてから食えば良いだろうに、あんなん作ったら調子乗っちまうぜ?」
気に入らないと魁斗は言う。眉間にシワを寄せ、ウサを睨め付け、桜花に注意を飛ばす。
「変態はみんなの前で仮面取るの怖がってるから。みんなの前じゃあご飯食べらんないの。」
「んなに醜い顔、してんのかぃ?」
まぁまぁとなだめにかかった桜花を魁斗は見る。
仮面を取るのを恐れるほどに酷い顔なのかと。たとえそうであったとしても本人の前で聞くべきことではない。
「ん?んん…えー…変態の顔は……別に醜いとか思わないけど…ん〜ブサイクかな?」
困る質問をされ、桜花はわんこ先生やにゃんこ先生に問いかけた。
ぶさいくかどうか。
本人の前で聞くなと言いたくなることを桜花も問いかけた。
「それなりに整ってるんじゃないかな?顔を隠すためもあるだろうけど?ウサ先生は顔の造形を気にしてるわけじゃないよ?」
にゃんこ先生が本人の前でする話ではないと叱る前にわんこ先生が問いかけに答える。
「じゃあ何を気にして仮面なんて付けてるのよ。て、あんた達は外すのね。」
マリが話している間にわんこ先生が仮面を外し、それに続いてにゃんこ先生もまた、仮面を外した。
どこにでもいそうな人相が露にされていた。普段、仮面を外さないからこそ、新鮮である。
「外さなきゃ食べられないから?外しちゃダメなものではないしね?」
生徒たちからの視線が集まるのを気にする様子もなく、わんこ先生は手に持っていたお面を振りながら言った。
普段から付けてはいるが、外してはダメというわけではないらしい。
にゃんこ先生もまた、外した仮面を自身の荷物の上に置いている。
「ふーん。で?何でお面なんざ付けてんだよ。」
秋明はウサの腕を掴みつつ、問いかけた。
普段は触れようなどと決してしない秋明だが、今は絶対離さないという意思が感じられる程度にしっかりと腕を保持していた。
「取って良いなら取って食べてったら?せっかく、桜花が作った。みんなで、食べよ。」
阿部が投げかけた問いかけの返事も待たずにツバサは阿部と逆の腕側の袖を掴む。こちらも握力いっぱいいっぱいにウサの袖を握りしめた。
「そうよね。それ、外しなさいよ。」
そして、正面にはマリが立ち、仮面に手を伸ばす。
見事な連携。照らし合わせたかのように3人は自然な動きで連携してみせていた。
「私が嫌がると分かった瞬間にこれとは。皆様の愛がウサは痛うございますよ?」
「観念しやがれ。」
変態野郎は両腕掴まれた状態で器用に身体を動かして、みんなから伸ばされる手を避けまくっていた。必死に仮面を死守している。
「日頃から皆様に愛を注げておりますッ!と、本気でとりにかかろうとなさるとはッ!ウサは!!ウサは皆様にこんなにも愛されてるとは!!ッ!!」
まだ話す余裕があるのか何なのか。話しながらも身体を動かし続け、3人から伸ばされる手を避け続けていた。
「皆さん、さすがにそれはッ!止まってください!」
「良いんじゃない?テンション高くしてるし。近づくと危ないわよ。」
オロオロと佳那子がウサをかこう3人に声をかけるも、3人は止まらず。
止めようとしていた佳那子を結弦が止めた。近付くのは危険であると。




