146.話してくれます?
マリは自身の武器に話す。今まで言わずにグッと自分の中に溜め込んできた思いを吐き出していく。何の反応もない、猫のデザインのそれに胸の内を吐露していく。
そこにどんな子がいるかは分からない。しかし、有心武器であると皆が判断したのだ。なんかしらの人格を持っているはず。とにかく、マリは気持ちをぶつけていった。
「ふざけた見た目しすぎなのよ。本当に使えるわけ?戦えるわけ?有心武器ってのが間違いなんじゃないの?」
最終的にはぶつぶつとマリが愚痴というか文句を言う形となっていた。
自身が使い手だと発覚してから使い続けた武器であり、付ければ、自分の拳が武器に包まれるため拳が傷付かず、助かっている。しかし、やはりカッコ悪い。カッコよくありたいのに、見た目はなんとかならないのか。
いっそ、猫の部分を外してやろうかしらってマリは物騒なことをつぶやき始めた。
《ウチはカッコつけるつもりなんてないから良ぇの。》
ふと、声が聞こえた。その声は頭に直接響いてくるようにして聞こえてきているようだった。
お琴の音のように高く綺麗な声。独特な話し方が耳につくがそれさえも魅力に感じられた。
「え?」
一方的に言い募ってはいたものの、返事などないと思っていたマリは、つい、ポカーンとしてしまう。
目をまん丸くして、あたりを見渡す。
が。
分かってはいたが、当然周りに声の主の姿はない。
この声って…!?
マリは自身の武器をバッと勢いよく見た。マリの見る先にはいつもと変わらない武器の姿があった。
先ほどの声。女性の物のように高い綺麗な声。ソプラノを歌わせたら美しい事だろう。そんな声がたしかに聞こえたはず。
あれは。
あれは、自分の武器から聞こえた気がする。マリはじぃーっと穴が開くんじゃないかと言うほどに自身の武器を見つめた。
《ウチは喜ばせたいん。笑顔にしたいん。そのためにウチ、生まれてきたんよ。》
やはり。
やはり、自身の武器が話している。ふざけた見目をしているメリケンサックから声が聞こえていた。マリ同様に気の強そうな声が聞こえる。
今まで一切、聞こえなかった自身の武器からの声が、今は聞こえている。
「あんた…アンタが話してるわけ?」
マリはまだ、自身の武器が話していると言う現実が受け止めきれず、半信半疑で武器に問うた。
確かに武器から聞こえた気がするが、それで合っているのかと。まだまだ不安は消え去らない。ゆえに聞く。
《ウチの名前はにゃんパンチ。あの子を笑顔にするために生まれたん。よろしく、真里。》
マリの問いかけに対し、メリケンサックである、にゃんパンチは答える。
いや、質問に対する解答はなかった、か。代わりに自己紹介が来た。よく分からぬ自己紹介。
あの子とはなんだ。
「え?」
思った返答ではなかったため、マリはポカーンと口を開けて、にゃんパンチを見てしまう。
呆けた顔で拾い集めた枝を落としてしまう。
《あの子の笑顔をウチは守りたいんよ。それがウチの存在意義なん。あの子、寂しがりやなのに今、一人ぼっちなん。寂しそうなんよ。かわいそうに。》
呆然とするマリに武器は好き勝手話出す。マリと会話をするつもりはないようだ。
おしゃべりな雰囲気はあるが、言葉のキャッチボールはせず、一方的なマシンガントーク。自身の想いを言葉にしてひたすらマリにぶつけていく。
「は?あの子?え?」
マリは話についていけず混乱してしまっていた。
それを気にするにゃんパンチではない。
《やっと真里がウチを見てくれたん、嬉しいわぁ。これであの子のために頑張れるな?あの子のために頑張ろな。護衛騎士なんかに遅れを取ったらあかんよ?》
「はぁああああああ?!」
本当、にゃんパンチは好き勝手話す。
マリの声になど、耳をかさずににゃんパンチは話してきた。武器からの声であり、視線などはないが、おそらく、にゃんパンチはマリを見ずに話していることだろう。
コロコロと鈴を転がすような軽やかな笑い声が憎たらしい。
「ん?どうしたのかな?僕らにばかり働かせて武器と対話は上手くできた?それとも失敗したのかぃ?働かずにいたのに?」
マリが大声を張り上げたところでひょこっと木の影から顔を出し、わんこ先生が近寄ってきた。
言い方は嫌な言い方ではあるが、マリのことを気遣ってそばで見守っていたのだと思いたい。だから、すぐそばにいて、マリが奇声を上げたタイミングで即座に来れたのだろう。
「へ?!ちゃ、ちゃんと枝だって集めてるわよッ!て、それより、にゃんパンチ?!あの子って誰よ?護衛騎士って??」
マリは武器と対話していたのがバレ、ドキッとしてしまうが、それより今はにゃんパンチだ。訳わからないことばかり言っていた。
マリは慌ててにゃんパンチに叫ぶように聞く。
が。
にゃんパンチはすんともうんとも言わない。返答がない。好きなことだけ言って、会話終了のつもりらしい。
「何とか言いなさいよぉお!」
マリの声は虚しく響く。
いつものように無反応な武器が腰にあった。先ほどの声が嘘だったかのように反応がない。
「にゃんパンチっていうのが名前かよ?」
秋明はご乱心なマリに聞く。乱れるマリの様子は言ってしまえば通常運転。あまり、気にするつもりもないようだ。
マリは気に入らないとにゃんパンチへ視線を向けたままうなずく。
「そうみたい。そう言ってたから。好き勝手話すだけ話して、黙りとか何なのよ。あの子のために作られたとか護衛騎士に遅れを取るなとか訳わからないわ。誰よ、それ。」
訳わからないことばかり話したわとマリは言う。むしゃくしゃする気持ちをとりあえず吐き出す。言葉にして愚痴を言えば少しは気持ちが楽になった。
「あれ?護衛騎士といえば…。」
ご乱心なマリに苦笑していた樹里はふと、頭を傾げて、自身のそばにいた魁斗を見上げた。
護衛騎士という名には聞き覚えがあるがゆえの行動だ。いつだったか、魁斗が自身の武器の名をそう言ってなかったか?
「喜藤君の武器の名だね?」
樹里の言葉を受けつぎ、わんこ先生もまた、魁斗に視線を向けていた。
「え?あ、そういえば。」
訳がわからないとご乱心ではあったが、周りの声が聞こえていたマリも、魁斗を見る。忘れていたが、そういえば魁斗の武器の名は護衛騎士であったはず。
みんなからの視線が集まる中、魁斗は自身の武器に触れ、武器を見つめていた。
「…………あんな小娘、取るに足らんとか言ってらぁ。武器同士が顔見知りとかあるもんなのかぃ?」
マリの話を聞き、すぐに対話をはじめていたらしい魁斗。武器との会話を終えたのか、顔を上げ、わんこ先生に視線を向けた。
「まぁ?いろんな人の手に渡ってたりするから?同じ武器師に作られたとかあったりすることもあるし?」
「世間って、狭いわね。」
わんこ先生の答えにそんなことがあるのねぇとマリは声を上げる。
広い世界で、顔見知りの武器がいるのも不思議だが、その使い手がワクワク学園にたまたまいるというのも不思議な感じだ。
「仲が悪そうですね?」
「みてぇだな。」
「何でよ!」
せっかくの顔見知りの武器だと言うのに不仲なのはいただけない。
ワクワク学園で共に戦うならばなおさらだ。仲良くしてもらえるならば仲良くして欲しい。
「さぁねぃ?分かるわきゃねぇだろ?」
慌てるマリとは異なり、魁斗は肩を竦めるのみ。不仲な武器たちのことをあまり気にする様子もない。それも含めて、マリには気に入らない。
「まぁ?とにかく?名前が知れてよかったね?めでたしめでたし?」
「十分、枝も集めたでしょ?それ持って主人のとこに行こ。お前ら時間かけすぎ。」
木の枝の上で寛いでいたチビはマリたちを見下ろし鼻高々に言い放った。待つのはもう嫌だと言わんばかりの態度だ。
マリ達の周りには確かに十分な量、集まってきている。
「なぁ、チビ?桜花ちゃんは護衛騎士を知ってただろ?にゃんパンチも知ってるのかぃ?」
ムスッとしているチビに構わず、魁斗は問いかける。
「自分達の武器でしょ?自分達で聞いてさっさと具象化しろよ、ノロマが。気に食わないけど、主人がそいつらと話したがってるんだから。雑魚が馴れ馴れしく主人の名を呼ぶとか。主人と口を聞くとか、気に食わない。」
まともな返答はしなかった。されども、"そいつら"と言った。つまりは両方とも桜花が知る武器ということか。
「桜花ちゃんの知る武器だってことか。」
「なるほど?世間は狭いね?前の使い手が志貴さんの知り合いだったのかな?」
「……おい、それ。桜花からしたら、2人の武器を見るのは辛いんじゃねーの?」
「まぁ?死なない限りは持ち主変更はないから?もし、前の持ち主を知っているなら死んでるよね?」
秋明が言葉を濁していった言葉をわんこ先生はすっぱりはっきり口にする。
「お前らが気にすることじゃない。主人に探り入れたらーー殺す。」
バサバサバサーー…
鳥が羽ばたく。
周りにいた虫が動きを止めたーー否。動けなくなった。ちらほら寄ってきていた魔物達も本能で察する。動けば殺されると。




