145.話してみましょう
教員になると言うことは、つまり、生徒達が戦う姿をギリギリまで手を出さずに見守ると言うこと。
仲間達が戦う中、安全地帯で待たなければならない。そんな事態が今後やってくるのだ。それが耐えられるか?そう秋明は問いかける。
「嫌ですね!僕は一緒に行きたいです!」
マリが答えるより先に樹里がハッキリと答えを表明した。
強くはないくせに思いっきりはある。迷わず樹里は結論を出していた。
「あぁ、だから体力作り続けっぞ。」
「はい!お付き合いください!」
「で?お前はどうだよ?今回、谷上が傷だらけになって、俺らだってあぶねーって時に黙って見てられたか?俺らのためだとか抜かして桜花が猫仮面を連れてくるギリギリまで待機してられたのかよ?」
秋明は先ほどのことを言っているのだろう。
いくら自分達のためとは言え、ギリギリまで手を出さずに見守る。そのような事がマリにできるのかと。ウサ達がやっている事ができるのかと。
迷い迷っているマリに問いかけを続ける。
「そ、れは…!」
マリは言葉をつまらす。
やらねば成長は望めない。
しかし、それをやるのはーーー…
「無理だろ。お前は一緒に戦うほうだろ。今はいたらねぇけど、それはこれからどうにでもなる。グダグダ言ってねぇで強くなんぞ、マリ。そうするしかねぇんだ、無駄に考える必要なんざねぇよ。」
マリが答えを出すより先に秋明は結論つけると、グダグダ言ってねぇで、一緒に強くなんぞと叱咤する。
「いや、お前さんはもうちょい考えたほうが良いんじゃないのかぃ?」
どーんと言い切った秋明に魁斗は水を差す。馬鹿が考えなしに動くなと容赦なく釘を刺す。
「確かに?考えなしがすぎるし、頭も弱すぎるね?単純に学科で高校卒業が厳しいというか?」
わんこ先生もまた、追い討ちをかける。卒業すら難しいと。
「……うるせぇよ。」
「はは。それも含めて頑張りましょ!」
マリへの勢いはどこにいったのか。秋明は大人しくなってしまう。
すかさず、樹里がフォローを入れる。
「高校卒業免許は持ってて損はないし、学ぶことは自分の財産になるからね?もしもの時に最終的に助けてくれるのは自分の力だから?財産は増やした方がいいって言う?いやー?僕、いい事言うね?尊敬しちゃうかな?」
わんこ先生にしては意外なことに真面目な話をしていた。
確かにその通りであるのだろうが、締まらないのは彼のキャラといらぬ一言がつくがゆえだろう。
「……それ、自分で言ったら台無しじゃない。」
「ありきたりなこと並べただけだろうが。」
「でしょうね。言葉に一切、重みがないわ。」
生徒達からの反応は散々であるのは致し方ないと言えよう。彼のキャラが悪い。本人自身が生徒達からの反応に気分を害していないため問題もない。
「ハハハ?言うね?で?腹は決まったの?みんなだけを危険に晒さない覚悟かな?」
散々な評価を返してきた1人であるマリにわんこ先生は問いかけた。
「ゔ…。」
「なぁに、言葉に詰まってんだよ。ハナから俺らに何かありゃあ、てめーは俺らの元に来てただろうが。今出来ねぇのは仕方ねぇ。出来るようにするっつってんだろうが。センコー共の戯言なんざに怯んでんじゃねーよ、くだらねぇ。」
言葉を詰まらせ、言い返せずにいたマリに秋明は喝を入れる。
いつぞやのツバサのように。
マリはそれに言葉をつまらす。
自分だって悩んでいじけていたくせに。
だなんてことは言えない。言う気力がない。思った以上にマリもマリで弱ってしまっていた。
マリは秋明の言葉に言い返すことはできず、黙っている。秋明の言葉は間違ってはいないとマリは思ってしまったが故に何も言い返せない。確かにその通りなんだ。
何かがあればマリはジッとはしてられない。動き出してしまう。
「阿部は考えなしだけどよ、マリちゃんはいらねぇことまでグダグダ考えすぎでぇ。やるっきゃねぇんだ。グダグダ考えるのはやめにして、さっさと動く覚悟を決めな。」
覚悟がなけりゃあ迷惑にならぁと魁斗は言う。
優しい言い方はしてはくれないが、魁斗も魁斗でマリに喝を入れていた。分かりにくい優しさだ。
「君の場合?お勉強もだけど、武器についても成長しなきゃね?名前が分からないのは辛いよ?武器はパートナーだから?名前を呼んでくれないパートナーなんかに力は貸さないよね?」
わんこ先生は言う。
覚悟の話も終わっていないが、容赦なくダメ出しを重ねていく。優しい声でぐだぐだな話し方で、しかし、一切の容赦なく切り捨てるように話す。
ゔ…ッ!と、マリは言葉をつまらせた。
「分かってるわよ。けど。こんな、カッコ悪い見た目の武器…。ふざけすぎじゃない。」
腰にくくりつけた武器を見てマリは言う。
可愛らしい戦いの場にはそぐわぬ猫のデザインの武器。猫の可愛らしい気の抜ける顔の後ろに隠されるようにして、手をはめるものが備え付けられている。
装着すれば猫が拳を覆ってくれ、拳が傷まぬように守ってくれる。有心武器であるゆえか、強度は半端ない。マリが繰り返し使用しようが傷はつかない。
機能だけを見れば、マリによくあった武器である。が、なにぶん、ふざけた見た目をしているため、マリには気に入らないようだ。
「あん?そうか?猫型の傷が敵に付く様は爽快だがな?笑えんだろ。」
秋明は言った。マリが気に入らない見た目を肯定的に捉えた発言。マリが1番気にしているとこはなんてことないものであるように。
「普通のやつより、拳を包み込む仕様になってるから?より防御力が高くて僕は良いと思うけど?」
わんこ先生も頭を傾げていた。何が気に入らないのか、と。
元々、拳で戦うスタイルなのだ。力は強くとも、傷つかないわけでもない。防御は必要だ。
マリの持つ武器はやはり、マリを身を守る意味でも優れているのだ。
「マリちゃん、ソイツで魔物の攻撃受けてんだろ?面積ちいせぇ普通の奴じゃあ拳がなくなってらぁ。戦い方にあってんでぇ、文句言いなさんな。」
魁斗にまでたしなめられ、マリはすねたように顔を歪めた。
皆が言いたいことは分かる。わかっている。
しかし、かっこいい武器が良かった。カッコいい武器を使ってヒーローのように戦いたかったという思いは消えないのだ。
「見た目が気に入らないなら、それも含めて武器さんに話してみたらどうでしょう?なんでそのような見た目なのか、と。答えてくれるかもです!」
はいはいはーい!と元気よく手をあげて言う樹里の様子には脱力させられる。
悩んでいるのが馬鹿馬鹿しくなるくらいに樹里は何も考えていないように見えた。
「マリちゃんはいらねぇことばかり考えて言い訳し過ぎでぇ。グダグダ言わずにやるべきことをやんな。とりあえず、今は薪集めでぇ。」
話は一旦終了。そう示すように言うと、魁斗は一時的に止めていた作業を再開させた。
視線で、マリにもさっさと動けと促す。
「分かってるわよ。」
マリも動き出す。マリが動き出したことによって、秋明や樹里もまた、動き出した。
皆、それぞれに薪集めをはじめた。
薪をあつめつつ、マリはチラッチラッと武器に時折、視線を向けていた。
そして、薪を集めつつ、コソッと木の影に移動した。
皆から見えない位置、声の届かぬ位置へ。
そのまま、薪を拾い続ける。視線は地面に向いたまま、武器を見ない。
「名前、何て言うのよ。」
マリは聞く。自身の腰につけた猫のデザインの武器に。
可愛らしいファンシーなデザインの武器。
腰につけているが、武器には到底見えない。それが有心武器であり、自信を選んだ時には喜んだ。
しかし、かっこよくありたかったからこそ、ふざけた見た目のそれが恥ずかしくもあった。武器として認められず、目を逸らしていた。
マリは枝を拾いながら返事を待つ。
しかし、返事はない。
いつも通り、無反応である。
「ほんとに私が持ち主なのかしら。」
返事のない自身の武器を一瞥すると、マリは疑わしげにつぶやく。
なぁんの反応もないそれは本当に有心武器なのだろうか。もしかしたら、何かの間違えなんじゃないだろうか。自分が持ち主であると言うのだって本当は違うんじゃないか。
何度も考えた。
しかし、口に出してこなかった。目を逸らしてきた。それを今、マリは口にする。
一度、口にすれば思いは止まらない。
「私は父さんや母さんの夢を叶えたかったのよ。2人を笑顔にしたかった。2人の夢を、守りたいのよ。だから、戦闘員になれたときは嬉しかった。アンタが私を持ち主に選ばなきゃ、私だけの力じゃ、なれなかったわ。けど、ふざけた武器に選ばれたってのは複雑だわ。父さんや母さんもアンタ見て、困惑してたもの。そんなのが武器なのかって顔に書いてあったわ。」
マリは思うままに話す。次々に言葉が出てくる。




