137.和やかムードになります
マリも緊張やら何やらで身を硬くしていたが、いつものノリの話にやっと動けるようになってきていた。ゆえに会話に参加する。
にしても、可燃ゴミに出す計画。
バラバラにし、慎重に片して行かねば捕まる奴。いや、違うか。そもそもが捨てるなって話だ。
突っ込む者はこの場にはいない。普段、ワクワク学園の校舎内でも繰り広げていたりするため、いつもの光景すぎてツッコミは発生しない。
「石つけて、海に沈めたい。」
コンクリ詰にして埋めると言うことか。どこのヤクザだと聞きたくなることをツバサは言う。
パシリに使うだけ使って、終わったら捨てる方向性。
中々にむごたらしい計画をツバサやマリは話し出す。止めるものはいない。本気ではないとわかっているからこその放置ではあるが。
「なんとっ!!いつの間にそのような非道さも併せ持つようになられたのですか?ますます、魅力が高まりましてございます、坂崎様ぁっ!!」
素敵でございますよ、坂崎様ぁあ!と叫ぶウサをチラリと見て、無表情のまま、眉一つ動かす事なく、ツバサは弓を持った。
そして、構える。
目標は当然、ウサである。他はない。
「はいはい。ツバサ、バカの相手はしないの、武器閉まって。変態野郎、ここらに適当に物出しとくねぇ。」
「相変わらず、志貴様は多量に様々なるものを所持していらっしゃいますね。術式での保存スペースは個人差がございますが、無限ではないのでございますよ?」
桜花の手元を覗き込み、ウサは苦言を呈す。
幼児に注意するかのような口調だ。先ほどまでのふざけた態度は瞬時にしてなりを潜めるのだから忙しい。
瞬時に様子が変わる。
「知ってるし。今、使ってるんだから全部必要なものなわけじゃないですか。グタグタ言ってないでちゃっちゃっと働いてください。」
ウサの注意は聞き入れてはもらえなかった。
嫌そうな顔をして、一瞬ウサに視線を向けたのみ。さっさと動けとウサの言ったことはガン無視方向である。
この会話もまた、いつものお約束の会話という雰囲気があり、ウサも深くは気にする様子もなかったが。
「ささ、立ってないでしっかり休む!とにかく今を乗り越える!考えるのは後々!暗いことなんて、こんな場所で考えることじゃない!無事に帰ってからに考えよ!」
物をいろいろ準備し始めた桜花は未だに突っ立ったままの級友たちを見渡し、声を張り上げる。
強制的に動き出させる明るい声だ。
みんなのマイナス方向に向かいがちな今の思考を強制遮断させる。
「そういうことだっぺ。おめぇら、んな暗い顔してねぇで、座れ。怪我はオレが治療してやっぺ。」
桜花の声かけに合わせて、にゃんこ先生も動き出す。
急ぎの応急処置はしたが、皆の手当をしきったわけではない。
必要な処置道具を手に生徒達を見る。
「私も手伝います!十分、休みましたから。」
どーんと胸を張って佳那子は言う。むっふーっ!と気合いを入れる様は小動物のそれであり、頭を撫でたくなる。
小動物を思わす容姿、動きではあるが、頑なな意志を感じられる。
「仕方ねぇな。たのむっぺ。」
自分も未だふらふらだろうにうごこうとする佳那子に呆れたような様子だが、止まらぬと察したにゃんこ先生はため息を吐いたのち、佳那子に仕事を与える。
佳那子はそれに従い、動き出す。
「桜花、俺にも仕事くれ。」
皆が休み始めたり、治療をさぁはじめようと動き出す中、ふらふらとしつつ、秋明が桜花に歩み寄った。
「動けるわけ?無理しない方がいいわ。あ、そうだ。桜花が風呂も準備してくれてるの。2人くらい入れるわ。」
明らかに顔色の悪い秋明にマリは待ったをかける。
腕を持ち、止めつつ、他の提案をする。
「あ?風呂?ユキ達、先入ってこいよ。俺は後でいい。桜花、何かやることくれ。動いていてぇ。」
待ったをかけられたが、それで止まるような秋明ではなく、動くことを希望する。
真っ直ぐに桜花を見つめ、懇願している。
「休むのも仕事だよ〜?」
チラリと秋明の方を見て、面倒だなぁという態度を隠さず桜花は言った。
休めよと桜花は態度で示していた。
「そうだべ!目立った傷はねぇけど、疲れてんだろ。休まねぇか。」
にゃんこ先生もまた、救護側として、休むように訴える。
腰に手を当てどーんと立つ様は威圧感を相手に与えたいのかもしれない。効果は神のみぞ知る。
「……頼む。」
2人の言葉は秋明には響かなった。どうしても動きたいのだと秋明は頑なに訴える。弱々しげにだが、意思は変えそうにない。
かすかに揺れる瞳を桜花はじっと見つめた。
そして。
「……んん。仕方ないねぇ。木ぃ拾ってきてくれる〜?わんこ先生、みんなを連れてって。」
ため息混じりに了承すると、わんこ先生へと視線を向けた。
動きたいという思いと、休めという意思。自身を引っ込めたのは桜花であった。
「僕が引率なんだね?」
やや不満げなのが伝わってくる問いかけ。働くとは言ったが、皆の引率を1人でするのは不満がある様子。
不満というよりは戸惑いが強く感じられるか。
まだ阿部しか行くメンバーは決まってないが複数人が行くであろう中、引率はわんこ先生のみでは負担が大きすぎるか。
「チビ、いる?貸すよぉ。」
自身が引率として、皆を連れていくのかと確認してきたわんこ先生に桜花はチビを差し出した。
わんこ先生が行くことは決定事項のようだ。
「ありがたくお借りしようかな?」
「にゅー。」
今度はチビから不満げな声が上がる。
こちらは戦力に不安を感じているとかではなく、単純に行きたくないという訴え。
「みんなの安全確保、よろしく。魔物は狩っていいから。」
訴えは当然のように無視された。
何事もないようにあつかわれてしまった。その上で魔物狩りの許可もあったが、要求もあった。が、それは予想の範囲だった様子。
「にゅにゅ〜。」
チビふ訴えを続ける。魔物狩りを許可されてもなお、チビは不満げである。
「それは安全でいい事だね。」
不満げになくチビに桜花は笑った。にぃと嬉しそうにというよりは意地悪な笑み。
「にゅぅ。」
「気ぃ抜かないでね。」
なおも不満気に鳴くチビに桜花は笑みを浮かべたままで注意を飛ばす。
油断して足元をすくわれるようなことがあっては目も当てられぬゆえに。
「……にゅ。」
「近くに大した魔物はいないわけだね?僕らとしては嬉しい限りだね?」
なんとなくの会話を察したわんこ先生は楽しげに言う。チビは不機嫌に地を尻尾で叩く。
「私も行くわ。」
「僕も行きますね!」
心配そうに秋明を見ていたマリ、樹里が桜花に言う。
「おっけ。ツバサはユキ達をお風呂に案内してあげて。お兄さんも阿部たちと薪集めしてきてくれる?終わったらテント張り!」
「ん。」
「任せてくんな。」
どうしようか迷っていたツバサと行く気のなかった魁斗に声をかければ、2人は二つ返事でうなずく。
「お願いねぇ。気をつけていってらっしゃい。」
「行ってきます!」
桜花が皆を見送るために手を振れば、各々が動き出す。
「ざっきー、よろしく頼む。」
「ん。見張りも、する。変態、撲滅。殺傷処分。」
ツバサは気合の入った様子で弓を持っていた。
こころなしか、言葉に力がこもっているように感じられる。
「過剰防衛だね?」
「女ってこえぇー。」
わんこ先生や秋明がツバサの様子についつい声を上げる。
進みかけていた歩みも止まっている。
「何?覗く気なの?」
だが、声を上げたのは失敗だと後から知る。
般若のような顔をしたマリが2人に視線を向ける。……いやはや、おそろしい。
「まさか?僕は命は大切にする主義だから?死にたくないと言うか?」
ハハッ?と笑い声を上げながら、わんこ先生は言う。
んなものより、自分の命が優先だと。
「興味ねぇから見ねぇよ。」
「だから阿部はモテないのよ。」
「あ?うるせぇよ。自分の好きな奴に好かれりゃ良いだけの話だ。てめぇにモテなくてもどうでもいいってーの。」
「はいはい。喧嘩せず仲良く気をつけてね。チビ、なんかあったら呼んで。さ、私は準備していくかな。桜井は谷上の近くにいてあげな。ゆっくり座って休むのもそうだけど、慣れた人がそばにいる安心感って半端ないから。」
「かたじけないでござる。」
自分も何かと周りを見ていた司に桜花が言えば、司は申し訳なさそうに腰を下ろした。
「いーえー。飲み物も置いてくから飲めるようになったら飲ませてあげてねー。」
「ありがとう。」
桜花は各々が休むなり役目を果たすために動き出すなりするのを確認すると、自分のやる事をやるべく、動き出した。




