134.ツバサは怒ります
ちょ、ツバサさん?!と、佳那子の慌てた声が響くが、ツバサはやはり気にしない。
マリはマリで、次々と言われてもう涙目だ。
「けど。」
ツバサはマリが涙目なのも気にしない。
慌ててオロオロしながら、どうしようかと戸惑う佳那子も気にしない。
ただただ言葉を続けていく。
「マリはかっこいい。私のできないことができる。私の目標。それを貶さないで。」
ハッキリとツバサは言う。
それは社交辞令でないと分かる。それを言うようなツバサではないことくらい分かっている。
一緒に行動する中で幾度となく注意された。幾度となく、ゴミを見るような視線を向けられた。
だというのに。
どういうことだろうか。
マリも、オロオロしていた佳那子も目を丸くしてツバサを見た。
「目標って…私、ミスばっかで…。」
褒められてもいる。だが、素直には受け取れない。
なんにもできない自分に何があると言うのか。
マリには理解できず、弱々しく言葉を返す。
「バカにしてる?」
が。
ツバサはそれに対しても怒った。怒りを燃やした。
冷たくツバサは問いかける。
「え?!いや、あの…。」
地雷を踏んだかと、マリは顔を上げた。
そして、たじろぐ。
言葉を探す。だが、正しい言葉はマリには見つからなかった。
言葉にもならぬ言葉を口から洩らしてしまう。
「ミスなら、みんなやった。私も樹里も魁斗も。みんな。マリだけじゃない。」
「それはっ!けど!私…!」
「五月蝿い。」
ツバサは再度マリを黙らす。
強制的に口を閉じさせる。
「けどとか、いらない。みんなが動けない中、佳那子のとこに行ったの、マリだけ。私には、できなかった。考えなしだけど、仲間のためにマリだけが前に出た。そのおかげで私達、動けた。私も、何度もマリに庇われた。誰かのために危険なのに進んで前にいく姿、尊敬する。私にはできない。できなかった。マリは何もできなくない。」
ツバサは言う。
自分には出来なかったことがまりには出来ているのと。
「ーーーだから、」
ツバサは続ける。
強く。迷いなく。言葉をつなげていく。
その姿は心強く見えた。
「あの野郎を殴る。」
親の仇を見るような、強い目線をツバサはウサに向ける。
て、え?
涙が違う意味でうるっと出てきそうな場面でツバサの言葉に涙が引っ込んでしまった。
話がおかしな方向に向かってないか、と。
「マリを愚弄して、みんなを挑発して。性格悪い。うざい。消えろ。」
ツバサは射る。
躊躇なく弓矢をウサへの攻撃に使う。
全て防がれてしまっているが。
「……は、なに、よ…その、オチ…台無しじゃない。」
マリはつぶやく。
心にジーンと響く言葉だったというのに、なんというか、日常を思わすオチがついてきた。
感動だけで終わらす仲間などマリにはいなかったわけである。
「マリさん。木の実や果物があるんですよ。甘くて美味しいんです。食べましょう?」
みんなの様子に戸惑い顔で見ていた佳那子だったが、何を思ったのか、食べる準備をし始めた。
まるで樹里を思い出すマイペースさにマリは目を丸くして佳那子を見た。
佳那子は木の根元に置かれていた自分の荷物からタッパーや皿を持ってくるとそこから木の実や果物を盛り付けていく。
「疲れましたから。甘いものを摂って、今はゆっくりしましょう。気を張り続けても、もしものときに動けませんから。今は桜花さん達に甘え英気を養いましょう。今度は皆さんを助けられるようにしたいです。」
にっこりと笑って、佳那子はこれ、マリさんの分ですと木の実やら、切り分けられた果物やらを渡してくれる。
プラスチックの皿に盛られたそれは何とも魅力的に見えた。
たしかに甘みが欲しい。食べて休みたい。
「ん。美味しい。」
先ほどまでウサを睨みつけていただろうに、ツバサの変わり身は早く、すでに食べ始めていた。
何かが起きている。誰かが怪我を負っている。
足手まといだから待っていなければいけない。
そんな状況でツバサや佳那子の2人は食べ始める。
なぜ、落ち着いていられるのか。
「マリも食べて。遠足、終わってない。」
食べながらツバサはマリの分をマリに押し付けるように渡してきた。
「………2人とも切り替え、早いわね。」
マリはそれを受け取りつつ、呆れたように呟いた。
肩の力が抜けてしまっていた。脱力。
「今、出来ることをするだけですよ。私達に今できるのは休む事です。不安ですが、桜花さんやにゃんこ先生ならどうにかしてくださいます。信じて待ちましょう。」
マリの言葉に穏やかな笑みで佳那子は言う。
普段から優しい声色だが、今の佳那子の声はいつもより、優しい。
マリを安心させるために努めて優しく語りかけているのだろう。
それが分かるからこそ。
「そう、ね。ありがとう。」
マリは辛いのをグッと堪え、笑う。笑みを浮かべる。
こんな愛おしい仲間達にこれ以上迷惑はかけられないと、ちょっと歪ながらも笑ったのだった。
「はい!!……帰ったらお菓子を作りましょう。プリン、マリさん好きですよね?遠足が終わったら作りますね!」
食べ始めたマリに佳那子は楽しそうに話し出した。
「へ?」
急な話にマリはきょとんとしてしまう。
話が飛んだ。
ぽかーんとしているマリをみて、より一層、佳那子は笑みを深くした。
「前にみんなで料理したじゃないですか?私、楽しかったです!帰ったらまた、やりましょう。」
「………オムライス食べたい。」
作りたい。ではなく、食べたいと要求するあたりがツバサらしい。
「良いですね!私、オムライスにケチャップで絵を描くの得意なんです!マリさん、得意ですか?」
ツバサの要求に佳那子は笑顔で了承しつつ、マリに聞いた。
「…書いたことないわ。」
佳那子の勢いに、マリは押されつつも、返答する。
小さな時は訓練ばっかで食事は母親に管理されていた。食事はバランスよく食べねばならないと徹底的に母親による管理がされ、それ以外を口にすることは許されていなかった。
共に料理をする経験もない。オムライスにケチャップで絵を描くなどしたことはない。
「そうなんですね。じゃあ一緒に書きましょうね。楽しいですよ!」
佳那子は笑顔で言った。
その笑顔にマリはときめく。
やったことはないが、なんだか楽しそうだと胸が躍った。
「良いですね!誰が上手いかコンテストですね!」
話が聞こえていたのか、どこからともなくあらわれた樹里が嬉々として発言する。
いつも乗り気で参加するが、此度も参加決定らしい。
いつの間にやらマリの斜め後ろから、マリの横へと移動し、ストンと腰を下ろした。
「樹里!」
「良いお湯でした。マリさん、身体は大丈夫ですか?」
にへらぁと、気の抜けるような笑みを浮かべる。
それは見慣れた樹里の笑み。
気遣うような視線を向けてくるあたり、樹里の優しさをひしひしと感じる。
「えぇ、大丈夫よ。そういえば、さっきは…迷惑かけたわね。カナちゃんや、ツバサ達も。」
肩の力が少しだけ抜けてきたところで。
マリは改めて頭を下げる。
「マリさんが無事で何よりです!!」
マリの言葉に皆、笑みで返す。
いや、ツバサはしつこいという顔をし、魁斗は興味を示さなかったか。
「桜花ちゃんは?」
キョロキョロあたりを見渡し、魁斗は聞く。開口一番は桜花の名とはブレないやつである。
「にゃんこ先生持って、どっか行った。」
言い方!だなんてツッコミはにゃんこ先生がいたならば下だろうが、今はツッコミ不在であった。
「………そうかぃ。桜花ちゃんは待ってろって?」
自分達が先程いた、建物のあるほうへと視線を向け、間を開けたのちに魁斗は聞く。
「んーん、にゃんこ先生だけ連れて何も言わずに行った。」
「そうかぃ。」
「私がこの場を預かるとは申し上げたましたよ?それに了と志貴様はおっしゃられました。」
くねくねくねっと君悪く身体を無駄にくねらせつつ、ウサは言う。
「チッ。」
「誰か、怪我したんですかね?……じゃあ、僕らは湯を沸かしましょう!ご飯は…桜花さんが準備して下さってましたね。あ、マリさんやカナちゃんはお風呂行きますか?」
「は?お湯?」
湯上がりにまた風呂に行くのか?と頭を傾げる。どうやら違うようだが、湯を沸かして何をすると言うのか。
「お茶の葉を桜花さんから受け取っているんです!ホッと一息ついていただけるように準備しましょう!!」
「茶請けもありますし、良いですね。」
休息時のための飲み物準備らしい。
甘いものに、温かい紅茶。素敵な組み合わせだ。休息にはとてつもなく良い。
甘味の甘味が。紅茶の香りが。疲れた身体に響くはずだ。
「……小腹が空いているので先に食べて良いですか?」
さて準備するならば、手伝うかと腰を浮かべかけたが、樹里により脱力させられた。
マリは先に口にしていたため横腹は満ちているが、樹里達はまだなのだ。仕方ないといえば仕方ないが、力が抜けてしまう、
「ふふ。どうぞ。食べたらみんなでお茶を入れましょう。」
マイペースな樹里に笑顔で対応できる佳那子は偉大だと、マリは感じるのだった。




