133.ツバサ、怒ります
桜花がにゃんこ先生を担ぎ上げ去っていったのを見送った面々。
その場は静かであったが、嫌な静けさであった。
「ねぇ、何があったの?」
沈黙を早々に打ち破ったのはマリだった。
桜花の突然の行動のわけをマリはウサに聞く。
何かがあったようだが、いったい何があったというのか。
慌ててにゃんこ先生を連れて行くほどの怪我を誰かがおったというのか。
「怪我人ですか?どこですか?」
佳那子は治療道具を抱えつつ、ウサに詰め寄る。
桜花はしっかり説明をしなかったが、確かに怪我人だと言った。つまりは佳那子の領分だ。自身がやれることがあるやもしれない。
佳那子は道具をしっかりと持ってウサを見つめた。
その後ろにツバサやマリも追随する。怪我人が出て、桜花が動き出したと言うことは、怪我をしたのはおそらくは自分達の仲間。
未だに合流していない彼らの誰かであろう。
不安が募っていく。
「志貴様とにゃんこ先生が対応にあたってくださっています。貴女様方はこちらでゆるりとお待ちくださいませ。」
ウサは自分に詰め寄る3人に真っ直ぐに向き合い告げた。
それは状況が分からぬ3人にとっては非情な答えのように感じられた。
「けどっ!怪我人って!」
珍しく佳那子がウサに食らいつく。声を荒げ、ウサの腕を掴む。
自分の領分。やれる事はやりたい。
そう全面に示していた。
「他の方々は大丈夫にございますよ。貴女様は貴女様のことに集中なさいませ。覚悟もなく曖昧な気持ちで行かれても、また仲間の迷惑になるだけではございませんか?何の役に立つのでございます?」
ウサの感情を込めない言葉は鋭い刃となり、3人の胸を突き刺した。容赦なくグサッと。
三者三様に顔を歪め、ウサを見ていた。
「やな奴…ッ!」
マリや佳那子が辛そうに黙る中、吐き捨てるように呟き、ツバサはウサを睨みあげた。
「悔しくば、強くなることにございます。」
睨まれようが痛くも痒くも無い様子のウサはさらりと言う。
その様子がますます憎たらしい。
「言われなくても…ッ!!いつか、射殺す!」
あまり感情をあらわにしないツバサ。
強く感情を出すとは珍しい。それほどまでにツバサは悔しいのだとうかがえた。
「ふふ。楽しみに待っております。御崎様?時にはゆるりと休むことも必要にございましょう。今は休みなさい。」
ツバサを挑発するように言ったかと思えばウサはマリを見た。
マリは突然の名指しに怪訝そうな顔をし、ウサを見ていた。
「されども、さっれっど!!」
マリが怪訝そうにしていることなど一切気にすることなく、神経を逆撫するかのように、いや、逆鱗を丁寧に撫で回すかのようにウサはふざけたノリで話し出す。
手振り身振りで会話をしだす。
何を企むのかと皆が身構えるが、そんなのはウサには一切関係ない。
「出来ないことやれない事やらを数えることは不用な時間にございます。自分に何ができるかどうしたいかを考え、より理想に近づけるために今、何ができるかを考えて行動したほうが有益にございます。落ち込む暇など貴女様たちにはないでしょう?時間は有限にございます。落ち込むなど時間がもったいない。そんな暇もないほどに貴女様達は弱いということは分かっておいででしょう?」
方向性を決め、さっさと前へ進みなさいとウサはいう。
ふざけたノリだったのを一変させ、今度は真面目なトーンで話だすのだから、この男のペースが掴めない。
マリは眉間にシワを寄せ、ウサを見ていた。
何かしようものなら殴ると身構えていた拳は不発に終わるかーーいや、まだ気を抜いてはいけない。いつ、佳那子にまた近寄ってくるかも分からないのだ。マリは拳に力を入れた。
「いくら拳を握ろうが、今の貴女様は無力。何もできない無力なお子様にございます。ウサに拳は届き兼ねますよ?」
分かっている。それでもムカつくものはムカつくし、握っちゃうものは握っちゃうのだ。
マリが強く睨みつけるが、ウサはふふふふふっと楽しそうに笑い声を上げるのみであった。
ムカつくが、何もできない。
ウサが言うように無力だ。弱い。その事実がマリに重くのしかかり、言葉を奪う。
《シュシュシュシュシュシュ》
笑い声をあげていたウサに無数の矢が降り注いだ。
いきなり。
多くの矢がウサを目指して飛んできた。
犯人は言うまでもない。
マリは呆然と犯人へと視線を向けた。
「貴方に言われる筋合いない。マリは無力じゃない。」
防がれ続けても構わず、ツバサは多くの矢を射っていった。
全ての矢が防がれてしまい、ぎりッと奥歯を噛み締めつつも、ツバサは弓を構えたまま、ウサを見ていた。
睨みつけるその様はまさに夜叉。明確な殺意があるように感じられる。
「つッ、ツバサさん!やりすぎですよ?!」
オロオロしながらも、佳那子はツバサに声をかける。やめるようにと。
顔を青くしながらも、ツバサに声をかけていた。
「嫌な言い方しかしないクズに耳を貸さないで。あんなの、聞く価値ない。」
拳を握りウサを見るだけだったマリに、ツバサは荒々しく言う。オロオロする佳那子は放置だ。
不快感全開である。
あまり表情が動かず、顔は無表情。
それがツバサのデフォルメのはず。
はずなのに、キャラ崩壊していないか?ってくらいに表情を崩して、不快感全開にあらわしている。
「何で、殴らないの?」
ツバサはマリに聞く。
何であんな奴の言うことを素直におとなしく聞いているのか。なぜ殴らないのか。そんなことをツバサは言う。
マリはツバサにそんなことを言われて困ってしまう。
「え?何でって…」
ウサを殴る場面でもなかった。
ただただ話をしていただけ。
酷い言いようではあったが、間違っているともいえず、悔しさやら何やらで拳は強く握っていたが、ツバサのように攻撃をする場面でもなかったはずだ。
なぜ、殴るのが当たり前のように言っているのだろうか。
「マリらしくない。殴って。」
ツバサは当たり前のように要求してきた。
その要求にマリは瞠目してしまう。いやいや、してしまうだろうよ。
マリらしさとは何なんだ。人をすぐに殴る暴力人間かのように言わないで欲しいとマリは思う。
「私が無力ってのも、何もできないのも、事実だし…」
「は?」
ウジウジウジ…と話し出したマリを、一言で、いや、一言とも言えない発生一つでツバサは黙らせた。
背後に何かがいる。
あれは閻魔大王だろうか。いやいや、怒り狂った不動大明王かもしれない。鬼か?鬼が背後にいるのだろうか?
そう錯覚するくらいに禍々しさがあった。
マリはツバサの迫力に言葉を飲み込む。
「人の仲間を愚弄しないで。」
ツバサは不機嫌に吐き捨てる。
ツバサはマリを睨みつけるようにみていた。怒り。ツバサの顔には怒りがあった。
「ビビりで、ちょっとしたことに騒いで五月蝿い。のくせに、口うるさい。泣き虫で、考えなし。短絡的に動く。」
ツバサは言う。
愚弄するなと言った口で次々と吐き出していく。
毒ばかりを吐き出していく。
何がしたいのかさっぱり理解できない。




