131.話を続けます
言い聞かせるように。懇願するように言葉を紡いでいく。
「マリさんはご両親のために戦うんですね。ご両親に喜んでもらいたいから頑張っている。とても優しくて素敵です。かっこいいです!」
続けて笑顔で佳那子は褒める。
お世辞でもなく、本心であると分かる。
「そう、素敵にございます。これぞっ!青春!!私の素晴らしい生徒の皆様が織りなす熱き物語!!ウサは感動にございます!!」
甲高い声を上げつつ、クルクルと回るウサ。
それは感動して動き出したんだとしても、鬱陶しさが強すぎて黙れと言いたくなる様子だった。
空気が壊れた。シリアス系だったはずなのにパッリーンと砕け散った。無駄にしやがった、この男。
「して、ご両親を喜ばすために素晴らしい戦闘員でありたい。御崎様はそう願うのでございますね。美しき御心に感服いたします。ただ、ウサには僭越ながら疑問が残るのでございますよ。御崎様は具体的にはどのような戦闘員にございますか?」
空気を砕け散らせたウサはマリを覗き込み、聞いた。
まったくもって空気を読むつもりはないらしい。空気を読めない、ではなく、空気を読まないやつである。
ウサの仮面が、顔が近づいてきたことで、マリは後ずさる。
「どんなって…冷静に判断が出来て…魔物におびえたりしなくて、ちゃんと戦えて…」
マリは困り果ててしまい、すぐには言葉を出せなかった。しかし、ウサが言葉を待ち続けたため、戸惑いつつも自分がこうありたい姿を羅列していく。
言えばいうほどに声は小さくなっていった。
「ほうほう。冷静に判断するためには今一度お勉強をしなくてはなりませんね。僭越ながら申し上げますが、貴女様は知識が不足しているかと。」
小さくなった声すらもしっかり拾い上げ、ウサはマリに話す。
「わ、分かっているわよ。」
イベントの中で嫌になるほどに痛感したところをグッサリとウサはさす。
掃除しなさいに対し、わかっていると返事をする思春期の少年少女のような反応をマリは取る。
そのうち、いまやろうと思ったの!とか言い出すかもしれない。
「そうでございましょう?此度のイベントでひしひしと感じていただけたと存じます。はてはて、されどもウサはやはり、まだまだ疑問に感じます。怯える事はいけない事にございますか?」
マリのやや反抗的な態度が混じった返答に満足そうに頷いた後に、ウサは頭をかしげてみせた。
「は?」
何が言いたいのだとマリは怪訝そうにウサを見る。ウサの意図が汲み取れない。
「相手が怖いからこそ、警戒し対策を練れるのでございます。侮り油断する事ほど危ない事はない。怯える事は悪いことではありませんよ。」
「で、でも!桜花は怯えたりしないわ!」
言いたいことはわかる。
しかし、素直に受け入れるには怯えを見せずに凛と対応して見せる戦闘員を見ているのだ。それも同い年の子で。
怯えても良い。
とはいうものの、かっこよくを目指すならば怯えないほうがいいではないか。
「御崎様は志貴様になりたいので?」
それは戦闘狂を目指すと言う事でございましょうかとウサは聞いてくる。
戦闘狂。
中々な言い草だ。
手が出るのが速いことはあるし、怖い武器がそばにいるのは確かだが。
「そ、れは…違うけど。」
桜花のように凛と立っていたい。しっかり戦えるようにありたい。
そうは思う。
だが、桜花になりたいわけではない。
「そうでございましょう。貴女様は貴女様であって、志貴様にはなれません。御崎様は御崎様のスタイルでそこにあれば良いのでございますよ。ご自身にできるやり方でやるのでございます。それこそ、戦闘員である必要すらないのではございませんか?」
「え…?」
ウサの遠慮ない言葉にマリはポカーンとしてしまう。
何を言われたかさえも分からないような衝撃を受けてしまった。
「ご両親を喜ばす。これは何も戦闘員である事にこだわる必要はないでしょう?戦う理由が明確にないから足がすくむのでは?貴女様は誰かを庇う時は迷わず動きます。そうでない時に足がすくむのは戦う覚悟がないからかと。戦うのをやめても良いのでございますよ?」
頭がうまく働いていないというのに、ウサは容赦なく問いかけてくる。
足がすくんでしまっている。
うまくいかない。
悩むではなく、いっそやめてしまってはどうかと。
「無理に戦闘員をしなくともよろしいかと。此度のように周りを自身のミスで危険に晒すのが嫌ならば、対策として言いますと、戦場から退くと言うのも手にございます。さすれば危険な地に行かずに済みますよ?」
コテンと頭を傾げ、マリの顔を覗き込むように見てきたソイツはいとも簡単に言ってのける。
マリが願うことを叶えるためには他の方法もあるだろう、と。
マリは言葉を失ってしまっていた。
自分は両親の期待を背負っているんだ。2人は自分に夢を託したんだ。
2人を喜ばせたくて、頑張ってきた。
それが正解だと信じているが、他の方法を提示され頭が白くなり、うまく考えることができない。
「前線で戦わずとも闘魔隊の一員として働く事は可能にございます。私共のように教員になるのも1つでございますよ?」
同僚という道をウサは提示する。
危険がないわけではない。
戦いに関わらないわけではない。
戦う子達を鍛え、間接的に戦闘員として活躍もできる。
だが。
「………私は戦闘員として戦う姿を望まれてるのよ?」
マリは親が自分に望んだ姿を口にする。
戦闘員として魔物から人々を助けられるようにある。それが望まれたこと。それを成せるように戦闘員となったのだ。
「それはご両親の願いでしょう?貴女様のご両親は期待に応えなければ貴女様を否定する方々なのでしょうか?期待に応えない子供はいらない、と?」
「そんな事ないっ!!」
期待にそえなくても、2人は見放したりしないだろう。
がっかりはしてもいらないなんて言うはずがない。2人はそんな薄情な人たちではない。大好きな両親だからこそ、その期待に応えたいのだ。
「では良いではありませんか。笑顔になっていただく方法は他にだってあるでしょう。貴女様の人生、貴女様のやりたいことをしなければ後悔致します。貴女の人生なのだから、他人の願う姿ではなく、貴女のありたい姿でありなさい。誰かの望みではなく、己が望みでなければ覚悟も決まらないのでは?だから、皆様を危険に晒すような事態に陥るのでございます。」
ピシャリとウサは言う。
ウサにあまりにもはっきりと言われ、マリは言い返せずに黙ってしまう。
沈黙がその場に広がーーー
「例えば私が心より親愛しております稲盛様は皆様を支えたいと願っていらっしゃいます。お優しい稲盛様らしい願いにウサは心打たれる所存にございまして……ますます稲盛様の魅力に酔いしれる次第にございます。その姿を見れば陶然とするのは必須…いやはや、やはり稲盛様は史上にございます。ハァハァ…。」
ーーー広がる事はなかった。こんなことなら、沈黙が広がって欲しかった。
息を荒くし、ジリジリと迫りくる燕尾服を着たウサギのお面をつけた男。
つまりは不審者。変質者。それが佳那子に迫っていた。
その迫力に佳那子はおどおどと戸惑い、オロオロするしかできない。じわじわと浮かぶ涙は変態の勢いを増させるだけのガソリンにしかならない。
おそらく、佳那子のように自分が何をなしたいか、何がしたいかを考えろと言いたかったはず。そのはず。たぶん。そうだと願いたいかぎりだ。
変な方向に話が進んでいた。何がしたいんだ、この変態は。




