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129.マリ、目覚めます

にゃんこ先生の手によって、強制的に眠りにつかされた。


「あらー…お兄さん、不注意だねぇ。治療要員って対魔物では弱いけど対人なら恐ろしいんだよ?どうすれば人が壊れるかを知っているって分かってないねぇ。」


気を失った魁斗を支えつつ、背中をポンポンと撫でながら桜花は笑う。


中々に酷い言いようだ。


だが、それを気にする様子はにゃんこ先生にはなく、魁斗が寝るスペースを素早く準備していた。


「じゃ、お兄さん達、よろしくね?」


眠ってしまった魁斗をにゃんこ先生が準備したスペースに横たえ、桜花はチビに言う。


チビは無言で魁斗の横に座った。


不服そうな顔はしているが、文句を言うつもりはないらしい。


チビは不満だと言う顔をしているが、何も言わない。桜花の指示だからこそだろう。


桜花も桜花でチビの気に入らないと言う顔を無視していた。


「え?!あ、あの!」


「お、か。」


明らかにどこかに行こうとしている桜花に佳那子やツバサが声を上げる。


せっかく。


せっかく、やっとの思いで会うことができたと言うのに、桜花はどこに行くというのか。


いや、そばにいて欲しい。


そう視線が語りかけていた。


「んー?だいじょーぶ。もう安全だから。何かあったらチビに言って?すぐに戻ってくるー!」


不安そうにする佳那子やツバサに桜花は屈託のない笑顔で答える。


指し示されたチビはつまらなさそうに尻尾をパタンと振った。


「チビ……帰ったら、組手して。」


ツバサはチビに言えという言葉を受け、目を光らせた。


そして言う。


自分の要求を隠さず曝け出す。


そうじゃない。


何か困ったことがあって桜花が必要ならばチビを介して呼べる。そういう話だった。


だが。


ツバサは機会を逃さず、自己の要求をしてみせた。


「…にゅー……。」


桜花がいる場で言ったのは断れない状況を作るため。


それをチビも察しているのだろう。気に入らないというように鳴き声を上げた。


「ハハッ元気そうだねー?みんな、このままここにいてね。」


不満そうにするチビを見て、桜花は笑う。


要求が出来るならば、まだまだ元気そう。余裕があるあらわれだ。


チビが面倒そうにしていても、ツバサの要求は却下しない。チビにじとーっと見られても笑うのみだ。


「動け、ない…」


体力の問題はあるが、精神的には皆に余裕が生じてきた様子。


「僕もです。あそこからここまで歩いたのだって物凄い快挙だと自分を褒めたいです!僕、がんばりました!」


「私も…治療する余裕がありません。申し訳ないです。」


ニコニコ笑う樹里にしゅんとする佳那子。


2人は同様に腰を下ろし、休んでいた。


「気にしない気にしない。今は休んでなよ。」


「あ、志貴さん?にゃんこ先生の首、外してってくれるかな?」


「え?あー。忘れてた。………帰ってきたらまた付けるかなぁ。」


桜花は完全に忘れていた様子。


にゃんこ先生に近寄ると、首につけていたそれを回収した。


しかし、また付ける気らしい。


「何で付けるんだっぺ?」


取ってもらえたことでケモ耳達が消えた。


が。


また付ける気らしい。


なぜなのか問いかければ、桜花はんー?と頭をかしげる。


「念のため?」


疑問系の適当な返事を桜花はする。


「何の念のためだっぺよ?!」


「ま、それはそれとしてー。さっさと治療してあげなさいな。私は休憩スペース作ってこよっと。」


説明する気の全くない桜花はさっさと姿を消してしまった。


「…………何なんだっぺぇっ!」


「ほら?治療してあげなきゃだよ?治療が先だって言ったのは先生達なんだし?」


「分かってる!!おめぇら、みんな診せるっぺ!」


その場ににゃんこ先生の声が響き渡った。


にゃんこ先生のケモ耳に対して、突っ込む余裕はないが、気になっていた面々。桜花の仕業かと口には出さないが納得していた。


少しだけ、にゃんこ先生が不憫にも思えてしまう瞬間だった。











◇◇◇


「ん……」


目を開ければ目の前に橙の空。木の根本に寝ており、日陰にいるとはいえ、木の葉の隙間から日の光を感じた。オレンジに染まっていても眩しいものは眩しい。


身体を動かすまでもなく、全身に痛みを感じた。硬い地面で寝た時に現れる痛みだ。


身体を動かし上体を上げれば違う痛みが生じる。身体のあちこちに傷による痛みがある。体全体がおもだるい。明日は筋肉痛となる。それが予見される痛みがあった。


「お目覚めにございますか?」


耳につく不快な声が聞こえた。起きがけには決して聞きたくない嫌いな声。なのに聞こえてきた。


何よりその声を出す人物が気に入らない。それがなくとも、機械で変えられた安っぽい声は耳につく。


マリの起きたての脳が一気に目を覚ました。


そうだ、思い出してきた。霧がかっていた思考が霧がきえさり、働きだす。気を失う直前をマリは思い出していく。


ワクワク学園のイベント中だった。


遠足という名のイベント中、マリ達は罠にひっかかり、ある建物に飛ばされた。ウサ達からの課題は建物から脱出する事。


なんとか建物の出口までたどり着いたは良いが、自分達よりちょっと先に出口についたであろう佳那子が出口から出てほんの数メートルにも満たない場所にいた。


佳那子が魔物と相対していた。目の前に魔物がいて敵意を露わにしているというのに、佳那子は魔物の雄叫びに対し座り込んでしまっていた。


それを何とかしなければと考えなしに動いてしまった。


そして、また失敗した。


魔物を倒したのち、頭が真っ白になった。感情が暴走してしまった。


建物から出た時には空は真っ青で太陽は頂点まで登り切ってはいなかった。おそらく、正午に至っていなかったはず。で、あるにもかかわらず今は夕方。


どれだけ寝ていたと言うのか。


「うあ゛あ゛…ッ!!何してんのよッ、私!!」


ついつい、呻き声をあげてしまう。唸るように声が出た。女子ならざる声を出してしまった。出さざるを得なかった。


はず。恥ずかしすぎる。


泣き叫ぶとか。戦闘中に何してるんだ、自分は。過去の自分を殴り飛ばしたい。そして、願わくばなかったことにしてしまいたい。


「マリさん?!どうしましたか?!どこか痛いですか??痛み止め準備しますねっ!!」


「あん??どこが痛ぇんだ、診せてみろ!」


ウサは唸るマリに対し慌てることなく静かに待機していたが、蹲り、唸り声を上げているマリに気付いた佳那子やにゃんこ先生がすっ飛んできた。


どうやら、近くで待機していたらしい。


どちらも叫び声を上げつつ、マリの元までやってくる。


その様子に、勢いに圧倒され、マリは唸り声を止め、ぽっかーんと口を半開きにしたまま、2人を見つめてしまう。


「お2方、落ち着いてくださいませ。」


マリのそばまでやってきて大慌てでマリを心配する2人はパニックに近い様子。


佳那子もにゃんこ先生も、オロオロとマリを心配そうに見ていた。水と薬を持ち、飲む?飲む?と尋ねるように見てくる様子は可愛らしい。


「………大丈夫だから。自分が恥ずかしくて唸ってただけ。」


2人に圧倒されつつ、マリは呟くようにいう。


すると、2人はそろって、頭をかしげた。コテンと。どちらも、小動物を思わす動きだ。愛らしい。


「恥ずかしい、ですか?」


「身体を整えたのは佳那子と俺だっぺ。寝顔もウサ先生がガン見したりしないようにちゃんと見張ってた!安心しろ!」


疑問符を浮かべ、頭を傾げたままの佳那子に対し、にゃんこ先生からは方向違いな言葉が来た。


にゃんこ先生は自分はちゃんと働いていたのだと胸を張って力説していた。


「にゃんこ先生は私を何だと思っているのでございましょう?」


ウサは感情を込めずににゃんこ先生に問いかけていた。

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