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126.滂沱の涙を流します

教師陣は魔物と対峙する魁人達の様子を見ていたのだろう。魁斗が走り寄ったことで、存在に気づく。万が一の時には助けるために待機していたのだと知る。


魁人は走ってきた勢いを殺すことなく、そのままの勢いで飛び込むようにして抱き着いた。抱き着いた相手はみんなの愛しのウサーーーではなく、桜花だった。


天地がひっくり返りでもしない限り、魁斗がみんなの愛しのウサに飛びつくように抱きつくなんてことはない。ないない。あり得ない。


天地がひっくり返ろうが、世界が滅びようがそんな時が来ることはない気がする今日この頃。


桜花もまた、ウサの横に銃を両手に持った状態で立っていた。いつでも攻撃が可能な状態で待機していた。そんな桜花に魁斗は何の遠慮も加減もなしに飛びついた。


「おおう・・・よしよし、怖かったね。変態野郎なんかにひどい目合わされちゃったね。」


いきなり抱き着いてきた魁人を、桜花は抱き留め切ることはできず、抱き倒されそうになったが、それをチビに支えてもらいつつ、魁人の頭をなでていた。


両手に持っていた武器は珍しく、地面に放り、魁人を受け止めている。


「おやおや。あの程度が怖かったのでございますか?それはそれは。口ほどにもございませんね、喜藤様?」


厭味ったらしい口調でウサは言う。


いつもならば噛み付く魁人ではあるが、ウサの言葉に顔を上げることはなく、むぎゅーっと桜花に抱き着く力を強めた。


桜花は眉間にシワを寄せ、黙るようにウサに視線で言う。それに対し、ウサは肩を竦めるのみだ。


「あの・・・えっと・・・・。」


状況についていけず、戸惑った声を出し、どうしたら良いかを視線で訴えかけている佳那子。


そんな佳那子に桜花は苦笑を浮かべ、強く強く自分に抱き着いてきている魁人に視線を向けた。


「お兄さん?まだ終わってないね?仲間が泣いたままにしてちゃダメでしょ。さっき、マリがあれの体液浴びちゃったね?放置しちゃダメでしょうが。」


「"術式2水"」


桜花に声をかけられ、魁人は顔は上げず手だけをマリ達のほうへとかざすと、術式を使用した。大量の水を出現させると、マリめがけて落とす。


それはもう、容赦せずに落とした。滝が一瞬出現した。それくらい勢いよく落としやがった。


そこに仲間に対する思いやりやら容赦やらは感じられなかった。


突然、空が滂沱の涙を流したかのように、水が大地に降り注いだ。それはマリのそばにいた佳那子まで巻き込んで、あたりをびしゃびしゃに濡らした。


水溜りができるくらいに勢いよくあたりを濡らした。


いきなり水をかけられた佳那子は何が何だか分からず、目には涙さえ浮かんでいた。危険な地で呆然としてしまうが、これは不可抗力といえよう。


「ちょっおまっ!!!女の子にそげな対応するか、普通?!」


見かねたにゃんこ先生が声を上げるが、それは魁人には届かないーーーというか聞く気がないからこそ、一切反応などしなかった。


水をかけられ、佳那子は涙目となっていたが、マリは魁斗の暴挙に一切のリアクションを取ることなく、尚も呪文を唱えるかのようにブツブツ何やらつぶやいていた。


が。


水に濡らされ、数秒後。ふと、糸が切れた操り人形かのように動きを止め、そしてぐらりと身体が揺れた。


倒れていくマリの身体を、ぎょっとした佳那子は条件反射に抱きかかえるようにして受け止める。


「まりさッ!!!・・・え?・・寝て、いる・・・?」


なぜ倒れたか分からない佳那子は顔を真っ青にしてマリの顔を覗き込み、そして困惑した様子でマリに異常がないことを確認していく。


意識はない。呼びかけてもゆすっても開眼はみられない。発語なし。目覚めはしないものの、刺激を与えれば跳ね除けるような動作がある。


呼吸は一定のリズムを刻んでおり、呼吸のたびに胸部から腹部が上下している。胸郭の動きに左右差はなく、呼吸数は早くもなく遅くもない。どう見ても呼吸は安定しているようにしか見えない。


目立った外傷はない。指先も冷たくはなく、血行も良い。


すやすやと眠っているようにしか見えない。寝息を立てているようにしか見えない。


どういうことなのだろう?


「お兄さん、そろそろ離れてくれる?マリの様子を見に行こ?」


わけが分からず、助けを求めるように桜花を見れば、桜花は魁人に声をかけていた。


尚も自分に抱きつく魁斗をあやすかのような口調。背をポンポンと撫でられている様を見ると、佳那子は立場を入れ替えてほしいと感じた。


意味もわからず多量の水をかけられ、びしょびしょになった時点で泣き出したいというのに、こんな状況でいきなり寝てしまった級友。それを抱える自分。


会いたい会いたいと願っていた仲間たちとは言え、こんな再開は望んでいなかった。


どうにもこの状況が処理ができない。


桜花に抱きついている魁斗が羨ましい気がする。何も考えずに抱きついていられたら楽な気がしてならない。


いや、いきなり寝てしまった級友を放置など出来やしないが、ちょっと魁斗が羨ましい。私だって抱きついていたいと思ってしまう。


「・・・嫌でぇ。」


魁斗はポツリと、しかし、ハッキリと拒否を示した。


いやいやいや。嫌ではないだろう。ガキではないのだから。魁斗の返答により一層佳那子は困った様子になった。


自分が行った行動について、説明なりしてほしい。出来たら、桜花をこちらに寄越し、事態の収縮に協力してほしい。


そう佳那子は思うが、魁人は動く気配はなかった。


「仕方ないなぁ。」


離れそうにない魁人に桜花は苦笑を浮かべていた。


いや、仕方ないではない。この状況をどうにかしてほしい。説明してほしい。


今にも泣きだしそうな顔をしつつ、佳那子は桜花を見つめていた。


その場は混沌とした状況にあった。


大雨が降ったかのように濡れていた場所。水溜りさえあるそんな場所。しかし、濡れているのはそこだけだった。そこを除いては地面は乾いていた。


びしょびしょの一角。そこには三体の魔物が横たわっていた。魔物の近くには佳那子やマリがいて、魔物たち同様にびしょ濡れの状態だ。


何が何だか分からずにいる佳那子はこんな状況下でいきなり寝てしまったマリを抱きかかえたまま桜花を涙目で見つめている。


見つめられている桜花は苦笑を浮かべつつ、自分から離れようとしない魁人の頭をぽんぽんと撫でていた。


そんな桜花の横にはウサやにゃんこ先生、わんこ先生が立っていて、生徒たちの様子を見ている。


佳那子やマリから少し離れたところに弓を抱きしめるように座り込み、みんなの様子を呆然と眺めているツバサ。近くには樹里がツバサのように座り込んでいた。


頼むから誰かこの状況を収集してくれ。


そう佳那子は切に願う。自分の願いをかなえることができるのはおそらく、桜花だけだ。そう思うがゆえに佳那子は桜花にすがるような視線を向けていた。


「カナちゃん。マリを連れてこっちに来て?ツバサや村くんもそんなとこに座ってないで、こっちにおいで。」


桜花は困ったような笑みを浮かべつつ、皆に声をかけた。


声をかけられた佳那子は必死に立ち上がる。


そして、マリへと術式をかけると、ふらふらとおぼつかない足取りで桜花の元まで歩いて行く。マリを持ち上げ、桜花の元まで必死に連れて行った。


訳が分からないままではあるが、とりあえず、ツバサや樹里もその後に続いていく。


「どのみち、私は建物から25メートル以内に入るなって変態野郎に言われてたから行けなかったんだよね。ごめんね?………ん。みんな、大丈夫そうだね?」


皆の様子を一人一人確認しつつ、桜花は言う。


しがみつかれたままであるため、身動きは取れそうにないが、安心したように無事で良かったと微笑んでいた。


「桜花さんっ!!無事じゃありません!!!ぜんじぇん、ぶじにゃんかじゃ…ないですっ!!」


柔らかい笑みを見て、安心する反面、キャパオーバーのこの状態の説明をして欲しいと言う気持ちが強くなる。


当たれる相手。甘えられる相手。


ゆえに佳那子は声を上げていた。桜花が悪いんじゃないにしてもついつい言ってしまう。


「ん?んん?私、どうしたら良い?」


桜花は佳那子の顔を見た。困ったようにしつつも佳那子に手を差し伸べようと状況把握をしようとしている。


そんな様子に佳那子は安心感が募っていくのを感じた。


さっきまで怖くてたまらなかったが、もう大丈夫。仲間に合流できた。仲間達は無事だった。自分も大丈夫。生きている。


緊張の糸が切れ、涙が目に浮かぶが、ここで気を抜いてはいけない。


「どういう状況なのでしょうか?」


とりあえずは状況を理解しなければ。


佳那子は桜花を見つめ質問した。


「ん〜?今さっきカナちゃん達に出会ったばかりの私だよ?」


どういう状況であるか説明が欲しい。そう求めたが、何を説明したら良いか分からないと桜花は困り顔になった。


そうなっても仕方ない。


佳那子の質問がいけなかった。


「さっきの魔物は…?」


佳那子は質問を変える。


一体、あの魔物はなんだったのか。


恐ろしかった。怖くてたまらなかった。


だが。


その割にはあまりにもあっさりと倒された。怖いと本能が訴えかけていたが、思いの外強くはなかったように見えた。何だったのか。

読んでいただき、ありがとうございました( ´ ▽ ` )


はたして、魁斗がウサを目当てに走ることがあるのか。

そんな日は来ることはないのでしょう。

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