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125.魔物と対峙してるのは続いてます

マリに視点が戻ります

魔物がいる場であるにもかかわらず、マリは泣いていた。泣きながら叫ぶようにして、嗚咽も隠さず、話し続ける。


ある日。


両親と何か言い争っていたのが聞こえてきて。行った時には兄さんが家から出ていく背だけが見えた。その後ろで父が何かを怒鳴り、母が泣いていた。


そして。


兄さんは帰っては来なかった。そこから家の雰囲気が一変した。両親はずっと暗い雰囲気で。


お母さんは夜な夜な泣いていた。


それが嫌で。


頑張ったんだ。両親を笑顔にしたくて、兄さん以上の結果を出そうと頑張ったんだ。


頑張れば頑張るほど両親は私を見て笑ってくれたから。だから、頑張り続けたんだ。


私が頑張らなきゃ。兄さん以上の結果を出さなきゃ、また2人が泣く。


私が両親の夢を叶えれば、2人は笑ってくれる。


戦闘員になった時。2人は笑ってくれた。それはもう我が事かのように嬉しそうに笑った。


2人に泣いて欲しくない。だから、頑張らなきゃなの。怖くたって頑張れる。大好きな人のためだもの。頑張って見せる。


私は誰より優れた結果を出さなきゃなの。


なのに。


なのになのになのになのになのにーー……


なぜ。


なぜ、思った通りにできない。


私が。


私が頑張らなきゃいけないのに。


兄さんよりずっと凄くなきゃ。すごい戦闘員であらなきゃいけない。


誰より優れた戦闘員であらなきゃいけないのに。


なんで、何もできないの。


なんで、なんでーー…… マリは誰に向けるでもなく、叫び続ける。心の内を吐露し続ける。


泣きながら。泣きじゃくりながら、嗚咽混じりに言い続ける。


つらい。うまくできなくてもどかしい。なんで自分だけ。周りの子は、あの子達はうまくできるのになんでなんでなんでーーー・・・


負の感情を、心にため込んでいたものをマリが吐き出せば吐き出すほど、周りにいる者はうまく考えることができなくなっていった。


ダイレクトにマリの感情が頭に叩き込まれているかのように、感情が入り込んでくる。その感情に思考が引きずられ、考えることが億劫になってくる。




ーーーいっそ、マリのように泣き叫んでいたい。




そんな気持ちにすら陥りそうになっていた。


誰もが思考を手放しそうになっていたのだ。


皆が動けずに立ち尽くす様を見て、魔物はにちゃりと笑みを浮かべた。巨悪な相貌に浮かべた邪悪でいびつな笑み。


魔物はすぐには攻撃せずにマリが泣き叫ぶ様を佳那子達と同様に眺めていた。いや、同様にではない。佳那子たちが状況を把握できないのに対し、魔物は動揺ひとつなくマリをみていた。


面白い劇場を見ているかのような視線をマリに向けていた。


が。


あの浮かべた笑みは。待つのをやめたと示しているようで。




ーーー殺される。




そうどこか他人事のように思うだけで、やはり身体は思うように動かない。佳那子も魁斗もツバサも。誰も身体が動かずにいた。


魔物はそれをあざけわらうかのように面白そうに一瞥すると、一歩前へ進み出てきた。


《パーン》


唯一身体を動かしたのはーーー動かすことができたのは意外にも樹里だった。その場に銃声を響かせる。


だが。


いつもならば外しはしないはずの樹里なのだが、弾は無情にも外れた。外れてしまった。魔物にかすりもしなかった。


マリが叫べば叫ぶほどに、その場を満ちていく絶望感。どんどん心を絶望感が支配していく。それはマリの心だけではない。この場にいる者の空気すら支配していた。


かなわない。


かなうはずがなかったんだ。


戦闘員なんて、そんな大層なものは自分には無理だった。無理だったのに!


そんな絶望感がその場を支配していく。


唯一動けた樹里でさえ、弾を外してしまった。数は打てないものの、的中率はほぼ百%だというのに、弾は明後日の方向へと飛んでしまった。


絶望か疲労か。限界を迎えたように、糸の切れた操り人形かのようにーーー樹里はその場に座り込んでしまう。


その様に、その場の絶望感は膨張していく。コーラの中にラムネをいれ、発生した泡のように、一気にものすごい勢いで絶望感は溢れ出て大きくなっていった。


樹里の行動は敵にダメージは一切与えられず、ただただ、銃声を響かせただけになってしまった。


魔物にあたらなかったそれは魔物への威嚇射撃にもなり得なかった。


だが。


ある1人をハッとさせるには十分だった。


悲観的な思考が止めどなく溢れ出てくるのを一時的にやめさせるには十分だったのだ。


ふと、顔を上げる。視界を上げたことで心に火が付いた。


「・・ふ、ざけっんなっ!!!!」


あきらめそうになったその時だったわけだが、樹里の行動のおかげで魁斗は我に帰ることが出来た。


絶望感に打ちひしがれたあの時。死ぬのか、死にたくないと涙を溜めたあの時を思い出す。自分を救ってくれたあの子の顔が頭に浮かぶ。


笑みを浮かべつつ、話しかけてくれた。優しい笑みに優しい声。思い出すほどに魁斗に力が戻ってくるのを感じた。


あきらめそうだった魁斗はなんとか力を振り絞ることができそうである。


声をなんとか絞り出す。


声でも出してなきゃ、動く勇気すらわいてこない自分に魁人はもはや、笑うしかない。情けないと涙が出そうな気持ちになる。だが、泣いている暇などない。


何より、そんな姿など見せたくない。


今はとにかく震えあがっている身体を何とか動かしあがかねば。足はまだ動きそうにない。


ならばと魁人は武器を投げた。


何も計算せず、狙いを定めることもせず投げた。そんな余裕などなかった。とにかく必死に動いて見せただけだ。


だからそれは運よくとしか言いようがない。


そもそも投げるための武器ですらなく、普段、そういう訓練を受けているわけでもない魁人のそれ(番傘)が魔物にあたったのは本当に運が良かっただけ。


日ごろに行いがよかったからこそーーーだなんて言えるほどに善人であるわけではない。


ただ単に、この絶望に支配された状況下で最後の最後にあきらめるという選択肢を選択するではなくあがくという選択制を選択し、必死にあがき行動下からこそ得られた幸運であった。


「ぐわっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


魔物の目をえぐり取り落ちた武器。魔物は目を抑えつつ叫ぶ。そこに先ほど浮かべていた歪つな笑みはもうなかった。




ーーーダンッ!!!



自分に活を入れる意味も込め、魁人は踏み鳴らすようにして一歩前に出た。


足に伝わる衝撃に少しは気合が入る。


今動かねばもう動けなくなってしまう。それが分かっていたからこそ、その勢いのまま、魁人は走り出した。


無我夢中で自身の投げた武器めがけて走っていく。いつもの動きに比べれば、油をさす前の機械のように動きが悪く、歪な動きではあるが、ひたすら必死に前へ前へと進み出る。


そして、武器までたどり着くと武器を拾い上げ、いまだに叫んでいた魔物を走ってきた勢いそのままに殴りつけた。


先ほど、魔物を攻撃した際にマリは魔物の体液をもろに浴びてしまっていた。


あれは浴びてはいけない。あれを浴びてしまえばもっと収集のできない事態になってしまう。いや、浴びた後の様など、あの子に見せたくなどない。そんな事になるくらいなら死んだほいだがマシだ!魁斗は必死に動く。


上手く動かないままの身体をなんとか必死に動かし、魁人は飛び散る魔物の体液を避けつつ、魔物へと視線を向けた。


一体は自分の今の攻撃によって何とか撃退できた。残るはもう一体だ。


魁人は残ったもう一体に視線を向けたその刹那、多くの弓矢が魔物に突き刺さった。


見覚えのあるその弓矢はツバサのものであった。


ツバサのいる方向へと視線をやれば、ツバサが肩で息をしつつ、弓を構えていた。カタカタカタと身体は震えている。


狙いを定められないと察知したのだろう。必要最低限の攻撃に努めるとこだが、此度の攻撃は暴力的な数の弓矢が使われていた。


うまく狙いを定められないからこそ、ひたすら数を射ることとしたらしい。


断末魔を上げ、ゆっくりと地に伏せていく魔物の姿を見て、弓を抱きしめるようにして、ツバサはその場にぺたんと座り込んだ。


ツバサが座り込む様を見た後、魁人はゆっくりと周りを見渡す。


倒れた魔物たちに座り込んでいる級友。そして未だに泣きじゃくっているマリ。散々な光景ではあるが、全員が無事である。


何とか魔物は撃退でき、誰一人死ぬことなく建物から出てくることができたようだ。


「お…か、ちゃ……」


上手く声が出ず、かすっかすな声が出た。


なんて言ったかなんて魁人以外にはわからない。


だが、それを気にすることなく、魁人は駆け出していた。建物から背を向け、森のほうへ目掛けて走る。俯いていて、その表情は見えない。ふらっふらの足取りではあるが、何とか魁斗は走っていた。


走り出した魁斗を見て、佳那子やツバサは身を固くした。


もしや、まだ魔物がいるのかと顔面真っ青にし魁人の走っていったほうを見てーーーそして脱力した。と同時に、助かったと安堵もしたのだった。


魁人が走っていった先にいたのはーーーウサだった。ウサの周りにはにゃんこ先生やわんこ先生の姿もある。

読んでいただき、ありがとうございます\(//∇//)\

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