122.佳那子目線、入ります
少し時が遡ります
佳那子視線でマリ達と合流する前まで
さぁ時を巻き戻そう
薄暗い廊下。
板が打ち付けられており、あまり光を中には通さない窓しかないため、廊下だけではなく、部屋の一つ一つも薄暗かった。
そんな薄暗い建物の中に佳那子は身を潜めていた。
息を殺し、気配を断ち、あたりの様子をこれでもかってくらいに注意深く窺っていた。
「ハァハァ…すぅ〜…はぁーー…落ち着いて。大丈夫。落ち着いて。」
自分に対して言い聞かせるために言ったが、声は情けないくらいに震えてしまっている。小さな小さな声で言ったのも重なり、弱々しく感じられる声だった。
誰かの貧乏ゆすりかのように身体の隅々が、カタカタと揺れている。手のひらを見れば指先まで痙攣するかのように震えてしまっている。
揺れに揺れ切った声を出してしまった佳那子は震える身体を抱くようにしながら、身を小さくし、物陰に隠れている。
佳那子は現在、あたりを確認し、最大限に警戒しつつ、コソコソっと少し移動しては、また物陰に隠れる事を繰り返していた。
たった1人で行動をしているため、これ以上のスピードアップは佳那子には出来なかった。桜花やら魁斗やらのように大胆に闊歩するだけの勇気も力も佳那子にはないのである。
佳那子は全神経を集中させて周りの気配を読み、耳を澄まし、必死に周りを見渡す。手がかりとなる全てを察知できるように慎重に観察し、五感を研ぎ澄まし、情報を得ていく。
自分1人しかいないんだ。情報を取りこぼしてはいけない。それは自身を危険に晒すことにつながる。情報を取りこぼさないように注意していく。
慎重に進む佳那子の手には小雲豹が入れられている袋が握られていた。手足を動かしているであろう小雲豹。袋は蠢いていた。
袋を握る佳那子の手は指先が白くなるほどに、佳那子は強く袋をにぎりしめていた。それくらいまでに、緊張してしまっている。
小雲豹を見かけた時、桜花は皆に何匹か捕まえつつ、説明をしてくれた。
小雲豹を使わない桜花による小雲豹とはこういうものという説明。つまりは知識として知っている者による説明でしかない。
桜花の説明は間違ってはいないが、小雲豹の魅力について語りきれていないと佳那子は思っていた。
桜花が説明した際、ほとんどのメンバーがいい顔をしなかった。戦闘員に重宝されているそれにマイナスのイメージしか抱けずにいた。
それほどまでに気持ち悪い見た目を小雲豹はしているのだ。仕方ない。それは佳那子も分かっている。理解している。
だが、小雲豹はレアアイテムであり、有事の時には助けになってくれることは事実なのである。戦闘員にとって小雲豹は救いの神であるのは自明の理。覆すことはできない事実なのだ。
小雲豹に命を救われた戦闘員は少なくはない。ゆえに気持ち悪くとも、戦闘員には有名なアイテムなのだ。
佳那子は喜んで小雲豹を桜花からもらった。薬の材料にもなれば、かつ、何かあった時に自身を守ることができるからこそ、手に入った時は嬉しかった。
他がいらないと言ったことにすら喜んだ。人数分はなかったが、誰も欲しがらなかったため、全てを手に入れられた。あの時は薬の材料となるため、全てを手に入れられ、ほくほくしていた。
今となっては皆に出来る限り渡しておくべきだったと後悔している佳那子である。嫌がられてもわたしておくべきだったと。
桜花が説明する際に触れなかったが、小雲豹が重宝される理由の一つに、自身に爪や髪を与えた者を守るために自ら動く習性があると言うことがあげられる。
捕獲し、自己の髪や爪などを与え続けると、与えた者に危機が迫った際に自ら飛び出し、弾け飛ぶ。そして弾け飛んだ際に防御壁を張り、迫り来た攻撃やら衝撃やらを吸収し、消滅するのだ。
電子レンジに卵を入れ温めた際のように弾け飛び、あたりに肉片を飛び散らせる。その映像はぐろく、見て良い気分になるものではない。
破裂する姿まで、どこまでも気持ちが悪いとしか表現のしようがないのが、どうにも言い表せない複雑な気分にさせられる。
とはいえ、だ。
食糧として使え、カイロのように使用でき、薬にもなり、そして何かがあった際には自ら弾け飛び、自身に爪や髪を与えた者を守るために動く。
問題点は不快な見た目のみ。
その防御力は特別秀でているわけではないが、馬鹿にはできないものである。生きるか死ぬかの世界では重宝すべきものであるのは明らか。
現に、今の佳那子にとって、小雲豹は救いの神と称されるにふさわしい存在であるのも確かだ。
見目は気持ち悪い上に防御の姿もまた、気分の良い見た目ではないのは確かだが、それでもだからといって無碍にはできない。できるはずもない。
小雲豹があるからこそ、生き延びることができた症例がないわけでもないのだ。
今、この状況で小雲豹がある事は佳那子に取っては運が良いとしか言いようがなかった。神様ありがとうと拝んでしまう。なかったとしたら、危なかった。
これが小雲豹が救いの神と呼ばれる所以だ。
佳那子が持つ小雲豹は有限。持っているのは桜花やチビが捕まえくれた分のみ。できうる限り魔物に出会うわけにはいかない。
息をできうる限り潜めて隠れて、出来るだけ身を小さくし目立たないようにそれでいてできるだけ早く歩く。隠れては歩きを佳那子は慎重なまでに警戒しつつ繰り返した。
皆には小雲豹がないわけだが、大丈夫だろうか。
そんな思いが胸をよぎるが、今気にしても仕方ない。佳那子は今は自分のことをどうにかしようと、周りを見渡した。
「これ、は…えっと…にゃんこの爪痕、新しい…近くにいる、ということ…?た、ぶん…あっちに、進んだ…はず。だから…。」
佳那子は進むにあたり、周囲から得られる情報を取りこぼさないように最新の注意を払う。爪痕も糞便も全てを確認していき、魔物の痕跡を探す。人が残したであろう痕跡にも気を抜かない。
ウサ達が残した印は今まで、分かりやすかった。ウサをモチーフにしたものであり、罠がしかけられているか、あるいは部屋や階段が隠されているかされていた。
ウサをモチーフにされているあたりが、ウサ達は優しいと佳那子は思う。誰が仕掛けたかを知らせてくれているということは最悪助けが入るということだから。
とはいえ、それは最悪の場合。
自分の力で何とかしなければならない。ウサ達に助けられねばならないようでは自分の目標は達成できない。
今は出来うる限り怪我しないように前に進みつつ、仲間達と合流しよう。
「これ、は…罠…じゃ、ない…ですね…。マーク…えっと…らく、がき…?」
今までウサ達が残していた印とは別の印を見つけた。
明らかに人が書いたであろう印。印をつけてから間もないであろう、新しいもの。
どんなに見つめてみても、落書きのようにしか見えないクオリティの低いというか、なんというか。表現し難い印。
ただの落書きにしか見えないとしても。幼い子供が入り込み、描いたのではと思ってしまいそうになったとしても。
人が付けたがために警戒心は強くなる。
警戒しないわけにはいかない。
周りを調べるが、罠もなければ何の仕掛けもない。だとしても、気は抜けない。
調べ終えた後も、気を抜かずに進んでいく。
意味の分からない、落書きにしか見えない印はその後も見つけた。
「ダミー…?あ、誰かがつけた、とか…誰かが周りにいる?」
何回目かに見つけた落書きのような印を見て、佳那子はつぶやく。
そして、仄かな希望が佳那子のなかに芽生え始めた。
みんなに会いたい。無事を確認したい。怪我をしていないだろうか。困ってはいないだろうか。
佳那子はより一層、今まで以上にあたりに注意を向け少しずつ前へと進んだ。
他に人が通ったという印はないだろうか。何かが残っていないだろうか。
佳那子は恐怖だけではなく、淡い希望も胸に抱き、あたりの捜索を続けて行った。
読んでいただきありがとうございました(*'▽'*)
佳那子の視点に変わりました
すぐに戻りますが…
まだまだ暑いですね
熱中症にご注意あれ




