121.そして、ピンチです
今後もあるため、全て食べ切らないようにすると言うことを忘れてしまっているのか、マリは全てを取り出し並べている。
「全部、食べたらダメ。」
ツバサは食べ始めようとしていたマリに声をかけ止める。
声をかけなければ食べきってしまいそうな勢いがマリにはあった。
「だ、だから、分かってるわよ。」
狼狽えるマリ。
本当に分かっていたかはマリのみぞ知るところだ。
「ハハハ。とりあえず、食事としましょうか。お腹も空きました。」
ゆっくりと身体を起こしながら、樹里は言う。そして、樹里も数少ない保存食や水分を取り出す。
疲れており、寝たいと言う欲求も強いが、食事は摂れる時に摂っておかないと身体に触る。それは自分だけでなく、仲間すらも危険に晒すこととなる。
それが分かっているが故に、樹里も含め、マリ達は周りを警戒しつつも、持っている食料を口にした。
「ん…不味くはないけど…食べ応えがないわ。」
食べると決めた分を口にして、小さくマリはつぶやく。
プロテインバーやゼリーをいくつか持ってきていた。念のために全員が保存食を持っていた。少しだけ。それだけであるがゆえに食べ終わるのも早い。
あっというまに食事は終わってしまう。物足りなさのあるものとなってしまったが、文句は言えない。
その後は魁斗が言ったとおりに休む2人と見張る2人とを決め、交代制で睡眠をとった。
休まず動き続けるなど経験はない。ましては慣れぬ地で朝から動き詰だ。疲労は溜まっているが故に休憩組は横になればすぐに眠りの世界に行けた。
が。
場所が場所であるがゆえに十分には休息は取れず、ポンポンと軽く触れられるだけで目覚められた。寝過ごすことはないから幸いと言えるかもしれないが。
信用する仲間が見張りをしているとはいえ、熟睡出来るものはーーー樹里くらいだった。とはいえ、寝起きが悪くはない樹里であったため、起こせばすぐに目覚めたため、問題にはならなかったからよしとしておこう。
そんなこんなで、無事朝を迎えたのだった。
◇◇◇
朝。
食事を早々に済ませると、4人は先を急いだ。
あたりに魔物がいないか、罠などが仕掛けられていないかに注意して、建物から出るべく、先へ先へと進んでいく。
魔物が出れば、やはり魁斗やツバサが競う形となり、マリや樹里はそのサポートをした。
「??」
「どうしたんでぇ。」
足元に違和感を感じ、歩みを止めたツバサに魁斗が反応する。
皆が足を止め、ツバサの方へと視線を向ける。
「なんか、足に触れーー…何これ。」
ツバサは不思議そうに足元を見渡し、目を見開いた。
足元には泥団子のようなものがいくつもあった。
汚いなぁと思いつつ、進んでいたわけだが、いつの間にか、泥団子が動き出し、足にまとわりついていた。それも複数。
他の泥団子達もよくよく見れば、動いている。ゆっくりと動き、ツバサに登ろうとしていた。ツバサは足を振り払い、足にまとわりついていたものを飛ばそうとするがなかなか離れない。
手で払おうとするも、うまくいかずにいた。
《ガッ》
《ゴンッ》
弓で射るには近すぎる距離だったためか、困っていたツバサを救ったのは魁斗とマリ。2人の打撃により、それは飛ばされた。
ひっくり返ったことにより、それが身に纏っていた泥が取れ、全容が見えてくる。
「ひっ!」
マリから悲鳴が上がる。見えてきた全容はまさに、マリの嫌いな物であった。
嫌な見た目をしていた。
全体的に薄汚い黒の身体。卵円形をしており、そこに長細い足がうじゃうじゃついている。それが忙しなく動く。足とは別に頭についているあれは触覚か。
20センチくらいの大きさだが、その身体を覆い隠すように泥のような物を身にまとっていた。
ツバサ達が近づくまで動かずジッとしていたそれらはそばまで人が来たことにより動き出した。それが泥が動いているように上からは見えたんだ。
泥が動いているという状況もまた気持ち悪かったが、それが20センチほどの大きさの虫のようなものと知り、より一層嫌悪感が増す。
「コイツぁ…。」
「いやぁあああ!よるなぁあああ!」
虫達はそれまであまり動かずに近づいてくることを待っていたようだ。しかし、バレてしまってはジッとしている意味はない。
カサコソーッといきなり素早く動き出し、ツバサだけではなく、マリや魁斗、樹里の元にも近寄ってきた。
それに対して、マリが叫んだ。マリが暴れた。マリが叫びながら大暴れしていった。
パニックになっているというのに、虫達を的確に殴り飛ばしていく。動きが素早く、そして無駄が多くはあるため、つまりは魁斗達は慌てて回避しなければ巻き添えを食らうリスクがあった。
いやはや、恐ろしや。
壁に打ち付けられて破裂するそれに周りは青ざめる。が、マリはそれに気づかずに大暴れをするのであった。
いかにグロテスクな光景をマリ自身が生み出しているかについてはこの場の誰も口にすることはできなかった。だって怖いんだもん。
怖い奴は遠巻きから見てるに限るでしょう?
3人は離れた場所からマリが落ち着くまでマリを眺めていた。ご乱心なマリは怖い。
◇◇◇
トラブルはあるものの、何とか前へと進んでいった。
時折、休憩を挟みつつ、何とか先に先にと進んでいきーーーそして、出口までたどり着いた。
薄暗い中にいたからか、ガラス張りの出口から中に入り込んでいる光が眩しく感じる。あそこが出口だとわかった。
目を細め、出口の方向を凝視した。
たどり着いた出口の近くにはいくつか、他の出口もある。そこから、佳那子が外に出ていくのが見えた。
「あ、あれ、カナちゃん?」
マリは佳那子であろう子を指差し、名を呼んだ。
出口付近によく知る子がいる。それも戦闘力の低い子が1人でいる姿が見えた。
見つけられた嬉しさと1人だという衝撃に襲われる。
「…外、魔物!!」
ツバサの切羽詰まった声にマリははっ?!と声を上げつつ、ツバサが指し示す方を見た。
確かに。
そこには魔物がいた。しかも、ヤバそうなやつ。
「魔物の気配、薄いですね…?」
「建物に何か術式でも施されてるんじゃねぇのかぃ?」
「て、今はそんな事よりカナちゃーーー「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」
マリは魔物に対面している佳那子に駆け寄ろうとしていた。それに魁斗が続こうとし、ツバサや樹里は武器を構えた。
マリ達が着くより先に、ツバサ達が攻撃をし時間を稼ぎ、マリ達が佳那子を救出する。口外に流れを確認し合い、それぞれが動こうとした。
そんなときだった。
魔物の咆哮がその場に轟いた。
大地を痙攣させるほどの咆哮であった。
ーーー自分達から湧き出すのは恐怖だった。
これ以上にない恐怖。そして、絶望。
絶対的に敵わない相手がいる。
天地がひっくり返ろうとも、ひっくり返りようにない実力差がある。
そう理解せざるを得ない圧倒的な空気があった。
動き出そうとしていた身体が固まる。動かねばならないというのに動かない。
どう空気を吸えば良かっただろうか。呼吸の仕方さえ分からなくなってしまいそうになるほどの圧迫感に襲われた。
魔物へと視線をやれば、魔物は佳那子へと歩を進めていた。佳那子を見て笑みを浮かべている。背筋が凍りつくような嫌悪感しか抱けぬような嫌な笑み。
まるでおもちゃを見るかのように佳那子を見るその姿は魔物がある程度の知能を有していることを示していた。
知能の高い魔物は強く厄介である。
しかも、先程の咆哮。
強さ、知能のどちらもある魔物など厄介以外の何者でもない。敵うとは到底思えない。
猪突猛進の魁斗でさえ、動きを止め、武器に手をかけたまま魔物を見ていた。動くことができずにいた。
そうこうしているうちに。
佳那子に近づいた魔物は情け容赦など一切なく、佳那子に対して、武器を振りかぶったーーー……
《ガッキーーーーーン ガッ!》
佳那子が襲われようとしているというのに、その場にいる者たちが恐怖に飲み込まれ、うまく思考できず、身を固くしてしまっていた。
1人、佳那子の元へ走っていった者がいた。
ピンチなヒロインを助けるヒーローのように飛び出したのだ。
読んでいただきありがとうございます^^
モーニングが大好きですが暑すぎてパンを食べる気になれませんね




