120.休憩もします
罠が作動し、冷や冷やしたものの、何とか回避できた。心底ひんやりしたが、皆無事だ。
探索を再開しなければとマリやツバサは動こうとした。
《バサバサバサー!ガタガタガタ!!バサっ!》
そんな彼女達の耳に何やら音が届く。
部屋の探索は今までもしてきたが、探索するとはまた違う音だ。
「魁斗、何をしてるの?」
ツバサは音を立てている人物に視線を向ける。
いきなりの奇行に目を丸くしてしまうが、声をかけられた人物は気にする様子もない。
「あん?見りゃわかんだろ?休むとこの確保でぇ。床に直は抵抗があんだろ?マリちゃん、虫にビビってるしな。一々騒がれちゃあ困んだろ。」
机や椅子を動かし、スペースを作るとともに机や椅子を使い、バリケードのようなものを作っている。あちこちにあった段ボールの中身もまた、バリケードの材料としてぶちまけていた。
中身のなくなった段ボールは広げられ、バリケードの中の床に引かれている。簡易的な休憩スペースといったとこか。4人が休める程度のスペースをササっと作っていく。
いろんな物を乱雑に重ねて作ったバリケードは魔物も虫も防御するには拙いが、気持ちの問題だろう。
ここまで散らかして良いのだろうか。そんなことを思ってしまう。
とはいえ、虫に騒いだマリのために休憩スペースを作ってくれたのだろうか。
マリは言い方こそ可愛げがないものの、魁斗の優しさにジーンとなる。シャキッとしなきゃとやる気がみなぎる。迷惑ばかりかけて騒いではダメだと。
「ここらなら、横にもなれらぁ。罠もさっきの2つしかねぇようでぇ。2人ずつ交代に休んでいく形で良いだろ?」
気合いを入れ直したマリの様子とは裏腹に、魁斗は武器を近くに立てかけ、腰袋を外し、荷物を近くに置いていった。
休む準備を整えているようである。
しかも、しっかり休憩を取る気満々らしい。
「交代?横?」
魁斗の言葉にマリは頭を傾げ、聞き返した。
何をしているのか。何を言っているのかわからない。
休憩スペースをわざわざ作ってくれたようだが、横になるとはどういう事だろうか。
話の流れもなく、唐突に言い出すのだから、何を言っているか理解が追いつかない。
「もう今日は遅ぇ。このまま、ここで休んで朝になったら動く。」
3人に伝わっていないことを感じ取った魁斗は端的に言うと、バリケードの中に腰を下ろした。
あー疲れたぁと身体を伸ばしており、完全に休憩モードである。
「まだ進めるわ!」
魁斗の言ったことに対し、マリは反射的に言い返していた。
板を打ち付けられた窓から僅かに見える外は日が落ち、外が暗くなってしまっているのは分かる。
先ほど見えた橙の光はもう見えない。差し込む光も無くなってしまっている。完全に日は落ちているだろう。
だが。
だとしても、まだ休むには早いだろう。日が落ちてから、まだ時間が経っていない。まだ日が落ちたばかりなのだ。寝る準備をするには早い。
窓に板が打ち付けられ、灯がつけられていないため、建物内は暗い。とはいえ、昼と夜とでは明るさに差があった。昼間のほうがいくらかは明るかった。それは確かだ。
しかし、薄暗い中を進むと言う意味ではあまり差異ないようにも感じられる。
一刻も早く外に出るには今も休まず、進むべきではないか。ここで止まる理由はない。
「行ける。」
ツバサもマリと同意見らしく、まだ行けると主張した。
まだ休むには早い、まだ先に進みたいとツバサも意見していた。
まだまだ寝る時間ではない。
「ダメでぇ。休むときにはきっちりやすまねぇといざって時にぶっ倒れる。ぶっ倒れた自分の世話を誰にさせるつもりでぇ。」
2人に反対されても、魁斗は自身の意見を曲げることはなかった。
ハッキリとダメだと言い切る。
倒れたりしない!と言い返したいが無理が禁物なのも分かるため、気に入らないとツバサは唇を突き出してしまう。
「あんなに考えなしに魔物に突っ込むくせに。」
「はん。」
ツバサに半眼で見られ毒づかれともなお、魁斗の意見は変わらないらしい。
しっかりと腰を下ろしており、立ち上がりそうにはない。
進む時同様に自身の意見で動いている。マリやツバサの意見は聞き入れてもらえそうにない。
「……僕はここで休憩のほうが助かります。疲れましたぁ。」
へろへろへろー…と力なく動く樹里。
もう動けないと言わんばかりに、魁斗が準備したスペース内に入ると、その場に横になって休み出した。
くたんくたん。
これは先には進めそうにない。もう今日は動くことが難しそうである。
そう樹里は全身を持って体現していた。
「とりあえず、休もうぜ。突っ立ってたって仕方ねぇ。」
座れよと、魁斗はマリやツバサに言う。
マリやツバサは樹里の様子を見て、休んだほうがいいかと、渋々ながらも魁斗や樹里のそばに腰を下ろした。
腰を下ろしてからジワジワと感じるのは疲労感。足がぱんぱんになってしまっている。
慣れない環境で休憩を挟んでいるとはいえ、動きっぱなしだったのだ。肩も重ければ、あちこちが痛い。身体に鉛を巻いているかのような疲労感がある。
これは確かに休んだ方が良さそうだ。
もしかしたら、動きが鈍くなっているのを魁斗は察したと言うのか。
思っていた以上に身体は疲れてしまっていた。
「魁斗なら…桜花に会うまで、猪突猛進するって、思ってた。」
疲れている身体に悔しさもあり、納得しきれていないツバサは魁斗に視線を向ける。
どんなに言ったところで魁斗が動かず、樹里が動けないならば進む事はできない。
とはいえ、文句を言わずにはいられなかった。
まだまだ動けそうに見える魁斗。誰よりも余裕そうに見える。
のくせ、休む選択をしてみせた。それはおそらく、樹里やらメンバーの様子を見ての判断のはず。
自分達には周りを見る余裕はなかった。早く進まなければと焦っていた。それは魁斗に劣っているように感じてしまう。それが悔しくてたまらない。
「そこまでバカじゃあねぇよ。とりあえず、飯でぇ。明日の分も必要だから、全部食っちゃいけねぇぜ?」
魁斗はツバサからの視線を肩を竦め受け流す。ツバサが悔しさをか変えているのを知ってか知らずか、魁斗はツバサをまともに相手にする気はないらしい。
マリをチラッと見つつ言った。
とりあえず、腹ごなしをしようと。しかし、全部は食べてはダメだとも。
「わ、分かってるわよ?!」
自分に言われていると瞬時に悟り、狼狽えてしまう。
誰かを名指しはしていないが、あれはマリに言っていた。
さすがに食料を全て食べ尽くすなんてことはしないと言うのに。
「ん。良い子でぇ。明日の朝にゃ、桜花ちゃんのおにぎり分けてやらぁ。」
にっと人好きのする笑みを浮かべて魁斗は言った。
自身のカバンの中から桜花にもらったそれを取り出す。
「桜花のおにぎり?!」
「そういえば、魁斗くんももらってましたね!」
「まだ、食べてなかったの?」
魁斗の言葉に3人ともが食いついた。やはり、食べ物への食いつきは良い。
3人はすでに食べてしまっていたが、魁斗はまだ持っていたらしい。
「あぁ。明日の朝にでも食おうぜ。今日は交代で見張り番をしねぇといけねぇし、ご褒美は必要だろ?肉巻きや串も、余った奴、もらったんでぇ。」
袋を3人に見せつつ、魁斗は言う。
今日はここで休む。
交代制で一晩を明かす。そのご褒美を魁斗は提示したわけである。
魁斗が見せた袋を見て、冷めても美味いように作ったのーと自慢げに言っていた桜花が頭に思い浮かぶ。
やはり、こういう事すら想定していたのだろうか、彼女は。ふざけているようでいて、慧眼をフルに発揮し、皆のために動いてくれていたのだろうか。
うるっときてしまう。
一晩、ここで過ごすことに不安も不満もないわけではないが、朝まで頑張ろうとやる気が出てくる。
「楽しみね!今日は保存食で我慢するわ!」
明らかにテンションが上がったマリは自身の保存食を取り出していく。頑張るわよーっと気合いが入る。
読んでいただき、ありがとうございました^^
雨が多いですね
洗濯がつらつらですよー




