119.先に進みます
魁斗が前を歩き、その斜め横にツバサ。その後ろに樹里が続き、マリが後ろを歩く。
3人の時にはマリが1番に特攻していくことと、1番、接近戦に対して臨機応変に対応できるためマリが前だった。
今は魁斗が特攻し、マリもサポートにまわるため、背後からの襲撃に備え、後ろを歩いていた。
マリに止められたり樹里からサポートを受けたりし、何とかできている場面もあったが、へこたれずに進めるのだから凄い。
迷いなくズカズカ進んでいく魁斗たちにマリはすごいと感心しつつ、命知らずなど呆れも隠せない。
周りにある窓を見れば、窓に打ち付けられた板と板の間から橙の光が漏れていた。それが見え始めてからしばらくが経つ。もうじき、日が暮れる。
昼間にここに飛ばされたわけだが、すでに日が落ちようとしている。
進むスピードが格段に早まったというのに、未だに出口には辿り着けていない。
もうちょっと慎重に進んだからどうかとも思わなくもないが、今のスピードでも出口に辿り着けていないのだ。
このままでは日が完全に落ち、夜となってしまう。夜に森に出るのは危険だ。急がなければならない。
身体は疲れていなくもない。今のスピードで進むのも不安も大きい。しかし、まだゴールできていないのだ。前のスピードに戻すわけにもいかず、このまま突き進むしかない。
魁斗達の背をマリは自身にシャンとしろと言い聞かせつつ追った。
どこに階段が隠されているか分からない。隠し扉もあるゆえ、道に隠されているかもしれないし、部屋の中にあるかもしれなかった。
ゆえに探索はやはり、地道に道も部屋もしていくしかない。
ズカズカ進めたらいかに楽か。
それは言っても仕方ないため、マリ達はしらみつぶしに探索を続けていった。
「この部屋、まだ。」
「あぁ。行くぜ。」
ツバサ印の付いていない、つまりはまだ探索していない扉を魁斗は開ける。
その横で素早く、ツバサ印をツバサが扉に書き入れた。
そして中へと進んでいく。
その間に2体ほど魔物があらわるも、魁斗とツバサによって、即座に地に伏せさせられていた。
「ちょ、コイツらだったから良いけど、強い奴らだったらどうするのよ?もうちょっと慎重に開けなさいよ。」
「何とかならぁ。」
「あのねぇ。」
言ってもあまり効果のない小言を言いつつ、マリは部屋に入る。
いきなりの襲撃に対応し切れるとは言えないだろうに、なぜあれほどまでに思い切り良く動けると言うのか。
マリには理解できない言動だ。
全くといいつつ、マリは部屋を見渡す。
マリ達が入ったのは図書室であった。シンプルな作りで、手前に机や椅子が置かれ、奥に本棚がおかれている。本棚には本が並べられている。
床やら机の上にやらに段ボールが置かれ、物置のようになってはいるものの、数多くの本が並ぶ図書室だ。
現在、マリ達が使うワクワク学園の図書室とは異なり、ラノベやら漫画やらは置いていないようで堅苦しい本ばかりが並んでいるようにマリには見えた。
本棚もあり、その上、物置のように様々なるものが置かれているため、物陰も多く、何かが動く気配もある。
そんな中、魁斗は臆する様子もなく、進んでいく。
魔物が何体か潜んでいた。
それを発見次第、いや、魔物達が次々と向かってきたため、それを順々に倒していく。
魁斗のやや強引な戦闘により、魁斗自身は多少の傷は負うものの、無事に魔物は殲滅された。
魁斗含め4人はあたりを見渡し、もう魔物がいないかを確認しつつ、階段やら何やらがないか、部屋を物色していく。
《カチリ》
魁斗の踏んだ床が嫌な音を立てた。
何かのスイッチを押してしまったような音。
事実。
魁斗の足元の床がスイッチのようになっていたらしい。
横15センチ縦30センチほどが3センチばかり凹む。
床が沈むとは思っていなかった魁斗は体制を崩し、よろけた。
そんな魁斗を容赦なく、罠が襲う。
体制を崩した魁斗の足元にあった床がカラクリのように動き出し、魁斗が入れるだけの穴が空いた。
落とし穴。
あるスイッチを押せば発動する落とし穴があったらしい。
魁斗は崩れた体制をそのまま、立て直さず、倒れ込み、横に転がる事で穴を回避した。
落ちずに済んだ魁斗を見て、皆、安堵するが穴の中を見て、顔を青ざめさせた。
中には無数の竹によって作られた刃があった。落ちていたら、刺さっていただろうと思われる、鋭く斜めに切られた竹。
これは罠にかかったものを殺す気だったのか。
顔を青くしている暇はない。
マリの胸騒ぎが続いている。
なんだろうか。
これで終わりな気がしない。
まだ何かがーーー
「カイさん!!ダメッ!」
マリは叫ぶが間に合わない。間に合わないと思ったため、起きあがろうと壁に手をついた魁斗目掛けて、マリは叫びつつ走り出していた。
その直後。
《カチリ》
再び、無機質な音が響いた。
今度は魁斗の手元から。
壁に罠のスイッチが仕込まれていたらしい。
スイッチを押された罠は瞬時に作動する。
今度の罠はボーガンであった。
カチッと音を立てて天井から姿を表したボーガンは矢を放つ。立ち上がろうとした体制の魁斗目掛けて矢は真っ直ぐに飛んでいった。
このままいけば、それは魁斗の左目にーーー
《バキッ》
ーーー魁斗に矢が当たってしまうと皆が肝を冷やし固まる中、矢が折れる音が響き渡った。
「間に合った…。」
その直後に響くのは情けないくらいに弱々しいつぶやき。
ヘロヘロ〜…と床に座り込みつつ、マリはつぶやいた。
マリは何とか魁斗の前に庇うように走り出ると、矢を殴り飛ばした。
真っ直ぐ飛んでいた矢は横からの馬鹿力にバキッと折れ、飛んでいた方向とは違う方向へと飛んでいった。
「大丈夫ですか?」
「マリ、怪我は?」
矢が魁斗に当たると目を見開いて固まっていた2人は座り込んだマリに我に帰り、駆け寄る。
座り込んだマリを心配そうに見つめる。
それは声を出さないものの、立ち上がりまりを見ていた魁斗も同じ。
マリに怪我がないかを確認する。
「大丈、夫。びっくりしたぁ〜…。」
《カサカサカサカサカサ》
安堵したマリは床に手をついていた。
そんなマリの手を這い上がってくる感触。そして、嫌な音。
カチッとスイッチを押したかのようにマリは固まる。
そして油をさされていない機械のように歪な動きで感触があった手を見た。
次の瞬間。
「ぃぎゃあっ?!!?」
響くのは叫び声。
パニックになったマリは手を振り回しながら、叫ぶ。
「マリちゃん、落ち着いてくんな。」
「どーどーどー。」
被害に遭わないように距離を取りつつ、魁斗や樹里は声をかける。
叫びつつ、力の限り腕を振り回すマリの拳は手加減も何もないため、とてつもなく危険だ。
しかし、それは件の虫には通用せず、虫はとうに逃げ失せていた。
マリが叫んだあたりでひょひょいと逃げ失せていた。
「どーどーどー。マリさん、虫はもういないですよ。」
「私は、暴れ牛、じゃないわよぉ〜。」
なおも離れた場所から宥めにかかる樹里にマリは涙を目にいっぱい溜めながら力なく言った。
「落ち着いて。」
「ゔッ…ゔぅ〜…!」
ツバサに宥められ、ツバサを見上げた反動にマリの目からは涙が溢れ出てしまっていた。
「虫、嫌ですよねぇ。こんな時は!樹里のウェットティッシュの出番です!どうぞ?」
慌てふためき、未だに混乱の最中にいるマリに、気を紛らわすためか、樹里が明るくマリに手を差し出す。手にはウェットティッシュが握られていた。
「…あり、がと…。」
樹里の言ったことを理解するのに時間がかかったのはやはり、虫に動揺しているからだろう。
「いえいえ。」
にこやかにウェットティッシュを取り出し差し出してくれる樹里に素直に甘え、ウェットティッシュを受け取ると、涙を拭く。
涙をぬぐったマリはゴシゴシとしっかり手を擦る。虫が登っていた感触を今すぐにでも消し去りたいから。
「まり、ビビりすぎ。」
ゴシゴシゴシゴシっとこれでもかと腕を拭くマリにツバサは呆れてしまっていた。
罠に気づき、唯一、仲間を救えたというのに感心する間もなかった。
感心させてくれないのが涙目で狼狽えるマリである。
「だってぇ…苦手なんだもの。」
「ハハ。虫が苦手な方、多いですよね。」
あれだけ緊迫した空気であったのが、一気に緩んだ。
狙ったわけではないが、緊迫した空気はマリにより緩められた。




