117.勝負です
たとえ命の危機にあろうとも、ウサになど助けは呼びたくなどない。ましてはうさちゃまなど口が腐るような事は冗談でも口には出来ない。
だからこそ、ウサの申し出は却下だ。
『えぇ。呼ばずに自ら解決してください。戦闘員ならばそれが当たり前なのですから。当たり前は当たり前のようにこなしなさい。』
マリの声を受けて、ふざけたトーンから冷たいトーンに一転したうさの声。
目の前にいないと言うのに声だけで身体が凍りついてしまうほどの圧をかけてきていた。
嫌味ったらしい口調は何とも憎たらしいのだが、文句を言わさぬ圧があった。圧は一同に言葉を飲み込ませ、黙らせるくらいに強かった。
『皆様をいつだって甘やかしてくださる志貴様ほどの甘さをウサは持ち合わせてはおりませんよ?』
「頼まれたって誰もお前さんなんかに甘えたりしねぇよ。桜花ちゃんは無事なんだろうな?」
獰猛な獣が唸り声をあげるかのように、魁斗はウサに話しかける。
桜花の名を出したのも、んなことを一々言うのも自分達を馬鹿にしているからだ。そう思えてならない。
ウサはわざとやっているのだろう。それはわかっているのだが、我慢できない。
おそらく。
ウサ達が関わっているなら、十中八九は無事であろう。
しかし、無事を確認するまでは安心はできない。
『さてさて。ウサに甘えないとおっしゃったではありませんか。聞いたら教えてくれるのは甘い甘い志貴様くらいにございます。得たい情報はご自身で手に入れなくてどうします?』
丁寧に逆鱗を逆撫でするかのようにゆっくりと嫌見ったらしくウサは言う。
「あん?」
魁斗の目に宿る怒りが膨らむ。
あからさまに怒りが膨らんだのが丸わかりだ。隠す気もないだろう。
『それより、今はご自身達の今後を案じては如何でしょうか?』
ウサは強制的に口を閉じさせた。
閉じさせるだけの殺気を、威圧感をはなった。
目の前にはいないはずなのに。まるで、目の前にいるかの如く存在感を人形が出していた。
人形であり、通信機器にしか過ぎないそれに対し、一同は警戒を解けず、構えも解けず、冷や汗をかかさせられていた。
『此度はワクワク学園の敷地内での任務にございますから我々の準備した安全な子ども騙し程度の罠しかございません。されども、現実は違うのでございます。その程度の場所で手をこまねく弱者は淘汰されゆく運命ーー…現実は残酷なのですよ?危険にさらされるのは罠にかかった皆様方が間抜けであったが故にございましょう。決して、ウサのせいではないのでございますよ?』
ウサは話す。
自分達が悪いのだと。
罠を仕掛けておいて、いけしゃあしゃあとウサは言う。
『生きるためにさっさとその場からの脱出してくださいまし。罠にかかった間抜けな皆様方の此度のミッションはそこからの脱出にございます。皆様ならばクリア出来ると信じております。間抜けながらもその程度ならばどうにかできましょう?ーーー生きてお会いできること、お待ちしておりますね?』
《ーーープツン。》
ウサが話し終えたタイミングだろうか。無機質な音が響く。
通信機器をオフにした音だ。
ウサは一方的に言うだけ言って、通信を切った。一方的に切りやがったわけだ。
なんとも言えない空気が流れる。
なんていうか。
言うだけ言われてなんとも言えない感情が皆の中に渦巻いていた。
そんな中で1番に動き出したのは魁斗だった。
「チッ。一々カンに触る言い方しやがる。……とにかく、行くか。」
壊れたウサ人形を蹴っ飛ばすと、周りをキョロキョロ見渡した。
好き勝手言われた後だが、魁斗は何かに当たるでもなく、怒りを爆発させるでもなく、動き出すのが早かった。言われたことに何か言うでもなく、次のことを考えているらしい。
「え?どこに?」
どこに行こうとしているのかとマリは問いかける。
話の流れが分からなかった。
「こっから出るんでぇ。この場に居続けてもどうにもならねぇだろ?向こう行ってみるか。」
なぁに言ってるんでぇと呆れたように返事をすると、魁斗は3人にどう進むかを問いかけることなく自分で行く道を決めると、歩き出した。
相談するつもりはないらしい。3人は慌てて魁斗の後を追う。
「魔物もいて危ないんじゃ…ッ!」
「びびって動かねぇんじゃどうにもならねぇぜ。気に食わねぇが、ここから脱出しろってぇのがあの野郎からの課題なんでぇ。」
マリの静止を魁斗はバッサリ切り捨てた。
動くしかない。やるしかない。
それは確かだ。魁斗が言っていることは正しい。
しかし、なぜそこまで迷わず動けるのか。
マリには不思議だった。
魁斗がこの場にいなければ、おそらく歩き出すまでに時間がかかったであろう。
「素直に従うなんて、魁斗らしくない。偽物?」
ツバサは違うとこに疑問を持ったらしい。
魁斗の横に並ぶと魁斗の顔を覗き込みながら問いかけた。
「あん?………さっさと抜け出して桜花ちゃんに会いたいだけでぇ。」
覗き込まれた魁斗は鬱陶しいと言わんばかりの様子だ。
その回答は何とも魁斗らしい。
「そう。私はさっさと出て、アイツ、射る。」
回答に納得したツバサは弓を持ち、剣呑な光を目に宿した。
アイツ。
嫌いなアイツ。
射る。出来るか否かではない。やるのだ。
「おぅ。手ぇ貸してやらぁ。」
魁斗は当たり前のように言う。
ツバサの発言を当然のように受け入れ、当然のように助力すると言い切った。
「仲良しかッ!」
仲悪いくせに時折、息がピッタリになる2人。
悪い顔をして歩く2人にマリは呆れを隠せない。
「て、ちょっと待ちなさいよ!」
待てをしても止まらない2人に一応、声をかけつつ、追いかける。
「あ、そっち…。」
皆で進みはじめてすぐに、進む先を見ながら樹里がつぶやく。
「何?何かいるの??」
樹里のつぶやきにいち早く反応したのはマリだ。
マリは肩を震わせながら樹里に問う。
ツバサもチラリと樹里を見ると、行く先を警戒していつでも矢を射れるように構えた。
「アン?ーーーぁあ、ありゃあ雑魚でぇ。簡単にやれらぁ。」
マリの問いかけに答えたのは樹里ではなく、魁斗だった。
樹里の示した方向を見て、まるで見えているかのように言う。
姿はまだ見えないため、気配で何が来るかを判断したというのか。
「気配でわかるの?」
ツバサはジッと魁斗の顔を見つめる。
表情こそ動いていないものの、ツバサの目が、ツバサが衝撃を受けていることを如実に物語っていた。
「なんとなくな。あぁ、やっぱりアイツらでぇ。集団で来るぜ。」
魔物が視覚的にも確認できる位置まできた。
その姿を見て、自身の感覚が合っていた事を確認した魁斗は武器を持ち直した。
今にも駆け出そうと構え、魔物を射るように見る。
「む。私も気配読めるようにする。」
魔物に対し、弓を構えたツバサは言う。
握る手に力がこもるのは悔しいからか。
「そうかぃ?……アイツらは頭やれば簡単にやれらぁ。どんだけやれるか、勝負するかぃ?」
ツバサの思いを知ってか知らずか。
魁斗は挑発するような笑みを浮かべてツバサを見た。
「ん。負けない。」
ツバサの目にこもる力が必然と強くなる。
負けたくない。負けるつもりはない。そう態度が物語っていた。
「競ってる場合じゃないでしょ!!」
「ご両人は周りを警戒しててくんな。魔物狩りに夢中になって魔物に襲われたんじゃあ笑えねぇ。」
にぃーっと好戦的な笑みを浮かべながら魁斗は言う。
マリと樹里に言ったわけだが、マリの言っていることは丸っと無視している。マリ達に視線すら向けずに魁斗は魔物を見ていた。
「はい、分かりました。」
樹里は素直にうなずく。
何を考えているのやら、実に素直に迷うことなくうなずいている。
「何で分かっちゃうのよ?!」
対してマリは目を見開いて樹里を見ていた。
ビックリ仰天というような顔をしている。この話の流れはマリとしては納得できない。
「んじゃ、勝負でぇ。」
「ん。負けない。」
やはり、マリの声など無視して、魁斗は駆け出し、ツバサは弓を構えーーーそして、互いに魔物との戦いを始めた。
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