116.嫌な声を聞きます
手も足も出なかったゴブリンがマリ達の目の前まで迫っていた。隠れてやり過ごす事も失敗してしまい、絶体絶命だった。
そんな3人を救ってくれたのは3人の良く知る人物だった。自分達が探していた人物の1人でもある。
「なぁにボサッとしてやがんでぇ。さっきの奴は水や木に弱いんでぇ。術式使って相手しな。後は目ぇ刺すか潰すかすりゃあ良い。案外簡単に倒せるぜ。」
3人を救ってくれた人物ーー魁斗は魔物から武器を引き抜きつつ、3人に呆れたような視線を向けていた。
身体のあちこちに傷を負っていそうだが、いつも通りの様子で魁斗は立っている。四肢無事であり、大きな傷はないようだ。
周りを見渡すが、魁斗以外に誰かがいる様子はない。人の気配もない。
「お前さん達だけかぃ?」
マリ達を見渡した後、魁斗はマリ達に問いかけてきた。
他のメンバーはいないのかと見渡している。
「……そう、3人だけ。魁斗は、1人?」
ツバサは答えつつも、魁斗を見つめていた。
1人でここまで来たのかと驚きを隠せないようだ。
「おぅ。」
魁斗は魁斗で偉ぶるでもなく、当たり前のようにうなづく。
1人で行動していたらしい。
「そ。桜花がいないんじゃ、用ない。」
うなづいた魁斗にツバサはすかさず言う。
舌打ちでもしそうな勢いであり、あからさまに態度が悪かった。
「何でぇ。助けてやった恩人に対する態度じゃあねぇな。」
態度の悪いツバサに魁斗は片眉を上げつつ言った。
「頼んでない。私だって、倒せた。」
ドーーンとツバサは胸を張って堂々と言うが、先程までの半ベソかいた、どうしようどうしようとテンパりつつ武器を握りしめていた彼女はなんだったのか。
いけしゃあしゃあと言ってのける姿はいっそ清々しい。
「ハンッ。半ベソかいてた奴が何を言ってるんでぇ。強情はらずに、そのまま隠れてな。」
半ベソかいていたのを魁斗はしっかりと見ていたようだ。
魁斗に指摘され、ツバサはムッと魁斗を睨む。
「半ベソなんてかいてない。」
「魁斗くん、ご無事でよかったです。」
トコトコトコーっと歩み寄りつつ、樹里は笑みを浮かべた。
何はともあれ、仲間と合流できた。
無事な姿を確認できた。これはお互い、喜ぶべきことだ。
「おぅ。お前さん達も無事みてぇだな。何かわかったことはあるかぃ?」
早速というように魁斗は問いかける。
己の知ることと、マリ達の知る事を照らし合わせようとした。
「いえ…ここがどこだかも分からないです。」
困りました〜と本当に困っているのか分からぬような、ほんわかした様子で樹里は言う。
「あん?ここは校舎みたいでぇ。ワクワク学園とか書かれてたから、あいつらが所有する建物だろ。」
何ぼんやりしてたんでぇと魁斗は言う。
「え?そうなの?」
どこかにそのようなことが書かれていただろうか。
マリは魁斗の言葉に目を丸くして辺りを見渡すが、何も見当たらない。
「あぁ。罠とかもあちこちにあったぜ。襲撃しやがったのも、俺達をここに閉じ込めやがったのも、アイツらの仕業でぇ。」
気に食わねぇと魁斗は言う。
アイツら。つまりはウサ達の仕業であると確信しているらしい。罠にも遭遇していたらしい。その上で魁斗は不快感を露わにしていた。
「変態、次会ったら殴る。」
ツバサは拳を握った。
変わり身が早いようで、先程までは魁斗にバチバチ火花を飛ばしていたのに関わらず、今はウサの事を考えているらしい。
「あぁ。」
魁斗も同じく、拳を握り指を鳴らしていた。
「ちょ、ちょっと!本当にアイツの仕業かなんて分からないじゃない!」
ツバサも魁斗もウサへの報復を当たり前のように語っているが、それであっているのか。
マリは2人に慌てて言った。違ったらどうするのかと。
そうかもしれないとはマリも思ったがら違う可能性だってあるじゃないか。そのイレギュラーが起きていたらどうか。より危険度が上がってしまうのだ。
決めつけてしまうのは危険なんじゃないかとマリは不安をあらわとした。
「あん?わざわざ、ここが元々ワクワク学園の校舎だって分かるようなもんを残しつつ、罠はって、魔物をばら撒いておく。んな事するイカれた連中がほかにいるのかぃ?それに至るとこにウサの野郎の印、付いてただろうが。」
魁斗はなぁに言ってんでぇと不思議そうにマリを見た。んな酔狂な奴らはアイツらだけで充分だと。
確かに魁斗の言う通りだとマリは感じた。少し考えればわかることだということも。
わざわざトラップを準備して、こんな場所に移動させて。罠やら何やらにだってお金がかかる。
捕まえて奴隷として売るとかなら手足縛られて閉じ込められてるはず。魔物がいる場でこうも自由に動けるのはおかしい。
しかも、ワクワク学園が所有する建物に移動させられているというならば、これはイベントの一環なのだろう。
「……確かに。じゃあ、これも、イベントの一環?」
自分で言いつつ、ストンときた。冷静に考えたら分かる話よね。
現に魁斗は冷静に探索して、そう判断したんだから。
びびって中々前に進めず、冷静に考えたりすら出来てなかった。マリのそばにはツバサや樹里もいた。
それに対して魁斗は1人だったんだ。にも関わらず、1人で探索し、判断していた。魁斗の肝の太さには驚かされる。
「だろぉな。」
『だからと言って気を抜かれますと死ぬこともあるんだとウサはご忠告申し上げておきます。』
じゃあ、最悪死ぬことはないし、桜花だって怪我はあっても無事なのだろう。
マリがホッとしたのを察知したかのように嫌な声が響き渡った。背筋が凍りつくかと思うほどに不気味な嫌な声だ。
その声は背後から聞こえた。気配など何もなかったというのに、突然背後から聞こえてきた。
背筋が凍てつくかと思うほどに感情が抜け落ち、どこまでも冷たい声。いつものふざけたテンションもない。
その不気味さにゾッとしつつ、反射的にばっと振り向くけど、誰も、いない。薄暗い空間のほか、何もない。
ムカつく声の主の姿はどこにも見当たらなかった。一体どこから声がしたと言うのか。
「これ、か。」
キョロキョロあたりを見渡し、魁斗は忌々しげに床に転がっていた人形を蹴る。
箱やら何やら置かれている中で、時折ぬいぐるみやら人形も落ちていた。何の意図があるのやらと思っていたら通信機器であったらしい。
今、ウサの声が聞こえて来たのはウサを思わすような人形。ウサを小さくし、人形にしたようなもの。リアルに作ってあるからこそ、壊したくなる。
『こちらはウサ人形にございます。志貴様に甘えきった皆様方お子ちゃまには寂しさを紛らわすお人形が必要にございましょう?抱いて良いんですよ☆』
《バキィィイッ!》
もの凄い音を立てて魁斗が人形を叩き割った。迷わず叩き割った。
ウザすぎるウサがいけない。見た目だけでもアウトなのに、ウサの声がしてはダメだ。
そう誰もが思った。
『ふふふ。ツンデレでいらっしゃるんだからぁ♡いつでもウサにデレをくださいまし!!ウサはっ!ウサは、いつでもお待ちしておりますよ?ではでは、ご武運を。もしものときには助けてウサちゃまぁとお叫びください。このウサが白馬の王子のようにお助けいたしましょう。』
壊れた人形からウサの声が響く。
人形は無惨に壊れたが、肝心の通信機器の部分は無事らしい。憎たらしいウサの声がこちらに聞こえてくる。
人形を壊されてもなお、憎たらしさは健在である。無駄に元気な声は憎々しい。
「誰が呼ぶかッ!」
瞬時にいつものノリでマリが怒鳴る。
ほぼほぼ反射的に怒鳴っていた。
それはそうなるよね。呼んで助けてもらうのも屈辱だが、その後も絶対面倒になる。助けてやったのだとしつこく言われそうだ。
呼ぶも屈辱、その後も面倒。そのような奴など呼びたくはないだろう。
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