106.1周年記念ですよ⑥
「志貴様、クリア。」
攻撃を受けたウサは楽しげにいう。
ウサのいきなりの始まりの合図に反応出来たのは桜花のみ。
その桜花の動きに反応できたものはいなかった。
《パーン》という乾いた音が鳴り響き、2メートルほど後ろに飛ばされたウサ。
桜花はウサが立っていた場所に蹴りの格好で立っていた。
始まりの合図とともに桜花がウサを蹴り飛ばしたのが分かった。
が。
誰も目で追えなかった。
腹をさすりつつ、ウサは桜花を見ている姿から、桜花はウサの腹を蹴ったらしい。
「ノロマの亀かなー?」
桜花はあげていた足を下ろしつつ、不敵な笑みを浮かべていた。
軽い調子でウサをおちょくるように言った。
「傷ついてしまいそうになる嫌味にございますね。しかし、志貴様からのお言葉!!嫌味だろうが罵りだろうが宝箱につめ、大切にする所存にござーーーおやおや、一斉攻撃とは。容赦のなさは素晴らしい。」
桜花の言葉に反応し、声を張り上げ、くるくる回っていたウサ。
それに対し、桜花以外の面々がすかさず一斉攻撃をした。
皆で息を合わせて、回避しきれないように攻撃の連続を与えた。
が。
与えられた本人はいかにも、余裕そうに皆を褒める。
「ですが、甘いですよ?甘々のお子ちゃま達にはこれが限界にございますか。」
全てをウサは一歩も動かず、蚊を払うような動きだけで回避して見せた。
蚊に止まられた。
その程度のリアクションしか取らなかった。わざとであるのだろうが、腹立たしい限りである。
「ぜってぇ、殺す。」
「ん。トウシ、殺れ。」
「ボクらは罠を仕掛けに行くか。」
「そうね。」
ウサの言葉に闘志を燃やす面々。
次の動きに移ろうとしていた。
個人戦のはずだが、皆、お互いに目配せをし、どう動くかを確認しあっている。
「皆さま?個人戦だと申し上げておりますよ?私に攻撃を早く入れることができた上位3名には褒美を差し上げましょう。」
「褒美は山分け。皆で取り掛かる。これで良いか?」
「ありゃあ〜…私、仲間外れか。阿部っち、冷たい。」
他のメンバーに確認するように言った阿部に皆が頷きながら動く中、桜花は不服そうに言った。
ひどいんだからぁと。
「うるせぇよ。本でも読んで待ってろ。」
「はいはーい。頑張ってね。とりあえず、変態を足止めはしてあげるから、みんなで撤退して作戦練ろっか。」
「しっきー、頼んだ!」
迷わず桜花に頼むと皆が飛び出していく。
ウサは追おうとはせず、桜花と対峙する。
ウサは桜花の横を抜けられるとは思ってはいないため立ち止まっていた。
桜花は桜花で、一撃を入れたあとではあるが、有言実行のためにウサを攻撃する。
狙うはいけ好かない仮面。
何回かの攻防のすえ、仮面は桜花の思惑通り、飛ばされーーー久方ぶりに桜花ははじめちゃんの素顔を見た。
「みんなに加勢するなんてな。桜花ちゃんらしい。」
飛ばされた仮面にちらりと視線を向けつつ、はじめちゃんは言う。
楽しそうな声である。変声機を使われていないはじめちゃんの生ボイス。やはり、こちらの方が桜花にとっては耳馴染みがいい。
「個人戦に出ようとせず、確実に仕留めようとする。みんなを煽りすぎたねー、はじめちゃん。身から出た錆だ。頑張れー。」
桜花はクスクス笑いながら言う。
みんなが躍起になってウサを討伐しようとする姿を思い出し、実に楽しそうである。
「さっきはごめんねー。口が滑っちゃった。」
「別に気にしていない。戦闘員であっただろうことは考えれば分かることだ。隠してはないからな。」
「そ。私が口を滑らしたより、ユキの言葉の方が痛かったかな?今のはじめちゃんだって尊き仲間。はじめちゃんのこと、何人たりとも貶しちゃダメなんだよ〜?」
「…………………ところで桜花ちゃん?」
「ん〜?」
「チビは?」
楽しげに自身に視線を向けてくる桜花にはじめちゃんは聞いた。
肩にも教室内の見える範囲にも、桜花の愛武器であるチビの姿はない。
指摘されてから気付いたらしく、桜花は辺りをキョロキョロしたあと、苦笑を浮かべつつ、自身の頬をかいた。
「……………ありゃー…お兄さんの肩にいるね。武器の貸し借りを貴方は禁じなかった。私の武器を挑発したのもはじめちゃんでしょ?身から出た錆だねぇ。」
ウサの仮面に集中しすぎて、我が武器がどこにいるか気にしていなかった桜花。
指摘されてから普段から近くにいる武器の所在を探った。
武器は挑発されたがゆえに、自身が戦える状況を作り出すべく動いたようだ。
自ら考えることができる。
これが有心武器の恐ろしさである。
「これはこれは。中々に骨の折れる授業となりますね。」
自身の武器を呼び戻そうとしない様子に、ウサは慌てるではなく、肩を竦めたのみであった。
予想の範囲内であるため動揺はない。
仮面を拾い、軽く頭につけつつ、楽しそうに言う。ウサへと戻ったとはいえ、まだまだ顔が見えるため、表情がよく見える。
彼は笑っていた。これから起きることを思い浮かべ、胸を躍らせているようだ。
骨の折れる授業をウサは望んでいるようだ。
「ふぁいとー。」
「あくまでチビ様はサポート。それ以上はメッでございますよ?」
「はいはい。さすがに本気のチビは止めてあげますよ。」
「ありがとうございます、志貴様。ーーーでは、そろそろ、私は皆様と遊んで参ります。」
"遊ぶ"
実力差を考えれば言葉通りになるだろう。
本来ならば、こうした慢心こそ、挑戦する者たちが勝つことを可能にする隙であるのだが。
「ん〜。気をつけてくださいな。みんなを侮りすぎて、足元すくわれちゃった挙句に、どうにもならなくなったら呼んでくれて良いですよ。」
もしもの時は助けてあげます。
どちらの味方なのか分からないような事を桜花は言いつつ、自身の席に戻ると机に置いていた本へと手を伸ばす。
ウサに隙がないからこそ、桜花は茶化すように言った。
ウサがーーー桜花の仲間であるはじめちゃんが敵を侮ることなどなかった。ましては仲間は大切にする。
ゆえに、彼らがウサを出し抜くには、相応の事をするしかない。
無理とは言えないが、難しいだろう。
どんな事をしてくれるかと最大限にセンサーを張り巡らせている今の彼に対しては特に。
「あり得ませんよ。敬愛する皆様を侮るなど。日々、成長する姿にウサが1番、胸を高ならせておりますゆえ。素敵な素敵な仲間を、さらにより良い戦闘員となりますように、このウサ、全力で育てて参ります。」
にぃーっと笑ったウサの顔を見て、楽しそうだなぁと桜花は思う。自身も彼らにより、憂鬱であった心が軽くなってきているが、ウサもまた、救われているのかもしれない。
ウサの笑みを見て、桜花は自然と笑みを浮かべてしまうーーーよかった、と。
だが、それと同時に多少、心配にはなる。
あの様子では上手く手加減をしてくれないかもしれない。ウサは彼らにとっては強い。そういう加減は自分よりもウサの方が上手いはずだが、テンションの上がっている彼を見ると不安になる。
もしかしたら、彼らが怪我を負うかも。
仮面をしっかりと顔に付け、教室を飛び出して行ったウサ。ウサの出て行った扉を見つめ、桜花は数秒間、心配してしまうが、気にせず、再び本を開くことにした。
もしもの時はチビに呼ばれることになる。
ウサかチビか。
どちらかに呼ばれてから動けばいいと考え、そして、本の中の世界へと精神を集中させていくのだった。
これは、ある日の朝の出来事だ。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!!
1周年記念はこれにて終了にございます^_^
来週からはまた、本編を再開いたしますゆえ、ゆるりと楽しんでいただけますと幸いです!
よろしくお願いします!!




