101.1周年記念ですよ①
「志貴様!あぁ、私の志貴様!愛しの君!あぁ、何故貴方様は私の秀麗な声に耳を傾けてくださらないのですかッ!私の愛する志貴様ッ!!貴女様の忠実なる僕でありますウサの声を、どうかッ!どうかッ!お聞きくださいましっ!!」
声が響いた。あぁ、面倒なことに面倒な声が響き渡ってしまった。空耳だと無視したい。
静かなその場に響く声。他に響く音がないため、より一層大きくそれは響いたように感じられる。
まるでこの世の終わりがやってきたかのように悲痛な叫び。
その叫びを上げるものには誰もが同情し手を差し伸べたくなるような雰囲気があった。
見る人全てが哀れに感じてしまうようなを悲壮感を纏い、悲痛な叫びを上げる男がいた。
芝居がかった大袈裟な所作。ハキハキと話しつつも、感情を大いに乗せた通る声。
人々の視線を集めるには充分だ。
舞台に立たせても申し分なく、役割を果たせそうである。
もしも。
見たら殴りたくなるような、いや、1発迷わず顔面に右ストレートを全力で入れてしまうような見目でなければ。
殴ったのは不可抗力だと神の前でも声を荒げてしまうだろうほどに苛立ちを感じさせるふざけたウサギの面をつけていなければ。
あ、罪に対し抗議するなら閻魔大王の前か。殴ったのは私だが、私に罪はないと天国行きを全力で訴えねばならない。閻魔にだって堂々と主張してみせれるだろう。
ウサを殴ったとしても悪いのは自分ではない。存在したウサが悪いのだ。そう全力で主張してみせる。
ま、それはそれとして。
仮面についているのか声を変える道具を介した、安っぽい犯罪者の電話交渉のような妙に耳につく声をしていなければ。
ふざけた言動を繰り返し、逆鱗を把握した上でわざとネチネチと丁寧に時間をかけて逆撫でしてくるようなキャラでなければ。
悲痛な叫びに何が起きたのかと皆の視線を集め、同情を買えたかもしれない。
その叫びを上げさせている原因に冷たい視線を集めることができたかもしれない。
少なくとも、教室内から冷たい視線、冷たい雰囲気を浴びせられ、かつ、返答の一切がないと言う状況には至らなかったかもしれない。
叫びを上げていたウサはそんなことなど一切に気にすることなく叫び続けていた。
「あぁッ!!放置ッ!放置プレイにございますかッ!さすがは志貴様!心得ていらっしゃる!!!それでこそ、私の愛する志貴様にございます!!ハァ…ハァ…私、それもそれでーーー喜藤様??私、再三申し上げております。私への攻撃は禁止にございますよ?」
ハァハァハァと変態じみた息遣いをし始めたところで我慢の限界というように動いた者がいた。
我ながら沸点が低いと思いつつ、だが、それでも気に食わず、ついつい、我が武器である番傘を強く握りしめて、魁斗は変態野郎ことウサを睨みつけていた。
全速力、全力で自分の全てをねじ込んだ一撃。奢りもなく、油断もなかった。出来うる限りの最大限の攻撃をしかけていたはず。
それこそ、殺すつもりでの攻撃であった。
が。
簡単に防御された。赤子の手をひねるかのように。腕についたチリを払うかのように自然に容易く、防がれた。
そこから分かる、実力の差。実力差が圧倒的にある。天と地ほどの差がそこには確かにあるのが明白であった。
「チィッ!誰が誰のでぇ?」
事実は事実。だが、気に入らない。気にいるものか。納得などできやしない。実力差があろうが気にしない。のしてやる。絶対に負けるものか。
気合もあり、魁斗は地を這うような声を出し凄む。
イケメンがすごむと迫力がある。いや、マジで。マジで怒ったイケメンって雰囲気があるうえにそれでいて、いくらでも見ていられる。いやぁ、目の保養だわぁ。
睨まれたほうは蛇に食べられる瞬間のカエルのような表情をーーーするわけがなく。うん、するはずがない。それくらいでビビるようであるならば初めからふざけた態度など取るはずもない。
そもそもウサギの面をつけているために表情は見えない。見えないんじゃ、表情もわかるはずもない。
だが、微動だにせず、一切の動揺が見られない。動揺のどの字もないってのは一見すればわかる。分かっちゃうからムカつくんだよね。
表情が見えていたとしても、凄んだイケメンにウサは少しも動揺なんてものは見せていないだろう。
「やきもち、でございますか。ふふふ。可愛らしいところもあるではございませんか。志貴様と私の消しがたい絆に妬いてしまうとはッ!安心してくださいまし。ウサは喜藤様にも心を砕いておりますゆえ。ウサと喜藤様の絆もまたーーー」
「気持ち悪いこと抜かしてんじゃねぇよ?」
「ですから、喜藤様?ウサへの攻撃は禁止にございます。」
追撃を仕掛けた魁斗であったが、今日も今日とて、攻撃はウサによって容易く防がれてしまった。
まぁとはいえ。そこまでは予想通り。
魁斗も魁斗で、ウサに簡単に攻撃が通るとも思ってはいない。
が。
ここで予想外の出来事が起きた。
ウサが素早く攻撃に転じたのだ。とは言っても、魁斗を掴み、投げ飛ばしただけだ。ただそれだけ。それ以上はせず、投げ飛ばされた魁斗を見ていた。
いや、しかし。
たったそれだけとはいえ、反撃は反撃だ。
今まで、防御一択だったウサの反撃に魁斗は目を見開き、ウサを見た。授業でさえ、滅多に攻撃などしかけたりしないウサの反撃。
警戒していたのは魁斗だけではない。
魁斗だけでなく、魁斗以外のみんながウサを見ていた。いつもと異なる行動に警戒心あらわにウサを見ていた。
各々が武器を手にして構えていたーーーいや、桜花だけは本を読んでいるか。夢中で読み進めている。楽しそうであれば可愛いものだが、表現はなく、無表情。だが、しっかりと集中していた。
今、本と桜花との間に手でもいれたならば。
この世のものとは思えない、マジでやばい殺気を浴びられるだろう。それこそ、閻魔大王さえも怯えてしまうくらいの怒気が発生するはずだ。
それまでに集中して本を読んでいるが、誰も桜花に意識は向けれていない。皆、ウサに集中している。
「ーーーまったく、悪い子には優しいウサとて、お仕置きしてしまいますよ?」
ウサはおちょくるような口調で言う。
《バッシーン》
乾いた音が響き渡る。ウサが言った直後。手にはふざけているのか、ムチが握られていた。いつ出したのか。いつそれを振るったのかわからない。
だが、これだけは分かる。
ウサは魁斗の足元スレスレにムチを振るった。ムチが当たった床は抉れていた。そこにムチが当たったのだと目視で分かってしまった。
わざと外したであろうことも肌で感じて分かった。
もしも、あれが当てる気での攻撃であったならば。
魁斗はもちろん、他の面々も避けれる気がしない。
ーーーゾワァッ!!
皆が、床を注視したその時。全身の毛という毛が逆立ちそうになるほどの不気味な殺気がその場を支配した。
いつものふざけた口調、ふざけたトーンであるにもかかわらず、皆が武器を構え、ウサに対し警戒をあらわにするほどまでに明らかにウサは殺気だった。
皆、構えるものの、すぐには動かず、ウサの出方を見ていた。
いや。
出方を伺ったわけではない。実力差がありすぎて動くに動けなかったのだ。相手の動きに集中する他なかった。
どう動けば良いかも分からず、ウサに攻撃をするスキが見つからなかった。
「ゔーーーーッ!!」
はじめに動いたのはチビであった。
投げ飛ばされた魁斗の前に立ち、牙を向く。
チビは魁斗を庇うように立ち、毛を逆立て、牙を剥き、今にも飛びかかりそうな雰囲気にて、ウサを睨め付ける。
ウサは正面からチビに戦意をぶつけられても動揺一つ見せずに、ムチをゆらゆらと揺らしていた。
そこに余裕があるように見える。
どこまでも腹立たしい限りである。




