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12話 ふたりのステラ2

「魔力の翼……。まさかアルカステラ……ミアちゃん?」


 フローレンス達が本格的に激突する丁度その頃、世界樹の幹を守る様に立つタマキは、夕焼け空で銀色に舞い煌めく魔力の羽根を見上げていた。

 口を半開きにして魔力の羽根を見上げるその瞳には、深い郷愁の念がゆらゆらと揺らめいている。


「違うよ。私はここに居るから」

「え……なあんだ。そりゃそうだよね、ミアちゃんはピョコミン抜きで変身できないんだからさ」


 タマキは制服姿のミアに気づき、少しだけ残念そうな顔をして剣を構える。


「できるよ、ルシエラさんの愛で。でも、今は要らない。私がすべきことは変身しなくてもできるから、そうルシエラさんが教えてくれたから」

「へぇ、じゃあ何をするつもりなんだい」


 皮肉っぽく笑ってみせるタマキ。

 ミアは隣に立つルシエラを一瞥し、ルシエラが小さく頷く。


「勿論……。タマちゃんを殴る」


 ミアは眉を僅かに吊り上げて握り拳を作ると、地面を力強く蹴りつけて一気にタマキへと踏みこむ。


「そんなの出来っこないよ!」


 ミアがタマキに肉薄し、タマキが近づけまいと剣を振る。

 ミアはそれを巧みに躱し、堪らずタマキが一歩飛び退く。


「無駄なんだよ、ミアちゃん! 生身で殴ったって魔法少女にダメージなんて入らないよ!」

「そうだね。でも……それがどうしたの?」


 執拗に拳打を入れようとするミアに気圧され、ダメージが入らないと言ったはずのタマキが必死に攻撃を避ける。


「どうしたの、って急にそんな暴れても無意味だって言ってるんだよ!」


 お返しとばかりに振り下ろされる真紅の剣。


「意味はあるよ、約束してるから」


 ミアはすかさず懐に踏みこみ、タマキの手首を掴んで真紅の剣筋を逸らす。


「誰とさ!?」

「タマちゃんと。間違ってたら殴ってでも戻してあげるって」

「っ!」


 ゼロ距離から放たれるミアの拳がタマキの顔面に直撃し、ミアの攻撃など効かないはずのタマキが吹き飛んで大の字で地面に倒れた。

 ミアはゆっくりと倒れたタマキの傍に歩み寄ると、上から顔を覗きこむようにじっと見つめる。


「タマちゃん。今のタマちゃんのやり方、間違ってるよ」

「……知ってるよ。ボクさ、待ってたんだよ。昔した約束通り、ミアちゃんがそうやって止めてくれるの」


 タマキは倒れたまま悔しげに唇を噛んで剣を放り投げ、


「けどさ、約束を思い出すのが遅過ぎるんだよ!」


 跳ね起きてミアへと殴りかかった。


「んっ!」


 ミアはあえてそれを躱さず、両手を使ってタマキの拳を受け止める。その威力にミアが後ろに数メートル吹き飛んだ。


「ミアさん! 真正面から受け止めるのは無茶ですわ!」

「大丈夫、いいから。それでも受け止めないと」


 ミアは心配するルシエラに対して首を横に振ると、涙目のタマキへと向き直る。


「ボクの世界はひっくり返って壊れて、赤坂環は居なくなって! こんな悪事に加担して! 今更もうどこにも戻れないよ!」


 吐き出せなかった胸の内をぶつけるようにタマキは何度も何度も殴りかかり、ミアがその全てを逸らさず受け止め、その度大きく吹き飛ばされる。


 ──ああ、もう、お二人とも喧嘩の仕方が昔のままですわ。あまりに不器用ですの。


 涙で目を赤くして殴り続けるタマキ。

 真っ赤に腫れあがるミアの手。

 そこに割って入る権利を持たず、ただ信じて見守るしかないルシエラはその歯がゆさにやきもきする。


「はーっはーっ……」


 幾度となく不格好に拳を繰り出した後、ようやくタマキの動きが止まった。


「ん。タマちゃん、満足した?」

「するもんか! これから先、ずっとしないよ! もうボクはコレット・ヴェルトロンになっちゃって、この漆黒の世界樹とか言う結界魔法を抱えて前に進むしかないんだから!」

「そう、じゃあ……今度は私の番だね」


 ミアは真っ赤に腫れあがった手で握り拳を作ると、再びタマキの頬を殴った。


「っ!」

「赤坂環は居なくなってない。世界は壊れてない、本当に壊れてたなら私が繋ぎなおす」

「そんなことできっこない!」


 再び殴りかかるタマキ。

 ミアはそれを上半身の動きだけで躱すと、その手首を掴んで引き寄せる。


「できる。タマちゃんに足りないのは勇気だけだよ」


 目の前で顔を突き合わせ、ミアは真剣な目でタマキを見つめた。


「…………皆に迷惑かけちゃったよ」

「二人で謝ろう。魔法少女の失敗は皆の失敗だから」

「でも、それでヴェルトロンの家も追い出されたら行く場所なんてないよ」

「私と一緒に魔法学校に通えばいいよ」

「そっか、それも……楽しそうだね。でもさ、ボク……ミアちゃんが言う通り勇気が持てないんだ」

「大丈夫、私を……信じて」


 二人はそのまま無言で見つめ合い、


「負けたよ。全然雰囲気違うのに、ミアちゃんの目はあの頃のミアちゃんのままなんだね」


 拳を引っ込めたタマキは胸に手を当てて変身を解除する。


「タマちゃん……」

「うん、ボクはもう一度ミアちゃんを信じる。だって、ボクが魔法少女になったのは……そう言って手を差し出したミアちゃんに憧れたからなんだ」


 タマキは手にした変身用のペンダントをミアに手渡すと、


「でもボクは結界の核、まずは罰を受けないと終わらない。だから……」


 ルシエラに向けてミアを思い切り投げ飛ばした。


「ダークプリンセス! ミアちゃんを頼んだよっ!」


 叫ぶタマキの頭上、ピンク色の蜜が滝のように降り注いだ。

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