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11話 痴女を止めるな3

「出てきましたわね! 本家本元!」

「タマちゃん……!」


 ルシエラとミアが揃って後ろへと飛び退き、逃げるピョコミンを守る様にタマキが立ち塞がった。


「タマちゃん、違うね。この場に立った以上、今のボクは魔法の国グランマギアの赤、ヴェルトロン家次期当主コレット・ヴェルトロン。赤坂環なんて子はもう居ないのさ」


 二人の前に立ち塞がったタマキは力強く、しかし一抹の寂寥感を含んだ声音でそう告げる。

 それを聞いたミアは目を閉じてすぅと小さく息を吸うと、


「そう……。でも私にとってはタマちゃんはタマちゃんだから」


 きりっと鋭い眼差しをしてタマキに相対した。


「ふん、都合のいい時だけそう言うんだからさ、本当はそう思っていない癖に。さっさと漆黒の世界樹に飲み込まれちゃいなよ、それがせめてもの友情って奴だろ」


 その言葉を聞いたタマキは苛立ち交じりにそう吐き捨てる。


「その口ぶり、やはり害獣だけでなく貴方も関与しておりますのね」

「勿論さ、この核はお姉ちゃんとボクの二つなんだからね。ボクが女王候補になるに際して本当のお母様が課した条件は一つ。魔法の国グランマギアの女王に相応しい魔法を身につけること、その手段は問わないってね。そして、この世界樹はそれを埋めるためにクロエ宰相が作った術式。途中参加で不利なボクに対してのバランス調整って所かな」

「何がバランス調整ですの、下劣ですわ! 他世界にこんなものをまき散らして! タマキさん自体にもリスクがありますのよ!?」


 卑劣な行為を平然と言ってのけるタマキにルシエラが憤る。

 確かにタマキはピョコミンにスカウトされるだけの潜在魔力を持ち、魔法少女として魔法を使いこなす応用力と経験がある。

 ヴェルトロンの代表として彼女に不足しているのは自力で魔法を行使する能力だけだ。ピョコミンがルシエラの魔法をラーニングしてみせたように、漆黒の世界樹を使えばそれを埋めることは容易いだろう。魔力調律できるピョコミンも入り込んでいるのなら猶更だ。

 だが、当然そんなことが許される訳が無い。ルシエラが許さない。


「リスクは承知の上さ! そもそも、キミに非難する権利なんてないだろ、これをボク達の世界で使ったのはどこの誰なんだい!?」

「むぐぐぐぐっ!」


 憤るルシエラだったが、ぐうの音も出ない反論に秒殺され、顔を真っ赤にして押し黙る。

 異世界である地球で最初に漆黒の世界樹を使ったのは誰か、他の誰でもないルシエラだ。そこを突っ込まれてしまうと反論できなかった。


「……タマちゃん、それでいいの? タマちゃん、そう言う卑怯な事凄く嫌いだったのに」


 情けなく押し黙ったルシエラに代り、ミアが一歩前に踏み出してそう尋ねる。


「知った風な口を利くなぁ、ミアちゃんは!」

「知ってるから」

「っ!」


 凛と断言するミアにタマキの表情が一瞬渋くなるが、


「……嫌だよ。今だって嫌さ!」

「えと、なら……」

「ならどうしろって言うのさ! 突然両親だと信じてた人達が敬語で傅いて! 私達は貴方の臣下です、我々の捲土重来を叶えてくださいなんて言うんだよ!? 今まで普通だと思ってたボクの現実は全部なくなっちゃって、なのにミアちゃんはずっと居なくて! くーちゃんはいつも通り意味不明で! もう何も信じられないよ!」


 手にした剣を地面に叩きつけて目一杯そう叫んだ。


「タマキさん……」

「ボクの世界はもう全部ひっくり返って無くなっちゃった後なんだよ! なら、せめて知っているものを全部かき集めてしがみつくしかないじゃないか! 他にどうしろって言うんだよ!」


 タマキが吐露する内心にルシエラの心の古傷が疼く。

 かつて母を喪った時、ルシエラが思っていた世界は全て崩れ去ってしまった。恐らくそれと同じ痛みを彼女は感じているのだ。


「……それでも、やり方は選ばないといけませんわ。そうしないと残った物すら崩れてしまいますの。特にあの害獣……ピョコミンは下劣極まりない生物ですから」


 だからルシエラはそう答えを出す。

 だが、それは長い歳月を経たからこそ出せた結論。恐らく今のタマキには届かない。


「部外者は黙っていてくれないかな!? ボクだってバカじゃない。今のピョコミンが悪党なことぐらい見れば分かるさ。けどそれと見捨てるのは話が違うよ、敵だって懲らしめたら立ち直ってくれるのを信じる。それがボク達魔法少女のやり方なんだよ! そうだよね、ミアちゃん!?」


 案の定、タマキはルシエラの言葉を拒絶した。


「……えと、それでもピョコミンは信じない方が、いいよ」


 同意を求めるタマキ対し、ミアは申し訳なさそうに小さく首を横に振った。


「……そっか、そうだよね。ミアちゃんは魔法少女の友情なんて全部簡単に捨てちゃう子だもんね。ごめんね、聞いたボクがバカだったよ」

「っ! わたし、見捨ててないし、タマちゃん達との友情、信じてるけど……!」


 厭味ったらしくそう言うタマキに、ミアがポーカーフェイスを僅かに崩して不服そうに主張する。


「口先だけだよ!」

「違う」

「なら……本当に信じてるんなら、どうして一度もボク達の所に帰ってこなかったんだよ!」


 落ちていた剣を拾い上げ、その切っ先をミアの方に向けてタマキが憤る。


「えっ……」

「ボク達の友情は永遠とか綺麗ごと言ってたけどさ、ミアちゃんは信じてなかったんだろ。ボク達がミアちゃんをずっと友達だって信じてるって! 信じてるならどうして帰ってこなかった、一度も連絡くれなかったのさ!」

「あ、あっ……! えううううっ!」


 タマキに図星を突かれ、よろよろと一歩、二歩と後退するミア。

 かつてミアは彼女達との友情を失ったと思い心が折れた。だが再会をしてすらいないのにどうして友情を失ったと思ったのか。

 心を折る為、ピョコミンにそう誘導された、それは確かにその通りでもあるのだろう。だがそれでも、ミアがタマキ達を信じ切れなかった。それも紛れもなく事実なのだ。故にその言葉はミアの心を容赦なく抉る。


 ──マズいですわ、今のミアさんにその事実は心が完全に折れかねませんわ!


「ミアさん!」


 心配したルシエラが大慌てで駆け寄ると、ミアは倒れる様にルシエラに抱きついてその胸へと顔を埋め、


「はーっはーっ。すーはーすーはー」


 何度も深呼を繰り返してルシエラ成分を補給していく。


「ん、そうだね。タマちゃんの言う通りだね。私、皆こと信じていなかった。ごめんね」


 そして、落ち着きを取り戻して再びタマキへと向き直った。


「ええ、それで復活できますの……」


 ──ミアさん、それで即完全復活は逆にドン引きですの。見てごらんなさい、タマキさんのあの表情。


「えーっ……ふ、ふん、なんだいミアちゃん。ダークプリンセスに洗脳でもして貰ったのかい」


 タマキはミアの豹変に少しの間顔をひきつらせていたが、すぐにわざとらしいほどに悪ぶった顔をしてそう言った。


「違うよ、タマちゃん。これは私の意思。私は自分の意思でルシエラさんの所有物になってるんだよ。ご主人様であるルシエラさんに身も心も捧げることで私は本当の私に戻れるんだよ」


 ──や、止めてくださいまし! それ完全に洗脳されてる人の台詞ですのっ! ミアさん、貴方は正気、正気ですわ!


「ねえ、タマちゃん。私はどうすればいい? どうすれば私をもう一度信じてくれる?」


「……そんなこと聞いてる時点で信じられないよ」


 タマキは寂しげな顔をしてそっぽを向くと、小声でそう呟くが、


「え……」

「独りごとさ! そうだなぁ……じゃあ仲直りの握手でもしようか。そうしたら信じるよ」


 やがて不敵な笑みを浮かべて手を差し出した。


「え……」


 ミアは差し出された手を驚き混じりにまじまじと見つめる。

 ミアが意図を図りかねるのも無理からぬ話。あの頑なな態度からのこれは怪しい、あからさまに怪しい。


「……うん。分かった」


 暫し硬直していたミアだが、タマキを信じなければ始まらないと思ったのだろう、神妙な面持ちで恐る恐る手を差しだる。

 その瞬間を見計らい、手品のようにウサミミを取り出したタマキがミアにウサミミを着けた。


「んっ!」

「ほら見なよ、そこで避けるのが間に合うのがボクを信じてない証拠……ってあれ、待ってよ! ミアちゃん、ウサミミついちゃってる!?」


 その場にうずくまるミアを見てタマキが驚きの声をあげて狼狽する。


「あうっ……わ、私はタマちゃんを信じてるから……っ!」


 ミアはそう言うと、自らにつけられたウサミミをむしり取って地面に叩きつけた。


「ミアさん! 大丈夫ですのっ!?」


 事の成り行きを見守っていたルシエラが慌ててミアに駆け寄り、ミアが漆黒の世界樹の影響下にあるかを確かめる。


「んっ、大丈夫。私のご主人様はルシエラさんだけ、だから。洗脳魔法になんて負けたりしない、よ」


 ミアは駆け寄って来たルシエラに抱きつきながら自信満々にそう断言する。


 ──流石ですわ。ミアさん、昔から一度たりとも洗脳や催眠が聞いたことありませんものね。


 彼女が断言した通り、ミアに漆黒の世界樹の影響はなかった。彼女は自らの意志の力で洗脳魔法を振り払ったのだ。

 なお、その強靭な意思がルシエラの胸に顔を埋めて再建されたものである事実からは目を逸らすことに決めた。


「あ、相変わらずだなぁ、ミアちゃん……」

「相変わらずだなぁ、ではないですの! タマキさん、それが貴方のやり方ですの!?」


 ミアの無事を確かめたルシエラは、ミアを抱きかかえながら目の前で狼狽しているタマキを非難する。


「いや、ち、違うよ! だってミアちゃんがホントに避けないなんて思わなかったから……!」

「大体貴方、あの害獣の事は見捨てないと言ったくせに、ミアさんに対しては一貫して厳しいですわ。……本当はミアさんに見て欲しいのではなくって?」

「っ! それは自分のことだろ、ダークプリンセス! いっつもミアちゃんに付きまとう構ってちゃんのくせに! もういい、もう時間稼ぎはしたからね! ここはボクの勝ちだよ!」


 タマキは捨て台詞のようにそう言って逃げ去って行く。


「待ちなさい! まだミアさんと向き合いなさい!」


 それを追いかけようとするルシエラだったが、ミアに腕を掴まれてその足を止める。


「大丈夫、タマちゃんがどうして欲しいのかもう分かったから」

「ミアさん?」

「間違ってたら殴ってでも正しい道に戻す。タマちゃん、約束……ちゃんと覚えてるよ」


 ミアは遠い目で漆黒の世界樹を見上げた後、強く拳を握った。

分かり難い展開を読みやすく修正しました

2023/12/30

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[良い点] ミアさんブレないなぁw
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