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11話 痴女を止めるな2

 島中に絶え間なく鐘の音が鳴り響く中、ルシエラとミアは突如現れた漆黒の世界樹へと急いでいた。

 島にはまとわりつくような濃度の高い魔力が満ちている。これは漆黒の世界樹が成長し、完全に第二段階に移行した証だ。

 事実、世界樹は瞬く間に天を仰ぐほど高く伸び、走る地面には幾つもの光の帯ができ島中の魔力を世界樹へと供給している。それはあたかも成長する大樹の根が養分を吸い上げているかのようだった。


 ──これは生徒達の魔力だけでなく、魔脈の一部も取り込んでいますわね。


「漆黒の世界樹、あんなに急成長するものじゃなかったよね」

「ええ、原因は恐らく魔力調律による効率化。あの害獣が干渉しているのですわ」


 ピョコミンを撃破したにもかかわらず、漆黒の世界樹は魔力調律によって急成長した。不可解と言わざるを得ない。


「観測魔法が消えている以上、害獣は間違いなくもう居ない。なのにこれは、どういうカラクリですの?」


 タマキによる対空攻撃を恐れて校舎の影を走る中、二人の耳に少女達の絶叫が聞こえ、程なくして進行方向から箒に乗った少女達が爆走してくる。


「ぎゃああああーーっ! るーしーえーらーっ!」

「フローレンスさん!?」

「うーさー! 不良共にウサミミをつけろー! 教化せよ! 教化せよっ!」

『ア…ア……カラダサイコウ。モット、モット……ア……ア』


 バニーと怪異を引き連れ、賑やかに爆走するフローレンス達。

 ルシエラはその様子に面食らいながらも、爆走する箒の柄を掴んで動きを止め、ミアが後続のバニーと怪異を矢継ぎ早にぶん投げて蹴散らしていく。


「どうしましたの! あの世界樹、何がありましたの!?」

「あ、あのキラキラおめめの奴から闇が噴き出してあれになったです!」


 箒から転がり落ちるセリカが漆黒の世界樹を指差す。


「シャルロッテさんが世界樹の核!?」


 漆黒の世界樹の核となるには、バニーガールと同様に世界樹自身に取り込まれる必要がある。

 魔法の制御者本人が核となることも不可能ではないが、バニーガールのように行動が制限されたり、一歩間違えば世界樹による思考制御に飲み込まれてしまう。ハイリスク過ぎて通常取らない選択だ。


「姉さんとの話を小耳に挟んだんだけど、あいつ自分が取り込まれてるって気づいていて行動してたみたい!」


 次いで箒から降りたフローレンスが必死に世界樹の方を指差し、そう主張した。


「っ……なんということですの!」

「なら、やっぱり制御者はタマちゃんのなのかな」

「可能性は高いですわ」


 告げられた事実にルシエラは小さく拳を握って悔しさをにじませる。


 シャルロッテと言う少女を完全に読み違えた。恐らく気づくことはできた。平時の彼女ではなく、昨夜の厨房で見た彼女ならばその答えを出しかねないと。同じ心の傷を持つルシエラにはそれがわかるはずだった。


 ──ここで後悔していても詮無きことですわね。今は事態の収拾に努めなくては。


 悔恨を胸に抱いたまま、ルシエラは小さく首を振って前を向く。


「ミアさん、行きますわよ!」

「ん、わかった」

「姉さんは私達を逃がすために足止めをしてるわ、お願いルシエラ! 姉さんを助けてあげて!」


 ルシエラは懇願するフローレンスに向けて頷くと、周囲をぐるりと見回す。


「アンゼリカさん、居ますわね!?」

「はいはい、いつだってルシエラさんの傍に居ますよ」


 ルシエラの呼び声に応じ、校舎脇の木の上からアンゼリカが飛び降りてくる。


「わたくし達は世界樹の所へ向かいます。お二人の避難をお願いいたしますわ」

「私は一応表立って協力できない立場なんですけれど……まあ仕方ありませんねぇ、愛するルシエラさんの頼みですからね。迷える子羊の群れをこっそりお世話してあげましょうか」


 アンゼリカは物言いたげな視線を一度フローレンスに向けた後、手早く二人の襟首を掴んで校舎の中へと連れ去っていく。

 ルシエラとミアはそれを確認し、改めて漆黒の世界樹へと急ぐ。

 そうして辿り着いた世界樹の麓、そこに居たのはバニー姿のシャルロッテ。そして魔法で雁字搦めに拘束され、その小脇に抱えられているナスターシャだった。


「ハーッハッハッハッ! 遅かったなァ! お前達がちんたらしているうちにこっちの用事は済んじまったぜぇ!」

「シャルロッテさん……いいえ、害獣ッ! シャルロッテさんの体を乗っ取りましたのね!」


 シャルロッテの体で愉快そうに笑うピョコミン。

 ルシエラはその姿を睨みつける。

 恐らくピョコミンは漆黒の世界樹に自らを接続していたのだ。そして、漆黒の世界樹が持つ思考制御を悪用し、バニー洗脳の要領で自らの人格をシャルロッテにインストールしたのだ。


 ──時計塔での時間稼ぎはそのためだったのですわね!


「乗っ取ったなんて人聞きの悪い。これはリサイクルって奴ペコォ! どうせこいつは女王候補交代で不要になるゴミ! なのにこいつの潜在魔力はなんとタマちゃんと互角。なら捨てるなんて勿体ないだろォ!?」

「……ピョコミン。その言い方、やっぱりタマちゃんはシャルロッテさんの妹だったんだね」


 その言葉にミアが呟くようにそう尋ねた。


「ぺこぉん? 気になる? 気になっちゃう? そうだよ、こいつはタマちゃんの双子のお姉ちゃん! だからタマちゃんは魔法の国の女王争いに参加する為、不要になったお姉ちゃんを廃棄処分して、お前との関係も卒業したんだペコォ!」


 ──なんて報い。いいえ、これがシャルロッテさんが望んだ結末ですのね。


 妹のために他の全てを踏みにじる覚悟を決めた少女は、その妹によって踏みにじられた。それは余りに皮肉な結末であり、シャルロッテの描いた結末そのもの。

 だがルシエラはそれを認めない。彼女に同類と呼ばれたからこそ、その報われない結末を踏み越えてみせる。それがルシエラの贖罪であり、望みであり、意地だ。


「そう、よくわかった」


 ルシエラがそう決意するのと同じように、ミアも凛然と口を引き結んで構えを取った。


「ぺここ? ミアちゃん、もしかして戦うつもりペコ? 幾ら強いからってそれは流石に調子乗り過ぎペコ。言ったはずだよなぁ! このボディの性能は世界樹抜きでもアルカソルと互角! 変身して全力でかからなきゃ勝負になんてなんねぇんだよォ!」


 ピョコミンはそう高笑い、ナスターシャを抱えていない右手に真紅の剣を顕現させる。それはアルカソルの使う武器と全く同じものだった。


「あれはタマキさん愛用の! ミアさん、気合を入れていきますわよ。わたくし、シャルロッテさんを助けたいですの」

「えと、言われるまでもないけど。そっちは初めからそうするつもり」

「流石は我が宿命のライバル。心強いですわね」


 ルシエラは虚空から漆黒剣を引き抜いて臨戦態勢を取る。

 漆黒の世界樹の影響で迂闊な魔法の行使はできないものの、観測魔法は核となるピョコミン本体の消失により効力を失っている。ならば多少派手に戦っても正体露呈の心配はない。


「害獣、ナスターシャさんとシャルロッテさんを返して貰いますわ!」


 剣を構えて一気に踏み込むルシエラ。


「ハハハッ! そう急くんじゃねぇペコ! ピョコミンはわざわざ待っててやったんだペコ。そんなにサクサク都合よく行くかよォ!」


 それを見たピョコミンはナスターシャを漆黒の世界樹へと押し込み、両手で真紅の剣を掲げる。

 瞬間、真紅の剣が輝きだし、ピョコミンの周りで紅い魔力の奔流が渦を巻く。


「あの魔力、あの構え! まさか……プロミネンスレイ!?」


 ルシエラは咄嗟に自らとピョコミンの位置関係を確認。自らの後方、海を隔てた射線の果てに港街があることを把握する。


 ──あれが本当にプロミネンスレイならば……街まで届いてしまいますわ!


 プロミネンスレイは魔法少女アルカソルことタマキの必殺技。その威力は絶大であり、地球の地表から放って成層圏の魔法要塞を一撃粉砕した実績がある。

 漆黒の世界樹の強化を抜きにしてもシャルロッテはタマキと双子、同等の威力を出せると考えてもよいだろう。


「蒸発しろッ! これがピョコミンの全力プロミネンスレイペコォ!!」


 ピョコミンが剣を振り下ろすと同時、剣の切っ先に集約された魔力が一筋の紅となって放たれる。


「これは……使うしかありませんのっ!」


 目前に迫る魔力の奔流。自らが躱せば後方の街が焦土になると悟ったルシエラは、自らのスカートを翻して漆黒の魔法障壁を幾重にも展開していく。

 黒い魔法障壁が黒い薔薇の花びらのように折り重なり、放たれる真紅の一閃を飲み込んだ。


「まさか全力のプロミネンスレイを水平打ちするなんて……流石は害獣ですわ。猛反省しなさい!」


 ルシエラはそのまま間合いを詰める足を止めず、ピョコミンに向かって迷いなく漆黒剣を振り下ろす。

 だが、ピョコミンの影から魔法障壁が舞い踊るように出現し、幾重にも折り重なってその斬撃を受け止めた。


「っ! これはわたくしの魔法障壁!」


 剣を受け止められたルシエラは弾き飛ばされながらも辛うじて着地。最初と同じ間合いに戻りながらも、ピョコミンから目を逸らさずに臨戦態勢を継続する。


「ペコハハハッ! ズルいよなぁ!! 涼しい顔してこんな滅茶苦茶な無敵バリア使ってんだからよォ! そりゃあ昔も前回も攻撃なんぞまともに通らないわけだペコ……だが、もう覚えたぜぇ!」


 ピョコミンがそう言うと同時、世界樹の枝から薄紫色をした半透明の葉が次々と生え出で、島を覆い尽くしていく。


「な……この葉もわたくしの魔法障壁ですのね!」

「そうペコ! どれだけ魔力を集めても、使う魔法自体がゴミじゃ無駄ペコ。その点お前の使う魔法は高コストだが性能も最高だぜぇ!」


 ピョコミンが興奮しながら高笑い、ルシエラが苦々しい顔で冷や汗を流す。

 結界内で魔法障壁を使ったのは後方の安全と天秤にかけた上での行動、ピョコミンが結界の核を乗っ取っている以上はこうなるとわかっていた。後悔はない。

 だが、今後の攻勢に多大な影響を与えてしまったのも事実、結界を破壊するときにあの葉を破って本体へと魔法攻撃を叩きこむのは容易ではない。


 ──ああ、もう、なんて厄介なものを作りましたの。昔のわたくし!


「ペコハハハッ! 何を遠慮してるんだペコ、お前ならこいつをブチ破る素敵な攻撃もあるんだろぉ!? 覚えてやるから使ってみせ……」


 ピョコミンがそう言いかけた所で、その身から黒い煙が立ち上る。


「ぐっ、ガッ! ペコぉ……本当に滅茶苦茶な魔法ペコ。今の世界樹じゃ再現に負荷が掛かって維持しきれねぇ。この体と島の奴等をもっと効率よく取り込まねぇと……!」


 黒い煙を吹き出しながら、ピョコミンはよろよろと黒い幹の方へと逃げ出していく。


「冗談。わたくし達がこの好機を逃がす訳がありませんわ!」

「ん!」


 ここが最大の好機だと悟ったルシエラとミアが一気に駆け出し、それをまたしても紅い斬撃が遮った。

分かり難い展開を読みやすく修正しました

2023/12/30

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