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10話 ウサミミランド8

「初弾命中。これでこちらに注意が向いたはずですわ。わたくし達は時計塔に向かいます、陽動の方はお任せしましたの」


 時計塔から僅かに離れた校庭の片隅、工作の成果をずらりと並べたルシエラは、大砲のように傾けて設置された寸胴鍋の底をお玉で叩きながら指示を出す。

 現段階での漆黒の世界樹は時計塔の大鐘を発動の為のトリガーとしている。物理攻撃によって大鐘を破損させてしまえば、暫く効力を発揮できなくなる。故にシャルロッテはこの攻撃を無視できないはずだ。


「いや、わかってるけど……アンタ本気で日用品改造して武器作ったのね」


 撃ち出される日用品の数々が爆音と共に時計塔を揺らすのを見上げ、フローレンスが若干引いた様子で言う。


「でも、アイツはこっちに来るですかね。大鐘の辺りに魔法障壁張って、街に徹すればいいだけの話じゃねーですか」

「その場合は時計塔まるごと破壊する……と思わせればいいのですわ。幸い、ナスターシャさんが居ますもの。見過ごせないと思いますわよ」


 実際、ルシエラの作った武器は時計塔を破壊するだけの威力がある。

 放置すれば倒壊する時計塔の中でずっと引きこもれるはずもなく、罠だと察しつつもシャルロッテはこちらへ来る他ないはずだ。


「あー、会長ならやりかねないですもんね。負の信頼があるです」

「うむ、任せよ。あのしいたけまなこの脅威となってやろう」


 呆れ顔で納得するセリカとフローレンス。

 それを頼られていると勘違いしたのか、ナスターシャは自慢げに胸を張った。


「……そろそろ頃合いですね。ルシエラさん、私はここで女王候補から脱落する訳にはいきません。現時点で手助けできるのはここまでです」


 影の異形とバニーガールが殺到してくるのを確認し、ベンチに座っていたアンゼリカが気だるげに立ち上がる。


「ええ、心得ておりますわ」


 アンゼリカの言葉にルシエラが頷く。

 ここはクロエや御三家の監視下にある。ここで彼女魔法を使って行動を起こせばその理由を問いただされることになるだろう。

 それは彼女が女王の座を争う時の枷となり、ルシエラの存在を逆説的に証明することにもなる。

 更にルシエラを庇う行為は女王争いにおいて特大のマイナスになるだろう。

 シャルロッテだけでなく宰相クロエ、果てはピョコミンまで蠢くこの不穏な王位継承戦。真っ当な女王になり得るアンゼリカにはここで脱落して貰っては困るのだ。


 ──わたくしの不徳でシャルロッテさんを説得できなかった以上、余計にですわね。


「それと……ピンクの人、不服ですけれど貴方も私のライバルですからね。貴方に貸しを作ったままなのは癪なのでさっさと返しておくことにします」


 アンゼリカはふんと鼻を鳴らして視線を逸らすと、ミアに魔石を手渡す。


「えと、これなに?」

「グランマギア御三家が緑、グリュンベルデの人が作った解呪用魔石です。ピンクの人が世界樹に取り込まれたら大惨事ですからね。これを使えば一度は世界樹の洗脳を防げるはずです」

「ありがとう。でも私魔法使えない、よ?」


 ミアは受け取った魔石をポケットに入れながら小首を傾げ、


「はあああぁ? シャルロッテさんが動く大量破壊兵器だって言ってましたけど。いくらパワー系女子でも筋力でやってる訳じゃないですよね? そんなのにシャルロッテさん負けませんし」


 照れ隠しで視線を逸らしていたアンゼリカが思わずミアへと向き直る。


「ルシエラさんに魔力調律お願いして変身用ペンダントで変身してるから」

「ま、ま、ま、魔力調律ぅ!? それアウローラ式ですか! それともダンゼロフ式ですか!」


 先んじて影の異形が到着し、フローレンス達が逃げ惑い始める中、目をまんまるにしたアンゼリカがルシエラの胸元を掴んで問い詰める。


「あ、アウローラ式ですの。ミアさんの魔力量は莫大ですもの、わたくしでも変換効率が良くないと調律しきれませんわ」

「アウローラ式! そ、それってつまる所キス、キスじゃないですか!」

「ん、そう。舌もからめる、濃密だよ。エロス詰まってる」

「ミアさん、それは言わなくてもいい情報ですの! 時間も押してる最中に煽るような真似は止めてくださいまし!」

「知ってます! ずるい! 私にもしてください!」


 襲い掛かって来た異形を杖で叩き潰して霧散させながら、アンゼリカはルシエラを力一杯揺すり続ける。


「で、できるわけないですの。魔力調律なんてすれば結界に莫大な量の魔力を補充してしまう上、観測魔法で即座に感知されてしまいますわ……」

「なら普通にキスでお願いします! ディープの方で!」

「痴話喧嘩はいいからさっさと動いてっ! 私達はアンタ達みたいに余裕がないんだけどっ!」


 涙目で影の異形に追い回されているフローレンス達が、ルシエラ達の周りとぐるぐると回って必死に動けと主張を繰り返す。


「そ、そうですわね。アンゼリカさん、この話はまた後で。ささ行きましょう、ミアさん」

「ん、そうだね」


 見ればバニー姿のクラスメイト達も到着間近、これ以上近づかれれば陽動の意味がなくなってしまう。ルシエラは「うー」とうなるアンゼリカを引き剥がして時計塔へと向き直る。


「中に打ち込む必要はありませんわ。時計塔にぶつけて揺らすつもりで大丈夫ですの。タマキさんの射線に入らぬよう、重々気をつけて行動してくださいまし」

「わかったわ!」


 お玉を握ってフローレンスが頷く。


「ナスターシャさん、シャルロッテさんに対する時間稼ぎは任せましたわよ」

「うむ、時間稼ぎどころか薙ぎ倒してくれるわ」


 微妙に理解していないナスターシャを残し、ルシエラは観測魔法を破壊すべく時計塔へと向かうのだった。

分かり難い展開を読みやすく修正しました

2023/12/30

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