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10話 ウサミミランド5

「ルシエラ、物理攻撃はわかったけど、それでどうしてそんなものを集めてるのよ」


 翌日。ボールやら、お玉やら、植木鉢やら、日用品を目一杯かき集めてやって来たルシエラを見て、フローレンスは思わず渋面を作る。


「魔石を使った工作ですの。観測魔法は日用品で発生する魔法には反応しませんの」

「それはそうでしょ。明かりをつける程度にまで反応してたら、逆に反応ばっかりで意味がなくなっちゃうわ」

「その通りですわ」


 ルシエラは首肯しながら、脚立に上って天井に取り付けられた照明魔石をもぎ取ると、次は台所にある火の魔石を回収していく。


「だからって生活魔石とボールやお玉で何を工作できるのよ。子供の作る遊び道具が通じるような相手でもないでしょ?」

「勿論ですの。物理攻撃をする為の武器と、一回限りの魔法武器を作りますわ。一度使った魔法に耐性を持つと言うことは、裏を返せば一度限りならば通じると言う意味でもある。ある程度はバニーガール達にも対応できるようになりますわよ」


 集めた雑貨と生活魔石を机の上に集め、ノミと金槌を持ったルシエラが爛々と目を輝かせる。


「ぶきぃ? その材料使って金槌とノミで?」

「ええ、任せてくださいまし! わたくし、こう見えても手先が器用ですの。寄木細工や手桶は村の雑貨屋で売られるほどですし、ヤギ小屋が壊れたら大工じゃなくてルシちゃんの所へ行けと言わるほどでしたわ」


 猜疑の眼差しを向けるフローレンスなどどこ吹く風、ルシエラはトンテンカンと金槌でお玉を叩き始める。


「セリカ心配です。工芸品と魔石製品は勝手が違うと思うですよ……」

「大丈夫だと思う。ダークプリンセス時代から色んなもの作ってたから、ね」

「例えば?」

「えと、魔法障壁付きの空中移動要塞とか、合体変形する十メートルぐらいの魔導人形とか」

「材料っ! 規模っ! それお玉や植木鉢じゃ絶対作れない奴でしょ! って言うか手先が器用以前に本来個人で作る物じゃないから! 国家プロジェクトよぅ!」

「ん、後ネガティブビーストに日用雑貨混ぜるの好きだったから。本当に武器も作れると思う、よ」


 ボールとお玉を指差すフローレンスに、フライ返しを持ったミアが擁護する。


「いや、それでも素材が足りねーと思うですけど」

「むむ、これでは素材が足りませんわ」


 ルシエラの工作を見守る三人の前、ルシエラが金槌でお玉を叩く手を止めてそう呟いた。


「ほら見なさいよ。やっぱり……」


 それを見たフローレンスは、ほら見たことかと腕組みしてソファに腰掛け、


「やはり寸胴鍋が必要ですわね」

「……ああ、足りてないのはその辺の奴なのね」


 ずるりと滑って押し黙った。


「フローレンスさん、セリカさん。わたくし急ぎ寸胴鍋を確保してきますわ、その間の工作をお願いいたしますの」


 ルシエラはフローレンスとセリカに金槌とノミを押し付けると、くっつくミアを引き連れて急ぎ足で駆け去ってしまう。


「……ねえセリカ、これ使って何してろって言うのかしら」

「そんなのセリカが知るわきゃねーですよ」


 よくわからない物体の前に取り残され、二人は金槌とノミを手にしたまま困惑するのだった。




 ミアを引き連れて食堂へ向かったルシエラは、周囲に人の気配がないのを確認すると、厨房に入って素材を探し始める。


「ミアさん、鍋の他にもよさげなものがあれば回収お願いしますわ」

「え、何がよさげなものかわからないけど」

「わからないのなら仕方ありませんわ。長居は危険ですものね」


 ルシエラは棚から鍋を取り出しつつ時刻を確認する。

 現在時刻は既にバニーガールの時間。一度クラスメイト達と出会ってしまえば追いかけ回されるのは間違いない。


「ルシエラさん、ちょっとお時間いいですか」


 早速背後から声を掛けられ、驚いたルシエラは寸胴鍋を抱きかかえたまま勢いよく飛び退く。


「あうち!」


 そのまま棚にぶつかり、棚から降って来たザルがルシエラの視界を網目状に変えてしまう。

 網目状の視界の先にあったのは予想通りあみあみの網タイツ。すらりとした長い足から顔に視線を移して声の主を確かめると、それはアンゼリカだった。


「アンゼリカさん! 貴方まで漆黒の世界樹に取り込まれましたの!?」


 ミアにザルを退けてもらいながら立ち上がり、ルシエラが驚きの声をあげる。


「ルシエラさん、何を呆けてるんですか。私がそう簡単に取り込まれる訳ないじゃないですか。よく見てください」


 アンゼリカは腰に手を当てて不服そうに頬を膨らめる。

 促され、ルシエラはアンゼリカの姿を改めてまじまじ観察する。

 黒いバニーガールだと思った彼女の格好はバニーでなくキャット、ウサギの耳と尻尾の代わりに黒猫の耳と尻尾がついていた。


「ウサギでなく猫、ですの?」

「はい、猫ちゃんです。バニーガールならぬキャットガールにしてみました。何しろアズブラウの紋章は二股の黒猫ですからね。にゃーん」


 目をしばたたかせるルシエラに、アンゼリカはスタイルの良さを見せつけるようにポーズを決めた。


「紛れ込めるように変装したんだ」

「違います、ライバルである貴方への対抗措置ですっ! 肉欲インフィニットアクセルなピンクに対抗するには、こっちも頭のネジを緩めてルシエラさんに卑猥なアクションを叩きこまないといけないんです!」

「思ったより酷い理由でしたの」


 アンゼリカに右腕を抱きかかえられながらルシエラが呆れ顔を作る。


「ん、なるほど」


 それに対抗意識を燃やしたミアも、ルシエラが手にしていた鍋を取り上げてその左腕を抱きかかえた。


「ミアさんもそれで納得しないでくださいまし」

「それでルシエラさん、それとは別に少し気になることがあったので報告に来たんです」

「そ、その前に場所を変えて欲しいですの……」


 ここでこの二人がヒートアップすれば他の人間に見つけてくれと言っているようなものだ。

 更に言えば現在二人にみっちり捕獲されている身としては早めに解放して欲しい。身の危険を感じる。


「仕方ありませんね。シャルさんに見つかったら最悪ですからね」

「そうだね」


 二人もルシエラの言葉に同意し、二人して腕を抱きかかえたままルシエラを引きずっていく。


「あの二人とも、わたくし自力で歩けますけれど。と言うか、自力で歩きたいのですけれど」

「ダメです。今の私は頭のネジを緩めた猫娘アンゼリカですからね。大好きなルシエラさんを離しません」

「そうだね」


 魔法を封じられているルシエラにそれ以上の抵抗ができるはずもなく、二人にがっちり拘束されたまま廊下を連行されていくのだった。




 結局、ルシエラは二人に捕まったまま隠れ家まで戻るはめになっていた。


「ここがルシエラさん達の潜伏地ですか。お邪魔しまーす」

「で、アンタは私達に工作を押し付けといた癖に、美人二人を侍らせてしっぽりとしけこんでたのね」


 戻って来たルシエラ達を見るなり、フローレンスはまたかとため息をつく。


「待って欲しいですの。わたくしのこの姿を見てそうおっしゃるのは何かがおかしいですの!」


 いまだ二人に両腕を捕まえられたままのルシエラは、ずるずると引きずられながら異議を申し立てる。


「だって、アンタのはそう言うプレイの一環でしょ」

「プレイ! 断じて違いますのっ! アンゼリカさん、重要な用事とやらをはじめてくださいまし。無実を、わたくしの無実を証明して欲しいですの!」


 ソファに無理やり座らせられ、ようやく両腕を解放されたルシエラが話の続きを懇願する。


「わかってます、後ちょっとだけ待ってください」


 アンゼリカは真剣な顔ですーはーと呼吸を整えると、


「卑しさ招来、卑しさ招来、卑しさ招来っ!」


 呪文のようにそう呟いて、寄り添うようにルシエラの横に腰掛けた。


「ふーっふーっ、ついにやりましたアンゼリカ! ルシエラさんのお隣初ゲットです。おおおお、我ながらなんて恐るべき雌豚力……!」


 興奮した面持ちで小さくガッツポーズをするアンゼリカ。

 フローレンスとセリカがルシエラに冷たい眼差しを向ける中、ミアも至極当然のようにルシエラの隣に腰掛けた。


「……アンゼリカさん、満足していただけたのならお話はじめてくださいまし」

「はい? 満足どころか私はまだ一歩を踏み出した所、言うなれば欲望オーバーチュアですけど」

「あ、はい。左様でございますの……。それでアンゼリカさんの懸念はシャルロッテさん絡み……観測魔法と漆黒の世界樹に関することですのね」


 このままでは要件まで辿り着けないと諦めたルシエラは、ぎゅむぎゅむと両サイドから圧をかけられながらも強引に会話を進めることに決めた。


「はい、そうなります。ですけれど……」


 ルシエラの方を向いたまま、アンゼリカは視線でフローレンスとセリカを一瞥する。


「私は別に内容を他言しないし、ルシエラの事情も大体知ってるわよ」

「しかもセリカ達実害受けてるですからね。よくわかんねーままボコられるのは御免ですよ」

「と言うことですの。気にせず進めくださいまし」

「そうですか、まあルシエラさんが言うのなら。私達が次期女王の座をかけて争っているのは承知していると思いますけれど、ヴェルトロンがその候補を変えようとしていると言う噂を聞いたんです」

「候補の変更ですの? でも女王の座に誰より拘るシャルロッテさんが素直に承服するものなのですかしら」


 彼女が女王の座に拘っているのはつい昨日確認したばかりだ。あの様子で素直に候補交代を受け入れるとは考えにくい。


「そう、そこなんです!」


 アンゼリカはここぞとばかりに身を乗り出してルシエラに自らの胸を押し当てる。


「な、なんですの」

「ヴェルトロンは先代当主がしていた企みを露見されて立場を失いました。そして、その企みが露見した理由ですが、偶然それを見たシャルさん……シャルロッテさんが母親に伝えたことなんだそうです」

「えと、責任感じてるんだね」

「はい、間違いなく」

「……なるほど拘る訳ですわ。よからぬ企みをした方が一番悪いのでしょうに」


 身を乗り出していたアンゼリカを押し戻しつつ、ルシエラはため息をつく。

 その話はルシエラもよく知っている。何しろヴェルトロン先代がした企みとは魔法の国の女王の王座を簒奪することだったのだから。

 ルシエラの母とも仲が良かったと言う彼女。そんな彼女がどうして友人である女王から王座の簒奪を目論んだのか、その理由は今もわからず終いなのだと言う。


「そしてその時、ヴェルトロンの力を削ぐためにシャルロッテさんの双子の妹も異世界に追放されてしまった」

「あ、じゃあ」

「そうです。異世界に放逐された妹をヴェルトロンに呼び戻す。シャルロッテさんはそのために女王の座を求めているんです」

「つまり……その妹が女王候補として呼び戻されるのなら、シャルロッテさんとしては目的が達せられると」


 アンゼリカが小さく頷く。


「だから気を付けてください。この一件に妹さんが関与してくるのなら、シャルロッテさんの行動は私達が想像できないものになるかもしれません」


 先日シャルロッテとした会話、彼女がルシエラと自らを同類だと評した理由をようやく理解する。

 彼女にとって女王の座は贖罪であり禊なのだ。かつてルシエラがプリズムストーンの回収を望んだのと同じ想いで、彼女は女王争いに挑んでいたのだ。


 ──善悪の区別がついていない方だと思っていましたけれど、なりふり構っていないだけでしたのね。


「そう言う意味ならばシャルロッテさんの行動に思い当たる節はありますわ」

「やっぱりですか……」

「ほほう、あの悪辣なしいたけまなこにもそんな人並みの感情があったのじゃの」


 感心したようにそう言って、ナスターシャが箒片手に階段を下りてくる。


「すみません、いきなり付近の治安が悪化したと思ったら痴女が出没したんですが。ちゃんと痴女出没注意の立て看板設置しておいてくれませんかね」


 その姿を見たアンゼリカが驚きに表情を歪めた。


 ──ああ、アンゼリカさんはナスターシャさんと直接会うの初めてですものね。思えばわたくし達、ダメな慣れ方していますわ……


「ほ、ルシエラのストーカーであるお主が言うかよ」

「はいぃ? 私はストーカーじゃなくて見守り隊ですけど。ルシエラさんの可愛い姿を陰からこっそり監視して、愛でながら専用セキュリティサービスしてるだけです」


 ──アンゼリカさん、人はそれをストーカーと呼ぶのですわ。


「どっちもどっちの言い争いはいいんだけど、姉さんは二階で何してたわけ? って言うかいつの間に来てたのよ」

「今来た所じゃ。道中でよくわからぬ怪異共に追われてのう。最初は撒いてから来ようと思ったのじゃが、面倒じゃて二階から入って来た」


 ナスターシャはそう言って、かつてはショーウィンドウだった大きいガラス窓を指差す。

 そこには窓を覆い尽くす程びっしりと影の人型異形達が張り付いていた。


『ア…ア……イタイイタイ。カラダ、ホシイ……ア……ア』


 窓を真っ黒く染めるほどに張り付いた異形達はうわ言のように同じ文言を繰り返し、張り付いたガラス窓をギシギシと激しく揺さぶってくる。


「ぴゃあああっ!?」

「うおおお! 張り付いてる! めっちゃ一杯張り付いてるですよっ!?」

「の、面倒じゃろ。魔法が自由に使えぬのは面倒極まりないのう」


 身を寄せ合って怯える二人を見てナスターシャが苦笑いする。


「だからってここまで連れて来てるんじゃないわよ、バカ痴女っ!! お願いだからこの影人間達連れて一晩中飛び回ってて!」

「おおう、姉に向かって酷い言い草じゃのう。お主達が窮地になっておらぬか心配して急ぎ戻って来たと言うのに」

「それで今現在の窮地を呼び込んでるのよう!」


『ア…ア……イタイイタイ。カラダ、ホシイ……ア……ア』


 二人が言い争いを続ける最中も、影の異形は相変わらず窓に張り付いたままギシギシと窓を揺らし続けている。


「窓めっちゃ軋んでるです! 怖い、怖い!」

「はぁ、怯えなくても大丈夫ですよ。あれは魔法生物ですらない結界の滓、本物の怪異じゃありません。窓を割るほどの知能もないですし、言葉のように聞こえるのも結界に取り込まれている生物の思念を真似てるだけです」


 アンゼリカは呆れ顔で怯える二人を眺めると、慌てるのも馬鹿らしいとルシエラにもたれかかった。


「って言っても……」


 フローレンスは視線をアンゼリカから窓へと動かし、恐る恐る様子を確認する。


『ア…ア……イタイイタイ。カラダ、ホシイ……ア……ア』


 そして、ぴゃあと情けない声をあげて窓から目を背けた。


「思念真似てる割りに物騒な事言ってるんだけど! 取り込まれてるの学校の生徒よ! どう考えてもこんなこと考えてないから!」

「じゃあ変なの混ざってるんじゃないですか、結界って基本的に無差別ですからよく変なのまで取り込んじゃうんですよね。杖で叩けば爆散する程度の無害な物体ですよ、憐れんであげてください」

「製造物責任法っ! ルシエラ、本当にアレ無害なの!?」


 そんな言葉は信頼ならないと、涙目のフローレンスがルシエラを睨む。


「え、ええと、わたくしはあんな怪異が発生するような雑な作りはしませんけれど……。ミアさんのパンチ一撃で沈む程度の怪異だとは思いますわ」

「程度って、取り得る範囲が広過ぎてなんの参考にもならないわよぅ!」

「えと、つまり入って来ても私が全部殴ればいいだけの話だから、ね」


 怯える二人を安心させるようにミアが小さく握りこぶしを作って頷く。


「ただ……異形自体は大した脅威ではないとはいえ、異形が発生したのは由々しき事態ですわ。漆黒の世界樹が第二段階へ移行しかけているということですもの」


 今までの漆黒の世界樹は結界と言う括りではあるものの、世界樹の種であるウサミミを着けた人間だけに干渉していた。

 しかし、異形が島中を徘徊しだしたと言うことは、結界らしく干渉対象が人だけでなく空間にも及んだと言うことだ。当然魔力吸収量も激増し、ここから漆黒の世界樹は加速度的に成長していく。


「一刻も早く観測魔法を破壊し、漆黒の世界樹を破壊する必要がありそうですわね。寸胴鍋……足した方がよさそうですわ」


 神妙な顔で立ちあがったルシエラが入り口の扉を勢いよく開き、そこから影の怪異が次々と建物内に押し入って来る。

 港中に響くようなフローレンスの悲鳴がこだました。

分かり難い展開を読みやすく修正しました

2023/12/30

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