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6話 そのライバルは窓に張り付く2

 林道を一目散に駆け抜け、ルシエラが寮の前まで戻って来た時、既に破城槌は打ち込まれていた。

 ルシエラの部屋は見事に壁が破壊され、そこを出入り口として魔法協会の面々が蟻の行列のように荷物を持ち出していく。


「おおう、盛大に壊されておるのう。魔法協会を名乗るのなら破城槌など使わず魔法で無駄なく破壊すればよいものを」

「ん、ルシエラさん可哀想」

「全くですわ。酷いですわ。無残ですわ。ついぞこの間から学校の治安が一気に世紀末ですわ……」


 抜群に風通しが良くなった自らの部屋と、寮の脇に置かれた台車に乗った巨大な杭を交互に見比べ、涙目になったルシエラが震える声で呟く。

 そして、愕然と立ちすくむルシエラの目の前を、ルシエラの所持品を手にした魔法協会の面々が悠然と通り過ぎていく。


「内容確認! ただの貯金箱でした!」

「よし、接収! 丁度支部の棚が古くなっていた所だからなっ! 資金にしろ!」


 シルミィの許可と共に、ルシエラの貯金箱を手にした三角帽子の魔法使いが馬車の荷台に貯金箱を投げ入れる。


 ──わ、わたくしがコツコツ貯めた貯金箱が! ただでさえ無駄なピッケルを買って赤貧生活ですのに!


 あまりに堂々とした簒奪劇にあんぐりと口を開けるルシエラ。


「内容確認! ただの野菜です!」

「んー、廃棄! 捨てろ!」


 シルミィの許可と共に、野菜を手にした魔法使いが野菜籠ごと花壇へ投げ捨てる。


 ──村の皆から送られて来た野菜が! わたくしが楽しみにとっておいたお芋までっ!! わたくしの食糧計画を返してくださいましっ!


 あまりに不遜な魔法使い達の行動に、唖然としていた口をへの字に引き結ぶルシエラ。


「内容確認! 下着です! 恐らく勝負下着かと思われます!」


 ──ああああ、あれは! あれは! ミアさんがわたくしに着せようと買って来た奴! 着ませんの! 永遠の未使用品ですのっ! わたくし、あんなに過激な下着は着ませんのっ!


 慌てて周囲を見回せば、集まっている野次馬の少女達は例外なくルシエラの方を見て「うわ……。あの子、あんなに可愛い顔してえっぐい勝負下着バチコリ決めちゃってるんだ」などとひそひそ話をしていた。


 ──無実、無実ですのっ! わたくしは無実ですのっ! 弁護士、腕利きの弁護士を呼んでくださいましいぃっ!!


 内心で絶叫しのた打ち回るルシエラ。だが、ここでミアが買って来たと正直にぶちまけてしまうのは自ら底なし沼に全裸ダイブするようなもの。

 この絶体絶命の窮地を乗り切るには、何か起死回生の一手を思いつかなければならない。

 何か、何か、起死回生の一手はないものか。ルシエラが必死にそう考えているうちに、簒奪劇は更に更にとエスカレートしていく。


「んー、確か若い女の使用済み下着は好事家に高く売れると聞いたな。おい、お前! ターゲットは美人だと思うか」

「とんでもなく美人です! 正直、人生イージーモードだろ、お前はルッキズムが作り上げた最終兵器かよ、と思います! 大体どいつもこいつも見た目ばっかり重視して、この前だって……」

「何か凄い私怨を感じるんだが……とりあえずもういい、わかった! 接収した後に好事家に売っていいぞ! 顔写真をつけるのも忘れるな!」

「了解です!」


 軍服姿の魔法使いはシルミィに敬礼すると、写真機を手にルシエラの所へとやって来る。


「はーい、そこの君ぃ。ちょっと写真一枚いいかなぁ?」


 写真機を構えてローアングルからルシエラを見上げる魔法使い。

 この瞬間、堪忍袋の緒は切れた。


 ルシエラは怒りに震える手で私物の棍棒を握りしめると、


「ほらほら、表情硬いよ。スカートたくし上げて笑顔でピースしてぇ……」

「ふんすっ!!」


 魔法使いをフルスイングで大空へと吹き飛ばした。


 ──もはや選択肢などありませんわ! 秩序無き世界では暴力こそ正義! 暴力的解決でこの場は押し通りますの!


 ルシエラは狼狽する暇さえ与えず、ポンポンと小気味よく魔法使い達を叩きまわって次々と蒼穹の彼方へと駆逐していく。


「お金も、物も、それと冤罪ですけれど下着までっ! わたくしの日常生活が捏造混じりで赤裸々ですわ。こんな辱めははじめてですのっ!」


 魔法使い達を全て吹き飛ばした後、顔を真っ赤にしたままのルシエラは、馬車の上で慄いてるシルミィにずかずかと詰め寄っていく。


「おい、おい、おいぃぃっ!? 何だ今の!? 今の一撃、滅茶苦茶高度な魔法で強化してあるだろ!? お前魔法使えないんじゃなかったのか!? ナスターシャの差し金か!?」

「星となれ! ですわっ!」


 一際大きい快音を響かせ、シルミィは馬車諸共盛大に吹き飛んだ。

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